厳密に言うと有休消費が終わったんゴ
さて、打つ手なしと言いはしたが、何をしないわけにもいかない。改めて状況を整理しよう。
まず、ここに来るまでの間にすれ違った妖怪たち。曲がりなりにも地獄と呼ばれた場所に住む、そして、鬼の四天王である星熊勇儀に付いてきた鬼たちも同様に、人間には目もくれず逃げて行った。そんな特殊な状況に置かれた彼らが脇目も振らず逃げていく事実。彼らにとっても、今起きている事象と言うのは異次元の出来事なのだろう。
次、地霊殿。出会ったのは古明地さとりだけだったし、会話も殆どしていないが有益な情報がなかったのかと問われれば否である。今現在、地底の世界は戦地がごとく倒壊した建物が並ぶ荒地。そんな中にポツリと一切の無傷を保っている建物が地霊殿。その理由は、古明地さとり並びに古明地こいし、悟り妖怪と呼ばれる彼女たちの力の本質によるもの。さとりは心を読み、こいしは無意識を操る。彼女たちの本質、意識と無意識の狭間とでも呼ぶべき心を操る力。それを地霊殿全体に張ることで、意識的に、あるいは無意識的に地霊殿を傷つけることが出来なくなる。外からは。
続いて星熊勇儀。彼女は地霊殿の妖怪たちの頭。鬼の四天王なだけあって、その実力が低いはずもなし。そんな彼女が一方的にやられているという事実。
そして、腰を抜かしている霧雨魔理沙。彼女に助けを乞うても、対して意味はない。というより、彼女に助けを乞うぐらいなら、紫様に声を掛けた方が確実だから。地霊殿で呼び掛けら、対して別の要求もなく聞き入ってくれた。まあ、ちょっと後が怖い気もするが……、いずれにせよこちらの声は間違いなく届いている。
んで、問題の博麗霊夢。おそらくは無想転生状態のチート状態。紫様に助けを求めても、正直どうなるのか分からない。紫様が負ける、という姿は想像しにくいが、その可能性を否定できない程度にはトンデモ状態。
そして、それだけヤバい状態だというのに紫様本人が出てきていないというのも不思議な点だ。もしかしたら、まだ様子を見ているのか、俺の思っているほどヤバい状態ではないのか…………、どの可能性も捨てきれないのが嫌なところだ。俺の意図を知って活躍の場を用意してくれているぐらいであってほしい。
ここまでで脳内処理僅か一秒!! とか、言ってみたいものだが冷や汗だらだら流しながら多分しっかり三分ぐらいは使ってる。
向こうに攻撃の意思がないのか、何かしらのトリガーを引いた瞬間バンッなのか。
軽率な動きはしたくないが…………どうあがいても勝てる見込みはない。
動くしか、ない、か。
極力足音を鳴らさずにそっと霧雨魔理沙へと近づく。
「よ、まりちゃん。元気かい」
「お、おま……どうしてここに」
「色々訳アリでね。今回の異変の元凶は地霊殿にいる地獄烏の暴走だ。俺にはどうしようもないから、何時ものお二人さんにどうにかしてほしかったんだが…………それどころじゃないのは見たらわかる。けど、どちらか一方を放置するわけにもいかない。動けるか?」
「…………どうにか、できるのか?」
「いやぁ無理でしょ」
「即答すんなよな」
「攻撃は効かない、鬼を抑え込む怪力。もし俺が知ってる情報通りなら瞬間移動も出来る。勝てる勝算がどこにある?」
「そう、か……そうだよな」
霧雨魔理沙は顔を俯かせた。地面に付いた手を握りしめ、その肩は震えている。
やがて、顔を上げた。彼女との付き合いが少ない俺でもわかる。覚悟を決めたのだと。
「霊夢がああなったのは私のせいだ。あの鬼の一撃を避けられなかった私を助けるために、霊夢は。だから、私もアイツを止める。流石に一人に任せられないしな」
「いや、地霊殿行ってよ」
だから、それを蹴り飛ばすのも人生の先立ちとしてやるべきことだろう。
きょとん顔が可愛い。ついでに取れるもんは取っておこう。
「いや、おま……ここは共闘する場面だろ!?」
「あんまり大声出すなよまりちゃん。バレるだろうが。大好きな親友を止めたい気持ちも分からんでもない。似たような経験はつい最近やったからな。だが、今回は俺に任せろ。てか、博麗霊夢はともかく、地獄鴉は十中八九オレじゃあ止められん」
だって、おれ空飛べねぇし。
「向こうが具体的にどんな状態かは分からんが、広範囲高火力を叩き出せるオマエさんなら一人でも、まあ、どうにかできるだろ、俺よりかは。こっちは残骸があったりでまだ動きやすいし、最悪、頼る相手もいる」
「ええぇ……納得できねぇ」
「うるせぇ。俺自身一番納得で来てねぇんじゃいぼけぇ。いいから、博麗の裏方役として尻拭いさせると思ってっさっさと行って来い。人生の先立ち舐めんなよ?」
頭をぐしゃぐしゃとかき乱し、曲がった箒を手に取る。黒色の魔女服から土を払い、帽子を被りなおした。震えは止まっていた。
「さっすが、んじゃ任せたぜ」
「そっちも」
そう残し、凛々しい顔に笑顔を浮かべ飛んでいく。それでこそ主人公ってもんだ。そうだろ、博麗霊夢?
