この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






36話

 

 

 

 ※

 

 

 夜の王都に男の高笑いがこだまする。

 

 

「フハハハハハハハハハ‼︎どうもご機嫌麗しゅう人間の皆々様!我輩は地獄の公爵にして見通す悪魔……そう!バニルと申します!今宵は特別に我輩の大悪魔としての力の片鱗をお見せ致そう、恐れ慄くがよろしい‼︎フハハ、フハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 ※

 

 

「お?ゼロじゃないか!アクセルにはもう行ってきたのか?まあお前ならすぐ王都に戻ってくるって分かってたけどな!」

 

 

 

 これで何回目だよ。

 

 俺とクリスが王都に来て知り合いの冒険者に声を掛けられること十数回。まだ王都の門から入って全然進んでないんだが。

 

 アクセルに慣れると王都ってのは本当に混雑している。その中で知り合い全員に対応していると宿に着く前に日が暮れそうだ。

 

 

 

「うん?そっちの子は……ゼロの仲間か?」

 

 

 

 目の前の男はディラン。以前、王都で魔王軍襲来時に助けてやってから話すようになった冒険者だ。

 ディランがクリスに言及する。クリスは少し俺の後ろに隠れながらも自己紹介をした。これも今日何度も見た光景である。

 

 

 

「う、うん、初めまして。あたしはクリス。盗賊をしてて、ゼロ君とはパーティーを組ませてもらってるよ」

 

 

 

 それを聞いたディランは何が不思議なのか首を傾げ、クリスを指差して俺に聞く。

 

 

 

「………男?女?」

 

 

 

 顔面をわりと強めにぶん殴ってやった。近くにあった露店に激突してピクリとも動かなくなるディラン。殴った時に「ピシッ」と音がしたから顔の骨にひびくらいイったかもな。

 まあディランも高レベル冒険者だ。怪我なんか慣れっこだろ。

 

 

 

「ちょっ!何してんのさキミ⁉︎」

 

 

「いいんだよ。失礼な奴はあんぐらいしないと直らないしな」

 

 

 

 失礼なことを言われたというのにディランを心配そうに見つめる女神のようなというか女神であるクリスの手を引きながら進む。

 

 俺たちが通った道には既に男の冒険者が死屍累々に横たわっている。

 だってあいつらクリスの声を聞いてようやく男か女かどっちか、みたいに聞いてくるんだぜ?

 失礼の極みだろ。せめて本人には隠して聞けって話よ。

 

 

 

「それにしてもキミ、本当に人気者だねえ」

 

 

 

 先ほどの俺の暴挙は置いておく事にしたのか、それはそれとしてクリスが感心したように声をあげる。

 

 

 

「なんだよ、俺のこと見てたんじゃないのか?」

 

 

「いやあ、見てはいたけど実際に体験するとまた違った感じがするっていうかさ…」

 

 

「惚れ直した?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 おっと、黙ってしまったか。俺も人の事は言えんな、もう少し言動に気を付けよう。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 夜、とある宿屋にて。

 

 

 

「なあ、本当に明日やるの?もうちょい予定に余裕持たせたりしないの?」

 

 

「いいじゃん。ゼロ君だって早く終わるにこしたことはないでしょ?それに今回の屋敷は中の警備は手薄だから、キミが外で気を引いてくれたらすぐに盗ってくるよ。

 それより問題は次の王城なんだよねぇ……、それの下調べに時間も割きたいからさ」

 

 

 

 なんだかクリスはもう成功したかのような雰囲気を出しているが、俺としては気が気ではない。大丈夫?これ、フラグとかじゃない?

 まだ作戦前だというのに次の話をするとか鬼ならぬバニル(悪魔)大爆笑じゃないの?

