この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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2話

 

 

 

 ※

 

 

 一本の美しい剣を前に茫然とする俺に色々お袋が説明してくれる。

 

 

 

「この剣はね、お父さんが女神様から貰った物で、『不壊剣』デュランダル。その名前の通り絶対に壊れないし、傷付かないし、消耗もしないから手入れも必要無いという優れ物なのです!」

 

 

「いや、いや、その前に一つ確認していいかな、お袋さん」

 

 

「?なに?」

 

 

「親父の職業をもう一度言ってみてくれ」

 

 

 

 そう、俺の聞き間違いかもしれない。普通に考えたら魔法使いの武器が剣なんてこたないだろう。きっと『ナイト』とか、ちゃんと近接系の職業に違いない。うん、俺の勘違いーーー。

 

 

 

「『エレメンタルマスター』。色んな魔法で攻撃する上級職だけど?さっき言ったじゃない」

 

 

「聞き間違いじゃないんかい‼︎」

 

 

 

 どういう事だよ。あれか?剣に魔法をエンチャントして斬りつける感じで戦ってたのか?それならまだ納得もいくが。

 

 

 

「んーん、お父さんは剣なんかほとんど使わなかったよ。料理する時に切りにくい食材を真っ二つにする時……くらいかな」

 

 

 

 まさかの包丁扱い。こいつはひでえや。さぞかしこの剣も嫌気がさしていたことだろう。

 

 

 

「いや、真っ二つにした後は普通の包丁使ってたし、包丁扱いですらないんじゃないかな」

 

 

「そっちの掘り下げは要らへんわ」

 

 

 

 不憫過ぎる。せめて俺は正しく使ってやるからな、…えっと、デュランダル?

 

 

 

「大体、女神に貰ったって何だよ。親父、なんか怪しいブツでもやってたんじゃないの?」

 

 

「失礼な!お父さんがクスリに手を出してたって言いたいの⁉︎」

 

 

 

 その通りである。

 

 女神なんて存在自体が信じられないし、仮に本当に女神から貰ったならばなぜ職業に応じたアイテムを貰わなかったのか。使いもしない剣なんか貰って一体何がしたかったのか。今となっては一切が不明だな。

 

 

 

「そ、そんなことないもん!女神様は二大宗教神のエリス様とアクア様がいるし!お父さんも私にはちゃんと剣を貰った理由は教えてくれたよ!」

 

 

「へえ、なら俺にも聞かせてくれよ。親父殿がどうトチ狂ってこいつを受け取ったのか。

 …あ、それか強制的に押し付けられたのか?それならしょうがねえけどな」

 

 

「そんな嫌味ったらしく……!そんな子に育てた覚えはありません‼︎」

 

 

「そらせやろな」

 

 

 

 俺がいつ産まれたと思ってんだ。ついさっきだぞ。育てた覚えがあってたまるかよ。

 

 

 

「………お父さんも最初はこの剣を使おうと思ってたんだって。でもいざ使う時になって、自分には剣の才能がこれっぽっちも無い事に気付いたの。

 でも魔法の才能はあったみたいだから、潔く剣の道を諦めて魔法使い職になったんだってさ。

 よく嘆いてたよ。『特典には永遠に魔力の尽きない身体とか、使う魔法の威力が十倍になる力とかもあったのに、どうして俺は選ばなかったんだろうなぁ……』って」

 

 

「……女神にはいつ会ったんだよ。そして特典って何だ」

 

 

「うっ…そこは私も知らない…。聞いても教えてくれなかったの……」

 

 

「今の話だと、その剣は親父が高い金払って買ったはいいけど才能が無かったから負け惜しみに女神から貰ったって言い張ってる、とも解釈出来るよね」

 

 

「捻くれ過ぎてない⁉︎」

 

 

「だって証明出来ないんじゃしょうがないだろ」

 

 

 

 信じて欲しけりゃ証拠を求める。壊れないってだけじゃただの丈夫な剣じゃねえか。まあ俺は剣の実物なんか見た事無かったし、これを貰えるってだけでテンション上がるし。女神がどうとかは特に拘らないけどね。

 

 

 

「証拠……証拠ならあるよ!ちょっと待っててね!」

 

 

 

 言うが早いか、家の外にすっ飛んで行った。おい、だから産後すぐにそんな運動よくできるな?それも心臓に悪いからじっとしててくれよ。俺だって母親の心配ぐれえするぞ。

 

 ものの数分で帰って来たお袋の手には出て行った時には持っていなかった皿に豆腐らしき白い真四角が乗っていた。なんだい、そりゃ。

 

 

 

「え?これ?お豆腐。お隣さんから分けて貰ったの。今度ゼロも一緒に挨拶に行こうね」

 

 

「本当に豆腐だったのかよ。そして挨拶?丁重に御断りさせていただきます」

 

 

