この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。





29話

 

 

 ※

 

 

 

「あの悪魔が探してるのは黒い魔獣だそうですね。」

 

 

「あ、ああ。確かそういってたな。」

 

 

 

 ところ変わってめぐみんの部屋。

 考えたら女の子の部屋に入るのは初めてだな。王都では入ろうと思えばアイリスの部屋には入れただろうが、いつもアイリスが俺のところに来るから行く必要も無かった。

 

 

 

「…あの、そんなにジロジロ見ないでもらえませんか。特に変わったところは無いと思いますけど…。」

 

 

「おっ…、と悪い。それで見せたいものってのはなんだ。まさかその黒い魔獣…ウォルバクってのを見つけたのか?」

 

 

 

 最悪そいつを渡せば事態を収拾できる。そう考える俺をよそにめぐみんはベッドの下に隠れていた一匹の黒猫を引っ張り出す。

 

 

 

「おそらくあの悪魔が探してるのはこの黒猫です。名前はウォルバクなんて変なのじゃなく、ちょむすけですが。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 腕を組んで首を捻りながらホーストの話を思い出す。

 …俺が聞いた話とだいぶ違うな。デカくもないし、神聖な感じもしない。

 

 

 

「…こいつがその魔獣だってのはどうしてそう思ったんだ?正直お前の勘違いを疑ってるんだが。」

 

 

「私がアクセルに来る前、紅魔の里から出てすぐはしばらくアルカンレティアにいたことは話しましたっけ。」

 

 

「初耳だ。」

 

 

「その滞在中にも一度、アーネスとかいう上位悪魔がウォルバクという名前の魔獣を探しに来たんです。」

 

 

 

 ーーーなるほど、話が見えてきたぞ。

 

 

 

「アーネスはこのちょむすけがウォルバクだと言っていたんですよ。それで、襲いかかって来たので爆裂魔法で吹き飛ばしたんですが…。」

 

 

「…オーケー。事情は分かった。それで…、お前はどうするつもりだ?」

 

 

 

 俺にこいつを見せてきた理由が分からない。こいつの処遇を俺に任せるなら容赦無く俺はホーストに渡すだろう。めぐみんも俺とある程度の付き合いはあるんだ、それくらいは分かってるはず…。

 

 

 

「どうしたらいいと……思いますか……?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 ……こんなに不安そうなめぐみんは初めて見るな。

 

 

 

「俺が言う言葉はだいたい予想できてんだろ。……渡しちまえ。」

 

 

 

 俺の言葉にめぐみんはビクッと肩を竦ませる。今の話を聞く限りでは俺の意見は変わらん。

 

 

 

「いいか?あの悪魔は強い。おそらく俺以外ではまともに打ち合えもしないだろう。それがこの黒猫一匹で帰ってくれるんだぞ。いい話じゃないか!それで解決するなら是非そうするべきだ!」

 

 

 

 袖をギュッと握って顔をうつむかせる。

 

 

 

「もう討伐隊は出発しちまってんだぞ?もしかしたら全滅もあり得るかもしれん。お前がそのたった一匹を渡せば救えるかもしれない命を奪おうとしているのは…分かるよな?」

 

 

「…お前がどういう経緯でこいつを飼ってんのかは知らん。だが、ホーストがこんなに人間を敵に回してまで探し続けてるんだ。…相当大事なやつなんだろう。それを横から奪ったのはお前かもしれないんだ。……返すのが、筋だとは思わないのか…?」

 

 

「俺のスタンスは基本的に魔王本人でない限り変わらんぞ。『人間寄りの中立』だ。相手が人間を害さなければどちらの味方にもつくし、こっちが一方的に向こうを害せば向こうを庇うことだってある。今回は一応もう被害が出てるからな。それでも戦わずに、被害が少なくて済むなら俺はその方法を推す。」

 

 

 

 目を潤ませながらも強い意思の宿る瞳で俺を見据える。

 

 

 

「……渡したく、ありません。」

 

 

「……こっちに被害が出ても、か?ならなんでそいつを俺に見せた。あのまま行けば普通にホーストと戦っていたぞ。俺はそいつの存在すら知らなかったんだ、隠し通すなんざいくらでもできただろう。」

 

 

「その方が確実だからです。」

 

 

「…?」

 

 

「あの悪魔がこの子を探しているなら手当たり次第でいつか見つかるかもしれません。ゼロがあの悪魔の討伐に乗り気じゃないのは分かってましたからね。ですから……これは依頼です。」

 

 

「依頼…お前から俺にか。」

 

 

「はい、私とこの子を守ってください。お金はここに一千万エリス用意してあります。あの悪魔を倒して欲しいのです。」

 

 

「……お前にとってそいつはそんなに大切か。そんな大金、どうやって都合したか知らんがそれだけの金を払ってでも守りたいものなのか?…素直に渡した方がいいとは…」

 

 

