……………………雨が少し強いだけだな???
皆さまは台風大丈夫でしたか?
顔を真っ赤にししながら何かを言いたげにしている紫様の前でふふんと鼻を鳴らす。
内心冷や汗ものだし、ガクブルだしちびりそうだけどまあ、なんというか意趣返しといいますか、いままで散々弄ばれていたというか、認識の違いでしかないのかもしれないが、不安要素は取り除くべきだよね!!
もっとやりようがあったのは認めるし、しっかり話し合いをすればとかって話かもしれないけど…………それは逆に言うと付け込まれる隙もあるというもの。正論には暴論を、というとちと違うかもしれないけどさ、心を持った存在は必ずしも倫理的に動いてるわけじゃないんだわ。
俺が嫌だと思ったから、嫌だと言ったまでのこと。
冷静さを取り戻したであろう紫様は、一つため息をついて口を開いた。
「そういった意図があったわけではありませんが………勘違いをさせてしまったのであればそれは私の落ち度でしょう。これが張り合いがあるってことなのでしょうね。ええ、ええ、であれば次の機会を作ればいいだけの話。椅子が確保できている以上、そう難しい問題ではありませんわ」
「すいませんひねくれもので。ただ、そんな人間を愛してしまったことを………楽しんでもらえれば」
「本当にひねくれてるわね。いいわ、今日はこのまま引き下がりましょう。いくわよ藍」
「御意」
そう言って紫様は立ち上がる。それに応じて藍様も立ち上がった。彼女たちの背後には不気味な目玉がぎょろぎょろしている紫色の空間が広がっている。紫様はこちらを一瞥し、その中へと入っていった。
静まり返った空間に、俺の大きなため息が響く。
「ふぅぃ…………死ぬかと思った………いやほんと、よく殺されなかったな俺」
あははと乾いた笑いを上げていれば、藍様の隣でピシッっと背筋を伸ばしていた萃香が這い寄ってきた。
「いやほんと、よく殺されなかったねぇ。マツリと紫の関係性は知っていたが………思っていた以上に紫は入れ込んでんだねぇ」
「了承の上とは言え、いちおうは二股野郎なんだけど………こんなことを言って好いてくれる奴に申し訳ないが、どこがいいのかとんと分からん」
「あっはっは!!! むしろそういったところじゃないかい? 紫はやろうと思えば指先1つで幻想郷を消滅させられる。それどころか、この世界は余りにも紫にとっては小さすぎる。そんな中で啖呵を切る……ってよりは、ひねくれてやるから楽しんでみろなんてわけのわからないことを言い出す男なんてそういてたまるかって話さ。まあ、ただただ一目惚れって線も捨てられないが」
「愛に意味も理屈もありはしなってか。どちらにせよ厄介であることには変わりねぇ。こんなけったいな力持ちにいれちまったし、精々愛する者の為に長生きするとしますかね。あ、腕試しついでに萃香」
「やめとくやめとく、そりゃあいい勝負はできそうだがこの辺り一帯がタダじゃすまないよ。まずはその力を制御しきれるようにしな小童」
さーて酒酒とどこから取りだしたか瓢箪と盃で持って酒盛りを始めだした。
呑気と言うかいつも通りと言うか、なんとなくこの雰囲気に安心感を覚える自分がいる。酒臭くなるから窓かドアかは開けとけよ?
さて、問題は…………
「…………」
紫様が去った後も微動だにしない紫苑の方だ。こういったときなんて声をかければいんだか。
というか改めて考えると全部見られてたんだよな、わけわからんくらい殺されてたの。あれも案外安全性と言うか【きりゅうまつり】って存在にどれだけ影響を与えても問題ないかの実験だったりして?
まあそれはそれとして、人末の希望を握りしめられたのは紫苑のおかげなんだよな。いやぁ~実際の時間は全然なんだろうが、今となっては凄い昔のように感じるわ。
物理火あぶり水攻め雷圧殺毒etcetc………はっはっは思い出したくもねぇ…………。
結局あの地獄を脱する手段も元を辿れば紫苑がいなかったら違う結果になってたんだよな。紫苑に出会ってなくても、何かしの方法で抜け出せた可能性はあるが、博麗印のお守りに違う力が宿ってか、はたまた藍様の油断によってかはわからんが、一つ確実なことを言うのであれば、同じ結果にだけにはなりえなかった。
そう考えると、俺って一人の力で生きてるんじゃねぇんだなぁって。
そりゃあ当たり前だけどもよ、実感することと漠然と知っているってのはまた違う話で。
「…………あー、マツリ」
「ん? どした萃香、神妙な顔して」
酒盛りを始めていた萃香が気まずそうな表情を引っさげて服の裾をちょいちょいとしてくる。
「いやな、お前さんが何を思い悩んでるのか考え込んでるのかは知らないけどさ、そろそろ声掛けてやった方がいいと思うんだ私は。あんだけ平然と紫と相対してたとはいえ、指先1つで消し飛ばされる可能性って結構精神的にきついものなんだわ。マツリにだって経験があるだろ?」
「うんすっごいある」
思い当たる節しかない。
軽く扇を振っただけで妖怪の山を割り、藍様を瀕死にまで追いやったあの光景は忘れたくても忘れられないんだ。
え、じゃあこうやってなんて声掛けていいかわからずクヨクヨしてるワタクシまじのヘタレでは? わりと最低なことしてる…………???
