糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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うぇい!!


第55話 後始末、大変そうだなぁ

 目が覚める。体に痛みはなく顔にパラパラと降ってくる土が鬱陶しい。というか最近こういった目の覚め方が多い気がする、そろそろ訴えても怒られない気がする。睡眠はしっかり取ろうね。

 大きく陥没した地面のさらに下、二重の爆発痕のようになったその中心にて眠っていたようだ。

 にしても、結構な規模の自爆だったと思っていたのに、元々あった爆発痕のおおよそ三分の一を満たす程度…………どんな馬鹿力で殴ればこうなるんだか。

 

「と、それはそうと準備運動してこいって言われたし……サクッと向かいますか」

 

 精神世界から帰還して、まず初めにやることは準備運動。なんでも、先に向かわせた霧雨魔理沙が悪戦苦闘、治療を終え彼女を追った博麗霊夢が加わり何とか鎮圧に成功。

 しかし、意識を失った瞬間暴走。二人ともに手負いだったのもあり一時避難。止められるであろう星熊勇儀が加わるもこちらも手負いと、相性のせいで苦戦を強いられている。他のものも手を貸しているようだが…………まあジリ貧で無理だろうと。

 

 そりゃそうだ。

 形はどうであれ地に逃れてきた者達が天を照らす者に敵う筈もない。

 

「初手からトンデモナイのを抑えて来いとは……うちの上司もイヤなことをおっしゃりますなぁ。いや、頑張るけども」

 

 体の内側に浸透した新たな奔流。試しに近くの瓦礫に軽く振るってみれば、音もなく消え去った。

 

「……………………そりゃぁ強い訳だわ。分け与えられた俺でこのレベルだもん……人間、やめちゃったなぁ、ま、今更か」

 

 さてさてさて、今日の天気は…………分かんねぇや。多分晴れっしょ。

 くだらないことを言いながら地面を軽く蹴る。目の前の天井に手を付いて方向を切り替え、神々しく輝く太陽を見つけた。

 少し離れたところで血を流し膝をついている博麗霊夢に霧雨魔理沙。

 炎、いや太陽の拡大を物理で押し留めている星熊勇儀。

 どうにかしようと怨霊を操る者や、蜘蛛の糸を張り巡らさせて押し留めようとしているものも多々見受けられる。が、怨霊も蜘蛛の糸も近づく瞬間に溶けている。実質的に太陽の拡大を止めているのは星熊勇儀ただ一人だ。

 

「太陽押し留める筋肉ってなんだよ……まあ、あんだけ押し留めてくれてるのなら大丈夫か」

 

 天井を握りしめている手を離す。重力に引かれて体が落ちていく中、クルリと体を一回転させ足を畳み勢いよく空気を蹴った。

 

「それじゃあ」

 

 勢いよく空気を蹴った。

 

「烏狩りと行こうか」

 

 ボッ!! と空気がはじける音、瞬間全身を撫でる太陽の海。全身に張り巡らされた新たな力の膜が体を守り、なんてことはない。いやごめん、流石に少し熱い。そりゃあ太陽よ? 私が今いるすっごい目に悪い海って最低温度一万度だかなんだかの世界よ? そりゃ熱いわ汗出てきちゃう、けど、その程度なのよね。藍様の狐火のほうが数倍キチィわ。てかあんだけ殺られればたしょうなりとも慣れるわ。

 

「ってことで、チッタア!! 大人しくしとけやヤタガラス!!!!」

 

 そんな世界の黒一点。その中心で頭を抱えている見に覚えのある身に覚えのない奴の肩を掴む。

 霊烏路空の名前よりお空の方が馴染みが深い、そんな彼女の目は光を失い深淵を総仏させる赤だけを残していた。

 

「────────────ッ!!!!!!」

 

 声にならない叫びが木霊する。それと同時に霊烏路空の体に細い亀裂が走った両手両足腹部背中首筋頬。ぱっと見れる範囲はズタズタに内側から弾け、血液は溢れ出る前に蒸発している。

 咄嗟に糸を紡ぎ縫合するが、新しい紫の糸は大丈夫だとしても、そもそも彼女の肉体の方が持たない。

 左足を縫い合わせる間に右足が、左腕を縫い合わせ終われば右腕が………………

 

 なるほど、そりゃそうだ。

 自身の力を制御できないのも当然だわこれ。

 

 霊烏路空とは地獄鴉であり、元はなんてことはない鴉だ。ただ、地獄に住まう鴉だからその名がついた。あのクソ烏の記者で烏天狗の射命丸文みたいな特別性もない。元から人に化けれたのかは知らないが、それを差し引いても精々中級の下止まりだろう。

 故に空虚、故にその身に八咫烏という神を宿すことが出来る。

 理由はどうであれ、彼女はその身に神を降ろした。なにも考えていなかったのか、はたまた何か考えがあってか……まあそんなことはどうでもいい。霊烏路空が決めたことなのだから、それの処遇は彼女の主が決めることだろう。

 

