この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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32話

 

 

 

 ※

 

 

「な…、なんで…分かったんですか…?」

 

 

「変装する時は鏡くらい見ろよ。エリスのときと髪型と服装…、そのくらいしか違わねえぞ。」

 

 

「それだけ違えば分からないと思うんですが…」

 

 

 

 俺を見くびってもらっては困る。これで気付かないのは恋人が美容院に行って、こっちに『髪切った?』と言って欲しくてそわそわしてるのを完全にスルーするのと同じだ。

 俺はそんなラノベ主人公気質ではない。相手の言いたいこと、言って欲しいことはそれなりに察せるつもりだ。

 

 

 

「あの、今のは私言って欲しくないことだったんですけどそれは…」

 

 

「そりゃお前が悪いよ。お前一筋の俺に対して浮気だのなんだのと失礼極まりない。いいか、俺はお前でいく。お前じゃなきゃ嫌だ。……足りないなら何度でも言うぞ」

 

 

「…っ!うぇ、は…、はい…。ごめんなさい…」

 

 

 

 隙あらば告白する俺と隙あらば赤面するエリス。しばし微妙な空気が流れたが、エリスがあることを思い出してしまったようだ。

 

 

 

「…あ!そ、それはそれとしても!なんで私のぱ…、ぱんつ…を欲しがったんですか⁉︎…まさかただ欲しかったから、とかじゃないですよね?」

 

 

「……それなら返してねぇだろ…」

 

 

 

 そう、既に女神様の聖なるパンツは返却済みだ。

 

 確かに欲しくはあるが、本当にそうならパンツは俺の頭の上に鎮座していなければおかしい。

 

 

 

「欲しくはあるんですか⁉︎というか頭の上って……うわぁ…」

 

 

 

 おう、本気でヒき始めたな。

 

 

 

「いやいや、考えても見ろよ。あのカス野郎だぞ?あのままだとお前が返してって言ってもタダでは返さなかっただろうし、金で済みゃまだいい、エロいこととか要求されたらどうするつもりだよ」

 

 

「え、エロいこと…。さすがにカズマさんでもまさかそんな……」

 

 

 

 い〜や、あいつはやるね。そんでいざ相手が泣きながらそれをしようとするとチキって「やっぱなし」と言うとこまで予想した。

 

 

 

「お前にそんなことさせらんねえし、だったら先んじて俺が買っておいてお前に返した方がいいだろ。さあ、俺を責められるなら責めるがいい。」

 

 

「わ、分かりました!疑ってすみませんでした!これでいいですか!」

 

 

 

 うむ、それでいいのだ。人に嫌疑を掛けて、それが間違いならば謝る。西から昇った太陽が東に沈むくらい当たり前のことである。

 

 

 

「あー、それと『クリス』。別に俺にもタメ語でいいんだぞ?なんか話しにくそうだ」

 

 

「…え…っと、……いいの?」

 

 

「もちろん。フランクなのも憧れって言ってたじゃないか」

 

 

「……フフッ」

 

 

「うん?」

 

 

「あ、ごめんね。いや、話しにくそう、とか、本当によく見てくれてるんだなって思って」

 

 

 

 当たり前だろう。長い付き合いとまでは言えないが、エリスの変化ならばかなり敏感だと自負している。常に注視してるからね。

 

 

 

「またお腹見てるし⁉︎」

 

 

 

 いや…、なんかエリスだと思うとその格好、股間にクるな…。もう一枚なんか羽織ったらどうだろう。

 

 

 

「普通本人前にしてそういうこと言うかなぁ!」

 

 

「俺が普通だとでも?」

 

 

「…アッハイ、そうですね」

 

 

 

 ……自分で言った事だけどそんな「確かに」みたいな顔されると傷付くな。俺だって一応十七歳の少年なのだ。向こうの『俺』は何歳で死んだか知らんけど。

 

 

 

「ま、まあいいじゃん!はい、この件はおしまい!…それじゃ、あたしは帰るね!」

 

 

「あん?送ってくに決まってんだろ。家…っつか宿はどこだ?」

 

 

「あ、ほんと?えーっと、向こうの角曲がってーーー」

 

 

 

 ーーーほう、奇遇だな。俺の宿も同じ方向だ。ちょうどいい。これから会いやすくなる。

 

 

 日が沈み始めたアクセルの街をゆっくりと二人並んで歩く。…あれ、これデートじゃね?ヤダ、人生初デートが嫁の家だなんて何段階トばしてんだ俺。

 

 

 

「まだ嫁じゃないけどね」

 

 

「今まだって言ったよね?」

 

 

 言質?言質とっていい?

