この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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クラリキャットカッター(C.C.C)=相手は死ぬ

……はい。特に意味はありません。ただ憶えたての言葉を使ってみたかった一心ですとも。






閑話
無題3


 

 

 

 ※

 

 

「すみません、俺はゼロ。それは了解しました。それでは貴女は?それと、ここがどこかも教えて頂けると助かります」

 

「「えっ」」

 

 しばし時が止まったような停滞、その後の阿鼻叫喚を、オレはどこか沈んだ気持ちで見ていた。

 

『………………』

 

 最初にこいつに抱いた感情は罪悪感だった。

 オレのせいでこいつはただ生きるだけなら不必要な、ここではない世界の知識と、異能とでも言うべき人には余る力を持ってしまった。

 オレがいなければ。

 オレがいなければこいつは冒険者なんて危険な職業を目指す事もなく、もっと違う何者かになれたかもしれないのに、オレのせいで。

 ………いやよく考えたらオレは何もしてないな。悪いのは一から十までアクアとかいうアホだ。そういうとこやぞアクア。

 とにかく、一人の人間の人生を変えてしまったという負い目のような何かをこいつに対して抱いていたのは間違いない。そう、最初は。

 

 

 

 ※

 

 

 こいつが産まれてからしばらくして、とある疑問を持つようになった。

 

 こいつは誰だ(・・・・・・)

 

 オレの記憶を受け継いだというなら、当然性格などはオレに似通っていないとおかしい。だと言うのに、こいつとオレでは考え方も性格も何もかもが違う。

 オレはもっとクールだし、こんなにアニメやネットのネタを日常に差し挟む事もしなかったはずだ。こいつは一体誰の性格を受け継いでいるのだろう。

 

 頭が良くないオレにとってその疑問は、誰にも相談出来ないこの環境では非常に難しかった。それでも一応の解を捻り出せたのはそれから二年ほど経過した時だったか。

 こいつの発する言葉があまりにもアニメのキャラやネットスラングそのまま過ぎるという事に気付いたオレはそこでようやく合点がいった。

 こいつは真似をしているんだ。自分という物を持っていないから。何処のものかも分からない知識を頼りに、必死に自分を、自我を構築しようとしている。

 

 自我は本来、子供が成長していく過程で周囲の環境から少しずつ学び、確立していくものだ。こいつはなまじ初めから学べる物を持っていた為にその過程を無意識にすっ飛ばしたのだろう。

 その無理矢理な模倣から生まれたのがこの、テンションが高いんだか低いんだか分からない、真面目かと思えば急にふざけ始める不安定な男だというのはなんと言うべきか。というかコレ自我の構築失敗してない?

 

 

 その頃からだ。こいつが父親の形見である剣を振り始めたのは。

 それまでは重過ぎて持つことが出来ないという理由で見送りにしていた訓練を、地道な筋トレの成果で重さに耐えられるようになったから始めるとの事。

 まだ産まれて数年の男児が持つには大きく重いその剣を、ゆっくり、しかししっかりと振るうその姿を見るのは少し楽しかった。

 実はオレはこいつの父親と面識がある。もちろん誰からも認識されないオレであるからそれは一方的な物だが。

 こいつの誕生とオレがこの世界に飛ばされたのには多少のタイムラグが存在したらしく、ほんの半月ほどであるがオレは確かにその男を見ていた。

 こいつの父親は普段は控えめに言ってクソ野郎だった。

 と言っても何かが破綻している訳ではなく、する事と言えばただ単に自分の事を棚上げして周りに当たり散らす程度の日本によくいるタイプの人間だ。

 ただ、女性の扱いは上手かった。よくギャルゲやエロゲをやっていたのか何なのか、そういう台詞に疎いこちらの世界の女性に対しては本当に強かったとだけ言っておこう。

 こいつの母親、あの聖母みたいな娘もそうやって捕まえたのだと思うと、こう、ぶん殴りたくもなってくるが、故人ゆえに見逃してやろう。

 家族を庇って魔王軍と相討ちになったという最期も含めてテンプレな男だった。かっこいいじゃねえか。

 願わくばこいつにはあの男のそういういざという時の部分は見習って、普段は母親を見習って。そんな奴になってもらいたいもんだ。

 そんな資格もないしどの口が言うのかというツッコミはあるが、この時のオレは弟が出来たような心持ちでいたんだと思う。

 

 ……兄弟か。いたことが無いから想像も付かねえけど、そうだな。いたとしたらこんな感じなのかもなぁ。いつかこいつと会話する事が出来たなら、どんな気持ちになれるんだろう。

 

 そんなことを思っていたようないなかったような。

 

 

 

 ※

 

 

