この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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39話

 

 

 

 ※

 

 

「『ロードローラー』だッッ‼︎」

 

「いやそれただのパンぶはぁっ⁉︎」

 

「キョウヤーーー⁉︎」

 

 

 結果なんて言うまでもない。

 

 そのムカつく顔を気の済むまでボコボコにして、ミツルギの背後で終始俺にビビっていた二人組にそのボロ雑巾を放り投げる。

 

 

「キョウヤ‼︎こんな…、ひどい…!」

 

「あ、アンタよくもキョウヤを!絶対に許さないから‼︎」

 

 

 ひどいってあーた、そのくらい冒険者やってりゃ日常自販機だろ。そこら中でタダで売ってるよ。

 このタイプの奴らに文句つけられると面倒だな、無視しよう。

 

 さて、スッキリした事だし、俺も王都から帰ってきたことを伝える為にギルドにーー

 

 

「ぼ、僕の……、何がいけなかったんですか……。何が僕に足りなかったんですか……?」

 

「キョウヤ⁉︎」

 

「無理しないで、こんなのにもう関わらない方がいいわよ!」

 

 

 ……ほう。つい今しがた負けた相手に教えを請うのは並大抵じゃないな。

 本来教える義理などないが、王城の鬼教官ことゼロさんが戦闘について教えないわけにはいかん。

 お前に足りないこと、それは‼︎の後に続くクーガー兄貴の定型文を挙げ列ねてもいいが、とりあえずーー

 

 

「努力が足りない。その剣……かな、おそらくお前の身体能力を底上げしてくれるんじゃないか?」

 

 

 ミツルギが力無く頷く。やっぱりか。

 

 

「剣の能力におんぶに抱っこじゃあいざ剣が折れたり失ったらどうするつもりなんだ?お前みたいに降参したら許しますよって相手が敵にいるのか?

 少なくとも俺が知ってる魔王軍にそんな奴はいなかったけどなぁ」

 

 

「僕だって……、今まで僕なりに頑張って鍛えてきて……」

 

「ああ、そうだろうな。俺を相手にするには足りないってだけでお前は充分強いと思うよ。

 でもさ、最初の話に戻ると『カズマもカズマなり』に頑張ってるんだよ。お前は見下してたみたいだけど。今そうやって落ち込んでるお前はカズマの事は馬鹿にできないだろ?機会があったらその事をちゃんと謝っといてやってくれ」

 

「……………!」

 

「後はそうだな……」

 

 

 こういう強引なのはあんま好きじゃないけど……。

 

 ミツルギの側に寄り添っていた二人の手を掴んで引っ張る。

 

 

「いっ⁉︎痛い、何すんのよ⁉︎」

 

「いやっ、離して!キョウヤ!」

 

「っ⁉︎フィオ、クレメア‼︎ゼロさん一体何をするんですか!」

 

「こいつらがお前と一緒にいるのはこいつらのためにならない。勝負には俺が勝ったんだし、俺といる方が幸せになれるだろう。というわけで頂いていきますね」

 

「っふ、ふざけないでよ!なんでそんなこと勝手に決められなきゃいけないの⁉︎」

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎」

 

 

 痛え痛え。噛むんじゃないよ。噛まれながらも二人を強引に引き摺っていく。

 当然、ミツルギが黙ってるはずもない。

 

 

「二人が嫌がってるでしょう!その手を離して下さい!」

 

 

 怪我もしている、足も震えているというのに剣を構えて俺の前に立つ勇者。二人が眼を潤ませて「「キョウヤ……!」」とヒロイン力を高めている。この辺でいいか。

 

 パッと手を離して二人を解放してやる。ミツルギに走り寄ってその背後に隠れてすんごい威嚇してくるな。ミツルギも俺が何をしたいのかわからないのか、剣を向けたまま困惑している。

 

 

 

「よお、悪かったなお二人さん。……えっとだな。ミツルギ、お前がやったことはこういうことだ。極端に言えば、だけどな。あいつらは別に嫌々カズマと一緒にいる訳じゃないってことも理解してやってくれよな」

 

「………………」

 

