再投稿。
※
まだぐずるアクアに謝りながら受付嬢から冒険者という職業についての説明を受ける。
とはいえ、俺はその辺は抜かりないし、この説明が必要なのはこの二人だろう。カズマは良いとして、アクアはちゃんと理解出来るだろうか。少し、ほんの少しだけ心配だ。
「ーーーというわけで生き物を倒したり、食べたりすればその魂の記憶の一部を吸収してレベルアップします。レベルアップすればステータスが上がったり、スキルを覚えるためのスキルポイントを貰えたりするので、レベルアップ目指して頑張って下さい。」
お袋から大体聞いてたけど改めてゲームまんまだな。もしかしてこの世界ゲームの中なんじゃないの?
しかしさすがはこの道のプロ。説明はかなり分かり易かった。これならこの
「すかー」
俺はもう知らん。
泣き疲れたのか、熟睡するアクア。カズマがゴミを見る目で見て、頭にゲンコツを振り下ろしてまた泣かせていた。
こいつは泣いている
説明してくれた受付嬢ーーー名札にルナって書いてあるな。ルナもどう反応すればいいか困っている。あんまり人に迷惑かけんなよ…。
「え、ええ…それではこのカードに必要事項を記入して、触れてみて下さい。それであなた方のステータスが分かります。ステータスに応じてなりたい職業を選んで下さいね。」
気をとりなおして冒険者カードの作成を進めるルナ。最初にカズマがカードに触れる。
「はい、ええと…サトウカズマさん。あなたは…筋力、生命力、魔力に器用度に、敏捷性…。これらは普通ですが、知力が少し高い…かな。
あれ、幸運は凄いですよ⁉︎こんなに高いのは久しぶりに見ました!…まあ冒険者って幸運は関係ないですけど…。
…どうします?これだと基本職の『冒険者』にしかなれませんが…。」
これはひどい。
冒険者を勧める立場の人間がこれほど人のやる気を削いで良いのか。見るがいい。期待に満ちた表情だったカズマの目が死んだ魚のようになっている。
もっと褒めるとかあるだろう。幸運が高いなど、エリスと相性が良さそうで羨ましい限りだ。
結局カズマは『冒険者』になった。いや、他になれる職業が無かったのだが。しかもなぜか商売人を勧められていた。カズマの顔が見るに耐えない。
次は寝ていたアクアだ。腐っても女神なのだ、それなりにステータスは高いのだろう。……知力以外は。
「はああ⁉︎知力が平均以下なのと幸運が一桁なの以外は全ステータスが凄く高いですよ⁉︎ま、魔力なんかこんなに高いのは初めて見ました!」
ほぼ俺の予想通り、かなりの高ステータスらしい。知力だけじゃなく運まで低いのか…。
しかしルナの声が大きすぎるために周りがざわめき始めた。ますますカズマが不憫だ。
アクアは魔力が高いのに知力が低いため、魔法使いにはなれなかった。代わりに支援職のアークプリーストになったようだ。
さて、最後は俺か…。
柄にもなく少し緊張しながらカードに触れた。
「はい、ありがとうございます。ゼロさんですね…。…………?」
な、何だ?凄い微妙な顔でこっちを見てくるんだが。何かマズいことでもあったのか?
「…あの、他に冒険者カードをお持ちの方は新しく作ることは出来ないのでお手持ちのカードを登録することになります。」
「は?」
いやいやいやいや、待ってくれよ。冒険者カードなんか持ってないって。作るのはこれが初めてだって。なぜそんなあらぬ疑いがかけられるのだ。
「いや、冒険者カードを持ってない人の初期レベルがこんなに高い訳ないでしょう。というかこんなに高いのは直に見たのは初めてなんですが、一体どこで活動を?」
呆れた感じでルナがカードを見せてくる。レベルは68と表記されて…………68⁉︎
そんなバカな。確かにモンスターは倒してきたが冒険者カードなんて持ったことなど…………ふむ?
