再投稿。
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なしくずし的に王城へ滞在することになってしまった。
好きに使って良いと案内された部屋が広過ぎて落ち着かない。
なんだ?好きに使って良いとは鍛錬によって壊してもいいということか?
それよりも明日から早速闘うのだろうか。闘わない時は何をすればいいのか。もしかしてずっと休み無しでやらされるのか。今から不安になってきたな。
グルグルと明日のことを考えながら部屋を歩き回っているとノックが聞こえる。
うん?
「どうぞ。」
「やあ、ゼロ。こんばんは。入ってもいいかな?」
ジャティスだった。返事も聞かずに入ってくる。
いやお前…別にいいけどさ、確認ってなんのためにするか分かってる?
「細かいことは気にしない気にしない。それよりもゼロの話を聞かせてくれよ。あ、これお土産ね。」
ほう、俺も色々聞きたかったからちょうどいい。
部屋の隅にあった机と椅子を並べて何かの瓶を置くジャティス。つーかお前これ…
「酒じゃねえか!」
「うん?そうだけど、もしかして飲めないのかい?」
いや、それ以前の問題だろうが。
お前も俺も未成年なのに飲んで良いと思ってんの?
「ええ?ゼロはもうすぐ17歳になるんだろう?とっくに成人してるじゃないか。」
「はあ?」
え、そうなの?
そういえばこの世界ではいつから成人なのかとか知らなかったな。
酒…向こうの『俺』は飲んでいたんだろうか。
「・・・・・・」
改めて机に乗った酒を見る。銘は『魔王殺し』。
う、うむ。良い名前だ。ゲンを担ぐためにも飲んでおくのがいいかもしれん。興味が無いといえば嘘にもなる。
「…しょうがねぇな。」
「そうこなくっちゃ!あ、おつまみとかは料理長に作らせてるから。」
言うが早いかグラスに注ぎ始める。どうやらかなりの酒好きらしい。
「それじゃあ乾杯!」
「お、おう。」
グイッと一気に呷るジャティスと恐る恐る口をつける俺。
む…不味くは、ない。というか、なんだ…味醂?のような風味がする。
「それで、ゼロはどうやってあんなに強くなったんだい?今までの旅の内容とかも教えてくれよ。」
「ん…、ああ。」
少しボーッとする頭を振る。
どうやって、と言ってもベルディアにも言った通りずーっと剣振ってただけだが。
それを話すとものすごく嫌そうな顔をする。こいつはそんなに努力がしたくないのか。こんな甘いマスクしといて中身はダメ人間とかギャップがたまらない女等はイチコロだろう。
「そ、その話はもういいじゃないか。しかし、普通の人間がただの訓練で王族よりも強くなれるものなのか…?」
うん、その疑念は正しい。
俺は普通の人間じゃないからね。
成長限界を取っ払ってもらってようやく互角なお前らがおかしいのだ。
「つーか、それだよ。王族が強いとかどうなってんのさ。サボってたお前がその調子なんだ。アイリスや国王もかなり強いんだろ?なんで魔王討伐に乗り出さない?そんなに魔王は強いのか?」
「何言ってるんだい?王族は強いものだろう。まあこんな風に強いのはベルゼルグぐらいだけどね。」
ダメか。それが当たり前の国で生きてきたのだ。自分の強さの理由に疑問を持ったことがないらしい。
どうせ、昔から強い人間と交わってその血を取り入れてきたから、とかそんなところだろう。
「それと、実は僕は魔王に会ったことは無いんだ。」
「あ?何でだよ。」
前線に送られてるとか言ってただろうが。
まさかこいつ、最前線ですらサボってたんじゃーー
「そ、そんなわけ無いだろう⁉︎僕だって王子だ、ちゃんと戦うさ!…ごほん。そうじゃなくて、純粋に魔王は城から出てこないんだよ。ほら、指揮官は普通陣地から出ないじゃないか。」
「まあ普通はな?普通は。」
暗にお前は普通じゃないと揶揄しながら続きを促す。
ジャティスは微妙な表情で話す。
「う、うん。それで、魔王城の外に出てくるのは幹部と、魔王の娘って自分で言ってる子くらいなのさ。あ、部下は除いてね?」
「…魔王の娘?」
なんと、魔王とは既婚者だったのか。これで俺が密かに考えていた『魔王、あまりにもモテないから世界滅ぼす』説が否定されてしまった。
いや、ベルディアから聞いた時点でその可能性は潰れてたんだが。
「じゃあなにか?お前ら、最大の敵がどんな能力持ってたりするのか一つも分かんないわけ?」
人類詰んでね?