 それから数年。オレはこいつが恐ろしくなってきた。

 朝から晩まで毎日、休むことなく剣を振る。手の皮が破れようと腕が疲労で痙攣しようとお構いなしに。

 それだけで異常ではあったが、それでもよく頑張るもんだという、ある種微笑ましい気持ちで済んでいたのだ、その心証が変わるきっかけがあるまでは。

 

 ある時を境にこいつは村人に迫害され始めた。

 

 最初は友達も作らず黙々と鍛えるこいつを同い年くらいの子供が揶揄いにくる程度だった。

 子供の無邪気な嘲りに対しては反応しないという満点の対応をしていたが、それが面白くない子供達は段々とエスカレートしていき、こいつに向かって石を投げるようになった。

 流石にこうなるとこいつも黙ってはおれず、口頭での注意、治らなければ多少のショックを。オレからは色目無しでそれは正当な物に思えたが、どうやらその子供達の親からは違ったようで。

 村ぐるみでこいつを厳しく糾弾した。

 

 無邪気な子供とは違う悪意のある大人の言葉。多少成熟した精神を持っているとはいえ、年端もいかない子供にはさぞ辛かっただろう。

 不幸中の幸いは本人の人柄故かこいつが日中はほとんど一緒に過ごしていなかったが故か、こいつの母親にまではその糾弾が届かなかった事か。

 あるいはそれを見越してこいつはあえて母親から遠ざかっていたのかもしれない。

 

 いつだったか母親から鍛える理由、冒険者になりたい理由を聞かれた時、こいつは「他人の役に立ちたいから」と答えた。そして今日もそれを掲げて鍛え続ける。

 それがどうしようもなく恐ろしい。

 果たして、幼少期からあれだけの悪意に晒された人間が他人の役に立ちたいなどと言えるだろうか?こいつは何か別の事を企んでいるのでは?強くなって何をするつもりなんだ?

 そんな疑念ばかりが膨らんでゆく。

 

 生前からオレは人の気持ちを考える事が出来なかった。だからこそ他人に対して何の感慨もなく危害を与える事が出来たとも言えよう。

 そんなオレから見るとこいつのその理念は酷く不自然で歪で、得体の知れないナニカに感じられてしまった。

 

 

 

 ※

 

 

 その疑念はこいつが旅に出て、紅魔の里、王都、そしてアクセルと渡り歩いても払拭される事は無く、むしろますます膨らむばかりだ。

 

 その頃からか。何故かオレの姿がこいつに見えるようになったようだった。

 何かしらのコンタクトを取れるようになったのだから色々と伝えたい事ももちろんあった。けどオレは一切現世に干渉できないし、その方法が無い。

 オレなりに考えた末、オレ自身が導くことで戦闘に協力する事にした。幸いにもオレには生まれつき『力』の流れが視える眼があったし、それはこの状態でも使えるみたいだったからな。

 こいつに対する疑念が晴れた訳ではない。それでもずっと成長を見守ってきたんだ、多少力を貸すくらいはしたかった。

 ……まあ、こいつが魔王を倒してくれればオレの今の状態も改善されるんじゃないか的下心も当然ありましたがなにか?

 

 そうして相も変わらず何を考えているか分からないこいつと過ごしていく中、こいつとクリスちゃんが暮らす宿に王都からクレアさんが訪ねて来た。話を聞くに王都のピンチがどうたらこうたら。難しい事は聞き流してたから憶えていない。

 話の流れでカズマ君の屋敷に行くことになり、その道中。クレアさんがこいつに一つの質問を投げかけた。それはオレがずっとこいつに尋ねたかった事。

 その質問に対してこいつは。

 

「俺は親父が依頼主に感謝の言葉を掛けられた時のことを聞いてさ、すっげえ羨ましかったんだよ。

 それで思うようになった。俺も冒険者になれば皆から必要とされるんじゃないか、感謝してもらえるんじゃねえかってな。それが俺が冒険者になった理由だ。

 最初は適当に魔王倒すか、他にやりたい事があればそっちに移れば良いだろう、くらいの軽い気持ちだったんだけどな。そう思ったらそれが俺の夢になってた」

 

 と、そう答えた。

 

 ………ああ、そうか。

 

 聞いてしまえば単純な、拍子抜けしてしまうような内容。それでもその瞬間、オレがずっと抱いていた疑念は確かに氷解した。それはオレにも覚えのある感覚だったから。

 特にこいつは幼少期から周りの心無い大人から不必要とされていた。だからこそ人一倍承認欲求が強いのかもしれない。

「他人から必要とされたい」、ああ、いい理由だ。

 

 この時オレはこいつを疑う事を止めた。もう力を貸すのに躊躇もしない。オレが今出来得る限りの支援をしよう、そう決めた。

 

『つって決めた所でオレの声が聞こえるでも無し、やれる事は結局今までと変わんねえんだけどな!』

 

