この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

3 / 105


再投稿。





3話

 

 

 

 ※

 

 

 俺が産まれた日からもう十二年が経つ。

 

 あの日から一日足りとも休まずに鍛え続けた。剣を振れるようになってからはそれこそ朝、太陽が昇る前に起っきして、剣を振り上げ、振り下ろす。その動作を最初はぶっ倒れるまで続けたものである。倒れなくなってからは夜、太陽が落ちて自分が見えなくなるまで剣を振る毎日。

 

 今では振った剣先から空気が弾ける音が聞こえ、体を動かす速度は音速に届くのではないかとも感じる。いや、絶対におかしいけどな。十二歳のガキがこれだけ強くなれるのなら他の奴らはどれだけサボってんだって話だ。

 その他の奴らはサボってる癖に最近は俺の周りをうろちょろして難癖付けてくるんだぜ?文句言うんなら俺と同じだけ訓練してからにしろってんだ。無視して剣振ってると何故か怯えた表情をして逃げていくし。何がしたいのか全然わからん。

 

 そんな自分を鍛え続ける日々の中で、俺は自分の体が俺の常識と比べて頭がおかしい程に怪我が治るのが早い事に気付いた。手の皮がズル剥けになろうと、指の筋が切れたように感じた時も、寝て起きたら次の日には治ってるのである。そして二度と同じような怪我はしない。

 恐らくこれはこの世界に住む人間の特徴なのだろう。お袋に聞いたら「そんなこともあるよね」とか言ってたし、この世界の戦闘力の基準がかなり高いことも知った。いちいち怪我くらいで何日も休んだりはしないということか。

 なんつーブラック的な考えだとも思わなくも無いが、一刻も早く強くなりたい俺からすればありがたい事この上ない……………。

 

 

 ……と思ってた時期が俺にもありました。

 

 

 

「………どうなってんだ?」

 

 

 

 いつも練習場所にしている木の根元で目を覚ます。別に俺に突発性居眠り病の気があるという事じゃない。俺は同じ世界を夢の中で何度もループしたりしないし、『雀聖』とも呼ばれない。

 ただ、いつもの通りに動きながら剣を全力で振っていたら、いきなり全身が裂けたので動けるようになるまで横になっていたのだ。

 

『動いていたら身体が裂けた』。中々のミステリーに感じるが、この現象には覚えと言うか、似たような物が知識の中に含まれていた。

 

 

『物体が音速を超えると衝撃波が出る』。

 

 

 この極めて当然な物理現象だ。俺の知ってるだけでもこの影響を受けて怪我したのは遠山キンジと愚地克巳の二人がいる。つーかどう考えても『桜花』と『マッハ突き』は同じ物だと思うんだよね。

 その二人だって後々まで後遺症を引き摺る程にその衝撃波は強いのだ。それこそ俺の全身を引き裂くくらいには。

 

 それがどうだ。寝て起きたらその傷が影も形もないでは無いか。いくら俺の基準よりもこの世界が激しいと言ってもこれはあり得ないだろう。

 試しにさっきよりも速く動いてみる。衝撃波らしき物は視認出来たが、それで怪我をするような事もなく、普通に立っていられた。

 

 

 ………ほんの少しだけ。自分が怖くなる。

 

 

 だってそうだろう。産まれてすぐに喋る、どこで得た知識かもわからん事を知ってる、おまけにこの超速回復と来た。俺が人間なのかどうかすら今の俺は疑っている。

 

 とりあえず夜も更けてきたので家に帰る。親父も女神だとか変な事を言ってたみたいだし、帰ったら親父の話でも聞いてみるか……。

 

 

 

 ※

 

 

 

「お父さん?人間に決まってるじゃない。何言ってんの?」

 

 

 

 帰ってすぐにお袋に親父の事を聞いたらバカを見る目で見られた。失礼な話である。

 

 確かにいきなりだとは思ったので事のあらましを説明する。そもそも着ていた服が俺の血で真っ赤だったのだから誤魔化しようも無いが。そしてそれを聞いたお袋はーーーーー。

 

 

 

「……?それってそんなに重要な事なの?どうでもよくない?」

 

 

「ど…⁉︎どうでもいいって…どういうことだよ……」

 

 

 

