朝が来た。憎たらしいほどに眩い太陽が昇り、暗かった部屋を照らしている。
やがてその光は部屋で寝ていた少女二人に降り注ぎ、その安眠を邪魔しだす。
小さな呻き声の後、どちらかがむくりと起き上がれば、それにつられるようにしてもう一人も体を持ち上げる。
まだ眠たそうに目元を擦る二人を見て、俺も同様に重たい腰を上げた。
大きく伸びをすれば小気味のいい音が鳴る。あれから一睡もできず、かといって何かをするわけでもなくぼーっとしていた。漠然と考えていたのは、なんで俺なんだろうなーって。他にもいっぱいいたのになーってくらい。
分かってるよ? そんなこと考えて至ってしょうがないことくらい。
なっちまったもんはしょうがねぇし、今更どうこう出来るような問題でもない。ゲームとして知っていた世界の登場人物として過ごせるなんて夢のような状況じゃないかと誤魔化そうとしたし。
でも、どうしても考えちまうんだよなぁ。
こんな夢のような状況で、どれだけ現実離れした話を聞いたって、俺の手は見えない血で染まってしまっているって。
そんな同族殺しの俺が、このままのうのうと何することなく生きていていいのかなーって。
「……ん、おあよまつり」
「おう、おはようさん。二人ともさっさと顔洗って服直せ。いたいけな女子が見せてはいけない格好になってるぞ」
「……寝起き一発目の言葉がそれとは、もう少し麗しい女子の妖艶な姿を見てこう…………なにかあるだろう?」
「口も回ってなけりゃ頭も回ってねぇですね店長。いいからさっさとやることやりなさいよ。あんまり遅いと萃香が爆発すんだよ」
二人を無慈悲にもたたき起こす。涎を垂らしたままうろつこうとしてんじゃないわよずぼら娘ども。
そんな二人を見送り、今後の予定を考える。必要な時に切り替えていかないとね。
幻想郷、東方project、異変……、守矢一家が来た異変は風神録と呼ばれるもの。ことの中身にしては全くの別物であったが、元の世界を基準に考えるとするのであれば時系列自体に変化はないように思われる。
ただ、問題がいくつか。同じことの繰り返しになっているとはいえ、スパンというか、発生時期が読めない。
ゲームの中では数週間から数ヶ月は経っているはずがたったの数日で異変が発生している。
これは一重に、この世界が俺の知るゲームではないということの裏付けにもなる。ここは正真正銘の異世界であると。
そして、もう一つ。紫苑の存在だ。特殊な状態であったとはいえ、一日会えないだけで妖怪の山を壊滅に追いやった。あのクソ烏が言うには作戦立案段階だったそうだが、それが本当かもわからないし、作戦を立てたからどうこうできるような代物でもない気がする。辺り一帯を皆不幸にするとか、どうやって対策しろって話だし。
常に俺か、紫苑の能力に物理的にも能力的にも相性がいい萃香が居れば大丈夫なんだろうが……そうもいかないのが現実というもの。そんなことが出来ていればそもそもあんな惨劇は起きなかった。
つまり何が言いたいのかと言うと、だ。
次の異変が起きた時や、何らかの拍子で俺が死んでしまったらどうなるのか。で、ある。
そりゃあ、今現在であってでもそうそう死なないとは思うよ? 曲がりなりにも八雲紫と関係を持っているわけでもないし。実際、生死の境から生きて帰ってきてるわけだし。
そこらを歩いてる男どもよりは百倍死ににくいとは思うワケ。でも、絶対じゃないのよそれ。
八意永琳の光の矢をもろに喰らえば即死だし、伊吹萃香の怪力なり能力なりで圧殺、レミリア・スカーレットの雷で灰に、射命丸文の目にも止まらない速さで首チョンパ……やだ、この世界物騒すぎ?
まあ、あれだ、死ぬ要因が多すぎるって話。なんなら、これからも異変に首を突っ込んでいくとなればその要因の数は倍ドン倍!!
