この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。





15話

 

 

 ※

 

 

「しかし驚いたな。僕と同世代で僕よりも強い人がいたなんて。」

 

 

「いえ、王子こそ。最初から本気を出されていたら地に伏しているのは俺でしたよ。」

 

 

 俺は膝をつく王子に手を差し伸べながら応える。

 

 実際、最初に王子が様子見など挟まずに全開で来ていたら間違いなく負けていた。

 力も強い上に動きも速いのだ。スタミナ勝負に移行しなければ手の打ちようが無かったろう。

 

 と、俺は心の中にあったモヤが晴れ渡っているのに気づく。こんなに清々しい闘いは始めてだ。

 王都に来てから、いや正確には旅に出てからだが、始めての経験ばかりだな。当たり前だけど。

 

 

 

「ジャティスでいいよ。敬語もいらない。君とは対等でいたい。……ダメかな、ゼロ。」

 

 

 

 手をこちらに向けながら一応は問の形を示す。

 

 

 …呼び捨ては強制だったくせに。

 

 そんなことは…ああ、言うまでもないけどな。

 苦笑しながら言葉にする。

 

 

「いや、こちらこそよろしく頼むぜ。ジャティス。」

 

 

 

 しっかりと握手を交わす。

 ふと、パチパチと音が聞こえる。

 観客席では静かに手元で手を叩く国王と、隣で両手を上に上げて思いっきり拍手してくれているアイリス王女。大はしゃぎである。撫でたい。

 

 

 すると、ジャティスが握手する手に力を込めた。

 

 まさか王女を邪な目で見ていたことがバレたか…?

 

 ほんの数秒で友情が破綻することを危惧したが、ジャティスはいたずらっぽい顔で挑発するように更に握力を込めるだけだった。

 

 

 

(ーーこのやろう‼︎)

 

 

 

 俺も笑いながら思いっきり力を入れる。

 他人が見れば何やってんだ、と思うかもしれないが、当人達は割と楽しかったりする。

 

 そういえば、俺は友人と呼べる存在と対等に接するのも始めてだ。村ではハブられていたし、旅に出てから会ったなかで一番歳が近かったのはめぐみんだが、あれはなんだろう、俺が庇護していたようなもんだし、友人ではあるが対等ではない気がする。

 

 

 

 唐突に俺の手からミシリ、という嫌な音があがる。

 

 

 

「痛え痛え痛え‼︎離せバカ、やり過ぎだ!ちったあ加減しろクソゴリラ‼︎」

 

 

 

「クソゴリラ⁉︎き、君思ったより口悪いな⁉︎」

 

 

 

 手を離すと同時に殴り合いを始める。

 ジャティスの拳が当たる度に骨が軋んで行く。こいつズルくね?おんなじだけ拳を振るってもこっちしかダメージ受けないとか理不尽だろう。

 

 

 

 

『貴様が言うな‼︎』

 

 

 

 

 なんかベルディアの声が聞こえたが多分気のせいだな、うん。

 

 

 

 と、いつの間にか近くに来ていた国王が楽しげな笑い声を響かせる。

 

 

 

「仲良くなれたようで大いに結構。元気なのは良いことだ。」

 

 

 

 今まさに喧嘩している俺たちからすればたまったものではない。

 

 文句を言おうとするジャティスを手で制し、こちらを見る国王。

 なんだろうか?

 

 

「私の想像以上だったよ、ゼロ君。見立てでは相討ちだったのだが、君はジャティスに勝った。」

 

 

「君も気づいたろうが、息子は体力が無い。小さい頃から力が強くてね、大人でも持て余してしまっていたせいで全力を出す機会が無かったんだよ。」

 

 

「それを解消させようと前線へ送ったりもしたんだが、その中に有っても息子の強さは異質だった。訓練をする必要も無いと自分の才にかまけてサボっていてね。困り果てていた。」

 

 

「そこへ現れたのが君だ。君は息子と歳も近い。実力も拮抗している。となればぶつけてみたくなってね。」

 

 

「相討てばなお良し、勝っても辛勝になるだろうと読んだ。同世代の子にてこずれば、自分を見つめ直すだろうと思い、君を利用させてもらった。まあ結果はこの通り、情け無い限りだが。申し訳ないね。」