 

 俺が尽きぬ不安を感じる間にも。

 

 

 

「だーいじょうぶだって!なんだかんだ言っても王都の英雄と女神であるクリスさんが組んだんだから、今さらアルダープなんて悪徳貴族の別荘から神器盗むことぐらい楽勝だって!」

 

 

 

 フラグ建築に余念がない女神クリスさん。どうしよう、俺が知らぬ間にどこで一級フラグ建築士の資格を取ってきたのだろう。

 

 いや、俺の方こそ明日のことばっか考えてもしょうがないか。あれだ、明日は明日の風が吹くってな。

 

 

 

「それにしてもアルダープ、ねえ」

 

 

 

 その名前は王城にいた時に聞いたことがある。確か悪どいことをやりまくっているのに何故か決定的な証拠が出ないから摘発出来ないとかなんとか。

 憎まれっ子世に憚るってのはどこの世界も同じだな。やるとなったら派手にやっちまうか。誰も文句なんざいわねえだろ。

 

 

 

「それじゃあそろそろ寝ようぜ。細かいことは明日考えりゃいいさ」

 

 

「うん、そうだねー。灯り消すよ?……じゃ、おやすみー」

 

 

 

 部屋が暗くなる。なんだかんだ二人の生活にも慣れてきた。瞼を閉じるとそのまま夢の世界にーーー。

 

 

 

「いややっぱりちょっと待って!おかしくない⁉︎」

 

 

 

 いきなりまた灯りが灯る。なんだというのか。せっかくうっすらと意識が沈みかけたってのに安眠妨害もいいところだ。

 

 

 

「あ、ごめ……、じゃなくて!なんであたし達同じ部屋で寝てるのさ⁉︎」

 

 

「お前今さら何言ってんだよ……」

 

 

 

 いつも平気でやってることだろうが!つべこべ言わずにつべこべぇ‼︎

 

 

 

「今回は別に部屋分けるとかできたじゃん!お金だってそのために多めにもってきたんだからさあ!」

 

 

「節約するのは良いことだろ。俺だって何にもしないって、まだ信じてくれてないのか?」

 

 

「そういうことじゃねーよ!キミのことは信頼してるけど、その、他の人の目が気になるっていうか……」

 

 

 

 ……なるほど。つまりは周囲から夫婦みたいに見られるのが耐えられないわけだ。王都ではクリスは何故か男に見られることが多いが、アクセルでは普通に女として通っている。アクセルで俺たちが同棲してるってことは周知の事実だけど王都では違うしな。気にするなってのは無理な話か。

 

 

 

「⁉︎ えっ、アクセルであたし達が一緒に住んでるのってバレてるの⁉︎」

 

 

「逆になんでバレてないと思ってたんだよ」

 

 

 

 アクセルでは噂が広まるのが早い。その中で俺とクリスは一週間も同じ部屋で生活してきたのだ。クリスの方は気を付けていたようだが俺は別に隠すことでもないと開き直っていたからな、すぐ広まるさ。

 

 

 

「キミのせいじゃん!」

 

 

「その通りだが何か?」

 

 

 

 悔しそうにするクリス。いやあ、表情豊かで可愛いことこの上ない。とは言えあまりからかうと拗ねてしまうのでこの辺にしておくか。

 

 

 

「わかった。明日から俺は王城に泊めてもらうからこの部屋はクリスが好きに使えよ」

 

 

「……王城に泊まるってなに?泊めてもらえるの?」

 

 

 

 ふはは、俺を誰だと思ってやがる。王城の衛兵には教官と親しまれ、王子と王女とは一緒に汗を流したゼロさんだぞ。

 それに前は三ヶ月逗留したんだし一ヶ月くらいは頼めば泊めてくれるだろ。

 

 

 

「へええ、改めてキミすごいよねえ。王族に知り合いがいるとか一般冒険者の域を軽く超えてるよ」

 

 

「それよりそれでいいか?別々の部屋借りるよりは情報収集も出来るしこの方がよくね?」

 

 

 

 まあそれならいいか、とクリスも納得してくれたようだ。我が儘な嫁を持つと苦労するのは夫なのだ。

 

 

 

「だから我が儘でもないし嫁でもないからね」

 

 

「………チィッ」

 

 

 

 

 ※

 

 

 翌日

 

 

 とりあえずは王城に行って宿泊許可を取ることにした。クリスは作戦決行時まで別行動だ。

 ……俺、実はものすごいことしてんな。王城をホテル代わりとかクレアあたりに怒鳴られそうだ。

 

 

 

「久しぶりに姿を見せたと思えば王城に泊めろだと⁉︎ふざけるな‼︎お前はどこまで王族を貶せば気が済むのだ‼︎」

 

 

 

 怒鳴られた。

 

 

 

「別に良いじゃねえか。減るもんじゃなし。ほら、衛兵達も是非にって言ってるぜ?」

 

 

「そこの衛兵どもは後で話がある!お前もさっさと帰れ!塩を撒くぞ!」

 

 

 

 この女は相変わらずピリピリしてんなぁ。そんなに俺が気に入らないのか。ちっと凹むぞ?