「ちょっーっと気付くのが遅すぎたんじゃないですかねぇ!! せんぱい!!」
魔理沙が飛んで行った直後に感じた嫌な感覚、咄嗟に振りかぶった裏拳はブレた彼女の頬を確かに刈り取った。
「……ありゃ?」
大げさに吹っ飛んだわけでも、致命の一撃になったわけでもないが、あまりにあっけない。
瞬間移動か単純な速度で詰めてきたのかは分からないが、少なくとも、今言える確実な事実がある。
「攻撃が……当たった……え、マジでなんで??」
攻撃が当たるのであれば、星熊勇儀が負けるはずもなし。故に、無想転生は展開されていたはず。なら、霧雨魔理沙が飛び立ち、それに関与していた俺が敵認定され詰めてきた瞬間に無想転生の効力が切れた? 可能性としてはあるにはあるが、あまりに偶然が過ぎる。なにより、博麗霊夢の雰囲気は変わっていない。強いて言うのであれば、殴られた事による困惑が見て取れる程度。
つまり、彼女にとってもイレギュラーなわけだ。
「…………こんなタイミングで勝算ありな試合だとか、どんな出来レースって話だよな」
しかして、身体能力、体術、霊力の総量、技量とすべてはあちらが上。油断するはずもないが、気を抜けば死ぬ。
相手が困惑しているだとか、そんなものは気にしていられない。
足に霊力を回し三歩の距離を過剰に詰め寄る。みんな大好きヤンキーキック。これがわりと素人の割には威力の出ることでること。
何度も言うが、無想転生とはチート状態。簡単に言うと相手の攻撃が当たらず、自分の攻撃は当たる。僕の考えた最強のチートみたいな力だ。
恐らく、博麗霊夢もそれを理解しているのだろう。日常的に使わないのは、反動やら条件が厳しいためか。
なんにせよ、今の彼女の頭に避けるという言葉はない。先の裏拳がその証明だ。
そして、博麗霊夢はいま困惑、混乱している。なぜ、効力が切れていないのに攻撃が当たったのか? って。
そんな簡単に困惑するはずがない? そんな簡単に絶対が打ち破られたからこそ、自身の隠し玉が突破されたからこそ困惑し混乱しているのだ。
だから、ほら、俺の足裏がモノの見事に博麗霊夢の鳩尾を打ち付けてる。
「ダラッッシャァ!!!!!!!!!」
防御の態勢もとらず、回避の予兆もなし。直撃、吹き飛ぶ。見えない何かで受け身を取る。
「なんでか知らねぇけど、アンタの天敵って立ち位置みたいだな俺」
すかさず銃身を抜き一発。甲高い爆発音と共に射出された弾丸は彼女の体をすり抜けた。
「これはダメなのか。そうか、だったら楽しい楽しい答え合わせを一緒にしようじゃぁあないか、なあ、博麗の巫女さん」
手を握り、再び距離を詰める。一歩二歩三歩。バトル漫画のように音を超えんとする圧を霊力と言う不思議パワーでねじ伏せる。
眼前に迫ったその額に合わせて固く握った拳を飛ばす。合わせるよに伸ばされた手の平で流される。
勢い余った速度を回し、目にも止まらぬ速度で蹴りを放つ。狙いは顎。足刀が鎌のように鋭利に確実に刈り取る。が、博麗霊夢のお祓い棒がそれを真正面から受け止めた。そして感じる殺気。感じる野戦の勘が鳩尾へと霊力を回し、銃を宛がい防御する。
続く衝撃、肺から押し出される酸素と血液は博麗霊夢に当たる事すら許されない。宙を舞う感覚はやがて重力を感じ始め地面に激突。咄嗟に起き上がった時、そこが大穴の底だと気付いた。博麗霊夢は何ぐわぬ顔で俺を見下ろしている。
「……銃は銃の役割を果たさず、鈍器としてしか利用できない。技術力は軒並みあっちが上。だが、まあ、これが実力差ってものだよな。うん……マジでなんで当たってんのか分かんないけど、正直、レミリア・スカーレットとか八意永琳とか伊吹萃香とか紅美鈴とか、うちの貧乏神に主様に比べたら全然だな。絶望感が足りねぇ。攻撃が当たるから言えることだろうけど」
あー、口んなか切ったかなぁ。吐き出してみる唾液は確かに赤色で、これが現実であることを嫌でも証明している。
「あんなこと言っちまった手前なぁ、退くに退けないし。ガキのけつ拭くのも人生の先立ちとして、博麗の裏方役としてもやらなきゃいけない事か」
痛む体に鞭を撃ち、震える体に嘘を吐く。
「答え合わせは終わってねぇぞ巫女さんや。しっかりと付き合ってもらうから、覚悟しとけ?」
お読みいただきありがとうございます
まあ、一旦こんなもんでどうっすかね?
次で博麗戦が終わればなぁって思っとります。
ではまた来月お会いいたしましょう
……次の更新までに転職出来てるといいなぁ(´・ω・`)