「思いません‼︎」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「この子は里にいた時からウチにいて…里を出た後もずっと一緒にいました!最初はこめっこが食料として捕まえてきた猫です。でも……もう私の家族なんです!誰にも渡したくありません!」

 

 

「お願いします!ゼロが意見を変えないなら、せめて私の手助けをしてくれるだけで良いんです!トドメは私が刺しますから……私の家族を助けてください‼︎」

 

 

「はいお任せ。最初っからそう言やいいのによ。」

 

 

「…………え?……い、いいんですか…?」

 

 

「俺は依頼は非人道的なもんじゃなきゃ断らん。今のはお前が最初に『どうしたらいいですか』なんて聞いてくるから俺の意見を言っただけだ。」

 

 

「じゃ、じゃあ私の恥ずかしい告白はなんだったのですか⁉︎」

 

 

「無駄ではなかったぞ。ただなんの理屈もなく『助けてください』では俺のモチベーションが違う。だから、その覚悟があれば俺は全力を尽くすって寸法よ。」

 

 

「そして勘違いすんな。金は要らん。その代わりに今の覚悟を嘘にするな。動きは止めてやるからトドメはお前がやれ。お前の家族はお前の最強の爆裂魔法で守って見せろ。」

 

 

「そ、それは構いませんが…、あの…お金は本当に要らないんですか?」

 

 

「くどい。兄貴ってのは妹が涙を流して頼んできた事を報酬有りで出来るような脳内構造はしてねえんだよ。」

 

 

 

 目を丸くするめぐみん。そろそろ俺が兄貴と言い張っても反応すらしなくなってきたな。これが調教というものだ。いやらしい意味じゃなくてね。

 

 

 

「お兄ちゃんにまっかせなさ〜い☆」

 

 

「あ、すみません。すごく気持ち悪いのでやめてもらえませんか。」

 

 

「辛辣ゥ‼︎」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「…チッ、無駄に頭数だけ揃えやがって…!いっそのこと全員やっちまうか?大した奴はいないしな……ん?…お前…。」

 

 

 

 ホーストは討伐隊に見つからないように森の中を隠れながら移動していた。

 そもそも他の奴らはホーストの姿を知らないぶん俺たちが見つけるのが早かったのだろう。

 俺は剣を抜かないままホーストに気軽に話しかける。

 

 

 

「よう、ホースト。大変そうだな?」

 

 

「…へっ、なんてこった、お前もそっち側なのかよ…。さすがに万全じゃない今の俺じゃ歯も爪も立ちゃしねえ。」

 

 

「万全じゃない?」

 

 

 

 見ると、確かに体に傷が付き、翼も一枚切り飛ばされていた。これはあのマツルギにやられたのか。なるほど、中途半端とか思って悪かったな。高レベル冒険者の意地は見せたってとこか。

 

 

 

「まあ待てよ。俺が来たのは約束を守るためだ。ほら、これがお前の探してたウォルバクって魔獣じゃないか?」

 

 

 

 言いながら隣に立つめぐみんが持っている黒猫を示す。どういうことかと言いたげなめぐみんだが、落ち着けって。

 

 

 

「この毛玉がか?……確かにウォルバク様の気配がする…。マジかよ、お前良い奴だったんだなぁ!さあ、早くウォルバク様をこっちに「渡すわけにはいかんのだ」………何?」

 

 

「残念だがこいつはウチの妹が飼っていてね。勝手な話だとは思うが…、お兄ちゃんとしては妹の頼みは聞かんとなあ。」

 

 

「てめえ…、約束ってのはどうした!」

 

 

「おいおい、あの時の会話を思い出せよ。お前は『何か分かったら教えてくれ』としか言ってねえぞ?……つまりこれで約束は履行、貸し借りの話はゼロだ。」

 

 

 

 我ながら屁理屈にしか聞こえないが、今のセリフはホーストの琴線に触れたようだ。

 

 

 

「フハッ!フハハハハハハ‼︎た…、確かにな!確かに俺はそうとしか言わなかった!約束だけ(・・)は何がなんでも守るスタンス、俺は嫌いじゃねえぜ!……お前人間より悪魔に向いてるぜ、ゼロ。」

 

 

「…何で俺は魔王軍やら悪魔からの評価が軒並み高いのかねえ…。」

 

 

 

 ここでようやく俺は剣を引き抜く。そして剣を前に突き出し、用意していた口上を述べた。

 

 

 

「つー訳で悪いな、ホースト。こっから先は俺の喧嘩だ。」

 

 

 

 そこでめぐみんも杖を俺が突き出した剣に重ねて口を開く。

 

 

 

「いいえ、ゼロ。私達(・・)の喧嘩です‼︎」

 

 

 

 

 もちろん教えたのは俺です。この口上、紅魔族の感性的にもアリだったようで、結構ノリノリでやってるようだ。

 

 

 一度言ってみたかった……‼︎

 

 

 

 

 


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