 

 

 

「……私とてお前の実力は認めている。だからと言って平民であるお前と王族であるアイリス様やジャティス様がこうも気軽に接すると王族としての威厳がだな……」

 

 

「ほうほう。だ、そうだがどうなんだ、そこの暴虐王子」

 

 

「気にすること無いんじゃない?クレアは頭が固すぎるよ。それより久しぶりだね、ゼロ。今回はいつまで居られるんだい?」

 

 

「なっ……⁉︎ジャ、ジャティス様‼︎」

 

 

 

 こちらも相変わらず爽やかイケメンのジャティスである。さてさて、その王族様が良いって言ってるんだがね?クレア君?

 

 

 

「ぐっ……!貴様、調子に乗るなよ!」

 

「調子は乗り物、乗りこなしてみせらあ」

 

「あ、今の言い方良いね。僕は使う機会無さそうだけど」

 

 

 

 クレア陥落。ジャティスとハイタッチを交わす。

 

 しかしクレアには悪いことするなぁ。そろそろ胃に穴が開くんじゃないか?回復魔法だけは信用できるアークプリーストでも紹介してやろうか?

 

 

 

「いらんわバーカ!今回こそアイリス様には指一本触れさせんから覚悟しておけよ‼︎」

 

 

 

 お手本のような負け惜しみを言いながらジャティスに礼をして下がっていくクレア。あいつも難儀な性格してんね。

 

 

 

「悪りぃな。迷惑だってのは分かっちゃいるんだが、一ヶ月くらい世話になってもいいか?」

 

 

「うん。好きにするといいよ、アイリスも喜ぶ。あ、でも申し訳ないけど僕は明日からまた前線に出ちゃうからゼロの相手は出来ないね。王都のことも少し心配だったけど君がいるなら安心だ。僕がいない間、王都を頼んでもいいかな?」

 

 

 

 任せとけ。

 今回は他の用事があるが、その合間でもいいならまた剣を振るおう。

 

 

 

「ハハハ、頼もしい限りだけど実際そんなには気を張らなくてもいいかな。

 以前の逗留で最後に君が張り切り過ぎたおかげか、魔王軍はあれから一度も来てなくてね、平和そのものだよ。

 その影響でいなくなった後の君の評判は前にも増して高くなっているから、街で君の名前を出せばそれこそ英雄扱いされるよ」

 

 

 

 ああ、最後の戦闘な。もうほとんど我を忘れて『アイツ』を追っかけてたから、気が付いたら敵さんが全滅しててびっくらこいたのしか覚えてないや。

 

 ………おっと。

 

 

 

「悪い、ジャティス。積もる話もあるだろうが、早速外出してくらあ」

 

 

「うん?構わないけど、さっき言っていた用事かい?僕にも言えない用事っていうと?」

 

 

 

 考え込むジャティスだが、放置して行かせてもらうとしよう。なにせ今からする事はとっても悪いことだからな。王子様にゃあバレるわけにもいかん。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「少し遅くなったか?」

 

 

「んーん、時間ぴったりだよ。さて、じゃあ悪巧みといってみようか!」

 

 

 

 今から貴族の別荘に侵入するってのに楽しそうだな、こいつ。

 

 

 

「あ、そういえばキミさ、変装の道具とかある?一応あたしはこうやってスカーフで覆面っぽいこと出来るけどキミは……」

 

 

 

 大丈夫だ、問題ない。

 以前買っておいた仮面をつければ俺とは分からんはず。

 

 

 

「そっか、なら安心だね。それで、王城には泊まれそうなの?」

 

 

 

 少し心配そうに聞いてくる。宿から俺を追い出したようで気が引けるのだろう。滞り……はまああったがそれも問題ない。

 

 

 

「ねえ、思ったんだけどキミが王城にある神器盗ってきてくれればわざわざ侵入しなくて済むんじゃない?」

 

 

「無茶言うなよ。それがどんなものかも分からないし、調べたけど宝物庫には魔法っぽいロックが掛かってて開けられないからお前に頼るしかない。壊すこともできなくはないけどそっから先は地獄だぞ」

 

 

「それもそっか」

 

 

 

