この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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今期のダリフラを見た作者の感想。
青髪の負けヒロイン率の高さは異常。むしろ勝ちヒロインに覚えがない。(異論反論は認める)






一年前に解決した事件
96話


 

 

 

 ※

 

 

 大きく深呼吸、全身に酸素を行き渡らせながら目の前の一人の男に集中する。

 こちらは既に武装してこんなにも緊張しているというのに、男は自身の剣を腰に提げたまま自然体でいる。

 

 

「どうしたー?ただ突っ立ってるだけなら幼児だって出来んぞ。俺は未来ある青年の幼児プレイに付き合うためにここにいるんじゃないんだけどなー?」

 

「よっ…!す、少し深呼吸していただけでなんという言い草……!こちらにだって心の準備があるんですよ!」

 

 

 的確に呼吸を乱す言葉を振り払いつつ、改めて彼の立ち姿を見る。

 やはり、はたから見れば隙だらけだ。隙だらけだが、これはどんな攻撃だろうと来た瞬間に反応出来るという彼の自信の顕れなのだろう。彼には実際にそれだけの実力と経験がある。

 けれど。

 

 

(今日の僕は一筋縄ではいきませんよ……!)

 

 

 愛剣である神器、魔剣グラムを持つ手に力を込めながら思い返す。

 

『ナイト』系統の上級職である『ソードマスター』、さらに(・・・)その上級職、

ブレイブ(勇者)』。それがつい先日ミツルギキョウヤが新たに得た力だ。

 冒険者の職業というものはそれぞれ条件を満たさないと発生ないし派生することが出来ない。

 例えば、魔力と知力のパラメータがある程度以上無ければ『ウィザード』系の職業に就けないように。一切条件無しでなれるのは目の前の彼や同郷の知り合いであるサトウカズマのような『冒険者』くらいである。

 

『ブレイブ』への派生条件は二つ。

『ソードマスター』であること、そして

『困難』に立ち向かい続けること。

 

 この『困難』が何に当たるのかは幾つか解釈が出来るが、

 

 

(これはきっと、あなたの事……なのでしょうね)

 

 

 ギルドに掛け合ってみた所、『ブレイブ』などという上級職の存在はギルドでも知られていなかった。つまりこの職業を開放したのは確認されているだけだとミツルギが初めてということだ。

 上級職の者は多かれ少なかれ困難に立ち向かう事になる。

 その中でも『ソードマスター』は人気の職業であり、転職する者も多い。そうであって尚、今まで開放する者が現れなかったというのは、ここに記されている『困難』が並大抵ではないことを如実に示している。

 ミツルギにとり、それほどの『困難』、『超えるべき何か』。そんなものは彼しか思い浮かばなかった。

 

 

(感謝します、ゼロさん)

 

 

 恐らく、彼と知り合っていなければミツルギはこの力を手に入れる事は無かっただろう。

 神器の力を自分の力だと思い込み、過信した。この世で自分が一番強いのだと自惚れた。

 彼と出会わなかった、そんなミツルギのままであればこの力には届かなかったに違いない。その事に、深い感謝を。

 

 

(そして、あなたのくれたこの力であなたを超える事を以って返礼としたい!)

 

 

『ブレイブ』となった時、特典として大量のスキルポイントと全パラメータの大幅な上昇、さらにはいくつかの固有スキルを獲得した。その中の一つを意識しながら口を開く。

 

 

「ゼロさん。今から放つのはあなたには見せた事のないスキルです。つい最近新しく覚えた物でして」

 

「新しいスキル?へえ、まあ俺だって全職業のスキル全部記憶してる訳でもないし、見た事ないスキルだってたくさんあらあな」

 

「躱して下さい」

 

「あん?」

 

 

 気さくに返答してくれる彼には申し訳ないが、今回のミツルギは教えを請いに来たのではない。ゼロを倒しに来たのだ。

 

 

「これをまともに受けてしまえばあなたとてただでは済まないでしょう。

 ですので、絶対に躱して下さい。せめてそのデュランダルで防いで下さい。決して受けようなどと思わないで下さい」

 

「………………」

 

 

 その言葉を受け、ゼロがようやく棒立ちを解いて身構える。眼は真剣に、恐らく自分では気付いていないだろうが、こめかみに微かに青筋を浮かべて。

 

 挑発。相手を口車に乗せて冷静な判断を不可能にする、シンプルにして強力な、戦闘以外で相手の戦闘力を削ぐ術。

 ゼロもよく使うが、本来はこうして格下が格上から勝利をもぎ取るために使用する技巧。……そのはずなのだが。

 

 

(うっ…し、失敗したかな。これじゃあかえって警戒させてしまった。油断したままでいてもらった方が良かったかも……)