 少なからずショックを受けながら聞き返す。

 

 いくらお袋が究極の放任主義だからって息子が自分の事が分からずに不安がってんだから少しはなんかあるだろう。

 

 若干の失望と怒りを含めた俺の視線を真っ向から受けるお袋の答えは…………。

 

 

 

「うーん、確かにね?そんなに早く怪我が治るのは聞いた事ないよ。回復魔法なら別だけどね。

 でも良いじゃない。便利で。怪我が早く治るなんて冒険者からしたらゼロの言う『アドバンテージ』に他ならないよ。

 ゼロが自分の事が分からないっていう不安は分からないでも無いけどさ、仮にそれが判ったとして、何か変わるの?ゼロがゼロなのは変わらないでしょう?

 その結果がもし人間じゃないってなったとしても今人間として暮らせてるんだからそのまま暮らせば良いだけだし、何も変わらないよ。少なくともお母さんが態度をキツくするなんて事は絶対に無いから‼︎安心だね‼︎」

 

 

 

 いつも通り予想の斜め上の答えだった。

 お袋の意見を吟味するように頭の中で転がしてみる。

 

 

 ……………あれ、その通りじゃね?

 

 

 うん。俺の正体が人間じゃなかったとしても、それでいきなり人類を滅ぼそうとかは絶対思わないだろう。今までとなんら変わらずに鍛錬を続けるに違いない。気にするだけ無駄って事か。

 

 それに、そもそもお袋以外とはまともに会話すらした事がない俺だ。だってゼロ歳からずっと鍛えてるからね。

 だったらお袋さえ変わらずに居てくれれば俺はそれで良い気がしてきた。

 

 

 

「……お袋、ありがとうな」

 

 

「どういたしまして!さ、ご飯も出来るから、着替えて着替えて!」

 

 

 

 ニッと笑いながら何も変わらない様子で家事を始めるお袋。

 それを眺めて、俺はこの人には頭が上がらないんだろうな、と。そう思った。

 

 

 

「そういえば、親父もお袋もそれなりに魔法使えたんだろ?なら俺にも魔法の才能とやらはあんのかね」

 

 

 

 お袋が作ってくれた飯を食いながらついでに、と気になる事を聞いてみる。これだって俺の今後を左右する大事な事だ。

 俺は今の時点でかなり強いと自負している。本当に最近になってからだが、剣を速さ重視で振ると斬撃のような物まで飛ばせるようになってきた。この世の人間は鍛えれば皆こんなことが出来るのかと感動したものである。

 そんな俺には魔法使い職として名を馳せたという親父の血が流れている。であれば、俺は剣も使えて魔法も使えるハイブリッド冒険者になれる可能性があるかもしれない。

 

 

 

「……どうだろね。優秀な魔法使いの子供が優秀なのは良く聞くけど、お父さんはともかく私は大したことないからなあ。

 ……あ、そうだ。ちょっとお待ちくださいねー」

 

 

 

 席を立ち、部屋の奥にある押入れをゴソゴソやるお袋。

 

 どうでもいいけどウチの押入れどうなってんの?中が四次元と繋がってんじゃ無いかってくらい色んな物入ってるよね。

 

 今度中を気が済むまで調べたい、という欲求が湧いてきた俺の元へ植物の茎のような細い物が数本置かれた。

 

 なんだこの茎昆布は。食えってか。

 

 

 

「惜しい!これは『魔力珪藻』の茎で、咥えるとその色が変化して咥えた人の魔力量を教えてくれるんだよ。今は綺麗な緑色でしょ?魔力が多くなるに連れて赤っぽくなっていくの。

 生まれつき魔力が桁外れな紅魔族の中でも優秀な人がこれを咥えると色が赤を通り越してどす黒くなるっていうね。…ほら、咥えてみて?」

 

 

「………なんか体温計みたいだな」

 

 

「似たような物かもねー。……そういえばゼロって風邪とかひいたことないね?私としては助かってるけど」

 

 

 

 多分それも俺の回復力の特徴だろう。下手な病気はおろか、この歳まで風邪一つ引いたことがないなんてのはかなり珍しいんじゃないかね。

 

 

 さて、俺の魔力量はいかほどかーーー。

 

 

