再投稿。
※
「さあ、いきますよ!ゼロ様!」
闘技場の真ん中でフンス!といった感じに気合い入りまくりなアイリス。非常に愛らしい。
筋肉痛とかいうおっさんみたいな理由で寝込んだ某王子とは若さというか張りが違うよね。
しかし…
「アイリス様もお強いのですよね?ジャティス王子と試合というか、その、なさらないのですか?」
そうすればあんなに飢えた戦闘狂は生まれなかったろうに。
俺の疑問にアイリスは少し寂しそうにしながら、
「お兄様は前線によく出てしまいますし、お父様は国の運営が忙しいので、あまり相手をしてもらえないのです。」
と言った。
「…これは失礼をしました。」
しまったな。藪蛇を突いたか。
寂しそうにするアイリスをどうにかしてやりたいが、俺はアイリスの兄でも父でも、ましてや恋人でもない。
せいぜいこういった
だが、いつか必ずそういう隙間を埋めてくれるやつができる。
できればそいつは俺みたいな闘いしか能のないやつとは別ベクトル、アタマを使って一方的に優位に立ちにいくようなやつが望ましい。
言い方を悪くすればズル賢いやつだな。王室育ちのアイリスには足りないものも埋めてくれるだろう。
それまでは俺が代わりになるのは大歓迎だ。
それにしばらくジャティスも城にいるだろう。この機会にたっぷり甘えるといいよ。
「あの、それで、ですね。ワガママかもしれませんが…ゼロ様には、その…わたしに対してもお兄様に接するように気安く接していただきたいのです。…ダメでしょうか?」
「それは…ですが、良いのですか?」
「……ツーン。」
「…分かったよ。これからよろしくな、アイリス。」
「はい!よろしくお願いしますね!」
カワイイ。これは相手がいなければ完全に惚れる笑顔だ。この歳にして既に魔性を秘めてらっしゃる。
観客席からもうスンゴイ形相でこちらを睨んでいる白スーツの女がいなければナデナデしていただろう。
というかあいつは何なんだ。確か俺を連れに来たやつだよな。俺がアイリスを名前呼びしたのがそんなに気に入らんのか。
そう思いながら見ていると、ある事に気づいた。
視線がアイリスから一瞬たりとも動いていない。
更によく見ると顔が「ぼっへええええええ!」って感じになっている。
…この闘技場潰してタワー建てようぜ。名前?キマシタワーに決まってんだろ。
※
半月後
「パーティー?」
「そう。パーティー。」
闘技場の観客席で寝そべりながら俺に話し掛けるジャティス。
ちなみに俺が訓練と称するこの試合でジャティスに勝てたのは最初の一回だけだ。それ以降はガチ勢と化したジャティスによる短期集中攻撃によってノックダウンされまくっている。
コイツの闘い方アタマおかしいぜ?なんか光る斬撃をやたらめったらブッパしてくるんだぜ?闘技場を整備する人が試合後の惨状を見て遠い目をしながら「さすが我が王子は常に全力ですな。」と呟いていたのは記憶に新しい。
そんな暴虐王子によると今夜貴族や王族が集まってパーティーを開くらしい。
「要するにそのパーティー会場には近づくなってことだろ?分かってる分かってる。」
俺もそんな堅苦しいとこに近寄りたくないしね。
「何いってるんだい、ゼロも参加するんだよ。」
いや、何でだよ。意味わからん。
「別に貴族として参加しろってことじゃないよ。何なら護衛っていう体でそこにいるだけでもいいしさ。」
「それなら尚更俺が行く意味無くね?」
「貴族の間でゼロって結構有名なんだよね。魔王軍の幹部を一方的に虐殺したとか、剣の一振りで100人以上斬殺したとか、あと、僕に勝ったのも大きいかな。とにかく噂に尾ひれがついて一人歩きしてるもんだからその手の娯楽に飢えた貴族がゼロを一目見たいって言ってるんだよ。それに…」
「それに?」
「僕があんな場所で挨拶回りしてるのにゼロはのんびりしてるなんて、ズルいじゃないか。」
「お前ここ最近本音ぶっちゃけ過ぎだろ。」
あんな場所て。
※
早く帰りたいんだけど。
パーティー開始10分でもう自室に帰りたい俺がいる。
始まって早々ジャティスもアイリスも貴族連中と話を始めちまうし、俺を見たいとかほざいてたらしい奴らも遠巻きにこっちをチラ見するだけで寄ってこないし。
おかげで会場の隅っこのテーブルに乗ってる料理つつくぐらいしかやること無い。
(まあ一人飯なんざ平気だけどな。)
ボッチじゃないよ〜。と鳴きまくって最終的に裸単騎にしそうなことを思っていると、誰かが来る気配がした。
こちらへ真っ直ぐ向かって来るのは女だ。金髪碧眼…貴族は大体そうだから普通だが、こいつは女にしては背が高い。俺が175センチで、それよりも少し低いから170くらいか。俺の前で止まり、小声で話し掛けてくる。
(すまないが、少し話を合わせてもらえないだろうか。)
(?いきなり何です?合わせる?)