「お前がいいやつだってのはなんとなく分かる。けど本当にいいやつなら相手に自分の考えを押し付けるな。善意の押し売りは悪って言い換えても良いと個人的に思ってんだ。

 ……とまあ、俺は別にいいやつじゃないから勝者の権利を行使してお前にこの考えを強制するぞ?オーライ?」

 

 

「………善処します」

 

 

 それは分かったのだろうか。その言葉には不安しか残らないが、一応の反省は見られる……か?反省できるやつは嫌いじゃない。

 ……ふう、言いたいこと言ってなんか疲れたな。変な空気になっちまったし、ここらで場を和ませておくか。

 

 

「あ、言っとくけどあいつがクズだってのは別に否定しないからな?俺はただなんとなくお前の言うことがムカついたから殴っただけなんだからね!勘違いしないでよね!」

 

「……あなたの事は、何とお呼びしたら?」

 

 

 ノリの悪いやつだな。そんなもん好きにしろっつの。呼び名は相当に変なのじゃなきゃ構いやしねえよ。

 

 

「ゼロだ。ただのゼロでいい」

 

「ゼロさん、あなたの言いたいことは分かりました。僕が強引過ぎたことはサトウカズマにも謝ります。……いつか、僕がもっと、もっと鍛えて、強くなったらもう一度闘ってくれますか。僕はあなたに負けたままではいたくない」

 

 

 なんだこいつは。俺と闘うことを目標にしてどうすんだ。魔王軍やらを倒すことを目標にしろよ。仕掛けてくるんなら断りはしないが。

 

 

「…………まあ、手合わせ?とか稽古とか、そんなもんでいいならいつでも相手になってやるよ」

 

「ほ、本当ですか⁉︎あ、ありがとうございます……!」

 

 

 こいつ、なんか初対面から嫌いになれないな。こう、空回りだとしても必死なやつには手助けしたくなる……、こう……なんかってあるよね。

 

 そろそろミツルギの背後の二人の睨みが居た堪れなくなってきたので退散させてもらおう。

 ミツルギは姿が見えなくなるまでこちらに頭を下げたままだった。あんだけボコにしてやったのにへこたれないね、君。

 

 

 

 

 ※

 

 

 ギルドのドアを開けながらカズマ達を探すと、何やらアクアがルナに縋り付いて文句を言っているな。

 

 カズマ達も見つけたので近寄る。

 

 

「あいつはまた何を泣いてんだ?」

 

「お、ゼロか。大丈夫だったか?」

 

 

 誰にモノ言ってんだ。まさか俺が負けるとでも思ってたのか。

 

 

「いや、そうじゃなくてあいつ、あの……、何だっけ、ムッツリ?」

 

「ミツルギです」

 

「そうそう、あいつを殺したりしてねえかなと思ってさ」

 

 

 何かと思えば。最初は腕と脚を逆方向に捻じ曲げて二度と戦闘出来ない身体にした後、あの自慢の剣をへし折ってやろうかなくらいは考えたけどさすがに殺したらまずいだろ。

 

 

「こ、この男……、その考えもよっぽどだということに気付きもしませんね……」

 

「アクアはあのミツルギという男が壊してしまった檻を弁償しているところだ。素材が特殊らしくてな、報酬の六割を持っていかれたらしい」

 

 

 ほーん。それは俺をして気の毒だな。ミツルギからサイフの一つくらい剥いでくれば良かった。

 

 そもそもなんで檻に入ってたのかを聞くと、浄化クエストをモンスターに襲われないように安全にこなせるように考慮した結果だそうな。

 うーん?もっと他にやり方は無かったんだろうか。俺がいればモンスターから守るとかもできたかもな。

 

 

「あ!それよりお前がいない間大変だったんだぞ!最近クエストが難しかったのって、近くの廃城に魔王軍の幹部が来てたせいだったんだよ!」

 

 

 それは知ってる。お前らには話してなかったけど。

 

 

「それでその幹部がアクセルに来たんだよ。その時にダクネスが『死の宣告』を受けちゃってさあ」

 

「それは……、大丈夫なのか?」

 

