糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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そろそろ仕事探さないとなぁ(ニート)


第52話 ―――回目

1回目

何もできずに死んだ。精神世界というだけあって、首が飛んだ後も意識があった。

 

2回目

気付いたら首と肉体が繋がっていた。そして、起き上がろうとした瞬間目の前が真っ暗になった。多分だが、頭を消し飛ばされたんだと思う。

まだ、痛みというものが来なかっただけマシなのかもしれない。

 

17回目

起きては消され起きては消され、最初は感じなかった痛みも状況を理解したのか幻覚痛を帯び始めた。頭に熱湯をかけられている、あるいは氷水の中に浸されている。精神世界でありながら頭を吹き飛ばされる。感覚というものを言語化する機関が失われてなお、表現のしようのない痛みが襲ってきていた。

 

66回目

飽きたのだろう。起きた瞬間に消されることはなかった。だが、両手足を切り飛ばされた。達磨状態のままのたうち回ることも出来ず、身をよじりながら絶命するしかなかった。

一撃で命を刈り取る、そのある種尊さとでも呼ぶべき命に対するマナーがどれだけ大事なものかを身をもって知る事となった。

 

129回目

血が流れる。あの尾で料理をしているかのような愉しそうな笑みで。

抵抗しても無駄だった。たかが人間の力じゃ止めることはおろか逃げることも出来なかった。

血が流れる。遠くに離れた自分の手足からも、自分の体からも。

そして、意識が途切れ、浮上してくる頃にはきっと、きれいさっぱり何事もなかったかのようになっているのだろう。

 

298回目

手足をもがれた。鳥の足をもぐように、魚の頭をねじり落すように。腕を掴まれギリギリと力が加わって、何かが抜ける感覚。体の芯が抜ける感覚。それについては詳しくないけれど、普通は有り得ないと分かる、分かってしまう。どこからどこまでかは分からないけど、骨を引き抜かれたぐらいは分かってしまう。

 

301回目

頭をもがれた。再び目が覚めた。目の前にいたソレに頭を掴まれた。痛み、苦しみ、悲しみ、恐怖、懺悔、後悔、そして、良くも悪くも興奮。死ぬ瞬間に人間の脳は脳内麻薬だかを分泌させるらしい。そんな興奮が生きる気力を奪いながら、死にたくないという無駄な足掻きを続けさせる。

力の入っていない、いや、自分でも想像できない程の力でその腕を握りしめるが、相手の頑丈さの方が圧倒的に上なだけ。やがて、ゴチュリという人体から発してはいけない音と共に意識が途切れた。

 

1289回目

炎で炙り殺された。じっくりと、じっくりと四肢から炎が伝って、やがて全身を覆いつくした。どれだけ転げまわっても、どれだけ地面に体を擦り付けてもその炎は体を貪っていく。

毛が、皮膚が、脂肪が、筋肉が溶け爛れ、血液が沸騰し意識を覚醒させながら絶命する。

 

3752回目

炎が炎が炎が炎が……精神世界とは、かくも辛いものなのだろうか。どうして死なせてはくれなんだ。

せめて、意識だけでも飛んでこの感情や衝撃から解放してくれれば多少は楽になれるのに。

意識は鮮明とし、逃げることを許さない。心にいるのだから、その心が壊れることもまた、ない。

 

8294回目

水が全身を包み込む。長い永いながい時間をゆっくりとゆっくりと丁寧に丁寧に……皮膚がふやけ、やがて肉体を構成する脂肪たちが水の中に浮かび上がる。黄色みがかった油が水中に漂い、毛の一本一本が抜け落ちていく感覚が分かる。定期的に送られてくる空気を、肉体は無意識に、折れたい心と反比例するかのように求め折れることは許されない。やがて、肉体は崩れ落ち、気が付けば同じことを繰り返す。

 

8658回目

一回一回の死へ繋がる道程が長いからか、いやでも彼女たちの表情がよくわかる。真正のサディスト? 違う。悪魔や化物? 違う。あれは、建国の女王。どんなものでも至極当然し実行し、それが当然の事だと思い込んでいる存在。彼女にとって、今行われているコレは、起きて当然なのだから。でなければ、そんな何も感じさせない視線をしていないだろう。

 