 誰にも聞こえない声で叫んだ。

 

 

 

 ※

 

 

 アルカンレティア近郊の草原にて、これまた要因は分からないが、とにかく初めてこいつと対話した。

 もっと驚いたりするのかと思ったのに意外なほどすんなりとその事実を受け止めたこいつと共に魔王軍幹部と対峙した。

 物理無効に猛毒の身体、相性最悪の敵にこいつは命を賭けて立ち向かった。街に住む一般人のために。今も尚苦しんでいる子供のために。

 

 オレは何かにこんなに真剣に命を賭けた事はあっただろうか。

 確かに毎回命は賭けていた。抗争、暗殺、その他。相手を殺すのだから自分もそのリスクを負うのは当然だ。

 けれどオレの眼の性質上、真に命の危険を感じた事があったかどうか。せいぜい最期の戦闘の時くらいか。あの時だって致命傷を受けてから初めて覚悟を決めたもんだ。

 そこまで追い詰められないとそうなれないという所は、オレに似ているのかもな。

 

 

 

 ※

 

 

 そして今。

 

 

「ジャック、出て来ーい」

 

『お呼びですかゼロイチ様』

 

「誰がナンバーズだ。ちょっとそこの爆発ポーション沸騰しないように見ててくれよ」

 

 

 会話できるようになって数日しか経っていないが、どうだろう。見る人によるとは思うが。

 

 

「あんま激しく沸騰すると衝撃でドカンいくからさ、一煮立ちする前に上手い事俺に教えてくれ」

 

『お前オレをなんだと思って…………まあいいか』

 

「サンキュー」

 

『かわいい弟のためにいくらでもお兄ちゃんをこき使って、どうぞ』

 

「誰がお兄ちゃんで誰が弟だ。俺のめぐみんに対する芸風をパクるんじゃねえよ」

 

『へへへ』

 

 

 

 いつか夢見た兄弟のように。

 多少は接せているんじゃないだろうか。

 

 

 

 






はい、それでは予定通り次回から新章の方に移らせて頂くんですが、その前に評価について少し書かせて下さいな。

この作品今まで5文字コメントしないと評価付けられないようになってたんですよ。
理由としては全編消去事故起こしちゃったんで完全復帰するまではなるべく評価されたくなかったからなんですが、それでも18人も評価してくれてて作者びっくり。
それでですね、コメント無しで付けて頂けるようにするんですが、今後は低評価だろうがなんだろうが黙って付けて頂いて、この作品に対して何か物申したい時は感想に書くようにして欲しいんです。
と言うのも、消去前の作品は初期から基本的にコメント無しで付けて頂けるようになってたんですが、ある時にふと
「みんなどんな事を思って評価付けてくれてるんだろう」
と思って同じように5文字コメント有りで設定してみたんですね。
そうしたらその、出して良いのか分かりませんが上手く説明出来ませんので例として挙げさせて頂くと、


①『ここの部分について説明がされてない。作者が設定を忘れちゃ駄目でしょ』

いやいや、忘れた訳では無いんですよ!それは伏線として後の方で回収する予定だったんですって!ホントホント!


②『オリジナル展開多すぎて萎える』

えっ……。あの、オリ主である時点でオリジナル展開仕方なくないですか……?
それとタグにもオリジナル展開って入れておいたのになーおかしいなー……。


③『ああああああああああああ』

……⁉︎…………⁉︎⁉︎


とまあこんな感じで中々にアレだったんですよ。感想で書いてもらえれば弁明とか言い訳も出来たんですが、評価のコメントだとそういう訳にもいかず。
というか最後の本当になんだったんだよ。『単純につまらない』でいいからせめて意味のある言語で書いてくれよ。

評価アテにならねえな⁉︎というのが連載してきて作者が得た結論なんですよね。
ですので、基本的に評価に貰ったコメントは一切参考にしないとその時決めたんです。
まあ評価って個人がどう思うかで付ける物なんで人それぞれだっていうのは分かっているつもりですがね。
もちろん面白いと言ってもらえるのは嬉しいですし、ごく稀にちゃんと考えてくれてるなってのもあるんですが、今後の展開も考えて作った話を今ある材料だけで
『ここのくだり要らないよね?出した意図が分からない』
って返信できないコメントでバッサリ切り捨てられるのも心にクるものがあるので……。

消去前のこの作品の初期の初期から作者に付き合って下さっている方がもしまだ読んで下さっていれば分かると思うのですが、作者は感想であればどんな罵詈雑言でもあんまり気にせずにグッド付けて返信しますのでね。

とにかくこの作品のここがおかしい、ここはどうなってるなどの質問があればネタバレしない程度であればお答えしますので、これからは感想でお願いしますとだけ言いたかったんですよ!なんでこんな長くなったんだ……。




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