やはり統べる頭が脳筋だとそのしわ寄せは国民にくるのだ。
これより国王、ジャティス、アイリスの三名をベルゼルグ三脳筋と呼ぶことにしようそうしよう。
「ゼロ、君少し酔ってない?…まあいいや。いや、そんなことは無いよ。確かなものはないけど魔王の強さとか力についてはある程度推測できている。」
「ほう?お兄さんに聞かせてごらん。」
「いや、ゼロ僕より年下だからね?…やっぱり少し強すぎたかな、このお酒。」
ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ。こっちは待ってるんですけどー。
「あ、ああ。結論から言うと、魔王の娘が少し特殊な能力を持っていてね。『自分と契約した者を超強化する』という力なんだが、おそらく魔王自身もこれと同じか、より上位の物を持ってると思ってる。」
へえ?
なんだか
「それがまた厄介でねぇ。ゼロはゴブリンって分かるかい?」
それくらいはお袋から教わった。何匹かで群れている初心者向けのモンスターだろう?
「ああ。それが魔王軍幹部並みに強くなる…と言えばどのくらい厄介か分かってもらえるかい?」
「・・・・・・え?」
酔いが吹っ飛んでしまった。
その衝撃を誤魔化すためにまたグイッと酒を呷る。
…初心者向けモンスターがあのシルビアやベルディアと同等クラス…だと…?では元から強い奴はどれだけ強くなるのか…
「お前よくそれでサボるとかなんとか言ってられんなぁ?ええ、おい。マジで人類終わってんじゃねぇか。王都に攻め込んできたら俺やお前がいても守りきれねえだろ、それ。」
また頭がフラついてきた。そのままジャティスに絡んでいく俺。
「そんなに一気に飲むなよ、弱いんだから…。でも…うん、これからは真面目にやるさ。ライバルも出来たしね。」
…?らいばるぅ?誰のことだ?
ジャティスと同じくらい強いのか、友達なんだから俺にも紹介してくれよ。
「それに、希望が無いわけじゃない。魔王の娘自体はそんなに強く無いんだ。せいぜい普通の兵士レベルかな。それは能力を発動しても変わらない。魔王もそうだと思っていいよ。」
…ま、そんぐれえは弱点無いとやってられんわなあ。そんだけ強化バフかけまくって自分も強いとかどうしようもない。
「王都に攻めてきたら…か。考えた事もなかったけど、大丈夫だよ。お父様がいるからね。」
「ふうん?強いとは思ってたけどそんなにか。」
「ああ。僕とゼロ。あと、アイリスも含めようか。僕たちが同時にかかっていっても仕事の片手間で負けちゃうんじゃないかな。」
「いやさすがに嘘だろそれは。」
間違いなく人類最強格の三人にそれは無理だろ。というか信じたくない。
そのまま酒を注ぎ、流れるように飲み干す。
…よし!
「じゃあ俺、今から魔王倒してくるわ!」
「はぁ⁉︎何言ってるんだい!今から⁉︎」
そうだ!王都に攻め込まれないためにはこっちから攻め込めばいいんだ!こんなことにも気づかないとは流石脳筋!
「完全に出来上がってるじゃないか!だからゆっくり飲めって言ったのに‼︎というか無理だって!魔王城には幹部が一人ずつ張った結界があるんだ!幹部を全部倒さないと入る事も出来ないって!」
「ごちゃごちゃうるせえイケメンがあああ!」
なにか言い始めたジャティスに抜剣し、振り下ろす。
「危なっ⁉︎君本気かい⁉︎」
「本気も本気よ!邪魔すんな‼︎俺は早く結婚したいのだ!」
「君は何を言ってるんだ⁉︎今の話からなんでそうなった!まるで繋がりがないぞ⁉︎」
こいつはバカだな。完全無欠に繋がりなんか大有りだろう。魔王を倒す、エリスと結婚する。みんなハッピー‼︎
「…どうやら完璧にイッてしまったようだね。残念だがきみを行かせる訳には行かない。」
ジャティスも剣を抜きながらこちらを見据える。
「おいおい、友達じゃないか。そこを通してくれよ。」
「友達だからこそだ!折角対等なライバルが出来たのにこんなくだらない事で失ってたまるか!だから…今ここで、君を倒そう‼︎」
「くだらないだとこの野郎が…上等じゃゴルァアアア‼︎」
剣を振り上げながらジャティスに躍りかかる俺。
エリスとの結婚を邪魔するやつはぶっ殺してやる!
対し、ジャティスはその剣に光を集めーー
「『セイクリッド・エクスプロード』ーーー‼︎」
迸る光。太陽がもう一つ出来たのではないかという程の明るさが深夜の王都を照らした。
ちなみに王城の屋根まで俺を吹き飛ばし、大穴を開けたジャティスは国王に激怒されたそうだが筋肉痛に呻きながらもどこか晴々としていたそうだ。