再投稿。
※
「フハハハハ!華麗!あまりに華麗!我輩、自分で自分の体捌きの美しさが恐ろしいな!どうしたどうした人間諸君、そんなヘナチョコでは虫すら殺せんぞ⁉︎フハッ、フハハハハハ‼︎」
「こ、こいつ!」
「オラァ!」
「ぐ……⁉︎くそっ速え!」
「そっち行ったぞ!」
次から次へと襲い掛かってくる冒険者。振り上げた武器を奴らが振り下ろす寸前に立ち止まり、挑発しながら捌きまくる。
さすがに刃物、当たれば俺とて無事では済むまい。当たればの話であるがな!
……ふむ?後ろから槍で突進してくるやつがいるな。……というか、だ。
「貴様、なぜ槍を腕だけで突き入れるのだ!突進というのは腰だめに構えて身体ごとぶつかるんだよ!ほら、貸してみろ!」
「うえ⁉︎ど、どうぞ⁉︎」
こいつら動きが素人すぎるだろ。レベルはそこそこ高そうなのにこの程度の基礎も出来てないとかどういうこった。
以前王城の衛兵達に稽古を付けてやった時の血が騒ぎ始めた俺が手本を見せてやる。剣以外は俺も専門外のはずだが、試してみたところ弓、槍、斧など、一通りの武具は扱えるようだ。
はて、転生前はこんな物騒な物も使ってたんだろうか。記憶が無いってのは案外と不気味なものだ。
「そっちの貴様は相手の動きにビビり過ぎだ!警戒するのは悪くないがそれでへっぴり腰になってどうする!勇気を振り絞った一撃だけが道を開くんだ!叫んでみろ!さん、はい!『ヒッテンミツルギスターイル』‼︎」
「ひ、ひって…?」
「声が小せえ‼︎次ぃ‼︎」
「ごっぶ⁉︎」
「次はお前、ちょっとこっち来いや‼︎」
「もうお前本当に何なんだよ!口調最初と全然違うじゃねえか!」
情け無い姿を晒す衛兵を殴り飛ばして喚きながらツッコミを入れてくる衛兵に近寄ろうとした俺に。
「調子に乗ってんじゃねえぞ、クソがあ‼︎」
「おおっとお⁉︎華麗に離脱‼︎」
ディランが戦斧を全身を使って振り回しながら突撃してくる。やるねえ。戦斧を力任せにぶん回すってのは正解の一つでもある。加えてディランはパワー溢れる叫びとは裏腹に緻密にコントロールも出来ている。
ただし動きに無駄が無いというだけで、俺に当てるにはスピードもパワーも足りない。もっとレベルを上げて物理で殴るんだよ、おうあくしろよ。
ヒラリと戦斧をかわしながらディランの背後に回り込み、あまり怪我になりにくい位置に拳を突き出してーー
「そこだろ‼︎」
「むうっ⁉︎」
あっぶなっ⁉︎
伸ばした拳に斧を合わされそうになった。殺さないように限界まで手加減してるとはいえ今のは見えてなかったと思ったが如何に。
「……ほう、貴様は中々やるようだな。我輩をどうやって捉えたか参考までにお聞かせ願おうか」
「別に大したことじゃねえよ。ただあんたの動きにそっくりなヤツを知っててね。一応そいつを目標に頑張ってんだ、あんたには負けてられないってだけだ」
それはもしかしなくても俺の事だろうか。そんなこと考えてたのか…、なんか照れるなおい。
その点俺は何やってんだ。今さらながら自分がやってることが恥ずかしくなってきたぞ。
悪いなあディラン、お前の目標とやらは今泥棒の片棒を担ぎ上げてお前の冒険者仲間をぶっ飛ばしてるところなんだ。
「あんたはなんでこの屋敷に攻めて来たんだ?あんたの目的を話してくれよ」
「そうだな、とりあえず我輩がやらないと世界がヤバいとだけいっておこう、か!」
答えながら背後から接近していた衛兵を蹴り飛ばす。
これに関しては別に適当にでっち上げた嘘話なんかじゃない。クリスから聞いたこの屋敷にある神器は『好きな相手を呼び出して使役する』というのが本来の効果らしい。
しかし神器というのは持ち主が使わないと正確な効果を発揮出来ないとクリスは言う。
確かに俺のデュランダルは俺以外が使っても豆腐も切れなかったりする。そしてこの召喚する神器は使えなくなる訳ではなく、『ランダムでどんな相手も呼び出す』という効果に変わるんだとか。ちなみに呼び出した後、使役する能力は完全に失われるそうだ。
これがどれほどの脅威かなど計り知れたものではない。なにせ本当に
自身の手に負えない……例えば超強いモンスターなどを呼んでみるがいい。そのモンスターは間違い無く大暴れ、然る後に外に解放されるだろう。世界がヤバいというのは決して大袈裟なんかではないのだ。
クリスが最初にこれを盗むのを選んだのも他の二つの難易度を差っ引いても緊急性が極めて高いからだそうだ。そりゃそうだ。俺も効果を聞いてから一も二もなく賛成したよ。
「へ、世界ね。随分大ごとだな?さしずめあんたは世界を救う『英雄』ってか」
「………ふん、まあそういう事になるのか?そういう訳だ、あまり邪魔をしてくれるな人間」
……こいつ俺の正体に気付いてるとかないよね?