 

 

 

 ーーなるほど。

 あの時の目は俺の強さを見ていたのか。

 だが謝る必要などどこにもない。俺にも得るものはたくさんあった。

 

 ベルディアの時とは違う、戦いではなく、闘い。

 別に命を掛けているわけでもなく、かといって手加減することもないこの行為は俺も愉しかった…いや、楽しかった(・・・・・)

 

 

 それに、対等な友人も出来た。

 これが一番の収穫だよ。ありがとうございました。

 

 

 

 ※

 

 

 それはそうと、こいつそんなにサボっていたのか。人は見かけによらないと言うが…。

 

 

 俺が批難するような目でジャティスをみると、すっと目を逸らした。

 

 

 

「し、仕方がないだろう。どれだけ訓練してもそれを満足に振るうことも出来ないし、国民の皆に認めてもらうことも出来ないんだ。やる気なんか出るわけないじゃないか。」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 いや、なるほど。

 そういう考えもあるのか。

 もしかしたらジャティスは鍛錬し続けなかった(・・・・・・・・・)俺なのかもしれない。

 全く、気が合うとは良く言ったものだ。

 

 

 まあ俺が鍛錬やめてたらこんなことも出来なかっただろう。

 こいつはサボってこれなのだ。特典(チート)よりもチートだな。

 

 

 

「そこでものは相談なんだがね、ゼロ君。」

 

 

 

「?…はい、何でしょう?」

 

 

 

「君、王城に逗留しないか?息子を鍛えてやってほしいのだ。」

 

 

 

 …このおっさんこれでも王なんだぜ?

 部外者を国の中枢に招き入れるとかどうなのよ?危機感足らなすぎない?

 

 これはジャティスも怒るだろ…

 

 

 

「それは良い!そうしなよ、ゼロ!」

 

 

 

 こいつら揃いも揃ってアホばっかりだ。

 

 

 

「あの、俺は一応どこの馬の骨かもわからない部外者なんですよ?そんな俺が王城に滞在なんかしたら国民だって…」

 

 

 

「「何を言うんだ(ね)、ゼロ(君)‼︎」」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「君は客観的に自分のしたことを理解すべきだ。昨晩、君が助けた冒険者がいるだろう。彼らは、君は命の恩人で、この王都を魔王軍の幹部から守りきったのだと市井に広めているんだよ。」

 

 

 

 あの時斬られそうになってた奴らか。

 

 何をしているのだ。そんなことをしている暇があれば自分が死なないように鍛え直すべきだろう。

 

 

 

「それによって君の評判はかなり高ぶっていてね。むしろ君をすぐに帰すと『英雄を門前払いした器の小さい王族』とあらぬ噂をたてられるかもしれないのだ。」

 

 

 

 たまに聞くけどそんなこと本当にあるの?

 訝しげな視線を送る。

 

 

 

「それにゼロ!」

 

 

 

 今度は王子様かよ。

 

 

 

「君は楽しみじゃないのかい?僕はこれから毎日君と闘えるのが楽しみでしょうがないよ!」

 

 

 

 

 分かっちゃいたけどどうしようもねえなこの戦闘狂。

 国政よりも体動かす方が好きとかほんまつっかえ!王族やめたら?

 

 

 …いや、別に楽しみなのは否定しないよ?うん。

 

 

 と、少し靡きかけた俺に援護が入る。

 

 

 

「あの、お父様、お兄様。ゼロ様が困っています。」

 

 

 

 大天使アイリスの降臨だ。

 そうそう!もっと言ってやって!

 

 

 

「それにゼロ様にも元々の予定というものがお有りになるのでは?」

 

 

 

 

 応ともさ!俺は早くアクセルに行って冒険者にーーー

 

 

「なので、とりあえず三カ月だけ、というのはどうですか?」

 

 

 

 ーーーーーうん?

 

 

 

 ギギギ、と壊れた機械のようにぎこちなくアイリスの方を見る。

 

 天使の微笑みを浮かべる大天使。

 

 

 

 …これがハシゴを外されるということか。

 

 


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