「何でよ!挨拶は大事だよ‼︎」

 

 

「知ってるよ。古事記にも書いてあるからな」

 

 

「……?コジキ?」

 

 

「……いや、何でも無い。それよりも何で豆腐?食うの?だったら味噌汁にしてくれると嬉しいな」

 

 

「あ、ごめん、私料理とかこれっぽっちも出来ないから。ふふふ、何で豆腐かって言うとだね、ゼロ君……」

 

 

「お袋、ストップ。まずは皿を置け」

 

 

「ん?うん」

 

 

 

 皿を机に置いて話を聞く姿勢になるお袋。

 

 ちょっと待ってくれ。その話よりもショッキングな話題が出たぞ。え、何?料理出来ないの?どうやって暮らしてきたの?

 

 

 

「えー?その話するの?別に良いじゃない。料理出来なくても死にはしないんだから。お父さんが料理出来たから作ってもらってただけだよ」

 

 

「もう親父が死んで一ヶ月経つんだろ?この空白期間をどう説明するんだよ」

 

 

「……ゼロ、知ってる?料理なんて作らなくてもお金を払えばご飯は食べられるのよ」

 

 

 

 つまり外食でどうにか繋いでいたらしい。うせやろ?

 

 嫌な汗が滲んできた。想像してみよう。身重の少女が一人で店に入り、飯を食って出て行く様を。それが毎日である。しかも俺が産まれてからはどうするつもりだったんだ。まさか赤ん坊を連れてまで毎日飯屋に通うつもりだったんじゃないだろうな。

 

 

 

「……………嫌なの?」

 

 

「オーケーだ、お袋。料理を覚えようか」

 

 

「やだ。だいたい誰が教えてくれるのよ」

 

 

「こういう時のご近所さんじゃねえのかなぁ。……まあ、あれだ。俺が教えてやるよ」

 

 

「……料理……出来るの…?」

 

 

 

 なんかそれらしき知識も頭に入ってるから一通りは出来そうだ。教えていく内に思い出す物もあるかもだし、丁度良いだろう。

 

 

 

「ええー。なんか産まれたばっかの息子に教えてもらうのってこう…、母親の威厳とかさあ」

 

 

「お袋お袋。威厳とか気にするのは威厳を手に入れてからな」

 

 

「なっ⁉︎どういう意味よ!」

 

 

「どうもこうもないんだよなぁ……。それに、そんな安っぽい誇りとやらはな、そこいらの犬にでも食わせてしまえ」

 

 

 

 口調を渋めに変えてやる。槍の兄貴の怒りがマッハである。

 

 

 

「あ、今の渋い声かっこいいね。誰かの真似?」

 

 

「英霊エミヤ。……それよりも何で食いもしない豆腐を持ってきたのかの説明キボンヌ」

 

 

「……キボンヌ?…まあいいや。えっとね、そのデュランダルは壊れないっていうのと、もう一つ特徴があるんだ。それが持ち主以外が持っても何も切れないってことなの。『言うは易く行うは難し』って言葉もお父さんが良く言ってたし、実際に見せようと思ってね」

 

 

 

 それを言うなら『百聞は一見に如かず』だと思うのだが、親父の誤用なのかお袋の曲解なのかわからないので黙っておく。

 

 お袋は徐ろにデュランダルを振り上げーーー。

 

 

 

「さぁ‼︎」

 

 

「守護月天のOPかよ」

 

 

 

 何でも自分で出来そうな掛け声と共に豆腐に振り下ろした。

 

 ……いや、その勢いだと置いてある皿どころか机も無事じゃ済まないだろ。アホかな?

 

 机諸共にバキバキに割れる瞬間を幻視した俺が身構えるが、その予想に反して何の音も立てずに振り切り、ビシッと決めてみせるお袋。……?何の音もしないってのはどういうこった。

 

 

 近くに寄って見てみると…………。

 

 

 

「おおお…⁉︎マジで切れて無いのかよ⁉︎」

 

 

「だから言ったでしょ?斬れないのよ」

 

 

 

 いやあ、俺の想像した『斬れない』よりも数段不可思議な現象だぞ。だって何の傷も無い。机どころか豆腐にもだ。言っておくが、当たらなかったとかそういう話じゃない。確実に剣が通った半円上にあった。これはーーーーー。

 

 

 

「通り抜けた……のか?」

 

 

「ご名答!良く分かったね?」

 

 

 

 お袋が剣を抜いたまま拍手する。危ねえからもう納めろよ。

 

 

 

「俺ぁてっきり斬れないってのは鈍器のようには使えるって意味だと思ってたが……」

 

 

「ちなみにいつでも通り抜けるわけじゃないよ。ほら、こうして刃を立ててもゆっくりなら当たるし、お腹を向ければ鈍器としては使えるかな。あくまでも『斬る』行為に対して反応するみたい」

