この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






34話

 

 

 

 ※

 

 

 魔王軍幹部が近くに来ているだけあって、確かに弱いモンスターは見かけなかった。他にクエストを受けたやつも居なかったようだし、俺の企みはまた今度だな。

 むしろ今の状況は俺にとって御誂え向きと言える。幹部さんには是非とももう少し滞在した後に俺の元へ出て来て欲しいものだ。丁重に葬って差し上げよう。

 

 クエストを完了して宿の前。俺の部屋の灯りが点いていることに気付く。

 

 クリスか。そろそろ戻る頃だとは思っていた。

 

 

 

「ただいま、クリス」

 

 

「おか〜えり〜……」

 

 

 

 扉を開けながら帰宅を告げると、クリスは部屋の真ん中で仰向けに寝転びながら足を伸ばしてストレッチのような運動をしていた。どうせならベッドに寝転べよ。

 

 ……別にいいけどこいつリラックスし過ぎじゃね?最初の三日は借りて来た猫のように大人しかったのに、俺が本当に何もしないと分かると急にだらけ始めた。案外ものぐさなのかもな。そんなとこも好きだけど。

 

 クリスが手を出してきたので俺の冒険者カードを乗っけてやる。なんでも俺のステータスは尖ってて見ていて飽きないので、暇潰しに良いのだそうだ。

 

 俺もくつろごうとベッドに腰を下ろすと、クリスが話しかけてきた。

 

 

「うーん……、ねえゼロ君、やっぱり君のステータスちょっとおかしくない?」

 

 

 

 ……何がおかしいって?肉体的なステータスは桁がおかしいとは最初に言われたがね。

 

 

 

「いや、そっちもアレだけどそれは諦めもつくよ」

 

 

「諦めってなんだよ」

 

 

 

 勝手に諦めんなよ!もっと頑張ってみろよ!お前を応援してくれてる人の気持ち考えろよ!

 

 

 

「そうじゃなくてさ、キミの知力だよ。どう考えても低過ぎじゃない?むしろ高い方だと思ってたんだけど…」

 

 

 

 やだ、私の知力、低過ぎ⁉︎

 

 ……うん。いや、まあね?知力低いって言われるとショックだけど、正直どうでもいいじゃん?最悪まともに戦えて、工夫が出来るだけあればなんとでもなるよ。

 

 

 

「それがおかしいんだよ。だって、アクア先輩より低いんだよ?正直日常生活に支障をきたすレベルだと思うんだけど」

 

 

「うん。それは俺も変だと思った」

 

 

 

 俺がアクアよりも低いとかちょっと信じたくない。この『知力』は何を基準に決めているんだろう。そしてさりげなく先輩をdisるクリス後輩。

 

 

 

「うーん……?まあいいか。あ、あとまたレベルアップしたみたいだね。なんかスキルとか覚えないの?」

 

 

「また上がったの?それもおかしくね?」

 

 

 

 見ると確かに72→73に上がっていた。

 

 今日は『ダンジョン付近に住み着いたアークデーモンの討伐』を受けてきた。アークデーモンっていうかむしろホーストに似ていた。

 でも今回の奴は喋らなかったし、ホーストに比べるとクソほども強くなかった。……ホースト、あいつ強かったんだな…。

 

 何とは無しに習得可能スキルをスクロールしていく。未だに最後に君臨するのは圧倒的にポイントを必要とするスキルーー

 

 

『一刀両断』・・・73

 

 

「…………なあ、クリス。必要ポイントが変動するスキルなんてあるのか?」

 

 

「………?そんなの聞いたこと無いけど」

 

 

 

 だよなあ。俺も無い。じゃあなんぞこれ?

