「…………で、結局なにが聞きたいんだ」
「もこたんって不老不死じゃん?」
「ああ、そうだよ。忌々しいことにな」
「で、さっきの反応からして、1000年以上は生きてるじゃん?」
「さっきもそうだったが、すっげぇ笑顔で人の神経逆撫でしていくのなお前」
「人生の大先輩相手に遠慮なんていらないかなって」
そーいう問題じゃねぇだろと愚痴るもこたんに再びにっこりと笑いかける。中指を立てられた悲しい。
「で、その間に絶対孤独の時間なりあったと思うんよ。その頃の話が知りたい。出来れば炎を出しながら」
「わかったなんで炎?」
「いやぁ、こんど行くかもしれない場所が旧地獄でして。どのくらい熱い場所かも分からんので、まあ、その訓練みたいな?」
「はぁー地獄ねぇ。お前みたいなクソ野郎にはお似合いだな!!」
「はっはっは!! ちげぇねぇ!! ま、地獄にすら俺の席はないんだろうけど。ま、そんなわけでオナシャス」
もこたんは軽くため息をついて、先ほどみた炎の翼を出現させた。
少し落ち着きを見せていた部屋の温度が急激に上がっていく。サウナに入っているのと似た感覚だが、湿度が高いわけじゃなくむしろ乾燥している。砂漠とかこんなかんじなのだろうか。
「で、1000年かそこいらの記憶を話せって事だけど。正直なところ、あんまり覚えてない。そりゃあ最初の方は人恋しさに集落とかを回ってたけど。こんな髪じゃあ、よっぽど奇怪なところでもない限り石を投げられておしまいだった」
そう言って自身の髪を弄ぶ。白とも銀とも取れる異様な髪色。そして、白髪には不釣り合いな若々しい肉体。現代のファッションと比べても奇抜な部類に入るだろうソレは、昔であれば忌み子や厄災として扱われた。
そして、奇怪な場所は、その容姿と似た伝説が伝わる村とかを指すのだろう。それこそ、現人神や神の御使いとして崇め立てられたとしたのなら。
「流石に八雲のとこの奴なだけあって、これぐらいは簡単に気付くよな。…………ああ、そういうこともされたよ。私も、私に良くしてくれた奴も。幸いなのは、初めてがちゃんと好きな奴だったことぐらいか。そのあと生贄だって目の前で殺されたけど。
私が、行く場所場所を追われて疲弊しきったところに手を差し伸べてくれた奴だった。場所がどこかもわからない。一つ言えるのは雪が降る場所ってぐらい。そして、ソイツの村が大雪で喰うものに困ってるってこと。
それなのに、ソイツや村の連中は私を迎え入れてくれた。そもそも、人として扱ってもらえなかった私にはひどく響いたね。
その頃はまだ、この力を制御しきれなかったから熱気が駄々洩れ。ただ、幸いだったのはその村に伝わる土地神が炎にまつわるものだったこと。私の周りがあったくて雪もすぐに解けるから、そりゃあもう重宝された。御使いだーとかなんとか言って。
そして、同時に祭りの準備も進んでいた。私が来る前から決まってたからしょうがないし、止められるわけもない。祭事というものがどういうものであれ、部外者が立ち入ってはいけないなんてこと、私でも良く知ってる。
ソイツも納得してたし、両親も死んで独り身。村長たちも申し訳なさそうにしていたのは今でも覚えてる。
数年に一度訪れる大寒波、これを鎮められるのは、生贄の男と、番となる女。二人がまぐわって、果てるときに男を殺し女に力を宿す。男と女、相反する力を手にした女は土地神の力を借りて寒波を遮る。なーんて、昔はありふれた儀式。
その儀式が行われる頃には、私はソイツが好きになってたし、村長たちからその話は散々聞かされた。旅の人に迷惑はかけられない。けど、御使いの者としてどうか番役を果たしてくれないかって。
快く了承した。
男は白無垢、女は緋袴。連れていかれた洞窟の中で事を為した。そして、私の下に寝るソイツの首が落とされた。
あの時の感情ってなんなんだろうな? いまでも、1000年以上が過ぎた今でもわからない。私は、この力を使って村を救って、冬が過ぎたころに村を出た。
虚しかったのか、怒りで我を忘れてたのか、悲しみに明け暮れいたたまれなかったのか。
100年か200年……、死ぬことだけは出来なかったからただボーっとして気がする。唐突に襲って来る焦燥や孤独、死への羨望、生への憎悪。そんな感情を掻き消すように、奇怪な村を探しては乗り込んで、人の温もりってやつに触れようとした。好きになった奴もいた。最後まで添い遂げた時もあった。肉体関係だけの時もあれば、監禁され代わる代わる相手をした時も、体をそぎ落とされて、皆で不死になろとか言ってそれを食って高笑いしてるような村だってあった。