 親父の形見は魔法には関係無かったが、親父の血は俺にどのくらいの才能を遺してくれたのだろう。そう思いながら魔力珪藻の茎を咥え、しばらく待つ。

 

 

 

 ……………………………。

 

 

 

「…………全然変わんないんだけど」

 

 

「あ、あれっ?おっかしいなあ、結構放置してたから効果切れちゃったのかな?」

 

 

 

 お袋も口に咥えてみると、数秒程で茎の色は鮮やかな緑色からお袋の髪の様な真紅に染まった。

 

 お袋が何とも言えない顔でチラチラ俺を見てくる。

 

 

 

「…………えっと……。効果は…あるね……」

 

 

「俺もう寝るわ」

 

 

「わああああああ‼︎ごめんごめん、ごめんってば!お母さんがこんなもの持ってきたばかりに‼︎」

 

 

 

 親父には剣の才能が欠片も存在しなかったようだが、俺には魔法の才能が皆無だったようだ。

 

 魔法使える!と楽しみにしていた身としては残念極まりないが、俺のやる事は今までと変わりない。これで剣一本に集中出来ると考えればそれほどでも無いさ(震え声)。

 

 

 

 …………泣いてなんか無いぞ‼︎

 

 

 

 ※

 

 

 四年後。

 

 数ヶ月前に十六歳の誕生日を迎えた俺は一般的に冒険者の適正年齢と呼ばれる歳になった。中にはもっと若い内から冒険者としての経験を積む奴もいるみたいだが。

 何はともあれ、そろそろ俺も冒険者登録をするために『始まりの街アクセル』に向かおうと思う。

 

 

 

「は?朝っぱらから何言ってるの?ダメですけど」

 

 

「ダメとか無いです」

 

 

「ダメですー!」

 

 

 

 お袋はダメだと言うが、これはもう決めた事なのです。

 っつーか今まで俺のしたい事は人に迷惑かけなきゃ何しても良いとかいう放任主義のお袋が今回はどんな風の吹きまわしだよ。俺を納得させる理由が言えるなら言ってみろ。

 

 

 

「私が寂しいから、ダメです」

 

 

「お、おう………」

 

 

 

 そんな直球で言われても反応に困るな……。

 

 いや、しかし俺は産まれた時から冒険者になりたいと言っていたではないか。そしてそれをお袋は応援すると言った。それがいざなろうとするとダメとは何事だ。そいつはスジが通らねえな。

 

 

 

「大体、何で急にそんな事言い出したの?お母さん何かしちゃった?だったら謝るから………」

 

 

「お袋、違うんだよ。逆だ、お袋は優し過ぎるんだよ」

 

 

 

 それに急にではない。十六歳になったら旅に出て冒険者になるという事はずっと前から決めてあった。本当は十六歳の誕生日の日に出ようと思ってたんだが、俺もお袋と別れたくなくて先延ばしにしちまった。恥ずかしい限りである。

 

 

 

「お袋とずっと一緒に暮らすのは魅力的だ。出来ればそうしたいという気持ちがあるのは否定できねえ」

 

 

「だったらーーー」

 

 

「けどそれをしたらそれこそ駄目になっちまう。俺はいつか冒険者になるために産まれてから今日この時まで一日も休まずに鍛えてきた。ここで折れたら今までの努力、それに費やした時間が全部消えるんだよ。

 それは嫌だ。お袋が言ってくれた事だぞ、『俺の好きなように生きる』。お袋は自分で言った事を嘘にするつもりかよ。

 

 ……冒険者になるのは俺が今本当にやりたい事なんだ。今回ばかりはお袋になんと言われようと聞く気はねえぞ」

 

 

 

 これが俺の偽らざる気持ちだ。お袋だって頭が硬い訳じゃ無い。ちゃんと誠意を込めれば分かってくれるはず………。

 

 

 

「……………………いつ出るつもりなの?」

 

 

 

 なんか凄い葛藤が垣間見えたけどこの流れは大変よろしい。

 今日は朝から快晴だし、ちょうどいいだろう。

 

 

 

「今から」

 

 

「急過ぎない⁉︎やだやだやだ‼︎私一人になっちゃうじゃない!お母さんが寂しくて死んじゃっても良いの⁉︎ゼロの人でなし!」

 

 

 

 おい、今の許してくれそうな雰囲気どこ行ったし。カムバック。

 

 

 

「あんたは兎かなんかかよ⁉︎全然こころぴょんぴょんしねえわ!