 

 

 

 言いながらお袋が片手で実演してくれる。つーかさっきからあんたとんでもない怪力発揮してんな?そんな軽々扱える剣じゃ無いだろ、それ。

 

 デュランダルの刀身は幅が十センチ、長さは一メートル程ある、少し肉厚な刃だ。お袋みたいなか弱そうな少女が片手で持てるとは思えない。

 

 

 

「言ってなかったっけ?冒険者は普通の人間よりもかなり強くなるんだよ。その辺りもこれから教えてあげるけど……どうかなゼロ?これでお父さんを信じる気になった?」

 

 

 

 ドヤァ……‼︎と音がしそうな顔で俺を見下ろすお袋。しかし何も言い返せない。

 女神とかの胡散臭い話は置いておくとしても今の超常現象は素直に凄いと思ってしまった。何か反撃をしたいが……。

 

 

 

「………悪かったよ。信じる事にする。

 …ところでその剣ってさ、親父の物なんだろ?俺が使っても同じなんじゃないの?」

 

 

「うむ!謝れる子はいい子!あと、それは多分平気だよ。お父さん、死ぬ前に産まれる子に所有権を譲ったって言ってたし」

 

 

 

 何がどう平気なのか今のではわからなかったが、とりあえず納得はした。

 

 

 

「じゃあその剣を振れるように今から鍛えないとな。早く練習すればそれだけ強くなれそうだ」

 

 

「私は止めないけどさ、ちょっと急ぎ過ぎじゃない?まだ赤ん坊だよ?ゼロ」

 

 

 

「俺だってちょっとはそう思うけど、なんか体動かしてないと落ち着かないんだよ。どんどん力が湧いてくるっていうかさ」

 

 

「ふーん?じゃあそのためにも早くご飯食べて、早く寝ましょー!夜更かしすると大きくなれないよ!」

 

 

「おー‼︎」

 

 

 

 お袋のノリに合わせて拳を上に突き上げた。まだほんの少しの付き合いだが、この人とは仲良くやれそうで何よりだ。

 そのままお袋が服を脱ぐのを大人しく待ってーーーーー。

 

 

 ……………えっ。

 

 

 

「お袋、何で服脱いでんの?露出癖でもあったの?お袋がヒステリアモードになっちゃうの?」

 

 

「何でって、ご飯でしょ?ヒステリア……なに、とかは知らないけど」

 

 

 

 だから何で服脱いでんだっつの。飯なら俺が教えるから作れよ。

 

 

 

「ゼロ、ご飯食べられるの?赤ちゃんって普通、お母さんのおっぱいで育つんじゃないの?」

 

 

「残念でした〜!俺はこの時点で普通の赤ん坊じゃないから普通にご飯を食べます〜!」

 

 

 

 もう普通がゲシュタルト崩壊を起こしているが、いくら母親とはいえ、自意識がこんだけはっきりしてると裸には抵抗あんだよ。察しろや。

 

 不思議そうに首を傾げながらまた服を着るお袋。それでいいのだ。

 

 

 

「よし、ではこれからお袋に作ってもらうのは『お粥』だ!まずは米と水、あとは鍋と火を用意しろ!出来れば塩と出汁もあると尚良し‼︎」

 

 

 

 さすがに赤ん坊の内から脂っこい物なんて食えない。ここは無難にお粥で良いだろう。

 

 対してお袋は俺の指示を聞いて動く……こともなく。

 

 

 

「今言った中だと火ぐらいしか用意出来ないかなぁ」

 

 

「………?あ、もしかして米とか存在しない感じ?」

 

 

「お米でしょ?あるけど、この家には存在しないってだけ。お塩と、お出汁。あと鍋も無いや」

 

 

「……………………」

 

 

 

 ……冗談だろ?最低でも塩はあるだろ普通。こんなに調理器具が揃ってない家はもう人が住む家じゃないだろ。

 

 

 

「ふふん、それはゼロの普通であって私の普通じゃないのよ!私は周囲には流されないことで有名なんだから!」

 

 

「威張る事じゃねえからな?マジで」

 

 

 

 次の日から鍛錬しようと思ってたのだが、急遽予定を変更して食材、雑貨、その他を買い揃える必要がありそうだ。先に土台を作らないと鍛えるもなにもあったもんじゃない。

 幸いにも我が家には親父とお袋が冒険者時代に稼いだ金と、親父が死んだ時に王都から今までのお礼としてかなりの金額貰ったらしく、一生困らない額の金があるらしい。俺の知識があれば生活基盤はすぐ整うだろう。

 

 

 

 これ俺がいなかったらお袋孤独死してたんじゃないの?今凄く産まれて来たことに感謝してるわ。多分普通とは違う意味で。

 

 

 明日からの予定を頭で組み立てながら強くそう思った。

 

 

 

 


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