糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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イケオジだったらもっと様になってなぁって


第50話 あの世で合おうぜお嬢ちゃん

 よくよく思い返せば、まともな奴と戦った事ねぇなぁって。

 だって、手負いの人間とか半妖とかを除いたらさ、そのほとんどが人間一人にどうこうできる奴じゃないわけで。事実、一方的にやられ続けてきたわけよ。

 そんな俺が、あの博麗霊夢と殺りあってるって考えるとちょっと感慨深くてなぁ。だって、主人公だぜ? 東方projectってゲームの。こっちにはないらしいけどさ。俺は知ってるわけよ。いやはや、事実は小説よりも奇なりってのは存在するんだねぇ。

 

 防戦一方だけどね俺。

 そらそうよ。相手はまがりなりともこの世界の主人公で、博麗の巫女っていう戦闘のプロフェッショナルなんだから。無我の境地みたいなものに至れるわけがないんだから、少しでも思考を柔らくするために無駄なことも考えてんの。阿保だよなぁ俺。

 

 上中下と繰り出される拳を受け流し、相手の脇腹を狙った膝蹴りは結界に阻まれ押し返される。右足だけで立っている不安定な状態を見逃してもらえるはずもなく、人中目掛けて博麗霊夢の拳が飛んでくる。

 しかし、その拳は空を切った。右足の自由も自ら奪うことで生まれた重力という名の不自由に身を任せ辛うじて拳の軌道から免れる。鼻先を掠めジリッとした痛みが身体を動かすのを強要してきた。地面に両手を付きクロスさせ回転力を生みだし後ろへ跳び下がる。が、距離は一瞬にして詰められ態勢を立て直す余裕はない。

 

 もうちょい猶予をくれてもいいと思うんですけどねぇ!! 

 

 跳び下がった勢いを殺さないように二度、三度と大きく飛び跳ねる。星熊勇儀の一撃か、はたまた博麗霊夢の一撃か分からない大穴の底には瓦礫がそれなりに残っていた。それを遮蔽にしながら博麗霊夢の隙を作りたいんだけど……、そもそもとして距離を永遠に詰められているので叶わずじまい。

 拳や蹴り、お祓い棒が風を切りながら俺の体を傷つけている。辛うじて避け切っているの本当に偉いマジで偉い。

 汗と血が混ざり目に入ってきても動きを止めることは決してない。現実にはコンテニューも無ければ残機もない。一度当たればハイ終わり。

 それを知ってなお、彼女は今の今まで正面切って木っ端から化物に至るまで多くの存在をねじ伏せてきた。であれこそ、出し惜しみなんかできるはずもなし。

 

 淡々と言葉を発することもなく、目の前の存在を排除する。それに対して、俺は逃げて逃げて逃げまくる。瓦礫の隙間を凸凹したいびつな地形を飛び回る。

 

 さて、ここで一つ問題だ。俺や戦いを知らない人里の連中と、この幻想郷という世界において主要キャラと呼ばれる彼女たち。この二つの存在において、一番の差は一体どこだと思う? 

 霊力の質や量? 腕力? 能力の有無? ああ、どれもそうだろう。だが、もっと明確にかつ分かりやすいのがあるだろう? 正解は

 

「やっと、整った…………うぇるかむとぅまいわーるどってな」

 

 空を飛べるか否か。

 

 妖精は空を飛び、それぞれにあった力を宿す。

 小、中妖怪は腕力であったり、その巨躯であったりで人間を圧倒する。

 人里の人間は、武器を手に戦うか逃げ惑う。

 霊力も腕力も能力も、どれも間違いではないのだろう。だが、飛べない連中と飛べる連中ではあまりにもその優位性には差がありすぎる。

 そりゃあ、例外もあるとは思うが……、普通に考えたらそうだろ? 飛び道具でも限界はあるもんだ。

 

 さあ、前置きはいい。

 ここで、一つ思い出してほしい。ここ最近俺が身に着けた技に霊力ブレードなんてものがあっただろう? 