 大体な、人間そう簡単にゃ死なねえよ!俺を見ろ、全身ズタズタになっても寝て起きたら治るんだぞ‼︎」

 

 

「それはゼロがおかしいの!ゼロみたいな人外と一緒にされちゃたまったもんじゃないし!私は寂しいと死んじゃうかもしれないでしょ⁉︎」

 

 

「ついに息子を人外扱いしやがったな⁉︎あんたの鋼鉄の心臓はその程度じゃ傷一つ付かねえよ!賭けてもいいね‼︎」

 

 

「あああ⁉︎言ったね、言っちゃったね?じゃあ賭けましょうか‼︎ゼロが旅から帰って来て、私が死んでたら私の勝ち、死んでなかったらゼロの勝ち‼︎」

 

 

「……いいだろう。何を賭ける?」

 

 

「………私が勝ったら私のお墓にお嫁さんと孫を連れてお墓参りに来て」

 

 

「は?いや待て、何でそんな話になるんだよ。嫁がどうとか関係無えだろ」

 

 

「お母さん、これでもゼロの事心配してるんだよ?ほら、ゼロって全然人と話さないじゃない?このまま誰とも関わらなかったら冒険者引退してから一人で生きなきゃいけないんだよ?それは私草葉の陰で大号泣しちゃうから、そうならないために」

 

 

 

 なんという余計なお世話。そんな簡単に嫁が見つかるかよ。お袋は世の中を舐めきってるとしか思えんな。

 それに俺が今まで人と関わらなかったのは必要が無かったからだ。必要があればそうする。そこまでコミュ症では無いぞ。

 

 

 

「……俺が勝ったら?」

 

 

「うーん……、そうねえ。………ゼロが好きなお粥作ってあげる」

 

 

「やっす」

 

 

「お前の血は何色だあ‼︎」

 

 

 

 普通に赤ですけど。

 

 繰り出されるお袋の連続パンチを軽々といなしながらお袋に話しかける。

 

 

 

「お袋、俺はお袋には本当に感謝してるんだよ。俺が産まれた時に怖がらないでくれた事。俺に色んな考え方があるって教えてくれた事。……今まで育ててくれた事。数え出したらキリが無いくらいにはな」

 

 

 

 何故かパンチが速くなる。いや、ちょっと。全部腰が入ってるのに中々の回転の速さだな。そして急所狙いを織り交ぜるの止めてもらえませんかね。

 

 

 

「向こうで落ち着いたらまた帰って来るよ。数年はかかるだろうけどさ。

 ………今までありがとう。元気にしててくれ。死ぬなんて言葉使うなよ」

 

 

 

 これ以上会話してたら俺でも泣きそうになっちゃうから早く出たいんだが。

 

 そんな甘々な俺を余所に、拳を今まで以上に強く握って振りかぶるお袋。受け止めるか避けるかしようと思ったが、『避けるな』と睨まれた様な気がして動きを止める。まあこれはある意味俺の我が儘なんだし、罰くらい受けるか。

 思えば、お袋が俺に手を上げるのは初めてではないだろうか。そう考えれば真新しいとも言えるしな。

 

 さあ来い、と身構える俺の鳩尾を。

 

 

 

「うぐぅ⁉︎」

 

 

 

 ドゴン、と鈍い音と共に想像を遥かに上回る衝撃が貫いた。

 やっべ、うぐぅとか言っちゃったよ。たい焼き食べなきゃ(使命感)

 

 そんな超威力のストレートを放ったお袋はフッ…、とニヒルに笑い呟いた。

 

 

 

「憶えておく事ね。母の拳は息子の防御を無視できるってことを……」

 

 

「超強力な防御力無視攻撃か……。それは憶えておかないとな……」

 

 

 

 お袋はもう一度ニヤリと笑うと俺に背を向けた。

 

 

 

「さ、早く行った行った!自分で決めた事なんだから、やり遂げなきゃ駄目だよ!」

 

 

 

