この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。





27話

 

 

 ※

 

 

 めぐみんと仲良く兄妹喧嘩をした夜から一週間と少し経ったある日。俺はギルドでルナに魔王軍幹部の情報が入ったら教えてくれるように交渉していた。

 

 この一週間、ギルドからの信用を得るために一日に何回もクエストを受け、こなし続けた。その寝る間も惜しんでモンスターを斬り、様々な雑用をこなしていくさまはルナからも『もう終わったんですか⁉︎す、少し休んだらどうでしょう…?』と言われる始末だ。

 

 そのブラック活動によって今後は優先的に情報を回してもらえることになった。なんかルナの俺を見る目が頭のおかしいものを見るような感じがしたのはなんでだろう。

 

 

 現状、結界のせいで入れないというのなら、結界を消すために幹部を倒すしかないのだ。

 

 ウィズによると、結界は全部で八枚。必然、幹部も八人だが、そのうちの一人は倒したし、一人はもう結界には関与していない。

 

 今さらだけど王都でベルディアを見逃したのは痛かったよなあ。結界を知らなかったとはいえ、今後目撃されるとも限らない。なるべく会ったら即殺するのが良いか。

 

 …ウィズと戦り合うことも考えなくてはならないな。魔王との契約はリッチーと言えども破れないらしい。なんとか契約破棄させることは出来ないものか。

 ウィズが善良な性格をしているのはもう分かっている。あまり手に掛けたくはない。

 

 

 色々思考を回転させながら本日のクエスト、『増え過ぎた一撃ウサギの間引き』をするために最近悪魔が出ると噂の森へ向かう。

 

 この森は以前俺とゆんゆんが来た森なのだが、生息していたローリングボアは俺たちが八割がた殺ってしまったため、しばらくクエストは出ないとのことだ。

 

 

 一撃ウサギについて補足しておくと、見た目は可愛らしいのにその角による一撃は木を抉り飛ばし、しかも肉食であるという恐怖のモンスターだ。

 

 俺も初見の時は大変だった。愛でようとしていたら茂みからマシンガンのように連続で飛び出してきたのだ。

 なんだか殺すのは偲びなかったので飛んできたやつを片っ端から捕まえて角をへし折って全部逃がしてやった。

 角を折る最中に何匹かなぜか動かなくなったけど不可抗力でいいよね。

 

 

 

 俺が一撃ウサギ求めて徘徊していると、遥か遠くで爆音がして空気がビリビリ震える。あいつまたやりゃあがったな。

 

 最近はめぐみんとゆんゆんで行動することが多いようだが、この辺にはウサギもいないようだし、探しがてら様子を見に行くか。ほら、俺『お兄ちゃん』だし。

 

 もくもくと土煙が上がっているあたりを目指して歩き出す。そもそも森の中で爆裂魔法を撃つとかどういう神経をしているのだろう。森林破壊とかの心配はしないのか。果たしてあんな破壊願望丸出しの爆裂狂を仲間にしてくれるお人好しはいるのか。

 

 

 めぐみんの行く末を案じていると、程なくして爆心地と思しきクレーターが見えた。周辺の木は根こそぎ消しとばされている。やっぱ頭おかしいわこれ。

 

 爆裂魔法は視界の中ならどこにでも撃てるそうなのでめぐみんはここから見える範囲のどこかにいることになる。結構大変だな。

 

 

 どこにいるのかと辺りを見回していると、黒い物体が見えた。

 金属を思わせる光沢のある漆黒の肌に大きめな翼を生やした筋肉モリモリ、マッチョマンの変態…かどうかは分からない。

 見た感じは完全に悪魔という様相だが、あれが噂の悪魔なのか?

 

 その鉄丸を使った石島土門みたいな巨体がゆっくりと手を伸ばす。その手の先には倒れる二人の少女がーーーーー

 

 そこまで確認した瞬間に空気を爆ぜさせ、急行。

 めぐみんとゆんゆんを庇うように立ち、剣に手をかける。

 

 

 

「すみません。この二人は俺の連れでしてね。イタズラはご遠慮願えますか?」

 

 

「うおっ⁉︎なんだお前急に!速えな…。……あ!言っとくが何もやっちゃいねぇぞ!アホみたいな魔力を感じて来てみたらガキが倒れてるから声かけようと思っただけだ!本当だって!」

 

 

 

 ーーーどうやらただの親切だったようだ。それは悪いことをした。ちょっと頭に血が上りかけて判断力が落ちていたらしい。素直に頭を下げる。

 

 

 

「これは失礼しました。幼い少女を攫って良からぬことをするロリコンクソ野郎かと思いまして。ああ、俺はゼロと言います。以後、お見知り置きを。」

 

 

「ほんとに失礼だな⁉︎俺様の姿見たらもっと他に心配することあるだろ!