 もう、勘のいい奴なら察しが付いたか? 俺がなんで防戦一方だったのか。

 結局のところ博麗霊夢も人間だ。そりゃあ、俺とアイツのスペックに差があるのは分かってるが…………要は人間だってこと。

 そして、防御や移動手段として結界を使ってはいたが…………俺との戦いでは一度もその結界を攻撃には転用させてない。

 やろうと思えばレミリア・スカーレットと同じように首チョンパなんて簡単だし、結界の中に閉じ込めてしまっても博麗霊夢の勝利は明確なものになる。

 じゃあ、なぜしないのか。俺が知り合いだからってのもあるかもしれないし、夢想封印のせいで結界の使用に制限があるのかもしれない。もしくは、夢想封印を発動しているときにはそこまで気が回らないのかもしれない。つまり、理由なんて分かんないけど、アイツは今のところ結界を攻撃に転用していないってこと。

 そして、それと同時に空を飛ばず俺と同じ地上戦を選んでいる。

 

 そんな美味しい状況を見逃すほど、俺も優しくないんでね。

 

 フェアじゃないとか、むしろここまでやってフェアだって言ってやりたいわ。

 

「さて、さてさてさて。わかるか、博麗霊夢。色々不格好だが、俺がアンタと対等にやり合うにはこれ以上やりようがねぇ。おかげで霊力もすっからかんだ。短期決戦…………付き合ってくれや」

 

 瓦礫と瓦礫、地形と地形、瓦礫と地形、地形と瓦礫。その間に張られている細い、細い、細い糸。ただ、良くしなる頑丈なだけの糸を博麗霊夢と俺の周りに張り巡らした。

 本音を言うなら、杭なりナイフなりでもっと広範囲にもっと多く用意したかったがこれ以上は無理だった。大体、直径40メートルより大きいくらいか。

 強度も今は弱いが、俺が近づけば人一人ぐらいは受け止めきれるハズ。

 

 近くの糸に足を掛け踏み込む。糸は元の状態に戻ろうと軋みを上げた。そして、初めて博麗霊夢が得物を構えた。

 

 弾き出される。一瞬音を置き去りに、その反動で引き裂かれる皮膚から肉が見え血が噴き出すのを余った少ない霊力で繋ぎ合わせ皮一枚保たせる。

 俺の霊力の総量が100だとすれば、余ってるのはせいぜい10程度。無駄遣いは出来ない。

 

 雑多に多くの事を学んできた。話術に体術、霊力の使い方や応用の仕方。それ以外にも色々と。

 だからまあ、なんと粗削りな事かと自分自身が嫌になっちまうね。

 

 俺の熟練度じゃあ音速を超え、超え続けているこの一瞬を御しきる事は出来ない。

 少しでもその負荷を減らし、速度を下げるように無理やり空中で体を捻る。体中から骨の折れるような嫌な音と、喉の奥からせりあがってくる鉄臭いものを我慢して掲げられた一本の腱を振り下ろした。

 

 生身の人間からは想像できない衝撃に、地面が陥没し亀裂が入る。どこぞの怪力乱神には程遠いだろうがそれでもなその大穴に傷跡を残す一撃。我が武術の師にも多少は通用する会心の一撃はいとも容易く受け止められた。

 

「一撃で終わるなんて甘っちょろい、要は我慢比べ……無想転生をした博麗霊夢の絶対を、俺の意地が突破できるか…………」

 

 あと、4か5は行けるはずと、そう思い直ぐに離脱しようとした。意識が飛びそうなのを声を発して繋ぎ止め、広く浅くなんでも続けて見るもんだとちょっと成長した自分が嬉しかった。

 だからかな、限界、いや、死の香りとか言っとく? そう、永遠亭で八意永琳と相対した時に感じたソレを感じた訳よ。

 

「あ、死んだ」

 