順当に行けば次が緋想天、地霊殿の順になるのだろうか? かたや天界の問題児と、かたや地獄の問題児。しかも、そのどちらもがトンデモパワーの持ち主ときたもんだ。出来れば関わり合いになりたくはない。
緋想天は紫様ぶち切れ案件になるのは間違いないだろうから、もしかしたら先手を打ってるかもしれないけど。問題は地霊殿なんだよなぁ……。
だって、順当に考えて地霊殿の舞台である地獄って放射線やばそうじゃない?
地霊殿の異変の全容って確か、なんやかんや八咫烏の力を持っちゃった霊烏路空が調子に乗ったか暴走したかってお話でしょ? で、その力ってのが核融合だか核分裂だかで、最終的に発電機扱いされるんじゃなかったっけ。
うろ覚えだけど、重要な部分は間違えてないはず。
で、核融合だか核分裂だか忘れたけど、どう考えても放射線ヤバいでしょ。レントゲンなんて比じゃないよこれ死んじゃうよこれ。
じゃあ、行かなきゃいいじゃんって? 俺もそう思う。けど地霊殿って、ゲームの頃の推しがいるんだよねぇ……行きたくなぁい?? 生きたいよなぁ!!
あ、一瞬背筋がヒヤッとした。
え、何あの子、ついに心まで読めるようになっちゃった?
まあ、冗談はさておいて。地霊殿には行かなきゃならんのよ。あ、推しとかじゃなくてね? 今後の生活基盤てきなものも考えてね? やっぱり現代っ子としても電気は魅力的なのさ。
家まで電気を引ければ……そもそも電化製品がないからいみな…………河童に頼めば風呂ぐらい作ってくれるかなぁ…………。
なにはともあれ、目先の問題としては緋想天。そして、地霊殿に行くまでに何らかの方法で体を強化しなければならないわけだ。
放射線じたいは、博麗の巫女や霧雨魔理沙なんかが平然と行き来してたし案外どうにかなるのかもしれないけど。対策を立てておくに越したことはないよね!!
「マツリ、準備できたよ」
「あいよ。んじゃ、お邪魔しました店長。俺たちもう帰りますんで」
着替えてはないけど、身だしなみをある程度整えた紫苑を迎え、小鈴店長に別れの挨拶を。いたいけな少女の家に朝っぱらから長居してもアレだからね。
と、思ったのだが、どうしてか小鈴店長は俺の袖を握りしめて離さない。一体どうしたというのかね?
「店員くん。少しだけ愚痴に付き合ってくれ。なに、そう時間は取らせないさ」
「いy」
「つきあってくれ」
「……はい」
嫌ですと断ろうとしたが、有無を言わさず愚痴に付き合うことに。なんだってばよぉ。
「例えばの話なんだが」
「もうすでに愚痴じゃないっすねそれ」
「店番をしていたら」
「続けるんすね」
「最近顔を見せていない店員がひょっこり顔を出してきたんだ。それも、ぷんぷんぷんと生臭い体でね。訳を聞くと浮気もどきをしてきたから匿ってほしいという。気は乗らなかったが、店員くんとはそれなりの仲だと自負していた。だから、せめて臭いを落として来いと言って川に放り投げた。そのあと、焚火も起こしてやって暖を取らせたら、正妻との修羅場にぶち込まれた。間一髪それそのものに巻き込まれるのは回避したものの、そのあとよくわからない負傷をして、結局巻き込まれる。一日を棒に振ったなぁ、けど、店員くんの為だ少しくらいは我慢しようと顔を洗っていると、そそくさと店から出て行こうとしていた。正妻は被害者だからしょうがないのかもしれないが、店員くんの行動としてはどうなのかなぁと思った次第でね。
もちろん、そんな特殊な状況は極めて稀だとは分かっている。だが、万が一があるからね。君の意見を聞かせてほしい。
私が同じ立場に立たされた時、私はどう対処すべきだったのか、そして、彼に何を要求できるのか…………どう思うかな? 店員くん?」
……………………誠心誠意、尽くさせていただきます。
お読みいただきありがとうございました
つよく……つよくならなきゃ……
んじゃ、また来月までさようなら。
新社会人も頑張ってなー('ω')ノ