※
目の前から度々消えるような速度で移動する奇妙な仮面の男、バニルと名乗ったか。
魔王軍の幹部にそんな名前で指名手配されている奴がいた気もするが、確か前にゼロが倒したと人伝てに聞いた。
だとすると今ここにいるこいつは偽物なのだろう。何の目的があって魔王軍の名を騙るのかは知らない。
それは知らないが、とんでもない実力者だという事は嫌でも理解できる。あのゼロには及ばないだろうがさっきからこの人数がまるで赤子扱いだ。その上でこうして敵である俺の質問に答える余裕、こいつは明らかに本気を出していない。
非常に腹立たしいが、こいつが本気になった瞬間にこの場の全員バラバラにされるだろう。そういう意味では助かっているのは事実だ。
しかしあのマントにあの動き、仮面からはみ出る赤い髪。該当する知り合いが一人いるが、まさかな。
一応カマもかけてみるが反応もない。あいつが肌身離さないデュランダルも持っていないようだし、気のせいか。
警戒しつつ、相手との距離を測っていると、背後の屋敷から何かが爆発する音が聞こえた。
「‼︎」
「やっとか!待ちくたびれたぞ!」
仮面の男が歓喜の声を上げる。
何が起こったのかの確認の為、自身もほんの一瞬だけ男から目を切って背後を振り返ってしまった。その瞬間。
「隙ありである!フハハハハ‼︎それでは今宵はこれまで!縁があればまた会おう諸君!なあに、縁とは繋がるもの、一度交わればそうそう切れたりはしない!」
「しまっ⁉︎」
こちらに何かの瓶を投げつけてくるバニル。普段なら避けるべき場面で迂闊にも戦斧で迎撃してしまった。
爆発。愛用の戦斧に亀裂が入り、そのまま割れていく。
「ああっ⁉︎クソッタレ、こいつに一体いくらかけたと思ってやがる!弁償しろオラァ‼︎」
それを言うべき相手の姿は既になく、常の静かな夜がそこにあるだけだった。
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いやあ危ない危ない。ボロが出る前に合図が出て良かった。
アルダープの屋敷から離れ、昨夜宿泊した宿の前でクリスと合流する。
「おつかれー。想定よりも警備の数が多かったから撤退するか悩んだんだけど、問題無かったみたいだね」
「おう、お疲れ様。そっちはどうよ」
「うん、バッチリだよ。ほら、これがその神器」
それは本のような、というかどう見ても本だった。これでモンスターやらを召喚するのか。マジで悪魔召喚みたいな儀式になりそうだな。クリスが言うにはこれを一ページずつ破って使うんだとか。
「超CoooooooLだよ旦那ぁ‼︎」
「うわっ、何?どしたの」
「いやごめん。なんかそれ見てたら言わなくちゃいけない脅迫観念が湧いてきて」
驚かせてしまった事を謝りながら本を何とは無しにペラペラとめくっていくと。
……?
いや、流石にその辺の確認はクリスがしてるか。
ともあれ、これで記念すべき『銀髪盗賊団』の初仕事は終了ってわけだ。めでたいね。
「そういやあその回収した神器ってのはどうするんだ?直接天界に送り返すのか?」
「うーん、まだ神器だけを天界に戻すっていうのは出来ないんだよねー。とりあえず誰も使えないように封印してどっかの湖にでも放り込んでおくよ」
バカなの?
そんな危険な神器を手元から離すとか正気か。送り返す方法も確立してないのに回収してどうするんだ。湖に放り込むって……、何?その湖に『湖の乙女』でも居るの?
「し、仕方ないじゃん!嵩張るし保管しておく場所も無いし!そんなこと言うならキミが預かる⁉︎」
「分かったよ、悪かったって。……これで今日のところはお開きでいいな?明日からは情報収集って言ってたけどこれなら一ヶ月なんて要らないかもな。なんせ一番有利な場所に俺が泊まってるわけだし」
「そうかもね。もともと一ヶ月って相当余裕持たせた日程だったし、早く終わったらアクセルに帰るか王都の観光でもすればいいよ」
「じゃあまた明日な。腹出して寝るな……ごめん」
「なんで謝るのさ!あたしの服に文句あるの⁉︎」
常時腹出してる人間に腹出すななんて言えないわ。きっと何か信念があってその格好をしているのだろう?失礼なことを言った。
未だにギャーギャーわめくクリスにヒラヒラと手を振ってその場を後にする。まだ王城で泊まるにしたって部屋に案内してもらってないからな。使用人の迷惑にならないうちに戻らねば。
※
「ヒューッ、ヒューッ!ヒューッ‼︎」
「ヒューッ、ヒューッ!ヒューッ‼︎」