 両手で掲げられたお祓い棒には、うっすらと結界が張られているのが分かる。いや、お祓い棒だけにではなく、博麗霊夢の体全身にうっすらと薄い膜が。

 この瞬間、俺の勝利は亡くなった。辛うじて掴むことが出来ていた細長い糸がするりと手から零れ落ちていく感覚。

 博麗霊夢がゆらりと拳を伸ばし、俺の腹に当て軽く踏み込む。ただそれだけで、地面が割れ、俺の作りだした傷跡が消えた。

 体の中がぐちゃぐちゃにかき回される感覚と、足を掴まれている感覚。嫌な予感が飛びかけている意識の中で

 

 事態を認識しきる余裕もなく、体が地面に叩きつけられる。何度も、何度も顔面を、背中を、腕がひしゃげ握られている足首は万力に潰れ、握られていない足も衝撃に付いていけず骨が砕けているのは明らかだった。

 何度も、何度も、地面には血溜まりができ、叩きつけられている衝撃のせいかその血溜まりは人の形を成していた。

 

 まだ、辛うじて博麗霊夢の持っている肉塊が人として認識できるのは、茉裏が余った霊力を肉体強化に使用し続けていたおかげか。まだ、息はある。

 

 博麗霊夢は興味を失ったのか茉裏の足を手放し、ただ何もせず天を仰いでいた。

 これから何をすべきなのかを考えているのか、無想転生という絶対を解除しようとしているのか、ただ特に意味もなく佇んでいるのか……。

 ふと、視線を茉裏に移した。

 彼の手が博麗霊夢の見たことのないナニカを握っていた。だが、それは知っている。そのぽっかりと開いた口から塊が飛び出してくる。それは私には意味がないことを、博麗霊夢は知っている。

 

 故に、避けなかった。故に、脅威がないと判断した。判断してしまった。

 

 飛び出してくる霊力の塊、そこに染み付いた師であり超えられない存在の香り。

 避けられない、絶対を打ち破る力になりえないと判断してしまっている以上、彼女の動きは間に合わない。

 

 それでもなお、紙一重で避けてしまうのは天才と言わざるを得ないのだが。

 今回に至ってはそれでは足りなかった。

 

 頬を掠める霊力の塊、絶対が溶けていく感覚、霊力の膜も溶け、体がだるく動かない。

 沈んでいく男の腕、ぬるりと鉄塊が零れ落ち、自然と手に持っていたのは、彼女を越さんとする秀才の汗の結晶、砕けながらもその中身は残っていた。

 

 意志と執念を持って、中身ごと小瓶を嚙み砕く。口内喉胃と体の内側に新たな傷ができるのが分かる。

 意地と気力を持って、四つん這いになり、彼女の腰に抱き着く。

 

 平凡と悪態を持って、震える体を抑え込み、満面の笑みで彼女に説いた。

 

「あの世で合おうぜお嬢ちゃん」

 

 瞬間、体の中で霊力と魔力が複雑に絡み合う。双方が双方を殺そうとただでさえボロボロの体に鞭を撃つ。取り繕っていた肉体から血が噴き出し、やがてソレは漏れ出る光となる。

 

 本来混ざり合わない力が無理やり混ざろうとし、ただでさえ少なくなっている霊力が霧雨魔理沙の作った魔力回復薬によって暴走。それにつられ魔力が霊力を無理やり抑え込もうとするが肉体の方が持たない。結果、外に出ようとする。だが、霊力は魔力に襲い掛かり魔力が耐えきれず暴走。行き場を失い、いま、肉体の意識が飛んで事によってそれを抑え込める者はいない。

 

 ふっと、力が茉裏から抜け拘束から脱出する博麗霊夢だが、体がだるく動けない。彼女の脳が、博麗の勘が無想転生という絶対が解かれた今、逃げろと警鐘を掻き鳴らす。

 

 しかし、もう遅い。

 

 独りの秀才と、一人の平凡が意地と汗と血によって天才に牙を剝く。

 霊力と魔力が無理やりお互いを飲み込み、溢れ出した反発した力が茉裏の体から溢れ出した。

 

 巨大な爆発音が、地底を響かせた。

 




お読みいただきありがとうございます。

バクハツオチナンテサイテー

………便利なんよ(´;ω;`)

では、また次回~
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