 …………ちっ…、俺様はホーストだ。事を荒立てるつもりはねえから見逃せや、人間。」

 

 

 

 言いながら身体に力を込めていくホースト。なんだ?俺が手を出すと思ってんのか?剣だってまだ抜いてないだろうに。

 

 

 

「ええ、どうぞ?何もしないなら危害は加えませんとも。それよりも何かアクセルにご用ですか?先ほどの親切のお礼にできる事ならある程度は…。」

 

 

「ん?今なんでもって…、」

 

 

「言ってねぇわ!言葉狩りはやめろクソ悪魔‼︎」

 

 

 

 

 敬語は投げ捨てるもの。

 態度を変えた俺をゲラゲラ笑いながら愉快そうにホーストが見る。

 

 

 

「お前面白いな。ゼロ、だったか、そんじゃあここら辺で真っ黒で巨大な魔獣を見なかったか?名前はウォルバク様ってんだが。」

 

 

 

 名前なんて聞いても知らんよ。

 黒い猛獣、というなら一昨日くらいに首無しにした初心者殺しと呼ばれる虎のようなモンスターが該当するが…?

 もしかしたら俺が知らぬ間に倒してしまったかもしれない。

 

 

 

「ああ、初心者殺しじゃあなくってな、なんつーかこう……もっと神聖な感じなんだよ。」

 

 

 

 益々分からん。残念だが俺じゃ力になれそうにないな。

 それにしても悪魔が神聖なものを探してるってなんだよ。お前らが一番忌み嫌うもんじゃないの?

 

 

 

「そ…、そうかぁ…。知らねえかあ…。いや、悪かったな。俺様はこの辺をしばらくウロついてるからなんかわかったら教えてくれ。」

 

 

 

 ゴツい顔をどこかしょんぼりさせながらトボトボと歩いて去っていくホースト。あの姿を他の冒険者が見たら色々とマズいのではないか、とも思ったが教えてやる程の恩でも無いので放置することにした。

 

 俺とホーストは結構な声で会話していたというのにまだ目を覚ます気配のないめぐみんとゆんゆんを頰を叩きながら起こすことにする。

 

 

 

「おい、めぐみん。起きろ、おい。」

 

 

「……う…んん…。ゼロ…?」

 

 

 

 どんだけ熟睡してんだ。一応モンスターだっているんだぞ。

 

 ようやく視界がはっきりしてきた様子のめぐみんは俺の姿を見た途端にバッ、と起き上がり自らの服を確認するように調べて身体を庇うように腕をクロスさせる。なんなんだ。

 

 

 

「ま…、まさかゼロが私達の身体を狙っていただなんて…。」

 

 

 

 ーーーーー。

 

 

 

「………はぁ⁉︎」

 

 

「ゆんゆん!早く起きてください!この変態から逃げますよ!」

 

 

 

 ブチ殺すぞこのクソガキ。

 俺があの悪魔見た時にどんだけ心配したと思ってんだ。

 お兄ちゃん悲しいわ。

 

 そうか、痴漢の冤罪とはこうして生まれるのか。絶対に許さねぇ!ドン・サウザンド‼︎

 

 そもそもお前の身体で欲情などでき………なくはないが、兄は妹にエロいことはしない(伏見つかさ先生の著作とヨスガノソラを見ながら)

 

 

 目を覚ましたゆんゆんに何やら耳元でボソボソ喋るめぐみん。ゆんゆんがこちらを見ながら後ずさる。

 

 

 

「ゼ…、ゼロさん…。信じてたのに、見損ないました!」

 

 

「早く離れますよ!ギルドにこの男の悪評を広めないと!」

 

 

 

 

 森を抜ける方向に走っていくめぐみんとゆんゆん。

 それを本当にする気なら今すぐにでも追いかけるべきなのだが、あの二人がそれをしないことを俺は分かっている。

 逃げる二人の口には笑みが浮かんでいたのを見たからな。

 

 

 

 上を向いてフーーーーーッ、と長い溜息を吐く。

 

 

 なるほど、俺がいつもからかっているから意趣返しのつもりなのだろう。だが普段俺は別に反撃を禁止していない。

 これ即ち俺も反撃をしていいということだ。

 

 大体、貴様らのような鈍足で俺から逃げようなどとは数百万年早い。

 

 俺は二人が逃げた方向を向いて誰にともなく呟いた。

 

 

 

「知らなかったのか?大魔王からは、逃げられない。」

 

 

 

 いや、俺大魔王じゃないけど。

 

 

 そして迅速に懲らしめるために動き出す。

 具体的にはめぐみん達の行く先々に瞬間移動のように先回りをして決して森から出さないように動いた。

 

 ついでに目に付いた二人の進行方向にいた一撃ウサギを危なくないように倒しておく。これぞまさに一石二鳥。

 

 夜になっても森から出さなかったら、ゆんゆんがとうとう大泣き、めぐみんは涙目になって謝ってきたので許してやった。

 

 

 

 悪いことをしたと思ったら謝る。俺は躾はしっかりするタイプなのだ。

 ……帰りに飯を奢ってやったらあらかた忘れてしまったようだが。

 

 

 

 


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