 さて、彼女はただの物珍しいだけのいち鴉にすぎない。そんな彼女が八咫烏という日本の最高神が一体天照大神に従える存在を抑えきれるだろうか? 答えは否だ。現在進行形で彼女の体はボロボロと零れ落ちていく。

 それはそうだ、例えるならもとの霊烏路空は紙飛行機。そんなあてもなく漂うだけの存在に飛行機のジェットを付けている状態。むしろよく保てていると褒めていいだろう。少なくとも紙飛行機がジェットの重さには耐えているのだから。どんな紙飛行機やねんって感じだが、こっちはスパルタ教育上がり直前なのだから大目に見てほしい。

 

 そんな彼女も東方projectに実際に出てくるキャラクターの一人だ。そして状況は違うが同じく地獄鴉の彼女は八咫烏の力を得て主人公の前に立ちふさがる存在。つまり、八咫烏の力を制御できていた。

 では、なにがどう違うのか。それは単純明快、彼女の姿を見ればわかる事。

 

「なんで制御棒がないんだよッ!!!!」

 

 トレードマークと言わんばかりのモノ、強力な核融合の力を制御する役目を持つ五角形の柱。本来であれば彼女の右腕にハマっているそれがない。

 今回の異変に誰が関わっているのかはまだ具体的に分かっているわけではないが、あまりにも無責任過ぎるのではないだろうか? 

 

「だが対処法は分かった、まってろ嬢ちゃん。もう少しの辛抱だ」

 

 糸を編む。紫の、我が主人の力が籠ったそれを編みこんでいく。

 糸一歩あれば多くのことが出来る。例えば何かを繋ぎ合わせる、例えば何かを切断する、例えば何かを伝わせる。

 そう、伝わせることが出来る。藍様の首に巻き付けた時のように血が炎が伝わせることが出来る。

 

 糸を紡ぐ。残念なことに俺の技量じゃその力を制御するような代物は作れない。

 だがその放出先を誘導する程度の事はできるだろう。結局この膨大な力を放出できれば問題ないのだ。

 

 まあその過程で多少の被害は免れんだろうが………………地底が吹き飛ぶよりはマシだよね!! 

 

 糸を紡いでいく。彼女の体と同じかそれ以上のモノ。天を貫くそれにじわりじわりと力が溜まっていく。

 予想以上に出力が高いが想定通り彼女の力は糸を伝っていく。

 

「もうちょいもうちょいだからなッ!!」

 

 やがてそれは完成し紫色の一本の糸によって紡がれた槍となる。

 

「んじゃま、ドでかい花火を打ち上げようぜぇッ!!」

 

 彼女の腕を持ち上げて、はるか頭上の天を指す。それとほぼ同時に槍の先が一瞬光った後太陽が一度大きく脈打った。それは溜まっていた水に波打つが如く止まらない。

 細い細いその剣先の熱量が増しドロリと溶けた瞬間一筋の光が天を穿った。

 その熱量だけで地上を突き抜け大地を焦し天を溶かす。

 

 長い永い時間にゆっくりと太陽は縮み、やがてその中央には一体の鴉のみが残る。

 

「ふぃぃ…………アッチぃ…………うわ、手の表面溶けてるし」

 

 自分より背の高い霊烏路空の体を支えふと手を見て見れば、じっとりと手の表面から血液とリンパ液が混ざりあいとても見たくない状態となっていた。それを妖力で包帯を巻き付けるように治療し霊烏路空の体を寝かせる。

 即席の制御棒は熱に負けたのか全壊とはいかずとも半壊している。多少の間であれば問題はないだろうが、そう長くは持たない。そもそも力の放出先を定めるだけのものだから早いところちゃんとしたものに変えてもらうべきだろう。

 それに、顔を天井に向けて見ればぽっかりと開いた小さくない風穴が口を開けていた。

 

「後始末、大変そうだなぁ」

 

 後の事を考えるだけの余裕があるのだから、八雲紫の式とは凄いものだ。

 今までであればこんなことは無理だっただろう。

 

「なにはともあれ一件落着ってことで、あとはここの方たちにお任せして帰りましょ。八雲的にはそれが正解でしょうん。けして後始末がめんどくさくて逃げようとしているわけではないのだ。じゃ、さらば!!」

 

 呆然としている星熊勇儀だったり古明地さとりだったり博麗霊夢だったり霧雨魔理沙だったり、土蜘蛛たちや地底に住む妖怪たちにサムズアップし、真上に開いた近道を通って数日、体感数百年? ぐらいの地上に顔を出す。

 

 空は快晴、地は地獄。後に叱られることをなんとなく察しながらも自宅に帰るこのワクワクは何事にも耐え難いものだ。

 

 まあ、自宅に帰っても怒られることは目に見えているが…………それはご愛嬌というものだろう。

 

 




お読みいただきありがとうございます

もうちょっともうちょっとと言いつついつ終わるんでしょうかね?
作者にもわからん(´・ω・`)

ではまた次回〜
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