 

 初めて見た時は間違い無く必要ポイントは68だった。レベルが上がる毎に必要ポイントが増えているということは、何か一つでもスキルを覚えたらこのスキルとはおさらばということだ。

 ………それは嫌だな。やっぱりまだ保留にしておこう。

 

 返してもらったカードをポケットに突っ込んでおく。

 ーーさて。

 

 

 

「なんか話したいことがあるのか?」

 

 

 

 ビクッとしたクリスが恐る恐る聞き返してくる。

 

 

 

「……なんで分かったの?」

 

 

「そんな感じがした。ステータスのついでに話すつもりだったんだろ?」

 

 

 

 ふふん。この洞察力は自慢できるんじゃなかろうか。クリス相手なら言葉にしなくても言いたいことが分かる気がするね。

 

 そんなことを言うと、クリスは何が気に入らないのか、震える声で聞いてきた。

 

 

「へ、へえ。あたしそんなに分かりやすい?」

 

 

「少なくとも俺にとってはな」

 

 

「な、なかなか言うじゃん。じゃあはい!あたしが今から何を話すでしょうか!当たったらナデナデしてあげる!」

 

 

「要らんわ。逆にナデナデさせろ。それなら受けてやらぁ」

 

 

「……セクハラ、だめ、絶対」

 

 

 

 健全に頭だっちゅうの。なんだ?胸でも撫でようか?ツルツルして気持ち良さそう……とは絶対言わない。冗談でもなんでもなく殺されそう。

 

 ……ふむ。

 

 

「何か頼みごと、それもやましいことと見た。クリスは一応盗賊職だからそれ関係じゃないか?」

 

 

「なんで分かるのさ⁉︎ちょっと怖いんだけど‼︎」

 

 

 

 伊達に一週間一緒に居たわけじゃない。これがシステム外スキル『以心伝心(クリス限定)』だ。

 

 

「……キミにあたしが下界にいる理由って言ったっけ?」

 

 

「昨日聞いた。ダクネスの友達になるためだろ」

 

 

「ちょっ⁉︎だ、ダクネスから聞いたの……?あ、いや、そっちじゃ無くて、それもそうなんだけどーー」

 

 

 

 ほのかに頰を紅くしながら俺に掻い繰りされるクリスが言うには、転生者が貰った特典の神器。本来はこの世界にあっちゃいけないものがどういうわけか持ち主の手を離れて他の人の手に渡ってしまうことがある。持ち主から買い取ったり、持ち主が死んだりした時に発生する事例で、だいたいは貴族が持っているそうだ。そんな神器を貴族の屋敷にこっそり侵入して回収するのがクリスの目的なんだとか。

 

 

「だから『盗賊』になったのか」

 

 

「まあね。あと、ついでに義賊っぽいこともやってみたかったから、出自不明の悪どいお金も幾らかいただいちゃってるよ」

 

 

 

 舌を出しながらイタズラっぽく笑うクリス。いやそれは本来お茶目では済まされないけどな。もう、こいつめ!ぷんぷん、がおーだぞ!

 

 

「で、それを手伝えってか。いいよ、やろうか」

 

 

「手伝ってくれる?ありがと」

 

 

 

 何を遠慮してんのか。昔偉い邪神が『バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ』って言ってたし、バレなきゃいいのよ。

 

 

 

「へえ、いいこと言う人がいるもんだね?」

 

 

 

 ………俺が言うのもなんだが、クリスも大概だな。この言葉に同調する女神は割と駄目なんじゃないか?エリスバージョンはあんなに女神然としているのにクリスバージョンは俗っぽいというか何というか。だが……そこがいい。

 

 

「神器を持ってる貴族の目星は付いてるのか?」

 

 

「あ、うん。今のとこ、確認してる神器は三つだね。一つはこのアクセルの貴族のところだけどここはちょっと複雑で今は手が出せないかな」

 

 

「なんだ、ダスティネス家の屋敷だったりするのか?」

 

 

「ち、違うよ。単純に神器の方に問題があって……、まあそれもおいおいね。そんで、残り二つは王都にあるよ。今回はこっちの片方を手伝って欲しいかな」

 

 

「ってことは王都に行くのか?」

 

 

「そうなるね。次回の王城の下調べもしたいから一ヶ月くらいアクセルから離れるけど……いい?」

 

 

「ああ。俺はいつでもいいけどーーん?」

 

 

 

 ーーちょっと待て。次回の王城?王城に神器あんの?じゃあ侵入しなきゃいけないの?

