再投稿。
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「フワーッハハハハハハハ‼︎したり顔でそこの最近腹筋が硬くなってきていつか割れてしまうのではと心配している女に、「気いつけろよ、割と強いから下手すりゃ死ぬぞ。」などと言っていた男よ!残念でしたー!」
白と黒で半々に彩られた仮面と、黒いスーツ?タキシード?…どっちでもいいか。を身に付けた不審者が高笑いをしながらこちらを煽ってくる。はっきりと事案である。
「テンション高えな、アンタ。」
「…む?我輩好みの悪感情が湧いてこんな。もっとこう、恥ずかしがったりはしないのか?」
いやあ?別に?
この程度の煽りに負けているようでは日本ではやっていけないのだ。主にネットとかでな。いや、はっきり覚えてるわけじゃねーけど。
しかし、こっちの人間にはこうか は ばつぐん だったようでーーー
「ななな、何を言っているのだ⁉︎ふ、腹筋など気にしてないぞ!本当だぞゼロ!仮に気にしていてもまだ割れてないから!セーフだから!」
「おおっと!こちらからは大変上質な羞恥の悪感情、ごちそうさまです!」
顔を真っ赤にしたり、否定したり。忙しい限りだ。もっと落ち着けよ。
「それで?アンタは何者よ。魔王軍幹部って聞いて来たんだが?」
「フハハ!これは申し遅れました。我輩、魔王軍幹部にして地獄の公爵、『見通す悪魔』こと大悪魔バニルである!よろしくお願いします。」
「あ、これはどうも御丁寧に。」
おお?礼儀正しいぞ。
少なくとも隣の変態よりは好感が持てる。これは態度を改めなければならんな。
と、急に
「貴様!衛兵達に何をした!」
見ると、おそらくバニルを見張っていた衛兵達だが、妙に疲れた表情をしている。
まさかこいつ、危害を加えないとか言っといてーーー!
「…ん?ああ、貴様がくるまで暇だったのでな。そやつらには羞恥の悪感情を頂いていた。命に別状はないのでご心配なさらず。」
「その悪感情を頂くってのは何だ?」
聞けば、悪魔は普通の食べ物を食べない代わりに人間の悪感情を食べるのだそうだ。特にバニルが好物としているのは、羞恥の悪感情。
「故に!我輩は人間をからかって羞恥心を煽り、それを喰らうことを生業としている!ので、我輩が人間に危害を加えるなどありえん。むしろどんどん繁殖してもっと悪感情を寄越すがいい。」
そう聞くとあんまり危ないやつじゃ無さそうだな。少なくとも直接殺したりしてくるよりは遥かにマシだろう。
「さて、貴様が今魔王軍で懸賞金をかけられている『死神』ゼロか。お初にお目にかかる。…ふむ?ボンヤリとしか見えんが…貴様、
「『死神』ぃ?」
何だその恥ずかしい二つ名みたいなものは。俺はいつ賞金首になったんだ。そのうち卍解とかすれば良いのだろうか。
…?最後のはよく分からんな。中身ってなんだ?
「賞金をかけるように魔王の奴に掛け合ったのは先日貴様がボコボコにしてトラウマを植えつけた首なし中年幹部だぞ。」
「ベルディアか。」
トラウマって…。そこまでやってないだろうに。あれだけ良い勝負をしてトラウマとは一体彼に何があったのだ。
「フハハハハ!知らぬは本人ばかりだな!
それはそうと我輩、頼みがあるのだ。貴様、近いうちにアクセルに行くのだろう?そこに一軒の魔道具店があってな、我輩の古い友人がいるのだ。
こやつが商売をすればするほど赤字を出すという欠陥店主なのだが、名をウィズという。
そのウィズに我輩がそのうちに訪問する旨を伝えて欲しいのだ。…頼めるか?」
「…色々言いたいけど、一つずつ聞こうか。まず、何で自分で行かない?何で俺なんだ?」
「お、おいゼロ!お前悪魔と取り引きするつもりか⁉︎しかも魔王軍の幹部なんだぞ⁉︎」
悪いが少し黙ってろダスティネス。
相手が人間を傷付けないなら俺はそんなに倒すのに躍起になったりはしない。もちろんエリスとの約束は最優先だが、メリットがあれば取り引きだってするさ。
シルビアやベルディア?あいつらは元々攻めてきたのだからアウトよ。シルビアの方はマントの代金の件もあった。
人間とは他の生物を自分の利益の為に殺すものだ。…そう考えると魔王軍とどっちが悪いとかは一概には言えないが。
「フッ、話が分かるようで何よりだ『死神』。我輩にも都合があってな。自分で赴く訳にはいかんのだ。
貴様を選んだのは単に一番近くにいてなおかつ話が一番通りそうだったからだ。元々アクセルに行くのだからついでに、とな。」
「そもそも、なんで俺がアクセルに行くことを知ってんの?」
あと、死神呼びはマジでやめて欲しいんだけど。恥ずかしい。
俺は代行証も持ってないし、斬魄刀も持っていないのだ。
「む?ここで羞恥を出すのか?変わっておるな。そして言ったであろう、『見通す悪魔』と。我輩は何でも見通す。
それこそそう、そこな女が少女趣味で、可愛い服を着たいが似合わないので泣く泣く自室のタンスにしまっていることなどはお見通しだ!」
「あああああ⁉︎貴様!何故それを⁉︎」
「お前…。」
別に似合わないってこたないだろうに。服くらい着たいものを着ればいいのだ。
しかし凄えな。戦闘中に発揮すれば最強だろそれ。動き全てが見通せるなどこちらからすれば絶望に他ならない。
「まあ貴様などは過去は見通せても現在や未来を見通すのは難しいがな。我輩も万能ではない。我輩に実力が近い、あるいは上回る者ははっきりと見通せんのだ。地獄にある我輩本体ならいざ知らず、この仮初めの肉体では貴様には勝てん。」
「地獄の公爵ともあろう方にお褒めに預かるとは光栄だね。」
どうやら、今のこいつは分身のような物らしい。
…え?分身が魔王軍幹部張ってるってこと?本体はどんな化け物なんだよ。…今はいいか。少なくとも敵対はしていないのだし。
ともあれ、俺を選んだ理由は分かった。
次はーーー
「報酬は?当然タダでやって貰おうなんてケチ臭いことは言わないんだろ?」
「無論だ。大悪魔の沽券に関わることだからな。貴様に支払う報酬はなんと、大判振る舞い!ーーー我輩の命で、どうだ?」
「はあ?何でお前の命が報酬なんだよ。ふざけんな。俺に得がないものは報酬になりませ〜ん!」
「貴様はアホか!魔王軍幹部の命だぞ⁉︎ただの伝言の報酬としては破格であろうが!…それに魔王城には幹部一人一人が管理する結界があるのだ。
今ここで我輩を倒しておけばそれを一枚消すことができる。そこをよく考えるのだな。」
…何か聞いたことある話だな?しかしそれが本当なら確かに割りが良いかもしれないーーー
ーーーあれ?ちょっと待って。
俺はそのウィズとやらにこいつが訪問することを伝えるんだよね?
