この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






24話

 

 

 

 

 

 冒険者登録をした翌日、少し遅めの時間に再びギルドを訪れる。とりあえずはクエストを一つ受けてみようと思ったからだ。

 

 ギルド内を見回してみてもアクアとカズマはいない。もうクエストに行ったのか、感心感心。

 

 そのまま横に視界を移していくと…、

 

 

 

「んん?」

 

 

 

 どこかで見たような服装。全体的に黒と赤を基調とした中二力の高い装いをして、(ワンド)を机に置き、ぽつんと一人で食事をしている女の子。おそらく紅魔族だ。

 

 

 うーん?なんか見たことがあるような…?

 いや、そりゃ紅魔の里にいたんだから見たことあってもおかしくないが…。

 

 ……………ああ!

 

 

 

「おい、そこの紅魔族!お前、ゆんゆんだろ?」

 

 

「ひゃいっ!あ?その、ど、しょ、かっ!」

 

 

 

 なんだって?

 

 何語だ。一体いつから紅魔の里は違う言語を使うようになったんだ。

 

 

 ゆんゆんは激しくどもっていたがようやく落ち着いたようだ。

 

 こいつはゆんゆん。会話したことはないが、俺がめぐみんとこめっこの野生動物二匹に餌をやっている時に遠くから構って欲しそうにめぐみんを見ていたから覚えている。

 

 

 

『おい、あれお前の友達だろ?一緒じゃなくていいのかよ。』

 

 

『…?ああ、アレはいいのです。構って欲しければこっちに来ればいいのに、行動に移さないあの子がわるいんですよ。』

 

 

 

 めぐみんがなんともドライな発言をしていた事も思い出した。世の中にはそれが出来ない子も居るんですよ、めぐみんさん。

 俺も多分遠慮して出来ない。

 

 名前だけは聞いておいた。紅魔族の族長の娘で、ゆんゆんだ。

 

 

 

「あ、あの…どちらさまで、しょうか…?な、何でわたしの名前…?」

 

 

「覚えてないか。ほら、数ヶ月前に紅魔の里でめぐみんとこめっこにーーー。」

 

 

「ーーーーーああ!あの時の!」

 

 

 

 

 どうやら思い出してもらえたようだ。これで不審者扱いはされずに済むな。

 

 それよりもなぜ一人でいるのだろう。めぐみんと一緒ではないのか。

 

 

 

「あ…めぐみんは先に二人組の冒険者とクエストを受けちゃいまして…。」

 

 

 

 一応めぐみんと一緒にアクセルに来たようだが、めぐみんはさっさとパーティーを組んで行ってしまったそうだ。相変わらずひでぇ扱いしやがる。めぐみん入れて三人ならもう一人くらい連れて行ってやりゃいいのに。

 

 

 

「あ!あの!もし、よ、よよよよかったら…一緒にク、クエスト…………。」

 

 

「ああ、じゃあとりあえず行ってみるか。」

 

 

 

 言葉の最後が消え入りそうどころか完全に消えていたが多分そんな内容のことを言ったのだろう。

 

 俺が返事すると本当に嬉しそうにコクコク頷く。パーティーを組むつもりは無かったが、このまま日がな一日一人で座っていそうな少女を放っておけなかった。

 

 それにしてもこいつは友達になろうとか言ったらどこまでもついて行きそうだな。悪いやつに引っかからんことを祈る。

 

 

 

 ※

 

 

 

『クエスト:ローリングボアを10頭討伐せよ』

 

 

 クエストを受けて森に来たはいいが、全然標的が見つからない。ゆんゆんによると生息域はこの辺りのはずだが…?

 

 

 ローリングボアは文字通り転がって体当たりしてくる猪のような生き物だ。鉱物を主食にしているため、体が岩石のように変質しており、その体当たりは民家を粉々にするのだとか。

 

 なぜ鉱物を主食にするのに森に住んでいるのだろうか。それこそ鉱山に住めばさして苦労せずに鉱石を食えるだろうに。あれか、わざと自分に試練を課しているのか。気が合いそうだな。

 

 

 

「見つかりませんね…。もも、もし場所を間違えてたらごめんなさい‼︎」

 

 

「気にすんな。そもそも俺はローリングボアなんて初めて聞いたしな。お前の知識あてにして文句言うのは筋違いだ。」

 

 

 

 しかしマジで姿も形も見えねえんだけど、本当に場所が…?