 

 

 

「え?まあ今回はそこまではしないけど、神器がある以上いつかはーーー」

 

 

「バカじゃないの⁉︎」

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 いやもうマジでバカなんじゃないの?王城ってことはあそこにいる化け物連中の目を盗まないといけないんだぞ。

 

 もし戦闘になってみろよ。まだジャティスやアイリスなら何とかなるよ?国王は無理だぞおい。

 

 

 

「えっ、でもキミ勝ったじゃん……」

 

 

「あれはお前のバフ盛り盛りで、しかも武器が耐えられなかったからで、その上試合形式だっただろうが!」

 

 

 

 いくら脳筋国王でも自分の城がピンチの時に武器壊されていじけて山に籠るってこたしないだろう。つまりガチの、本気のバスターゴリラとバトルせねばならないってことだ。死ぬわ!

 

 

 

「ええ⁉︎ちょっと困るよ!キミに外で騒ぎを起こしてもらってその隙に盗ってこようと思ったのに!」

 

 

「バーカバーカ‼︎もうほんと……バーカ‼︎」

 

 

 

 なんだその虫食いだらけの計画。俺をなんだと思ってんだ。

 

 俺の直球の暴言にムカっとした顔で反論してくる。

 

 

「ば、バカとは何さ!アクア先輩より知力低いくせに!」

 

 

「あ、そういうこと言う⁉︎その俺ですらその作戦は杜撰すぎるって言ってんの!」

 

 

「嘘つき!一緒にやってくれるって言ったのに!もういいよ、ダクネスに頼んでくるから!」

 

 

「お前今何言ってるか分かってる⁉︎貴族のダクネスに王族の城で騒ぎ起こさせようとするとかそれでも親友かよ!」

 

 

「うう、だって、だってぇ……」

 

 

 

 あっ、こいつ泣き始めやがった!くそ、ズリぃなぁ!

 

 

 

「……ふぅ、ぅぅぅ…。わかった、わかったよ。そっちは俺がなんとかしてやるよ」

 

 

「うっ、ほ、ほんと……?」

 

 

 

 なんか幼児退行してんじゃねえか。アクアといい、女神ってのは下界に降りたら子供っぽくならないといけない決まりでもあんのか。向こうとは違って腹立たないのは惚れた弱みってやつなのかねえ。

 

 

 

「………ごめんね。なんかゼロ君に断られたって思ったらすごく悲しくなってさ」

 

 

「……悪かったよ。でも、国王とやるのは本気でヤバいんだってばさ」

 

 

 

 さっきの続きとばかりにクリスの頭を撫でながら謝る。そういえばあの時、国王に勝ったらって約束こいつ忘れてね?いや、ムードが大事ってのはなんとなく分かるから今はいいけど。

 

 

「……下調べって言ったよな。それ、俺に任せてくれ」

 

 

「え?いいけど、どうするの?」

 

 

 

 場所が王城なら俺の方が内情を確かめるのは簡単なはずだ。国王の予定を聞いておいて、いない日を作戦決行日にすればいい。それとあとはーー

 

 

 

「……協力者が要るな。できれば盗賊系のスキル持ってるやつ」

 

 

 侵入してそれで終わりじゃない。そこから宝物庫までの罠だらけの通路を突破できるくらいには実力がある奴が望ましい。クリスだけだと不測の事態に対応出来るか心配だ。

 

 

 

「ううん……?でもアクセルにはあたし以外に盗賊なんていないし、王都で集めるにしたってこんな犯罪紛いのことに協力してくれるかな?」

 

 

「犯罪紛いじゃなくてれっきとした犯罪だろうが…。……いや、一人いるぞ。盗賊スキル持った機転の利く男が」

 

 

「だ、誰?あたしの知ってる人?」

 

 

 

 知ってるも何もそいつにスキル教えたのはお前だぞ。

 

 

 

「…………えっ⁉︎……まさかとは思うけど」

 

 

 一つ頷く。

 

 クリスは嫌がるかもしれんな。あいつが手え貸してくれるかも分からんが……

 

 

 

「カズマに頼もう」

 

 

「絶対嫌です」

 

 

「真顔⁉︎」

 

 

 


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