 

 

 いや、むしろこれで良い。彼の性格であればここで一度様子見に入るはず。そしてこのスキルはその様子見の一瞬が致命的だ。

 言葉を交わす間にグラムに通しておいた魔力を起動。張り詰め、緊張した重い空気を振り払うように持ち上げ、放つ。

 

 

「『クロス・グレイヴ』!!」

 

「っ⁉︎うえぇっ⁉︎クソ、目が、目がああああああ‼︎」

 

 

 極光の斬撃。縦と横の十文字に放った二連撃が巨大化し、交叉点を中心に回転しながら超高速でゼロに向かって伸びていく。

 ミツルギは何が起こるかを知っていたために対策が取れたが、ゼロは集中していたが故にかなりの光量を誇るこのスキルで目を多少焼いてしまったようだ。こんな時だというのにどこかで聞いたような台詞を叫んでいる。

 

『ブレイブ』の固有スキル『クロス・グレイヴ』。

 高速かつ高威力広範囲超射程で、その上かなり強い光を発しており、目潰しにまで使えるという、利点だけを挙げれば非の打ち所の無い必殺のスキル。

 ただ唯一の欠点は。

 

 

(ぐっ…なんて消費魔力だ、一撃で三分の一近く持っていかれた……!)

 

 

 燃費の悪さ、これに尽きる。今のミツルギでは二度三度と容易に使える代物ではない。

 

 多量の魔力を消費したせいで息が乱れるミツルギ。

 冷静に考えて三発撃ったら倒れてしまうスキルはどうなんだ、と思う者もいるかもしれないが、とある頭のおかしい少女は一発放っただけで倒れてしまう大魔法を覚えている事を忘れてはならない。

 

 とにかくこれほどの技、常人であれば反応する事も出来ないだろう。

 

 

「こらあかんわ……‼︎」

 

 

 その全てが常人離れしたこの男にそれを期待するのはこの男を知らないか楽観が過ぎるかのどちらかでしかないだろうが。

 

 光を嫌がり目を細めながらもその群を抜く速度で横っ跳びに身体を投げるゼロ。ミツルギの斬撃はギリギリの所で当たってはいない。

 

 先の二者であればここから攻守が逆転していただろう。

 しかし。

 

 

「やはり避けますか‼︎」

 

 

 無論の事、ミツルギはそのどちらでも無い。おそらく戦闘面では、アクセルにおいてミツルギ以上にゼロの事を知っている者は存在せず、その恐ろしさも十二分に理解している。この程度でゼロをどうこう出来るなど考えられる訳がない。

 ゼロが一発目は絶対にどうにかするというある種の信頼と確信を持っていたミツルギはわざと会話を引き延ばして用意しておいたもう一発分(・・・・・)の魔力を剣に通し、

 

 

(もう一度!!)

 

「『クロス・グレイヴ』ッッ!!」

 

 

 再び全力の二連撃。ゼロはかなり際どいタイミングで一発目を躱していた。二発目を同じようにやり過ごす余裕は残っていない。

 しかしこちらも消耗が多大なスキルの二連発、目眩がして脚が崩折れそうになる。かなりの無茶だが、それでもここまでしなければゼロを追い詰める事は出来ない。

 

 まさか二連続で大技が来るとは思っていなかったらしいゼロはこれは避けられないと判断したのか、距離のあるミツルギにも聴こえる程に歯を軋ませ、泳いだ体躯から片脚を無理矢理地面に落とした。

 

 

(……⁉︎まさか‼︎)

 

 

 ミツルギはゼロが空中に浮いたからこそこの技を使ったのだ。

 空中にいる間であれば技そのものさえ防げれば衝撃は逃げ、結果的に受ける影響は軽くなる。戦闘は本気であれど決して重症は負わせない、それを期待していた。

 ゼロがしたのはその真逆。わざわざ身体を接地させるなど衝撃が直接に身体を伝う事になる。当然ダメージは前者の比ではないだろう。これがただの判断ミスでなければーー

 

 

(ゼロさんはコレを弾けるのか⁉︎)

 

 

 衝撃を真っ向から受け止め、力で押し切る事が可能であれば空中にいるよりは接地した方が都合は良い。

 だが超威力の『クロス・グレイヴ』を純粋な生身の力で弾き飛ばす。そんな事が……?

 

 

(いや!彼ならきっと……!そのつもりで動かなきゃ駄目だ!)