 元より期待はしてないのかあっさり諦めたな。とりあえず今は目の前のことに集中集中。

 

 

 

「確認するぞ。まず俺が正面から押し入って暴れる。その隙にクリスが神器かっぱらう。終わったら俺に合図を出して二人で逃げる。これでいいか?」

 

 

「うん、それでいいよ。そっちもOK?」

 

 

 

 OK‼︎(ズドン‼︎)

 

 

 

「さーて、行きましょうかね!」

 

 

「ん?あれ。キミ、剣は?何も持ってないけど」

 

 

「置いてきた。あいつはこの先の戦いについてこれそうもない」

 

 

「ちょっと何言ってんのさ⁉︎素手で戦闘なんかしたこと無いでしょ⁉︎」

 

 

 

 

 うん。無いね。さすがはクリス、よく俺を見てる。

 

 

 

「何やってんの⁉︎」

 

 

「いやわりと真面目な話さ、俺って結構有名じゃん。そのせいで副次的にデュランダルも有名になっちゃったから見られたら正体バレするかもしれないんだよね」

 

 

 

 真名バレいくない。

 

 

 

「え、ええー?大丈夫なの?」

 

 

「クハハハハ!慈悲など要らん‼︎」

 

 

「誰の真似さ……。…まあそれで良いならいいけど」

 

 

 

 あんま心配しなさんな。素手っつってもそんじょそこらの衛兵とは肉体スペックが違わあ。立派に囮を務めて見せますとも。

 

 

 

「……ん。よし、わかった。気を付けてね」

 

 

「そっちこそ」

 

 

「……うん!作戦決行!『銀髪盗賊団』の初陣だよ、とりあえずいってみようか‼︎」

 

 

 

 いつの間に盗賊団になって、いつの間に名前なんか付けたんだ。張り切り過ぎだろ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 さーてとお。

 

 俺は用意しておいた仮面を装着する。思えばこれをアイツから買ったのも王都でのことだったな。

 

 暗いはずの街を満月が照らす。仮面を付けた瞬間から妙に力が溢れるのを感じた。

 おお?なんか調子いいな。これなら十全以上に動けそうだ。

 

 屋敷の閉じられた正門の前には二人衛兵が立っている。片方に素早く近寄って首を締める。もう片方は俺が速すぎて見えなかったようだ。同じように締めてオトす。

 

 

 ……よっしゃ!こっからは派手にいくぜ‼︎

 

 

 

「ごめんくーださーい‼︎」

 

 

 

 挨拶とともに閉じられていた門を蹴破る。鉄格子の門が吹き飛び、凄まじい音を立てた。

 

 中からは音に釣られたかぞろぞろと人が出てくるな。衛兵に混じって高レベルと思しき冒険者もちらほら見え……あれ、ディランじゃね?

 

 

 

「なんだあいつ⁉︎」

 

「おい、もっと人呼んでこい!侵入者だ!」

 

「相手は一人か……?自信があるのか知らんがとんでもねえな」

 

 

 

 ふええ……結構いるよぉ……。

 

 パッと見ただけで衛兵三十に冒険者十ってとこか?中はどうか知らんけど外厳重すぎるだろ。もしかして常にこんなに配置してんのか?金持ちは違うねえ。

 それともやましいことばっかりやってるから警戒を怠らないってか。

 

 

 

「おい!てめえ、何のつもりだ!ここが誰の屋敷だか知ってんのか!変な仮面なんか付けやがって、名を名乗れ!」

 

 

 

 昨日俺が殴ったところに手当てしてあるディランが声を張り上げた。

 

 なんだかんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!……なんっつってな。

 

 アイツの口調を思い出す。確かこんな感じだったはず。まあ多少間違えても誰も分からんだろう。気にせずに行こう。

 

 

 

「フハハハハハハハハハ‼︎どうもご機嫌麗しゅう人間の皆々様!我輩は地獄の公爵にして見通す悪魔……そう!バニルと申します!今宵は特別に我輩の大悪魔としての力の片鱗をお見せ致そう、恐れ慄くがよろしい‼︎フハハ、フハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 バニルから買った仮面を付けて口調を変えながら声高らかに宣言する。

 

 深夜の王都に俺の高笑いが響き渡った。

 

 やっべえ、バニルのモノマネ意外と楽しい‼︎

 

 

 

 

 

 


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