「あの、ちょっと聞きたいんですが、冒険者登録する前、つまり素の状態でモンスターを倒すと経験値とかレベルってどうなるんですか?」
「え?それは確か…魂の記憶を受け継ぐ訳ですから、蓄積されるはずですよ。それでカードを作った時にーーーー…えっ…まさかとは思いますが…?」
残念ながらそのまさかだろう。というかそれしかこの不自然な程に高いレベルに説明がつかない。
「ちょっと失礼……はぁ⁉︎なん、なんですかこの討伐数⁉︎冒険者登録前に二千体近くモンスターを倒したっていうんですか⁉︎素の実力で⁉︎」
「まあ…そうなりますね。」
実際そのくらいは倒しただろう。なお、半数以上オークの模様。オーク強かったもんなぁ…。
まだ疑いが晴れないのか、ルナが訝しげに視線を送ってくるが、事実は覆せないのだ。
「はあ…。俄かには信じられないですが…、まあいいでしょう。えっと、ステータスは………ふっ。」
「今何で笑ったんですか。」
こいつも大概失礼だな。
ここまで俺はレベルしか自分のカードを見ていないぞ。開示することを請求する。
「ああ、すみません。こんなに潔いステータスは初めて見たので…。なんですかこの馬鹿げた筋力と生命力と敏捷性は…。一つ一つの桁がおかしいんですけど…。平均なのは器用度だけで、残りは最低クラスですし…。
まあこれなら近接職なら何だって上級職につけますよ。ああ、魔力が必要な職は諦めて下さい。
はあ…、何で今日に限ってこんな変なのばっかり…。」
途中から投げやりだし最後のは俺に聞こえるように言ってね?
プロの根性はどうしたのだ。たとえその通りだとしても多少は隠せよ。
ふむ、しかし職業…職業ね…。
「……では『冒険者』で。」
「はいはい、『冒険者』です………うん?
あの…す、すみません。聞き逃しました。もう一度…。」
「『冒険者』でお願いします。」
「何で⁉︎正気ですか⁉︎上級職になれるのにわざわざ『冒険者』ぁ⁉︎」
そこまで驚くことかね。アンタ、カズマにさっき言ってたじゃん。『冒険者』はどんなスキルも覚えられて便利だって。
「た、確かに言いましたけど!あれはその、詭弁と言いますか、何と言いますか…。」
それにカズマが気の毒ではないか。連れ歩いた二人ともが上級職など、どれだけ肩身が狭くなるか想像するのは易い。アクアは空気を読まなかったが、せめて俺だけは合わせてやらんとな。
そう言った途端に腐っていたカズマがバッ!とこちらを向いて感動したように目を潤ませた。
「ゼ、ゼロ…!お前いいやつだったんだな…!いけすかないイケメンクソ野郎とか思っててすまん!」
「お前そんなこと思ってたの⁉︎」
台無しだよ!俺が読んだ空気を返せ!
どうりで初対面から妙に睨んでくると思ったよ!
