糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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これを投稿する前に牛の出産がありました。
最後の方は急いで書いてるので大目に見てね(;´∀`)


第38話 なるようになってくれ

 抉れた月から聞こえた言葉に息が詰まる。

 一目惚れをした。それだけならば大変に喜ばしいことだろう。

 しかしながら、今の俺には紫苑という大切な人がいる。色々ごたついててゆっくりした時間が取れていないのがとてもふがいないが、それでも大切なことに変わりはない。

 彼女の存在が今現在、そしてこれから俺の中でより大きくなっていくのは自明の理だ。

 

 だから、端的に言うのであれば、答えられない。

 俺は、霧生茉裏、八雲茉裏という存在は主人の八雲紫という存在から渡された好意を受け取れるほどのキャパシティがない。

 それこそ、多重婚が認められている国の出身であったりすれば余裕があるのかもしれない。それが当たり前なのだから。

 だが残念なことに、俺は紛れもなく日本人。好きな人以外とは浮気判定の重罪人。そう刷り込まれている。それが悪いだとかって話でもないのだが…………。

 

 故に、逃げに走る私が咎められる筋合いはない。

 

「らんさまランサマ藍様」

「どうした茉裏」

「ウチらのご主人様がご乱心ですけど、止めなくていいんすかアレ」

「おや、茉裏は一世一大の告白を乱心で済ませるのか?」

「済ませるもなにも……ねぇ?」

 

 いやらしげに笑う藍様に、再び紫様の方へと目を向ける。

 抉れた月に光を宿していない瞳、上気した頬に微かに上下する肩。辛うじて威厳こそ保てているモノの何時決壊するか分からない。

 襲われたらなすすべなくヤられるだろう。ヤの文字がどちらになるのかは本人だけが知っている事だろうが。

 

 藍様も紫様も、まごうことなき絶世の美女。幻想郷に住む住人の多くは美男美女だとは思うが、それとはまた一線を画す。

 美と呼ばれるものの体現と言っても差し支えない。すくなくとも、この二人以上に美しい女性を見たことがない。

 そもそも女性に優劣をつけること自体が烏滸がましいのだが。

 

 そして、その美のベクトルも今現在厄介なものと言える。

 婉然とした中に、妖艶、妖美、艶麗、男をくすぶるモノがめいいっぱいに詰め込まれている。

 少し気を抜けばすぐにでも押し倒したくなる衝動に駆られる。

 

 そういったお香でも炊かれているのか、と思い至ったが、それらしきものは見当たらない。もしかしたら見えていないだけで炊かれているのかもしれないが、スキマの中とか。

 

「あー……っと、紫様?」

「なあに?」

 

 語尾に余計なものが付きそうな返事の仕方に唾をのむ。ダーリンとかアナタとか言われなくて本当に良かった。

 

「お気持ちは嬉しいのですが、私にはちょっと荷が重いかなー……なんて、おもったりおもってなかった、り…………」

「そう……そうねぇ」

 

 実際その通りで、気持ち通りの言葉を口にした。そしたら、思いのほかヤバそうな感じはない。

 これは、生きて帰れる……? 希望の光は我にありですか? 

 

 一抹の希望を胸に宿らせ、もう少し強めに否定しようとした時だった。

 

 紫様の持つ扇が軽く振るわれる。咄嗟に身を投げ出した。音もなく、衝撃もなく、後ろを振り返れば、

 

「ぁ…………あ???」

 

 幻想郷の一角に巨大な谷が生まれていた。

 

 壁を、鳥居を、山を両断。辛うじてそれ以上は藍様が押し留めているらしく、妖怪の山をも凌駕する大きな九つの尻尾が衝撃波を受け止めていた。

 数十秒したのち片腕と八つの尻尾を半ばから消滅させ今なお血を流し続けている藍様が帰ってきた。

 自身の中で絶対的力を持つ存在の一人が、死力を尽くして受け止めてなお、それを完全に防ぎきることはできない。

 

 まごうことなき別格。

 

 藍様は血を止血する様子もなく、顔を青くさせながら紫様に傅いている。

 紫様は何食わぬ顔で扇を開いては閉じを繰り返していた。

 

「そ……、そこまで、することかよ」

 

 咄嗟に漏れた言葉に慌てて口を塞ぐ。余計なことは言わないようにと両手で、必死に。

 汗や涙や鼻水が、体の防衛機能が一瞬で崩れ去り垂れ出てくる。それを、スキマから伸びた紫様の指がやさしくぬぐった。

 

「そこまでと言うほど力を出していないのに、茉裏ったら大げさね」

 

 微かに笑い、俺の顔を弄繰り回す紫様の手が体液でべちゃべちゃになる。それを愛おしそうに見つめると、ゆっくりと口元へと運んで行った。

 ちろりとソレを舐めると、はしたないわねごめんなさいと頬を紅くし急いでその手を拭っていた。

 恥ずかしがる場所が違うと思うんですけどね僕は。

 

