この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。





12話

 

 

 ※

 

 

 ベルディアが大剣をバットのように横に振る。

 それを屈みながら剣の腹を上に構え、先端に右手を添えた剣身を滑らせて空振りさせる。ギャッと音がして火花が散るがデュランダルには傷一つ無い。削れたのは向こうの大剣だろう。

 

 そのまま左手で横腹に突き入れる。

 完全に態勢が泳いだのだ。回避は難しい。

 かなり深くまで入ったのだがベルディアは怯まずにグルリと一周回って更に勢いをつけた大剣で俺を強打する。咄嗟に剣を抜き横に盾にするが、受けた瞬間に全身が軋み、10メートル以上吹き飛ばされた。

 

 

 とんでもない馬鹿力だ。これを喰らえば両断は免れまい。さっき冒険者が喰らっていたが勢いが段違いだ。手加減していたのだろうか。

 

 

 突進してくるベルディアに着ていたマントを視界を塞ぐように叩きつけ、奴の横→背後と二段跳び。剣を斬りつけようとするが、なんとベルディアは後ろを見ずにサイドステップ。俺が振った剣にマントが絡まる。

 

 

 いやこいつおかしいだろ。

 今絶対見えてなかったよね?

 どんな反応だ。何をもって俺の剣を回避したのだろうか。

 攻撃の悉くを避け、反撃してくるベルディア。埒があかない。

 

 舌打ちをしながら俺は戦法を変えることにした。

 

 

 

 ※

 

 

 ーー速い。

 

 

 ゼロの動きを一言で言うならそれに尽きる。

 今まで出逢ったどの剣士よりも素早く、斬りつけ、躱し、防ぐ。

 もはやベルディアの眼には動きが線にしか見えない。

 今は辛うじて生前、死後合わせた経験から発生する直感で凌いでいる状態だ。

 

 

 これで職業補正無しとは冗談も休み休み言うがいい。冒険者になったら一体どうなってしまうのか。

 この世界はやはりどこか間違っている。

 

 

 世の中の理不尽さに文句を浮かべていると、ゼロの動きに変化が生じる。

 

 

 これまではフットワークで翻弄しつつ、有効打を与えることに躍起になっていたようだが、今度は移動に重きを置くようだ。

 ベルディアの剣が掠りもしなくなる。そして空振った直後にガガガン‼︎と息つく間もなく3連撃。

 即座に離脱し、視界から消える。

 次は背後から現れ、連撃を加えてまた離脱する。

 

 

 

(馬鹿め、そんな動きをすればすぐに体力切れで動けなくなるだろう)

 

 

 

 ベルディアも反撃するのをやめ、防ぐことに終始する。そして相手が疲れたところへ、一撃でいい。全力で撃ち込めばそれで終わるのだ。

 幸い、自分はアンデッドだ。

 体力切れなどという概念は無いし、痛みは感じるが、生前と比べれば鈍い。我慢すれば致命傷でなければ動ける。

 

 ベルディアは強い子なのだ。

 

 

 

 ※

 

 

 ガガガ、ガ、ガガガ、ガガ、ガガガガガ、とマシンガンのような音が連続する。

 

 

 ーー

 

 

 ーーーー

 

 

 ーーーーーーこ、こいつ…体力に底が無いのか⁉︎

 

 

 ベルディアは驚愕する。

 もう空は白み始めているのだ。

 冒険者も魔王軍もとっくに撤退している。この場にいるのは自分達だけだ。

 

 冒険者はともかく自分が率いた軍が撤退するのはどうなのだ?

 なぜ頭を置いて先に帰ってしまうのか。

 自分の嫌われっぷりに涙が出そうになるが、それどころでは無い。

 

 どんな体力をしているのだ。こいつは本当に人間なのか。

 しかもーー

 

 

 

(ぐ…!ど、どんどん速く(・・)なってやがる…!)

 

 

 ベルディアの視界にはしばらく前からゼロの姿が映らなくなっていた(・・・・・・・・・)

 攻撃を受け、そちらに目を向ける頃には砂煙しか無いのだ。

 心なしか、威力まで強くなっている。

 

 

 

(ば、化け物…!)

 

 

 

 ベルディアの心が音をあげる。

 それは、今まで直感が支えてきた均衡を崩すのに十分過ぎる停滞だった。

 

 

 直後、凄まじい勢いでベルディアの全身に斬撃が降り注ぐ。その数は数十を超え、百に届くかもしれない。

 

 

 

「グオオオオオオオ⁉︎」

 

 

 無理矢理大剣で防ごうとするが、ゼロの連撃を受け続けた大剣に先に限界が来る。

 

 完全に真っ二つにへし折れた大剣は持ち主の折れた心を表していた。

 

 

 

「ま、参った…。俺の負けだ…。」

 

 

 

 ※

 

 

 ーー愉しい。

 

 

 一撃毎に速くなる。自分が強くなるのが分かる。

 これほどの愉悦があるだろうか。

 

 もっとだ。もっとよこせ。

 

 最高だ。同じ技量の剣士との戦いがこれほど愉しいとは思わなかった。

 王都に来てよかった。心からそう思う。

 

 誰にも邪魔させない。誰にも譲らない。

 

 

 これはおれのえものだ(・・・・・・・・・・)

 

 

 獲物の態勢が崩れる。

 もっと愉しみたかったのだが…。獲物に限界が来てしまっては仕方がない。

 

 少し前からいつでも終わらせられた戦闘が終わりを告げた。

 

 

「ま、参った…。俺の負けだ…。」

 

 

 

 ※

 

 

 

「どうした。早くとどめをさせ。」

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 うむ、正直勿体無い。

 今ベルディアを倒すのは簡単だが、もう一度戦いたい。もう一度愉しみたい。

 

 …よし、決めた。

 

 

「ベルディアさん、命まではとりません。」

 

 

 

「…何?」

 

 

 

 アンデッドに命はとらないとかどうなのだろうと思いながら良い笑顔(自分調べ)を浮かべ、告げる。

 

 

 

いつかもう一度戦ってください(・・・・・・・・・・・・・・)。その時を、楽しみにしていますよ?」

 

 

 

 なぜか(・・・)怯えた顔をするベルディアが首無し馬に跨り、一目散に駆けていく。

 

 

 む…

 今の目はなんとなく故郷のクソガキを思い出すな。なぜだろう。

 

 

 いやあ、それにしても良い汗をかいた。

 

 

 やはり正義(おっぱい)は勝つのだ。

 


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