なんだこの女?
いきなり顔を近づけられると暑苦しいので離れてもらいたい。
合わせるとは一体なんだろう。その答えはすぐにやってきた。
「おや、ダスティネス卿、急にどちらへ行かれるのかと思えばお相手がいらっしゃったので?」
「そちらの方は…見覚えがありませんな。一体どちらの貴族ですかな?」
若い2人の貴族だ。どうやらこの女…ダスティネスというらしいが、俺に寄ってきたのはこいつらから逃れるためのようだ。
こいつらには俺が貴族に見えてんのか?明らかに振る舞いが違うし、俺赤髪黒目なんだけど。
「え、ええ。私、先約がありまして…ほら、行きましょうか。」
「いえ、人違いです。俺と彼女は今会ったばかりで何の関係もないです。」
「「ん?」」
「ばっ、ちょっ、貴様…!」
俺の肩をグイグイ引っ張ってまた顔を寄せてくる。近いって。あとお前力強いな。王城の衛兵よりも全然強いわ。
(き、貴様一体どういうつもりだ!合わせてくれと言ったじゃないか!)
確かに言われたね。でも俺やるともなんとも言ってないんだよなぁ…。
だいたい、なぜ見ず知らずの女を手助けせにゃならんのだ。俺を買いたいなら相応のメリットを提示して下さい。そこまで親切ではないよ、俺は。
(む…報酬か。で、では私の身体を好きにしていいというのは…どど、どうだろう?)
「HAHAHAHAHAHA‼︎」
「どういう笑いだそれは!」
お〜い、聞いたかジェニー?
もう、寝言は寝てる時に言うから許されるんだぞ?このおばかさんめ!
今この瞬間分かった。こいつは関わっちゃダメなタイプだ。
当たり前だが、初対面の男にいきなり「自分、どうっすか?」とか聞いてくるやつがマトモであるはずがない。
触らぬ神に祟りなし。逃げる算段を立てていると、俺の苦手な女がもう一人来た。
「いた!探したぞゼロ!お前はなぜこんな隅にいるのだ…む?貴公はダスティネス家の…?」
うっわ、めんどくさっ。
半月で俺にここまで嫌われる女も珍しいだろう。俺を呼びながら来たのはクレアだ。今日もいつもの白スーツに身を包んでいるこいつはとにかく俺に絡むのだ。
ある時は面倒ごとを俺に押し付け、ある時は俺の普段の行いに文句をたれ、またある時はアイリスに触れたとかいう理由で腰に下げたサーベルをぶん投げてくるぶっちぎりでイかれた女、それがりんごちゃん…間違えた、クレアである。
「この女のことはどうでもいい。それより何だ。こんな場で人の名前呼ぶからにはそれなりの理由があんだろうな?」
そもそもこの女が自らアイリスの元を離れるのは緊急時以外ありえない。
隣でソデにされたダスティネスが「んっ…!」とか言ってるけどそれもありえない。
「お、お前…仮にも貴族になんと言う…いや、そうだな。王城にお前に会いに来たと言っている男が訪問していてな。その男なのだが…」
男…男の知り合いなどむんむんくらいしかいないのだが、何か用なのか?