「私は心配ない。アクアが解呪してくれたからな。もう少し死の恐怖に怯えるのも良かったが」

 

「あの時に私達がどんな気持ちで幹部の城に乗り込もうとしたかも知らないで、よくそんなこと言えますね!」

 

「ああ、あの時のめぐみんは格好良かったぞ。その……、私も、う、嬉しかった」

 

「………そうですか」

 

「あら^〜」

 

 

 顔を赤くして照れるダクネスとぷいっとそっぽを向いて照れるめぐみん。よく分からんが仲が深まったのはいいことだ。

 

 

「なんか大事な時に居なかったみたいで悪いな。その幹部とやらはどんな理由で攻めて来たんだ?」

 

 

 俺は至極真っ当な質問をしたつもりだが、なぜか今度はカズマとめぐみんが同時に俺から顔を背ける。

 この二人にやましいこととなると?

 ……あっ(察し)

 

 

 

「カズマ、めぐみん、お前らが始めたって言ってた一日一爆裂、この一ヶ月どこに撃ち込んでたんだ?」

 

 

「「うっ!」」

 

 

 どうやら当たりらしいな。分かりやすいことこの上なし。

 

 

「な、なんで分かったんですか?今の流れで分かりますか普通」

 

 

「そうかあ?わりと誰でも……。いや……、まあ妹のことぐらい分かるさ。兄貴だからな」

 

「……またそれですか。いい加減子供扱いはやめてくださいと何度も……」

 

 

 ごにょごにょ言うめぐみんは無視する。こいつらが余計なことをしたせいでその幹部さんも迷惑したんだろうなあ。

 

 

「で、可哀想な幹部さんはどんなやつなんだ?特徴とかあるんだろ?」

 

「……ん。廃城の幹部はデュラハンだ。名前はベルディアとか言ったか?ああ、あのいやらしい目、今思い出してもぞくぞくするっ……!」

 

 

 安定の変態は放っておくとしてだ。

 

 おやおや?奇遇ですね。俺の知り合いにもデュラハンでベルディアって名前の魔王軍幹部がいるんですよ。同じ種族、同じ職業で同じ名前なんて、まあ!凄い偶然!これは是非とも挨拶に行かなくちゃいけないわね!

 

 まあ挨拶は明日に回すとしよう。何だか帰りたい気分。

 明日から頑張るのではない。今日…!今日だけ頑張るのだ!今日を頑張った者にのみ明日は来る…!ってどっかの地下で誰かが言ってる気がするけど、帰って寝るわけじゃなくて筋トレかなんかして鍛えるだけだから別にいいよね?

 

 

「カズマ、今日はお前らもクエスト受けないんだろ?俺は帰るからさ、明日からよろしく頼むぜ」

 

「お、おう。まさか本当に約束守ってくれるとは……。てっきりまた誤魔化されるのかと思ってたぞ」

 

 

 失礼な。今約束を破ったらお前に力を貸してもらえないだろうが。……え?それが無かったら守らないのかって?ノーコメント。

 

 カズマとその他に手を振りながらギルドから出た。街道を歩いて宿屋に着き、自分の部屋のドアを開けようとした瞬間、

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっ!特に冒険者、サトウカズマさんのパーティーは大至急向かってくださいっ‼︎』

 

 

 とアナウンスが聞こえて来た。

 

 ……ほうほう。こちらから挨拶に向かうよりも先に来てくれるとは感心してしまうな。これは是非とも感謝の気持ちを伝えなくては。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「そ、その……、こ、こんにちは?」

 

「あっるぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

 

『死の宣告』を受けて効果があらわれる一週間が過ぎたというのにピンピンしているダクネスをみて素っ頓狂な声を上げるベルディア。

 

 

「えー?なになに?もしかしてダクネスにかけた呪いを解きに来るはずってずっとあの城で待ってたんですか?プークスクス!解けないはずの呪いをあっさりと私に解かれちゃったデュラハンさん、どんな気持ち?ねえ、どんな気持ち⁉︎」

 

 

 おいやめろ、煽るな。ベルディアも肩を震わせて激怒してるから。俺もなんか腹立って来るから煽るな。

 

