再投稿。
31話
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「ーーはい、次はあたしのオススメ、窃盗のスキル『スティール』だよ。成功率は使用者の幸運に依存してるから、カズマ君向きって言えるかな。成功すればすごいよ?相手が手に握っている物だろうが、鞄の奥にしまい込んだ大事なものだろうが、ランダムで奪えるんだから。そのランダムも幸運値依存なんだけどね」
目の前ではクリスが得意満面、といった感じでカズマに盗賊スキルを教えている。かわいい。
いいなあ…。聞いた限りだと使いやすそうなスキルだ。カズマのとんでもない幸運値ならば十分に力になるだろう。
残念ではあるが、俺ではまず成功以前に発動するかもわからない。幸運値も魔力も最低クラスなのだ。『スティール』ですら使った瞬間に動けなくなる危険性がある。そんな博打をして成功率も幸運値依存など、もう直接相手を倒して奪った方が早いのではないかね。
「とりあえず見せてみるね。そんじゃ、いってみよう!『スティール』!」
どうやら窃盗したらしい。はたから見ても何も起きていないがーーー?
「へっへー、これ、なーんだ?」
「あっ!それ、俺のサイフ!」
おお、すげえ。一切触れていないのに、クリスのその手にはカズマのサイフ…サイフ?薄くね?ハンカチかなんかと勘違いしそうだ。が、握られていた。
クリスは俺が付いてくると知った時はチラチラとこっちを気にしていたが、俺が気付いてない振りをしてやると、割り切ったのか、早速カズマに盗賊スキルを教え始めた。というか俺と『クリス』はほぼ初対面なのにあんなに気にしてどうするのだ。隠す気ねえだろ、もう。
「おっ!サイフか、当たりだね。……よし!じゃあカズマ君さ、私にも窃盗、使ってみなよ。このサイフだとさすがにあたしのサイフの方が入ってそうだねー。自分のサイフを奪い返すのもよし、あたしのサイフやその他のものを奪うのもよし!早速いってみようか!」
「よおし、やってやる!」
「いいね!そういうノリがいいの、嫌いじゃないよ!さあ、当たりはこのサイフ!大当たりはこの魔法がかかったダガーだよ!売ってもいいし、自分で使うってのもアリだね!そしてハズレは『スティール』対策に拾っておいたこの石ころさ!」
「…ああっ、そういうことか!」
「にひひ〜、そういうこと。どんなスキルでもこうやって対処法があるから勉強を怠らないことだね!」
二人は実に楽しそうで、少し疎外感を覚えてしまう。俺にも魔力があればあんな風にクリスや他の冒険者と教え合うことが出来たのだろうか。あ、ちなみにどれだけ魔力があっても爆裂魔法だけは覚えねえから座ってろ爆裂狂。
「『スティール』‼︎」
カズマも窃盗を発動する。さて、何を奪ったのだろうか?
……?なんかクリスが短パンを押さえてるが…。
カズマがゆっくりとその手に持った物を広げていく。…なんだありゃ?今度こそハンカチ…。
「ヒャッハアアアアア‼︎当たりも当たり、大当たりじゃあああああ‼︎」
カズマが上に掲げながらぶん回すのは…パンツか?パンツ………誰のパンツ?
「い…、いやあああああああ‼︎ぱんつ返してえええええええ‼︎」
相変わらず短パンを押さえながら涙目でクリスが絶叫を………。
「「何ぃ⁉︎」」
俺と実は近くにいたダクネスの声がハモる。ダクネスは目をキラキラさせながらカズマを見ていやがるが、こいつの人となりを知っていれば何を考えてるのか察しはつくな。
パンツを未だにブンブン頭上で回しながら下種笑いを続けるカズマ。
ーーー泣いている。クリスが、泣いて、助けを求めている。
俺は懐からサイフを取り出して振りかぶる。これぞ伝説のマサカリ投法。
「調子に乗んな‼︎」
カズマの頭を爆散させないように注意深く後頭部目掛けて投げる。
「ぶべらぁ⁉︎」
奇声を上げながら吹き飛ぶカズマ。クリスがこちらを希望に満ちた目で見て、「ゼロさん…!」とか言ってくる。うん、お前やっぱ隠す気ないよね?
しかし、ああも期待されては裏切れない。せっかくだ、目一杯格好付けさせてもらおう。
「てめえ…、どういうつもりだ、ゼロ‼︎」
なんか逆ギレしてくる犯罪者K。
どういうつもりも何も、自分の姿を客観的に見てみるがいい。自分に親切にもスキルを教えてくれた先輩冒険者に対してパンツを奪うという暴挙、貴様はやってはならないことをしたのだ。
……という正論を言っても良いが、こいつは無駄に頭が回る。屁理屈であしらわれるのがオチだ。ならばこいつの理論で正々堂々とパンツを返してもらうとしよう。
こちらを睨み続けるカズマに向かって腕を組み、仁王立ち。その場の一般の通行人を含めた全視線を集めた俺は用意しておいたセリフを堂々と口にする。
「言い値で買おう!!」
※
めっっっちゃ怒られた。クリスに。
「まったく!キミ、そんな人だったんだ!見損なったよゼロ君!」
プンプン、という擬音がこれ以上似合う顔はないだろうというほど赤くしながら頰を膨らませている。
はい、ダウト。俺と『クリス』は今日以外では一度しか会ってないのにあなたに何が分かるというのでしょう、先生!
しかし俺はなぜ怒られているのだろう。コレガワカラナイ。
カズマは俺から毟れるだけ毟ってホクホク顔で帰っていった。ダクネスもしつこく「い、今のプレイをぜひ私に‼︎」と言いながらカズマについて行った。MとS…いや、KSは惹かれ合うからね、しょうがないね。
俺は先ほどから路地裏にてクリスに正座を強制させられている。ジト目で見下ろしてくるクリスは大きくヘソを出した服装なため、自然と真正面にきれいなヘソが見えてしまう。せっかくなのでジッと見つめる。
「ちょ、ちょっとキミどこ見てんのさ⁉︎」
「ヘソ」
「直球⁉︎」
慌てたようにお腹を隠すクリス。そんなに恥ずかしいならなぜそんな格好をしているのか。どう考えてもヘソを見てくれと言ってるようにしか見えない服装だ。ヘソには自信があるけどいざ見られると嫌だとかいうめんどくせえ思考でもあるのだろうか。
「そんな考えないよ!この服着てるのは単に盗賊っぽいからだよ!ーーそれにしてもさ…」
顔を赤くして、お腹を隠したまま非難するような目で俺を見る。やばい、新たな扉を開きそうだ。
「ゼロ君には好きな人がいるって聞いたんだけどな!他の女の子にこういうことするのってその、う、浮気……?とかになるんじゃないの⁉︎」
……こいつは本気で隠し切れてると思っているのか?
しかし今のはトサカにきたぜ。浮気ぃ?そんな言葉を使うんじゃありません。これはささやかな反逆も許されるはず。
………ふむ、そうだな。
「そうだな、例えばの話だぞ?例えばーー」
「………?うん」
「ーー好きな女の子が街で変装をしていました」
ピシッと空気が凍りつく。
さっきまで真っ赤だった顔を蒼白にして視線をそこら中にクロールさせるクリスさん。気にせずに続けさせてもらおう。
「その女の子が好きな子だと男は一目見て気付きました。その女の子の変装した姿もまた可愛いので男は気付かない振りをしてその姿を堪能しました。ーーーさて、これは浮気に含まれるのか?
俺はせいぜい意地悪く見えるようににっこりと笑って『可愛いので』のあたりからまた顔を赤くしたクリスに質問をした。