この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






30話

 

 

 

 ※

 

 

 気付いたことがある。

 

 魔王軍や悪魔と戦闘するとき、俺を導いてくれる人影が現れるのだ。そいつは全体的に赤と黒でぼやけているので詳細は何一つ分からない。

 

 ただ、分かることもある。こいつ(・・・)は俺よりもずっと強い。

 こいつが動いた軌跡をトレースするだけでどんな奴にも傷を与え、雑魚共は為すすべなく虫を潰すように死んでいく。

 

 俺ではあんなに効率的に斬ることは出来ない。こいつは相手の動きが全て分かっているかのように淀みなく剣を振るう。俺でも勝てることは勝てるのだろう。だが、こいつを真似した方がずっと早く、速く、疾く終わる。被害も少ない。

 

 だから俺はあいつを追い続ける。今はまだ全然あいつの方が速い。だが戦闘を続けるうちに少しずつ、少しずつ背中が近づいているのだ。それが楽しい。愉しい。たのしい。こんなにはっきりとした目標を持てることが楽しくて仕方がない。口の端が獰猛に歪むのを自覚してしまうほどに。

 

 残念なのは、こいつが俺を手助けするのは別に俺を心配してのことではないことだ。むしろこいつは俺を憎んですらいる。親の仇のように、まるで自分を乗っ取られた(・・・・・・・・・)かのように時々睨んでくるのだ。『お前に手を貸すのは仕方がないんだ。』、『本当はお前など、今すぐにでも俺が殺してやりたいんだ。』そんな声が、見えない口から俺に投げかけられる気がする。

 

「そんなことを言うなよ。」「仲良くしようぜ。」そう言いたくてあいつを追う。あいつはそんな言葉など聞きたくもないとばかりにスピードを上げて敵を屠り続ける。俺も真似をして剣を振る。いつか、いつか追い付いてみせる。追い付いた時、自分に何かが起こる気がするのだ。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからないが、それを確かめるためにひたすらにトレースを続ける。

 

 なぜこいつは悪魔や魔王軍との戦闘にしか出てこないのか。普段の戦闘も出てきてくれれば、きっと愉しいし、もっと早く追い付けるのに。そんなことを確かめるためにも、ひたすらに脚を、手を、身体を動かす。

 

 

 

 赤黒い俺の目標は、まだ遠い。

 

 

 

 ※

 

 

 

「クソッタレがああ!ちょこまか動き回るやつは苦手なんだよおおおお‼︎」

 

 

 

 叫びながらホーストが腕を振るう。最小限、当たらないように頭を後ろに引き、またすぐに戻して振り切った腕を切り落とした。ホーストからは俺がすり抜けたように見えただろう。

 

 

 

「ぐあっ⁉︎いっ………てえなあああああ‼︎『インフェルノ』おおお‼︎」

 

 

 

 残った片腕で上級魔法を放つが…、炎…?遅すぎてあくびがでるな。

 

 大火球に直進し、当たる瞬間にスライディング。態勢を戻し、伸び上がりながらホーストを飛び越え、最後の翼を毟り取る。ホーストの悲鳴が聞こえないうちに膝の裏をデュランダルで刺し、貫通させる。

 と、ホーストが脚に思い切り力を入れて筋肉を締めたようだ。抜けない。

 

 

 

「馬鹿が‼︎」

 

 

 

 腰を捻って後ろにいる俺を無理矢理ラリアットに巻き込もうとするホースト。腕が振るわれる方向に頭を移動させてそのまま一回転する。

 ホーストの腕には何の感触も無いはずだが、めぐみんからは俺の頭がモロに弾き飛ばされたように見えたようだ。小さく「キャッ…‼︎」と悲鳴が聞こえた。中々可愛らしい声も出せるじゃないか。あと落ち着けよ。頭を殴られたインパクト音がしなかったろうが。

 

 抜けないなら、とデュランダルをさらに突き刺し、腰の回転で膝から丸ごとぶった斬る。さすがにいきなり片足にされてはバランスを保てなかったのか、ホーストが倒れていく。倒れながらこちらに向かって魔法を詠唱しているようだ。

 

 

 

「『ライトニング・ストライク』‼︎」

 

 

 

 詠唱からして雷系だな。それを確認した俺はデュランダルを近くの木に投げ刺し、手から離す。雷の魔法が金属に反応するのは予習済みだ。

 

 俺とは明後日の方向に放たれた魔法に呆気に取られるホースト。その詠唱したために開かれた大きな口に懐からある瓶を取り出して数個、放り込む。

 