 

 

 

「今日のキミなんかおかしくない⁉︎そんなグイグイ来るタイプだっけ⁉︎」

 

 

「ーーーーーあ、あー…、あれだ。ほら、これからはいつでもクリスに会えるからテンション上がってんだよ」

 

 

「…?ふーん?」

 

 

 

 ーーーまたか。

 

 王都にいた頃からそうだったが、どうも魔王軍やらとの戦闘後は周囲からは俺が違って見えるらしい。衛兵いわく、言動が暴力的だとか、アイリスいわく、なんかエッチです、だとか。…言われたい放題だな俺。ちなみにアイリスはその言い方がエッチなことを自覚した方がいい。

 

 これがバニルの言っていた寄りやすい、というやつか分からんが…、俺は『何』に寄りやすいんだ?

 

 ……考えても分からんことは放棄するに限るな。

 

 

 変な思考を振り払うために気になっていたことを聞く。

 

 

 

「ダクネスはカズマのパーティーに入るって聞いたけどクリスも入るのか?」

 

 

「ううん。ほら、あたしカズマ君にスキル教えちゃったじゃない、あんまり同じスキル持った人がパーティーにいるのって良くないんだよ。目立つ人、目立たない人が出てきちゃうからね」

 

 

 

 

 それはそうかもしれない。…でもクリスは今までダクネスとパーティーを組んでいたはずだ。一人になってしまうが平気なのか?

 

 

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!あたしこう見えて結構人気者なんだよ?あっち行ったりこっち行ったりして過ごすよ!…元々盗賊なんてそんなもんなんだしさ…」

 

 

 

 ……その姿はとても大丈夫には見えないがな。

 

 俯きながら声だけは元気に張り上げる様はまさに空元気ってところか。

 その寂しそうな顔を見て俺が何も思わないと思ったら大間違いだ。

 

 俺は無言で懐から冒険者カードを出してクリスに見せた。

 

 

 

「なあに?冒険者カード?…うわっ⁉︎すごいレベルだね!72なんて初めて見たよ⁉︎」

 

 

 

 えっ。それは俺もびっくりなんだけど。いつの間に4も上がったのだ。レベルは高くなればなるほど上がりにくくなるんじゃないの?

 

 いや、それは置いといて…。

 

 

 

「クリス。俺とパーティーを組まないか?今はフリーなんだろ?」

 

 

 

 弾かれたように顔を上げて俺を見るクリス。心なしか瞳が潤んでいるようにも見える。

 

 

 

「えっ…?で、でもゼロ君はカズマ君のパーティーに入るって聞いたけど…?」

 

 

 

 なんだそれは。どこ情報だ。

 

 

 

「いや、カズマ君も自慢気に話してたし、ダクネスは前衛の自分が攻撃してもらえないって嘆いてたけど…」

 

 

「それはあいつらの勘違いだな。俺は手を貸すとは言ったけど固定パーティーになるとは一言も言ってない。」

 

 

「……絶対みんなそんな風に思ってないよ?すでにゼロ君ありきで考えてるみたいだし」

 

 

「関係ねえな。俺は俺のやりたいようにやる。あいつらを手伝っても良いが、それは報酬をきちんと貰う……言っちまえば傭兵みたいなことをやろうと思ってる。そんなことより返事を聞いてないんだが?」

 

 

「そんなことって…」

 

 

「そんなことだよ」

 

 

「……あたし、女神だからずっと地上にいるわけじゃないよ?」

 

 

「知ってる」

 

 

「…そんなに強くないから、迷惑もかけるよ?」

 

 

「迷惑だとは思わない」

 

 

「………私で…、良いんですか…?」

 

 

 ……え?なあにこの雰囲気。パーティー組むだけだよね?付き合ったりするわけじゃないよね?いや、それは全然構わないけど。

 

 クリスもダクネスとしか組んだことないみたいだしなんか勘違いしてそうだな。

 

 野暮なことも考えるが、目の前にいる不安そうな女の子にそんなこと言える男がいると思うか?いやいない。(反語)

 

 

 

「…言って欲しいんだな?……お前がいい。お前じゃなきゃ嫌だ」

 

 

 

 プロポーズみたいな言葉を繰り返す。そもそもプロポーズなど、初対面のときに済ませているけどな。

 

 対して、クリスは照れたように頰をポリポリとかきながら、

 

 

 

「そ…、そっか、へへ…、なら…お願いしようかな…。えっと、よろしく!」

 

 

「オッケェイ‼︎」

 

 

「ちょっと‼︎あたし今結構感動してたんだけど⁉︎」

 

 

 

 

 ロッキュー!バーニン!