…なんでこいつ自殺しようとしてんの?俺が頭悪いから理解出来ないだけなの?
「先程我輩の本体は地獄にあると言ったであろう。今はこの仮面を媒体にして身体は土塊で形作っておるのだ。仮面を地面に置けばあら不思議!第二、第三の我輩がお手軽に作れてしまうという優れもの!このバニル仮面、お一ついかがか?」
なんか通販みたいなことを言い始めたが、つまり、ここにいるこいつはどれだけ倒しても新しい仮面さえあれば本体にはなんの痛手も与えずに復活するらしい。
な、なんやそれ…ベータテスターどころやないやないか…もうチートやチーターやろそんなん!
あ、それはそれとして何か気に入ったので一つ貰おうか。
「毎度あり!…ふむ、なんの痛手も無い、というのは少し語弊があるな。我々悪魔は長く生きると『残機』というものが増える。現世に出ている分身はそれを削って作っている故、仮面を割れば当然『残機』が減るぞ。
まあ我輩の場合その『残機』の数がそんじょそこらの木っ端悪魔とは文字通り桁が違うので一体や二体、痛くも痒くもないがな!」
結局痛手にはならねえんじゃねえか。
長々と話してすることが自慢とは。
「でも俺はあと二ヶ月くらいはここにいる予定だぞ?お前がどうしてもっていうなら出発を早めてもいいけど、その復活にはどのくらい時間かかるんだ?」
「・・・・・・」
「あ?何だよ。」
バニルが何故かこちらを測るように見てくる。
折角人が親切にしてやってんのに何だというのか。
「…いや、何でもない。そうだな、復活は急げばその日のうちに可能だが、我輩も地獄で少しのんびりさせてもらうとしよう。出立は貴様の都合で良いぞ。それと…」
言いながら俺の言葉を守って口を閉じてくれているダスティネスに視線を向ける。席を外させろってか。
「ダスティネス、悪いが中に戻っててくれるか。そこに転がってる衛兵も救護室に運ばなきゃいけないし、頼む。」
「あ、ああ。私は構わないが…大丈夫なのか?」
「任せろ。魔王城の結界とやらを一枚剥ぎ取ってやるぜ。」
頷くと、ダスティネスは衛兵二人を担ぎ上げて城の中へ入っていく。あいつやっぱ力あんなぁ。
…さて。
「で?お望み通り二人にしてやったぞ。さっき言い淀んだことでも話してくれんのか?それとももう斬っていいのか?」
「うむ。ひと思いにやるがいい!…と、言いたいところだが報酬をサービスしようと思ってな。」
「へえ?くれるもんなら貰うけどな。」
「一つ忠告しておいてやろう。貴様、魔王を倒すのが目的らしいが、長時間の幹部以上との戦闘は避けるんだな。我輩が見たところ貴様はどうにも
「…どういうこと?」
「言葉通りの意味だ。先程貴様は我輩の都合を気遣うそぶりを見せたが、いくら我輩に危険が無いとはいえ、普通の人間は悪魔など気にかけることはしないのだ。
気付いているか分からんが、貴様は確かにこちらに寄り始めているということを覚えておくがいい。」
「いや、だから意味分かんないんですけど。」
「フハハハハ!さあ!サービスは終いだ!やるがいい、『死神』よ!」
「お前…中途半端に教えてもらっても迷惑なだけだからな?もうちょい詳しく…。」
「おおっと!見える、見えるぞ!貴様がオークに追われ、恥も外聞も無く体液を撒き散らしながら逃げ惑う様がーーー」
「そぉい‼︎」
一片の躊躇もなく仮面を剣で叩き斬った。
それは俺の黒歴史だ。みなまで言わせはしない。
ーーー最後によく分からんことを言われたが、まあ、どのみちアクセルに行けばそのうちあいつも来るのだろう。その時に聞けばいい。
衛兵を送って戻って来たダスティネスと合流し、会場に戻る。
バニルから言われたことは早くも頭から消えかけていた。