 

 

 全身を叱咤し、上昇した敏捷のステータスに物を言わせて一度目の『クロス・グレイヴ』の軌道を準えるように走り出す。

 ステータスが大幅に上がった恩恵でまるで風のように走れる。ゼロほど速くはないが、それでも以前のミツルギと比べると別格の速度だ。

 

 疾走を開始した直後。ゼロと閃光が接触するその瞬間、ミツルギはゼロの手が腰に挿した剣の柄を握っているのを見る。

 

 ゴオオォォオオンンッッッ!!

 

 居合気味の一撃。鐘を撞く音を何倍にもしたような轟音が響き『クロス・グレイヴ』が勢いと進行方向をそのままに角度を変え、斜め上空の彼方へと飛んでいった。

 

 ゼロの、一見すると素人が闇雲に放った抜き打ち様の一振り。彼は誰かに師事した訳ではない、完全なる我流故に効率的な剣術等は一切使えないと言っていた。自分の振るう剣は所詮ただの棒振りの延長だと。

 しかし地面に付いた片脚から発生するエネルギーと自身の腰の回転に何よりも腕力、それら全てが噛み合った一撃。これを崩した体勢から動体に向かって繰り出せるのは脅威に他ならない。

 いかに効率の悪い我流であれ、例え本人がまだ齢二十に達していなかろうとも、その人生を費やして鍛えた技は既に一つの剣術に昇華している。決して侮れる代物ではない。

 とはいえこちらの最大火力との真正面からの激突。握っていた剣は弾かれて手元を離れ、ゼロの身体は無理に回転を作り出したせいで錐揉みしながら宙を泳いでいる。

 

 

(千載、一遇……っ!)

 

 

 既にミツルギは魔剣がゼロに届く位置にいる。以前までであればこの距離まで近づく事も出来ずに体勢を立て直されてそこ止まりだっただろう。

 

 

「『ルーン・オブ』………」

 

 

 残り少ない魔力を集めて最も使い慣れたスキルを発動させる。魔剣グラムが光を纏い、一段と加速する。

 

 ほんの僅かに迷う。

『ルーン・オブ・セイバー』。『クロス・グレイヴ』には及ばないものの、未だにミツルギの主力のスキルだ。

 並大抵のモンスターなら何の抵抗も無くその身体を分断でき、強力なモンスターにも有効な一撃。ゼロの肉体がどれほど強靭であっても無傷では済まないだろう。特に今のゼロは先ほどまでと違い、体勢も整っておらず、防ぐ術も剣も持っていない。

 

 ……果たしてそんなスキルを使って良いものか。

 

 

「『セイバー』ァァァッッ‼︎」

 

 

 直前の躊躇いをさらなる加速で振り払いゼロに突進する。

 

 

(ここで全力を出さなければ駄目だ!もしかしたらゼロさんはまだ奥の手を持っているかもしれない。

 全力で立ち向かって敗れるならそれは良い、けれど全力を尽くさずに負けて悔いを残すのだけは嫌だ!)

 

 

 そうとも、この時、この瞬間を作るために自分のポリシーに反することまでしたのだから。

 戦闘開始前の挑発、二度に渡る身体への負担の大きい技の連発、その光による目潰し、そしてこの奇襲。どれも普段ミツルギがしないような戦い方。ゼロに教わった、対人戦に特化した戦い方だ。

 普段の自分を押し殺してまで欲しかった一撃。ゼロに勝利する為の一撃。そう、全ては。

 

 

(全てはこの一撃の為にーーー!!)

 

 

 渇望する想いを剣先に乗せ、ゼロの無防備に晒す背にグラムを振り下ーーーー

 

 

 

 ぞわり。

 

 

 

 背筋が凍る。全身の毛が逆立つような感覚。その悪寒は瞬時に自身のある一点に集まる。人体の急所、鳩尾へ。

 

 

「っっうわぁぁああああぁあああ!!??」

 

 

 考えがその悪寒の正体を拾うよりも先に無意識に身体が動く。

 もう発動してしまったスキルはキャンセル出来ない。『ルーン・オブ・セイバー』の光を纏った魔剣グラムへ無理矢理自らの体を引き寄せ、正中線を守るように構えると同時にゼロの輪郭がボヤける。

 

 

(いや、ボヤけるというよりこれは……っ⁉︎)

 

 

 ゴッ、とミツルギの全身を鈍く重い衝撃が貫いた。

 

 

「がっ…ふ……!」

 

 

 呼吸が詰まり、脳が揺さぶられたのか音すら消し飛び、天地の判断が曖昧になる。

 今自分がどうなっているのか把握出来ない。立っているのか倒れているのか、意識があるのかどうかさえ。

 完全に目を回したまましばらくすると、ようやく自分の状態が分かってきた。自分はどうやら天を仰いで大の字に倒れているらしい。ぐるぐると揺れる視界に青い空が映っている。