16588回目

突如として全身がいきり立つ。直立のまま動くことが出来ない。それを浴びてしまったがゆえに、全身の細胞が死滅、感覚器官が停止した。自分自身がどういった状態になっているのか理解できないまま、体の生命維持を担っている器官の感覚が止まっていく感覚が直に植え付けられていた。

 

29474回目

気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない……耳に残る耳鳴りから、それの正体が漸くわかった。これは雷だ。全身を焼け焦し、器官を殺す。自然界で最も強力なエネルギー体の一つ。それをおもちゃのように扱いながら、片手間のようにこの体に落とされていたのだ。

 

52398回目

ある種原点回帰と言うべきか、この体は磔にされ幾千もの針を絶命するまで一本一本丁寧に、縫い針の穴に糸を通すように毛穴に刺された。痛かった。感覚がある事に感動を覚えたのも束の間、感覚があることに絶望を覚えた。

最初は違和感がある程度だった。だがやがて、痛みが伴い軽い痺れが襲ってきた。

そして、やがて汗が針の刺さっていない毛穴から噴き出てくるようになって、最終的には汗が内側で滞留している感覚が襲い始めた。その気持ち悪さを訴えることは出来ない。体を身じろぎすればその少しの衝撃で汗がうねりを上げ激痛が走るのだから。

 

59635回目

針は全身に刺される。つまりは、人間の急所、男女問わずのものもあれば、男性特有の場所にも刺される。一度絶命してしまえば、もう一度その感覚を味わなければならない。必死で意識を保とうとすればその分別の激痛が襲い掛かってくる。逃げ場など、もとよりなかった。

 

 

105896回目

潰される。透明な何かに、ゆっくりとゆっくりと。やがて透明な箱の中にあった逃げ場はなくなり、軋みを上げながらこの体はひしゃげていく。

腕が折れ、足はあらぬ方向へ、胃が、膵臓が、肝臓が、腸が、肺が筋肉や線維に押しつぶされる。肉体から吐き出された血液がさらに箱の中を埋め尽くして……。

 

179963回目

透明な箱の外、そこでただ佇むだけのソレに必死に声を掛けた。もう無理だと、助けてくれと。届いていようがいまいがそうすることしか俺にはできなかった。

狂えるのなら狂ってしまいたかった。だが、この世界はそれを許容してはくれなかった。死んで、生き返って、意識はハッキリとして、死の直前がなかったかのようにクリアで、永遠に終わらない死への慣れが身体を蝕んでいた。

 

368454回目

透明な箱の中、声を上げ続ける。それが叶ったのか箱が迫ってくる感覚はなかった。代わりに、ナニカが襲い掛かってきた。息苦しい。全身が痒い。痛い。暑い。寒い。溶ける、溶ける溶ける溶けるとける

チーズのように溶けていく体をただ、見守る事しか出来なかった。

やがて蒸発していくのを、全ての感覚を覚えながら見ている事しか出来なかった。

 

549635回目

とけるトケル溶けるトケルとける

薬品か、毒か、はたまたただの熱なのか。未知のそれへの恐怖心は拭いきることは出来ない。

溶けるとけるトケルとける溶ける

 

986552回目

たすけて

たすけてください

 

2688495回目

いやだいやだいやだ

 

58954762回目

おれがなにをしたっていうんだ

 

452364879回目

なんでまいかいいしきがはっきりしてるんだ

 

3487156235回目

…………………………しにたい

 

64515687453回目

しねない

 

258462587496回目

おわりたい

 

3561847489652回目

おわれない

 

754916591523547回目

いしきをてばなしたい

 

6587481594775132回目

てばなせない

 

58749124895118417回目

しょうきをうしないたい

 

149845618742311988回目

しょうきをうしなえない

 

7489456123897456189回目

―――――――――たすけて

 

985689465198465198465129846512948651238496517417849561846517845123849651327451298645132984561320741528954612385016457621705907759049574149572054917409545754909670571054795105759571057854101517007047590715947005479415957050591571106750590451―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――しおん

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ま、普通に考えて無理って訳ですわ。
いやはや、早々に狂えたら茉裏くんも楽だったろうにねぇ……

では、また来月お会いいたしましょう
じゃぁねぇ~(/・ω・)/
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