でも気付いたところでヘタレなのは変わらないんすけどね。
「あー、その、紫苑…………悪かったな心配させて。それに、怖かっただろ。もうちょい威厳隠せって俺からも言っとくから…………あー? なんか飯でも行くか?」
紫苑から返事はない。
「…………やっぱ怒ってるよな。あんだけ殺されてたのを見てたし、俺の事を心配してくれてた紫苑からしても、辛いもんがあったつぅか、なんて表現すればいいか分からんが………心配かけてすまん。ただ、俺がいまここにいて、紫苑に謝れるのも感謝できるのも全てが紫苑のおかげなんだ。だから、本当にありがとう。俺を救ってくれて、地獄から解放してくれて、いつも俺のそばにいてくれて、ありがとう。だから…………なんだ、えーと、あかんいざ改めて言おうとするとドチャクソ恥ずかしいなこれ」
一方的で乱雑な照れ隠しの言葉だけが響く。
「出発する前に紫苑が恥ずかしがってた気持ちがようやくわかったわ………。ただまあ、言わんとだよな……………………これからも一緒にいてくれ、俺は紫苑が好きなんだ。俺はさ、生きたいから生きてる。それ以上でも以下でもない。その為に、多くの命も奪ってきた。見た目こそ分からないかもしれないが、俺の手は本来は血で赤く染まっている……………………なんでこんなクサイ言葉言ってんだ俺?」
ああ、もう訳が分からんと頭をかきむしりひとつ深呼吸。顔が熱いが知らんぷり知らんぷり。
「愛してる、紫苑。いままでも、これからも、お互いどれだけの時間が残ってるのかは分からんが、せめて終わるその時まで一緒に居てくれないか?」
そういって、彼女の手をそっと握る。
だがそれでもピクリとも動かない紫苑。それだけ怒らせてしまったのだろうと目を伏せ、怒号の一つでも覚悟したときふと目が合った。
「言いにくいけどさ、マツリ。紫苑これ気絶してる」
そう、彼女の顔を両手で挟み込みむにむにしている萃香の大きな目と。
てか、え? 気絶?
「まあかなり限界だったぽいからねぇ、しょうがないしょうがない。次はちゃんと意識のある時に言ってやりなよ? 今更だろ?」
「まじかぁ…………思ったより恥ずかしいんだぞあれ………………」
顔をムニムニされている紫苑の髪を片手で弄る。お世辞にも髪質がいいわけでもない青色の髪、見開いたままの目を優しく閉じてやれば泣きはらした後だったのだろう少し熱かった。
「とりあえず寝かせてやるか。萃香、布団だしてくれ」
「あいよー、一緒に寝てやるのか? それだったらしばらく出とくけど」
「寝込みを襲うほど発情してねぇ。たまには素直に酒を飲み交わしてやろうと思ったんだがなぁ?」
布団布団と煎餅布団を敷き始める幼女を見てどっと疲れが押し寄せる。軽い気持ちで言ったのをすぐに後悔しているが、いまはそれよりも紫苑を寝かせてやるのが先だろう。
布団に寝かせた紫苑もやがて規則正しい寝息を立て始める。
「おやすみ、それと言い忘れてたな………ただいま、紫苑」
さてニヤニヤしている鬼を退治しないと。
気が付けば夕暮、透明な酒に映し出される紅と喉を焼く酒の辛さ。
一緒に居られる、ただそれだけのこと。
だが、それ以上に大事なものはない。とても大切な言葉。
彼女は送り出してくれた、であれば、帰ってきたことを伝えねば。
盃に注がれた人の身に余る酒、それを平然と煽る。
それは俺と紫苑が共にいられることの証明。
赤く染まる夕焼けはきっと、朱に染まる俺の頬も隠してくれていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回!!
(多分)最終回!!
そういや編集画面の文字フォント変わりましたね。
見づらいようなみにくいような………まあ慣れろって事ですかね?
それとも私の勘違い?
ではまた次回~(=゚ω゚)ノ