 

 …ふむ、鉱石…………。

 

 

 

 

「…なあ、もしかしてそいつら地中にいたりしない?普通鉱石って森にはあんまり無いだろ。あったとしてもそれは地中にあるんじゃねーの?」

 

 

「え?……あっ、確かに!で、でもどうしましょう…?」

 

 

 

 そう、それが問題だ。

 

 地中にいたとして、どうやって引き摺り出す?俺は無論そんなことは出来ない。習得可能スキル欄にはそれらしきスキルもちらほらあるけど、そもそも魔力がゼロに等しい俺では大して効果はないだろう。

 

 ゆんゆんに聞いても地面を丸ごと掘り出すような魔法や強い衝撃を与えるスキルは無いときた。まさか手で掘るわけにもいくまい。

 

 これは………詰んだか?

 

 

 記念すべき初クエストが失敗するのは業腹だが向き不向きってもんもある。大人しく他のパーティーに任せるのも手段の一つーーーーー

 

 

 

 突然轟音が響き渡る。

 

 と、同時に割と近い場所で何かが爆裂(・・)したかのようにこちらへ爆風が向かってくるのが見えた。咄嗟にゆんゆんをマントで包んで庇う。フレイムドラゴンの素材から作った火竜のマントだ。爆風などはかなり遮断してくれる。腕の中が色々柔らかいが緊急時だ。勘弁してもらおう。

 

 

 しばらくすると、なんとか爆風は収まった。周囲の木は折れていないにしても片面が焼き焦がされている。相当の熱量だったようだ。

 

 ゆんゆんを解放しながら音がした方を見ると、キノコ雲のように咲いた爆炎の華が少しずつ消えていくところだった。

 

 

 

「…んだありゃ…。」

 

 

「あ…、あれって…。」

 

 

 

 どうやらゆんゆんには心あたりがあるようだ。

 

 

 

「えっと、あれは多分めぐみんの爆裂魔法…です…。」

 

 

「あれが爆裂魔法か!」

 

 

 

 なるほど、聞きしに勝るとんでもない威力だ。こっちの世界にミサイルでも持ち込んだバカがいるのかと思った。

 

 めぐみんの話が本当なら今頃魔力切れでぶっ倒れているはずだが大丈夫だろうか。

 

 あれほどの威力をぶつけなきゃいけない相手と対峙しているならもし魔法を外してしまった後はかなり悲惨な事態になるぞ。

 …やっぱり使えないんじゃないか?爆裂魔法。

 

 

 ふと、そこら中からボコボコと音がし始めた。見ると岩の塊が次々と地面から盛り上がり、土を振り払うように体を揺すっている。

 

 

 

「おい、こいつらがそうか?」

 

 

「え?あ!はい!これがローリングボアですよ!」

 

 

 

 どうやら爆風と爆音に驚いて地中から上がってきたようだ。めぐみんも中々やるじゃないか!

 これで数が10頭いれば後は倒すだけだ。

 

 ゆんゆんが出てきたローリングボアの数を数え始める。

 

 

 

「えーと、数は…ひい、ふう、みいーーー」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「…十一、十二、十三ーーー」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「…三十、三十一…?た、たくさん…。」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「「ちょっ⁉︎多い多い多い多い‼︎」」

 

 

 

 なんということをしてくれたのでしょう。

 

 

 数が三十を超えた辺りでゆんゆんは数えるのを放棄したが、まだまだ出てくる。

 

 ローリングボア…転がる猪と聞くとポケ◯ンのドンファンを連想するが…いや、あれは象だったか?…まあいい。こいつらの見た目はどちらかというとゴローンに似ているな。

 ローリングボアは、今の音は俺たちのせいだと思ったのか怒り心頭といったご様子だ。一斉に吼えると凄まじい勢いで木々をなぎ倒しながらこちらへ転がってくる。すごく…固そうです…。

 

 

 

「おいやべえってこれ!早よ逃げろ!」

 

 

「もおおおお!めぐみんのばかああああ‼︎」

 

 

 

 俺が聞いた中で一番の大声だ。普段もそれのカケラほどでもいいからはっきり話してくれ。

 

 


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