 驚いたホーストが口を閉じたのを確認してから渾身の力でアッパーカットを決める。

 途端に爆音が上がり、ホーストの口からとんでもない量の血が噴き出た。

 

 そのまま両手を地面についてバク転をしながら焦げ付いた木に刺さったデュランダルを引き抜く。

 

 今のはウィズの店で買った衝撃を加えると爆発するポーションだ。俺が思い付いた使い方とは違うが、こんな使い方もある。…二度と出来るとは思わないけど。

 

 

 そしてこれが本来の使い方だ。

 

 まだ悶絶しているホーストを視界に捉えながら取り出しておいたポーションの蓋を開けて剣に塗る(・・・・)。そしてホーストに走り寄りながら腕に振り下ろすーーー!

 

 

 

 モデル:T・C・M(テン・コマンド・メンツ)ーーーーー

 

 

 

「『エクスプロージョン』‼︎」

 

 

 

「ハァ⁉︎」

 

 

 

 斬った傷口が爆炎を上げ、その反動で腕がもぎ取られ、ホーストが倒れていく。なぜかめぐみんがショックを受けた表情で素っ頓狂な声をあげるが、なんだろう。

 あれか?結構グロいことやったから引いてんのか?

 

 

 普通の剣ならこんなことをすれば折れないにしても傷が付くのは避けられない。だが、一切変形しないこのデュランダルならこんな荒技だって可能なのだ。ちょっと申し訳ないけどな。

 

 

 何はともあれ詰みだ。

 倒れながらもがくホーストの最後に残った片足を斬りとばす。これで世にも珍しい悪魔の達磨の完成です。

 

 

 

「…あーくそ…、俺様も悪運尽きたかね…。まさかこんなアホみたいに強い奴がはじまりの街にいるなんざ思わねえだろ、普通…。」

 

 

 

 観念したのか、ホーストは諦めを含んだような、どこか晴々とした声色で自虐する。まあ観念といっても四肢が一つも残ってないから動く事が出来ないんだが。

 

 俺は俯いてプルプル震えているめぐみんを促す。

 

 

 

「ほら、めぐみん。グロいことやって怖いとは思うが、今のうちにトドメを…。」

 

 

「うがああああああああ‼︎」

 

 

 

発狂しためぐみんが杖で殴りかかってきた!

 

 

 

「うおおおお⁉︎何だお前⁉︎あ!ひょっとしてホースト!お前なんか催眠を…!」

 

 

「やってねえよ!さすがに冤罪被るのは御免だぞ⁉︎」

 

 

 

 やってないらしい。それではなぜこんなに激昂しているのだろう。

 

 

 

「な…!な、何が『エクスプロージョン』ですか‼︎あの程度の爆発で最強魔法を名乗るとはちゃんちゃらおかしいですよ!改名を要求します‼︎」

 

 

 

 どうやらさっきの俺の技は爆裂魔法の名前と一緒だったらしい。マジかよ…俺的にはあれ以外付けようが無いんだけどな。

 …まあそこまで言うならなんか他の名前を考えるか。

 

 

 

「今から私が本物の爆裂魔法を見せてあげます!ゼロはそこでその悪魔が逃げないか見張っててください!」

 

 

 

 と言い残してかなり離れた場所で詠唱を開始する爆裂狂めぐみん。あれだけ離れりゃ大丈夫かね。

 

 

 

「…なんか言い残すことは無いか?今回のは俺としても不本意なんだ。覚えといてやるぞ。」

 

 

「………あのガキ、どっかで見たことあるような気がしてたんだが、もしかして妹とかいるか?」

 

 

「ああ。何で知ってんだ?五歳…もう六歳か?それくらいの妹が紅魔の里にいるぞ。」

 

 

 

 俺が不思議に思いながら答えてやると、ホーストは実に楽しそうに笑い始めた。

 

 

 

「な、なるほどね!あのガキの姉貴か!そりゃ似てる訳だ!」

 

 

「…お前こめっこを知ってるのか?」

 

 

「知ってるも何も…ああ、いい機会だ。紅魔族風に名乗ってやるから耳かっぽじって聞けや。」

 

 

 

 そうしてホーストは仰向けに倒れたまま、大声で清々しく名乗った。

 

 

 

「我が名はホースト‼︎上位悪魔にして、やがては魔性の妹、こめっこに使役される予定の者‼︎………へへへ、どうだ?こんな感じだろ?」

 

 

 

 ニンマリと血だらけの口で笑うホーストと、目を見開いて固まる俺が視線を交差させる。

 

 ……こいつ今なんて言った?