それでも、人がいるという事実と、一生かかっても死ねない、死ぬことが許されない事実の天秤は簡単に優劣を決めてくれたよ。
実際、覚えてるのなんて一割二割程度。言葉に表せば、とんでもないことに聞こえるし、事実そうだけど。それ以上に辛かったのは、思い出せない…………いや、思い出したくない空白の孤独の時間。私の心が蓋をした記憶の方だ。
不老不死なんて、聞こえはいいだけの…………まやかしでしかないんだ」
「はえー、大変やったんやねぇ」
「反応かっる!! しかもどちゃくそ失礼!!」
何を言うか。一周回って言うことがなくなっただけだい。
「にしても、人恋しい、ねぇ。もし、誰かしらを同じ不老不死に出来たとしたらやってた?」
「してた」
「あら以外」
即答する藤原妹紅の目は特段変わりなく、淡々と事実を述べていた。
「今でも、この地獄に引きずり込みたい気持ちはある。同時に、誰にもこの地獄へと足を踏み入れさせたくない気持ちも」
「でも昔は違った」
「ああ。大切なものは全部壊されて、人として扱われる事すらない。獣か、それ以下か。そんな状況で、気を許せる奴がいたのなら……私は迷わず同じ地獄へと引きずり込んでいた。ま、薬がないからそんなこと出来ないんだけど」
「あったらやってたと。蓬莱の薬、先生なら作れるのか?」
八意永琳。俺の背中を消し飛ばしてくれやがった張本人。月の頭脳にして、蓬莱の薬の制作者。東方projectの中では珍しく、知識や技術力が能力として書かれている人物。
「作れるんじゃないか? 最低でも三つは作ってるだろうし、もう一つぐらいなら出来るだろ。作ってもらえるかは知らんけど」
「そりゃそうか。姫さんの願いでもなければ作らなさそうだわ」
「逆に蓬莱人を殺す薬を作れるのか聞いたら、作れるって言ってたし」
作れるんだ。いやまあ確かに、不死殺しの逸話なんて神話の中にはそれなりにあるけども。
「あー、なんだったか。蓬莱人の不老不死ってのは、飲んだ奴の全盛期に固定するものらしくてな。私が飲んだ時も、直ぐにこの体まで成長した。概念的な存在ともとれるとかなんとか」
「藤原妹紅はこれ!! って決めつけられている感じか」
「んー……多分? じゃあ、どうやって殺すかってなると、その概念を引き剥がすことになるらしい。詳しいことは教えてくんなかったけど」
概念を引き剥がす……蓬莱の薬の効能を上回る年齢の強制進行とかそんな感じだろうか? それか、存在そのものをないものとして格付けるとか。
「んー、素人だからわかんね。でも、今でも死にたいって思ってるわけじゃないんだろ?」
「半分正解、半分外れ。その話を聞いた時、そりゃあもう大暴れした。私をころせーって。返り討ちだったけど。んで、その日も挑んで負けて吹っ飛ばされて、体が再生していくのを感じながら落ちた先が」
「上白沢慧音の所だったと」
「先読みすん気持ちわるい」
「流石に酷くない?」
「そこで散々説教されてさ。不老不死であることをいいことに体を無下にするなーとか、色々言われた。一番効いたのはあれだね、たかだか1000年程度生きただけのガキが、世界も知らずに勝手に絶望してるんじゃない。だって、私の方が年上なのにだよ? 何様だっての。でも、なーんか、嬉しいというかなんというか、良かったんだよ」
「え、なに、被虐願望ですか?」
「燃やすぞ?」
「すんません」
「……ま、そんなこんなで、私は今も特に意味もなく生き続けてるんだよ。過去にとらわれながらも、ね。さ、帰った帰った。さっきから汗が出なくなってきてんだから」
そのまま、藤原妹紅に家を追い出される。帰り際に、話し相手ぐらいにはなってやると言っていたのは間違いなく彼女なりの思いやりなのだろう。不老不死、あるいはそれに近しい存在を目指している俺に対しての。
「にしても、本能ってのは怖いものだ」
藤原妹紅と上白沢慧音。藤原妹紅が彼女を良かったと感じたのは、藤原妹紅を殺せる数少ない存在だからだろう。
歴史をなかったことに出来る上白沢慧音は、間違いなく藤原妹紅ひいては蓬莱人の天敵。出会うべきして出会った。
俺は、紫苑に出会うべきして出会ったのだろうか。
存在が不安定なまま彷徨っていた紫苑と、存在が不安定なまま生きている男。
お似合いなのかはさておいて、一緒に居たいという気持ちは変わらない。
どうやって寿命を延ばそうか。一緒にいるためになにをすべきか……分からないことだらけのなか、はるか遠くに水柱。
新たな異変が、来る。
お読みいただきありがとうございます
いやー、忘れてたわ普通に。
ま、なんにせよ、ようやくの地霊殿編。
ここまで来るの、ほんとうに長かったわぁ( ̄д ̄)
じゃ、また次にお会いしましょう。
じゃね~