 どうやらこのまま行かせてくれるらしい。少しだけ迷った末にお袋に頭を下げる。

 実は昨日の夜に準備しておいた手荷物を持ち、家のドアを開けて振り返ると、お袋がこちらに手を翳していた。その手が光っているのはなんだろう。

 

 

 

「いやね、ゼロには私の魔法見せてなかったなって思ってさ。これは私が一番得意な支援魔法なんだ」

 

 

 

 支援魔法。今ここで掛けてもらうのは良いが、その効果はどのくらい続くのだろうか。攻撃が上がるにせよ、防御が上がるにせよ、そう長く続くとは思えないが、くれるというのだから有り難く頂戴しよう。

 

 

 

「いくよ………!『ブレッシング』‼︎」

 

 

 

 お袋がおそらく詠唱だろう、聞き慣れない単語を口にすると同時に俺の身体が光に包まれる。しかしそれだけだ。力が湧いてくるとか、動きが素早くなったとか、変化らしきものが見られない。

 今のは何の支援魔法なんだよ。ただ光っただけだぞ。

 

 

 

「秘密だよ。冒険者になればその内分かるからさ。…………じゃあね、ゼロ。ゼロなら心配要らないかもしれないけど、身体には気を付けてね。私が教えてあげたのは私が冒険者として体験した事だけだから、きっとまだたくさん知らない事もあるよ。それをいつか聞かせてくれると嬉しいかな」

 

 

 

 そう言ってまた背を向けてしまう。もうこちらを見る気は無さそうだ。

 再び頭を下げてドアを閉める。見えてはいないだろうが、こういうのは気持ちの問題だ。

 

 俺が帰って来たらどんな事をお袋に話してやれるだろうか。そう考えかけて思考を中断、苦笑する。今から旅に出るってのにもう帰って来た時の事を考えてどうするんだ。未練タラタラじゃねえか。

 

 とりあえずはアクセルに向かうことだけを頭に入れておけばいい。その後のことはその時になってからでないと分からないさ。

 

 しばらくどころか下手をすれば一生会えなくなるお袋の事を思い浮かべ、それをなるべく頭の片隅に追いやりながら村を踏み出す。

 

 

 

 願わくば、この旅路に祝福のあらん事を。そんなお袋の声が最後に聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 一時間後。

 

 

 周囲に何も見えない、邪魔する物が何もない平原を歩く俺は、何かが近づいて来る気配がして剣を抜いた。

 早速モンスターとの遭遇か、と思ったが、周囲には本当にそれらしき影が無い。しかし気配は確かにする。

 

 唐突に俺の周辺が暗くなる。嫌な予感がして全力で前に跳ぶと、直後にとんでもない重量が先ほどまで俺がいた地面に激突した。その大きさと重量によってかなりの量の砂煙が舞い上がり、襲撃者の姿を覆い隠してしまう。

 

 おかしい。お袋からこの辺りに生息するモンスターの情報は教えてもらったが、ここまで巨大なモンスターなどいないはずだ。いたらあんな小さな村などとうに捨てられているだろう。

 正体を確かめるべく砂煙が晴れるのを待つ俺に凄まじい熱量の炎が吐きかけられた。砂煙の内側から、それを吹き散らしての火炎放射を間一髪のところで躱すが、あまりにも熱が強いのか、その炎が掠っただけの地面が融解してしまっていた。

 

 この時点で俺の嫌な予感が想像よりも悪い方向に向かっている事を確信してしまった。こんな熱量の炎を体内で生成できる存在など限られている。

 恐る恐る、砂煙が晴れた事によって露わになった襲撃者を見る。

 

 まず目に付くのはその巨体だ。優に三十メートルはある、俺の家よりもでかい体にびっしりと敷き詰められた赤い鱗。身体のでかさに比例するかのように広げられた空を覆うような翼。俺が知る知識の中でも伝説と呼ばれ、この世界に於いては生態系の頂点とされる存在、『ドラゴン』がそこに鎮座していた。

 

 

 ……………うん、こういう時は確かこう叫べば良いんだっけか。

 

 

 そんなお決まりの定型句を口に出すために思いっきり息を吸い、それ(・・)を力の限り空気の振動として放出した。せーの。

 

 

 

 

 

「不幸だあああああああーーーーーーっっっ‼︎‼︎」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。