「魔王軍の幹部と名乗っているのだ。」
「…はあ?魔王軍の幹部?」
なんでそんな不審人物の話を俺に通すのだ。衛兵に対応させろよ。
「それくらい私がしていないと思ったのか?衛兵では歯が立たないのだ。だが、何故か奴もこちらに危害を加える様子が無くてな。事を荒立てるよりはお前を連れて行く方が良いと判断したのだ。何かあってもお前の馬鹿げた強さなら何とかなるだろう。早いところ追い返せ。」
つまりいつもの厄介ごとじゃねえか。
お前軽くいうけどなんだかんだ幹部って強いんだよ?俺だって撃退ないし討伐するのに数時間は掛かっているのだ。これではRTAなどとても成り立たない。別に目指してないけど。
俺もパーティーに飽きて来たから丁度いいっちゃいいしな。
魔王軍幹部で俺の知り合いなら十中八九ベルディアだろう。俺にリベンジしに来たのか、今日は軍を引き連れていないようだ。しかし、危害を加える様子が無い?あいつが?…行ってみれば分かるか。
「場所は?」
「裏門だ。衛兵が見張っているから行けば分かる。」
「りょーかい。」
気の無い返事をすると早足で向かう。さて、勝算があるから来たのだろうが、今回も楽しめるだろうか。
(…ん?)
後ろから俺を追うように足音が聞こえる。
「…で?ダスティネス家のお嬢様はなんで危険地帯について来ようとしてるんだ?」
「話に魔王軍幹部と聞こえたのでな。これでも私は冒険者をしている。足手まといにはならない。」
おいおい、貴族様が冒険者とか冗談だろ?と思ったが、そう考えればあの力には納得できるな。
「いや、そういうことでもねえだろ。あのパーティーは貴族が集まってんだ。泥くせえことはこっちに任せてさっさと帰って楽しめよ。」
「お、お前…私が嫌がっていたのは知っているだろう…。あの2人から逃げるのにも丁度良かったのでな。利用させてもらうぞ。」
「…ま、勝手にしろ。」
「それに魔王軍の幹部なんていかにもじゃないか。この私の肢体をどんな目で見てくるのか今から楽しみだ…!」
「…初対面の男の前でそんなこと言ってお前平気なの?」
こいつの親御さんは何を考えているのだ。こんなハァハァ言ってる歩く18禁を世に出して恥ずかしくないのか。
「じゅ、18禁とは失礼な!私はまだ17だ!」
「はあ?嘘つけよ。俺とほぼ同い年だと?」
その体で?
「お前…本当に失礼なやつだな…。嘘などつかん。正確にはあと一ヶ月ほどで18だがな。」
「結局一歳年上じゃねーか。見た目完全に年増…うおっ⁉︎」
「お前というやつは!初対面でそんなことを言われたのは初めてだぞ!」
ダスティネスがキレて殴りかかって来た!コワイ!
「はぁ、まったく…。それにしても、ゼロだったか、お前随分とクレア殿に信頼されているな。「何かあってもお前なら何とかなる。」か。彼女がそんなことを言うのは初めて聞いたぞ。貴族ではないよな?衛兵…でもない。冒険者か?」
「惜しいな、俺は冒険者見習いってとこだ。」
あのクレアが俺を信頼?バカ言うな。あいつが向けてくるのは信用ってやつだ。この二つは全然違う。
信頼はある程度仲の良い者同士が向け合う物、信用は初対面でもある程度の実績があれば誰でも向けられる物だ。
まあわざわざ口には出さないけどよ。
「私はダスティネス・フォード・ララティーナだ。アクセルで冒険者をしている。まだ冒険者登録をしていないならそのうちアクセルで会うかもな。」
「へえ、ソロ…いや、1人で活動してんのか?」
「基本的には1人だ。たまにと、友達…と組むぐらいだな。」
友達と言った時のダスティネスの顔は照れるような、嬉しいような、悪くない顔をしていた。内に秘めたる変態性を表に出さなければモテるだろうに、出してるから全てご破算である。
しかしマジか、こいつアクセルにいるの?関わらないようにしよう。
「お、そこ曲がれば裏門だ。気いつけろよ、割と強いから下手すりゃ死ぬぞ。」
「ああ、私はど、どんな目にあわされてしまうのか…!」
「台無しだし、真面目な話だからね⁉︎」
ダスティネスに怒鳴りながら裏門に通じる扉を開ける。
さて、ベルディアはどれだけ強くなったのかーーー
「変態中年首なし騎士かと思った?残念!我輩でしたー!」
「「・・・・・・」」
………誰だお前⁉︎