 

 

 

「お、おい、お前…」

 

「『エクスプロージョン』ーーー‼︎」

 

 

 

 

 は。と俺とホーストが同時に上空を見ると、既に発動し終えた凄まじい密度の熱と破壊の華が咲くのが見えた。

 

 

 

 …あのさぁ……離れろ、くらい普通言わねえ?

 

 

 

 

 ※

 

 

 い つ も の

 

 

 かと思いきや、今回はエリスのところへは行かなかった。

 別に死にかけなかったとかじゃない。むしろ一番酷かった。何せ回復力の高い俺が三日間起き上がることすら出来なかったんだからな。

 

 ではなぜエリスに会えなかったのか、これは単純にエリスが天界に居なかったからじゃないだろうか。

 

 

 …この件もいずれ確かめなきゃな。

 

 そう思いながら三日ぶりにギルドを訪れる。

 

 聞いた話だと、あの後討伐隊が爆裂魔法を目印に俺達を発見、回収してくれたようだ。今回は本当に死ぬかと思ったわ。

 回復してまず最初にやることはあの爆裂狂をとっ捕まえてのお仕置きタイムと決めてある。

 

 どこにいるのか、と酒場内を見回すと、程なく発見した、が…。

 

 

 

「やるわねダクネス!あなた、さすがクルセイダーね!キャベツ達を一匹も後ろに通さなかったじゃない!」

 

 

「いや、私は硬いことしか取り柄がないからな。めぐみんなどは凄まじかったではないか。あの量のキャベツを一撃で吹き飛ばすなど、初めて見たぞ。」

 

 

「ふふふ、我が爆裂魔法の前では何物も抗うことなど出来ないのです。つい先日もこの街最強の冒険者を屠ったところですか」

 

「誰が誰を屠ったって?」

 

 

「ヒィ⁉︎ゼロ⁉︎いつからそこに!」

 

 

「ゼ、ゼロ!お前が居ないから仲間がどんどん変な風に…!」

 

 

 

 カズマも泣きついてきたな、鬱陶しい。それにしても…。

 

 

 

「ん、ゼロではないか。先日は悪魔を倒したそうだな。やはり私の目に狂いはなかった。…しかし、めぐみんもカズマもゼロと知り合いだったのか?」

 

 

「おや、ダクネスもですか。……この男も大概顔が広いですね…。」

 

 

「俺はこの世界……、ゴホン、ギルドに来た時に世話になったんだよ。なあ、アクア。」

 

 

「ん?私は知らないけど、確かカズマさんのホモ達の人よね?」

 

 

 

 アホぶっこいたアクアがカズマに叩かれて泣いている。

 

 …それにしても見事に知り合いばっかだな。こいつらがパーティー組むなんざ誰が予想出来ただろうか。

 

 と、その中で一人、見当たらないやつがいた。

 

 

 

「ダクネス、クリスは一緒じゃないのか?」

 

 

「…?なんだお前、クリスが好みなのか?…クリスなら明日カズマにスキルを教えに来るはずだからその時に会ったらどうだ。」

 

 

 

 そうか、ならその時でもいいか。それより今はーーー

 

 

 

「おいクソガキ。てめえよくも俺に魔法ぶっ放してくれたな。おかげさまで生死の境でダンス踊ることになっただろうが。」

 

 

「そ、それは…、つい声をかけるのを忘れてしまって…。無事でよかったです…。というか、むしろどういう体をしているのですか!あの悪魔は塵一つ残らなかったのに何でその程度で済むんですか!おかしいですよ!」

 

 

 

知らんよ。マントのおかげじゃないの?(適当)

 

 

 

「お、おいゼロ!その魔法について詳しく教えてくれ!めぐみん、さっきの魔法とは違うのか⁉︎次は私にどうだ⁉︎」

 

 

「うるせえぞ変態!ゼロも困ってんだろ、少しは自重しろ!」

 

 

「んっ…!か、カズマの直球の罵倒でも私は構わんぞ…?」

 

 

「…ウチのパーティーも豪華な顔触れになったわねえ。アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そしてクルセイダーのダクネスに、聞いた話だとアクセルどころか王都でも『英雄』って呼ばれてたゼロ。…あら?カズマさん要らなくない?」

 

 

「お前らから解放されるならそれでいいよ、もう…。」

 

 

 

 いつもアクセルは騒がしいが、今日はまた数段増しで騒がしい気がするな。

 

 そして、何だかこの騒ぎがしばらく続く予感がする俺であった。

 

 

 

 






せっかく最新話で正体明かされたのに作者に存在を無かった事にされる人影さん可哀想。




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