「今度は少しだけ強くしちゃおうかしら」

 

 紫様の前に生まれた小さな球体。薄紫色に輝くそれが、妖力に似た力の奔流だという事に気が付くのは容易だった。

 藍様の体が震えている。それは多量に出血している弊害や、さっき受け止めた衝撃の余韻でもない。恐怖、ガタガタと汗を流し怯え、目尻に涙を浮かべているのは、間違いなく恐怖の表れだった。

 

 ピンッ

 

 小気味よい音と、風を切る音が顔の横を通り過ぎていく。真っ直ぐに真っ直ぐに真っ直ぐに…………。

 やがてソレは妖怪の山の中腹辺りに着弾した。刹那、そこを中心に一瞬渦のようなものが見え、次の瞬間、俺の視界から妖怪の山が消えていた。

 

 文字通り、まるっと抉られたかのように消えていた。

 

 それは、おそらく、俺の友人も知り合いも、毒舌を吐き合う相手も、全てを込みで。

 

 それを理解しても、理解なんて出来るはずがない。頭か心か、人間の防衛機能というものでそれを正しく認識したくないのがありありと感じ取れた。

 吐き気を催すなんて、まだ余裕があった方なんだと実感する。本当に壊れるってのはそんな余裕すらなく全部垂れ流れているのだから。

 

 口からも、下からも、気が付けば垂れ流れていて、気持ち悪いなんて感じる暇もない。

 

「茉裏」

 

 呼ばれる。体が震える。

 

「まつり」

 

 呼ばれる。体が止まる。

 

「マツリ」

 

 よばれる、力が抜ける。

 

「茉裏」

 

 抵抗なんて出来るはずもなかった。

 

「貴方は私の物よ。返事は?」

 

 声が出ていたかなんてわからない。

 ただ、谷は消え、妖怪の山は元に戻り、藍様の傷も癒えていた。お互いに汚してしまっていた箇所も気が付けば綺麗になっており、幻覚だと言われた方が納得がいくレベル。

 時間が巻き戻ったのか、それとも一から修復されたのかは分からないが、間違いなく言えることがある。

 

 八雲紫こそが絶対であると。

 

「接し方は特に変える必要はないわ。あの子とも仲良くしてあげて頂戴。ただ、忘れてはいけないことが一つ増えただけ。貴方は私の物。貴方は私の操り人形。大丈夫、ちゃんと愛してあげるし、自由だって与えてあげる。でも、忘れた時はこれじゃあ済まない。本当の所は、こんな脅迫じみた事はしたくなかったのよ? だから、あの子と仲良くすることも、沢山の交友関係を築くことも、色んな子に色目を使っていたことも、全部許してきた。でも、否定するのはいけないこと。拒否するのはいけないこと。貴方の一番は私で、私の一番は貴方。それ以上でも以下でもないそれが全て。愛って凄いのね、いままでキラキラして大事にしていた幻想郷がどうでもよくなるほどだもの。

 だから、私を受け入れてくださいな骨の髄まで愛してくださいな。この身が他を潰したく無くならないように」

 

 そっと伸ばされた手を震えながら掴む。掴むしかなかった。

 紫様は笑っていた。静かに、静かに、笑っていた。

 静寂が訪れる。日はゆっくりと沈み、部屋が段々と暗くなる。

 

「あら、もう暗くなってきてしまったのね。どうしましょう、もう少し明るくしておきましょうか? それとも、暗い方がお好き?」

 

 手が引き寄せられ、軽々と机を飛び超え紫様に抱かれる。ふんわりと甘い匂いが漂う。

 女性特有の柔らかさ。男からすれば興奮必須のはずだが、今の俺には恐怖でしかない。

 

「緊張しなくてもいいわ。私だって男相手は初めてなんですもの」

 

 耳元で囁く言葉の割にはするすると俺の服を脱がしていく。

 少し視線を逸らせば、部屋の四方がおびただしい量のお札で密封されていた。これほどまでに安心安全なセキュリティ状態の密室もそうそうないだろう。

 離れたところで藍様が目を伏せた。大人しく生贄となれ、そういうことなのだろう。

 

 いつの間にかすべての衣類を剝がれ、紫様の肢体も露になっていた。

 

 天井の染みならぬ、お札の枚数でも数えていれば終わっているのだろうか? 

 

 そんなことを呆然と考え、金色の瞳からハイライトが消えた紫様のその行為に身を委ねた。

 

 

 もう、なるようになってくれ…………。

 

 




お読みいただきありがとうございました

ゆっかりーん
やはりゆかりんはぜったい
まつりくんはしょせんゆかりんのあやつりにんぎょうにすぎないのです

では、また来月
またね!!
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