 

「……クソどもが!調子に乗るなよ、この俺が本気を出せば駆け出し冒険者の街などあっという間に根絶やしに出来ることを思い知らせてやろうか‼︎」

 

 

 手に持つ大剣を振り回して威嚇するベルディア。だが、冒険者の反応はまちまちだった。

 

 

「おい、あの魔王軍絶対殺すマン、今回は帰って来てるんだろうな?」

 

「あいつか。あいつがいればあんなデュラハン瞬殺だろ」

 

「お、あんた、カズマだっけか。あの凄腕と仲良かったよな。あいつ、今日はいるのか?」

 

 

 みんなが口々に『アイツ』の名を出す。前の時もそうだったけど、なんでこんなに有名なのか聞いてみると、「クエスト中に助けられた」、「とんでもない悪魔をあっという間に斬り伏せたところを見た」、「王都で世話になった」などの実にらしい(・・・)話がたくさん聞けた。

 

 冒険者全員がその話で持ちきりになっていると、ベルディアの耳にも届いたのか、興味深そうに聞いてくる。

 

 

「……?ほう、そんなに凄腕がこの街にいるのか?とは言え、せいぜいが王都にいる一般冒険者レベルだろうがな。言ってみろ、どんなやつなのだ?」

 

「おい、あのデュラハン、あんなこと言ってるぜ?ゼロが聞いたら笑っちまうんじゃねえの?」

 

「…………待て。貴様今、なんと言った……?ゼロ、と聞こえたが気のせいだよな……?」

 

 

 ……?ゼロのことをまるで知っているかのような口振りだ。知り合いなのだろうか。

 

 

「そのゼロとは、まさか赤髪黒目でマントを身に付けた、これくらいの長さの剣を使うやつではないだろうな……?」

 

 

 ベルディアが大剣で地面に線を引く。確かにゼロが使っていたデュランダルはあのくらいの長さだな。

 

 

「「「そうだよ」」」

 

 

 俺を含めた冒険者達が確認して一斉に返事をする。ベルディアが言った特徴とも合致するし、間違いないだろう。

 

 途端にベルディアの全身から汗がぶわっと出るのがわかった。アンデッドなのに汗腺とかは潰れていないのか?

 

 動かなくなったベルディアを観察していると、「あいつは王都にいるはずだ」、「……まさかな」、「いやしかし、万が一ということも……」などの声が聞こえてくる。心なしか焦っているようにも見えるな。一通り呟いた後、顔を上げた。

 

 

「き、今日のところはこれくらいにしておいてやる。俺は急用を思い出したのでな!あと、腹も痛くなってきた。うむ、これは帰るしかないな!そこの爆裂娘!今回も見逃してやるからもう城に撃ち込みに来るんじゃ無いぞ!……さらばだ‼︎」

 

 

 最後の方など可哀想なくらいに声が裏返っていた。一刻も早く、といった体で帰ろうとするベルディア。

 

 そこに街を取り囲む街壁の上から赤黒い流星が直撃した。

 それは俺の目からはまさしく流星にしか見えない速度だった。衝撃波すらも伴う凄まじい弾丸を、しかしベルディアは辛うじて大剣で防いだようだ。

 

 

 

「ぐうおああああああああ⁉︎」

 

 

 

 それでも無事では済まなかった。大剣ごと弾き飛ばされ、踏ん張ろうとしたようだが失敗。地面を転がりながらようやく体勢を整え、荒い息を吐く。

 魔王軍の幹部にそれほどまでの打撃を与えた『そいつ』は汗一つかいていない。

 

 そのまま『そいつ』は両手を合わせて礼をする。

 

 

「ドーモ、ベルディア=サン。ゼロ=ニンジャです」

 

 

 いつものようにふざけた調子で、この街が誇る最強、魔王絶対殺すマン、汎用人型決戦兵器:『ゼロ』がアイサツをーー

 

 

「またお前かああああああああああ‼︎」

 

 

 ーーそんなゼロのアイサツを聞いたベルディアがいっそ悲痛な叫びを上げた。

 

 

 

 

 


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