 

 

「………………」

 

 

 試しに腕を持ち上げようとしてみるも、どこかしらの骨が折れたり負傷している様子は無いのに指一本動かない。直接攻撃を食らう事だけは辛うじてグラムで防いだはずだが、その衝撃はミツルギの肉体にダメージをしっかりと刻み込んでいた。

 

 もしあの反撃を防げなかったら今頃自分はどうなっていたのか。そんな事は考えたくもない。

 

 

(あの悪寒……あれが『第六感』……かな)

 

 

『ブレイブ』の固有スキルの一つ、『第六感』。

 確か効果は「全ての物事が少しずつ自分にとって都合の良い方向に進むようになる」だったか。

 なるほど、本来防げなかった相手の攻撃を防御出来たのだからこれは自分にとって都合の良い方向なのだろう。

 いまいち何に役に立つのか分からなかったので覚えるかどうか迷ったものだが、こうして戦闘面でも危機を教えてくれるというのはかなり便利と言えるだろう。

 

 

(それよりもあの時、ゼロさんは一体何をしたんだ……?)

 

 

 あの時、ミツルギは確かにゼロが反撃出来る状態に無いことを確認して追撃に踏み切ったのだ。だと言うのに今地に伏しているのはミツルギの方ではないか。

 ミツルギはゼロの本気を見た事がある訳ではない。それでも立ち振る舞いから自分とどれほどの差があるのかはなんとなく察せる。

 そのミツルギから見てもあの状態から反撃するなどありえない(・・・・・)と断言できる。

 上手く言い表せないが、あの瞬間のゼロの動きは格が違うというよりも次元が違った。

 まるで一瞬、ゼロだけが違う時間の流れにいたかのようなーーー

 

 ジャリ、と地面を踏み、遠距離からこちらに歩み寄る音が聴こえる。

 その音から推測するにミツルギはゼロの一撃を受けて相当遠くまで転がってきていたようだ。

 立ち上がりたくとも体が言うことを聞いてくれないので失礼とは思いつつも寝たままで待たせてもらう事にすると、足音がミツルギの頭の上で止まり、青一色だった視界に見慣れた人物の顔が逆さまに現れた。

 

 

「……あー、その、悪かった。結構マジに追い込まれたから思いっ切りぶん殴っちまった。……立てるか?」

 

 

 なんと、あのとんでもない衝撃はゼロがただ単に拳で殴っただけだと言う。

 ゼロのデュランダルは自分が弾き飛ばしていたのだから、よくよく考えると当然ではあるが。

 

 

「……ぐっ、……すみません、まだ少し掛かりそうです」

 

 

 もう一度力を入れてみるが、やはり動いてくれない。正直にそう告げると、「そうか」と一言だけ発して自分の横の地面に腰を下ろす。自分が動けるようになるまでそこで待つつもりらしい。

 その横顔からはあの戦いが何かの影響を与えた様子は見られない。当然だ、結局自分は彼に一撃も入れる事が出来なかったのだから。

 自分はこんなにもボロボロで、同じことをしろと言われてももう二度とやれる気がしないというのに、彼はきっと同じことを何度でも出来るのだろう。もしくはそれよりも更に良い結果を出せるのだろう。

 

 

「敵わないなぁ…………」

 

 

 自分と彼との間に横たわる歴然とした力の差に、晴々とした気持ちで自然とそんな言葉が口を突いてしまった。

 それでも手応えはあった。今の自分ではまだ(・・)勝てないだけだ。いつか必ず勝利して、この人と対等の位置で物を見たい。

 

 今はそれを目標に、楽しみにしながらより一層奮起するミツルギであった。

 

 

 

 

 

 







はいスーパー懺悔タイム。作者が三週間何をしてたか?

まあ結論から言うとサボってたの一言ですよね。一つだけ言い訳すると「リアルが忙しかった」になるんですが、そんなもん皆一緒ですしねえ。

今回の話は……何だろう。すみませんね、作者基本的に書きたい物を好きに書いてるんですが、日ごとに何を書きたいのかが違ってくるんですよね。
多分これを書き始めた頃は「たまには真剣なバトルが書きたい」とか思ってたんでしょう、それが描写出来てるかはさておき。
作者の厄介な所はその時自分で何が書きたかったのかが今の自分にはまるで見当が付かないってトコなんですよねえ。後から読み返しても「あれ?こんなこと書きたかったんだっけ」ってなっちゃいますもの。
それでも後の展開に使うべき設定なんかはちゃんと出してる辺り考え無しではない……と思いたいですが。
ともあれ今回はこの辺で。また次回でお会いしましょう。



次回:会社が受注倒産の危機を脱したら



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