「…まあ本人が納得するならそれでいいですが…、あの、職業補正とかも無いに等しいですよ?本当に良いんですか?」
くどい。俺が良いって言ってんだろ。俺は職業補正なんて欲しいと思ったことは無いし、それに後から転職も出来るんだろ?何でもいいから早くしてくれ。
俺が急かすとようやくカードを俺に渡してくれた。
これでやっと冒険者か…。感慨深いな。
「それで?カズマたちはどうするんだ?」
「んー…、今日は宿を取って早めに寝るよ。なんか疲れたしな。」
「ねえカズマ、今日のごはん何食べようか?」
疲れたってのは分からんでも無いな。まあ明日から頑張ると良いさ。縁があったら組んだりもするだろ。
「じゃあな、二人とも。せっかく冒険者になったんだから早々に死ぬなよ。」
「「あれっ。」」
あん?何だ?俺は早くウィズのところに荷物を取りに行きたいんだが。
「えっと、ゼロは一緒に来ないの?てっきりパーティー組む流れだと思ってたんですけど。」
「はあ?何で?」
お前らはお前らで頑張れよ。
別に嫌ってんじゃねえけどまずは自分の戦闘スタイルを決めてから本格的に冒険するべきだ。俺に頼ってもらっても困る。
「おいやめろアクア。…今日はありがとな。千エリス、そのうち返すから。」
「おう。どうしても無理ってなったら手ぇ貸してやらんでもないぞ。じゃあな。」
カズマはそこらへんを分かってんな。まあただ遠慮しただけかもしれんが。
日本人はこういう時に深く突っ込まないのだ。外人のガンガン来る感じホント合わない。
※
二人と別れた後、ウィズの店でウィズに「特に何もなかった」事を伝える。
ウィズは不思議がっていたが…うん…女神が現界してたとか言っても嘘にしか聞こえないからね。
またお茶をご馳走してくれると言うのでご相伴に預かることにした。ついでにスキルの確認もしたかったしね。
スキルポイントを確認すると、68と表記されている。どうやらレベルが1上昇する度にポイントが1ずつ加算されていくようだ。
「今までに他の冒険者の方にスキルを見せてもらっていれば習得可能スキルの欄に記載されているはずです。それだけポイントがあれば私が知る中で一番ポイントを使う爆裂魔法以外ならなんだって覚えられますよ。」
「爆裂魔法…。」
冒険者の先輩であるウィズに教えてもらいながら確認していく。俺のレベルを見てウィズも驚いていたが、モンスターの討伐数を聞いて納得したようだ。
ーーーその討伐数を表示する欄のシルビアの名前を見た時、ウィズは少し悲しそうにしただけだった。
それにしても爆裂魔法か。めぐみんがえらい推してくるから頭に焼き付いちまったな。
ちなみに爆裂魔法を習得するのに必要なポイントは75。これは『冒険者』が必要とするポイントであって、魔法使い職ならもっと少なく済む。『冒険者』はどのスキルも習得出来る代わりに必要ポイントが跳ね上がるのだ。
俺の習得可能スキル欄は王都にいた時に冒険者と関わったおかげでかなりの数埋まっている。良いものはないかと下へスクロールしていくと、最後に一際目に付くスキルがあった。
『一刀両断』・・・68
「…なあにこれ。」
『一刀両断』とはつい先日俺が仮に名付けた技の名前だが…?というか必要ポイントが爆裂魔法と似たり寄ったりなんじゃが。
「なあ、このスキルがどんなスキルか知ってるか?」
「えっと、どれですか?………いえ、こんなスキルは初めて見ました。ポイントは…ええ⁉︎68⁉︎」
ウィズでも分からないらしい。必要ポイントが今の俺のポイントぴったりというのも気になる話だ。
「…ゼロさん。このスキルを覚えるのはお勧め出来ません。何に使うかも分からない、しかも爆裂魔法と必要ポイントがさして変わらないなんて…。汎用性があるなら良いのですが、もし使えないスキルだったら後悔することに………」
「・・・・・・」
当然だろう。ウィズの言うことは一言一句その通りだ。他に習得したいスキルが出てきた時にいざポイントがありませんではお話にもならない。
しかし…妙に気になる。
悩んだ末に俺は保留にすることにした。今すぐスキルが必要というわけではない。冒険者として活動していく中で使いたいスキルを覚えればいいのだ。
ウィズに礼を言って店を出る。外はもう暗くなっているな。宿を探さなければならない。この街の宿は…、王都でもそうだったが、冒険者のために長期契約が出来るアパートみたいなシステムになっているのだ。
やっと冒険者になれたことに微妙に胸を弾ませながら夜のアクセルを歩く。そのうちに紹介してもらった『サキュバスネスト』とやらにも行ってみたいものだ。