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 俺がふざけたりクリスをからかっているうちにクリスの宿に着いたようだ。ーーーーーあれ?この宿屋って…。

 

 

 

「そんじゃ、今日はあんがとね!明日からよろしくお願いします!」

 

 

 

 さっきまでの沈んだ空気は取り払えたようだ。元気いっぱいの笑顔でーーー宿屋の馬小屋へ向かおうとするクリス。

 

 

 

「ウェイウェイウェイ‼︎」

 

 

「うわっ⁉︎何さ急に!」

 

 

「wait‼︎」

 

 

 

 おい、年頃の娘さんがまさか一人でこんな男衆ひしめく馬小屋で寝泊りなんてしないよな?

 

 

 

「ええ?何言ってんの、冒険者なんだから当たり前でしょ?」

 

 

「は?許しませんけど。」

 

 

 

 そんなこと言うんならお前には俺の部屋で寝てもらうよ。さあ、お嬢ちゃん、おじさんのお家に行こうか。

 

 

 

「ちょっと何言ってんのかわかんない」

 

 

「馬小屋だって他の男はいるわけだろ?ならいいじゃん。パーティーメンバー同士、仲を深める意味合いで寝食を共にするって聞いたぞ?」

 

 

「いやいや!キミと一緒とか身の危険しか感じないよ!」

 

 

 

 身体を腕で庇う仕草をするクリス。失礼な。俺の鋼の自制心をナメてもらっては困る。ムラムラはするけどガマンする。

 

 

 

「いまその言葉で信用してもらうのは無理じゃないかなぁ⁉︎」

 

 

 

 しかし、そんな危険性など馬小屋の方が高いだろう。なぜ俺はダメなのか。

 

 

 

「他の冒険者なら撃退くらいは出来るけどキミに襲われて抵抗できる女の子なんて多分この世に一人もいないよ‼︎……それに現実的な話、宿屋の部屋借りると一泊でお金がどんどん消えて行くからさぁ…」

 

 

「だからちょうどいいじゃないか。ルームシェアってことで。何なら俺が全部持つよ。」

 

 

「キミ…カズマ君にサイフ丸ごと持ってかれてたけど大丈夫なの?」

 

 

 確かにカズマにぶん投げたサイフから好きなだけ持っていけと言ったらあの野郎、丸ごと持って行きやがった。……俺の手の平の上で踊るが良い。

 

 

「うん。あのサイフ、重く見せかけて小銭しか入れてないし。ほら、こっちが本命」

 

 

 

 もう一つサイフを取り出して見せる。中を確認しなかったのはカズマの責任だ。パンツさえ返してもらえばこっちのもんである。小銭入れってのは偉大だよなぁ。

 

 

 

「うわぁ…カズマ君より狡いかも…」

 

 

「恩人に対してなんて言い草だよお前。それよりどうなのさ。冬とかもこっちの方が便利だろ?」

 

 

「うええ…?ちょ、ちょっと待って。考えさせて」

 

 

「早くしてー早くしてー」

 

 

「……それひょっとしてアクア先輩の真似?」

 

 

 

 クリスはひとしきりうんうん唸ってこちらをチラと見る。

 

 

 

「…………ほんとになにもしない?」

 

 

「してほしいならする」

 

 

 

 性夜の幕開けである。

 

 

 

「……はあああああ……。…信用してるからね?」

 

 

「クリスには信頼もしてほしいかな」

 

 

「うん、うん、よっし!じゃあ行こうか!案内してよ。キミの宿はどこ?」

 

 

「ここ。ここの二階」

 

 

「…えっ。」

 

 

 

 宿屋というのは構造は基本的に同じだ。一階は食堂兼大家の住居で、外には馬小屋が併設されている。二階が旅人や冒険者に開放されているのだ。

 

 俺は二階へと続く階段を上りながら微妙そうな、騙されたような顔をするクリスに声をかける。

 

 

 

「ほら、早く来いよ。まさか女神様ともあろうお人が吐いたツバ飲み込むなんてはしたないことはしないよな?」

 

 

 

 結局のところクリスがこの宿屋に世話になった時点で俺に襲われる危険性などは振り切っていたのだ。

 

 

 

 

 


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