この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。


ベルディアさんとの決着が薄味?良いじゃないですか薄くても。
わぁいうすしお。あかりうすしおだぁいすき♡






40話

 

 

 

 

 ※

 

 

「なっ、なぜお前がこんなところにいるのだ!お前は王都にいるはずだろうが‼︎」

 

 

 

 あんまり怒鳴んなよ。俺がどこにいようが自由だろ。

 それに言ったはずだ、俺はまだ冒険者じゃないと。つまりアクセルに冒険者登録するために来るのは当然の帰結なのだ。

 

 

「あれ本気で言ってたのか⁉︎マジで冒険者じゃなかったのかお前!」

 

「あの時点でそんな嘘を吐く必要がどこにあったんですか」

 

 

 俺はつく必要の無い嘘はつかんぞ。つけば有利になる嘘はつくけど。

 ベルディアの方は相も変わらず死角から攻撃しても防ぐという特技を持っているようでなによりだ。

 俺も負けてられんな、と一歩踏み出したところで何を思ったのかベルディアが大剣を地面に突き立て、その手をこちらに向けてきた。

 すわ噂の『死の宣告』か、とも考えたがどうやら違うな。

 

 

「まあ待て、話し合おうじゃないか、ゼロ」

 

「プッ(笑)。話し合いぃ?」

 

 

 冗談だろう?そっちから攻めて来ておいて迎撃されるや否や休戦の申し入れとかギャグにもならんわ。

 魔王軍幹部のプライドとかはどっかに捨ててきたらしい。それならもうこちらから言うことは無いのでさっさと消え失せるが良い。

 

 俺が無言で身を沈めて剣を構えるとなぜか焦り始めるベルディア。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっと待て!い、今俺が身に付けている鎧を見て何か分からんか?」

 

「………綺麗な光沢のある漆黒の鎧。手入れはしっかりされているようですね、さすがベルディアさん。……もう良いですかね?」

 

「この鎧は吸光鉄で出来ている、と言えば分かってもらえるだろう?」

 

「……………」

 

 

 吸光鉄。

 

 確か、神聖な魔力を吸収する金属で、それで作った防具は『ターンアンデッド』などの破魔の魔法を打ち消す効果がある…が、代わりにとんでもなく脆く、高レベルの冒険者ならば素手で殴っても紙くずのように壊れてしまうとかいうそれはもう鎧じゃないだろと思わずツッコンでしまいそうな代物だと聞いたことはあるな。……それがどうかしたのだろうか。

 もしかして

 

 

「分からんか。この鎧は酷く脆い、これではお前の相手などとても務まらないだろう?今から城に帰って着替えてくるからしばらくそこで待っていろと言っているのだ」

 

「…………………」

 

 

 …………えっ?それだけ?今のは俺になんの得があるのだろう。話し合いとは互いに何か相手を認めるものがあるから成り立つのであって、一方的な要求は該当しないんじゃないかなあ。

 

 

「………ダメか」

 

 

 何か俺に得がありゃ別。無いならダメですけど。

 

 

「ンなことより大将首!大将首寄越せ!幹部がいる限り魔王城には入れねえって聞いたぞ!

 お前の命に代わる得なんざある訳ねえだろ、大人しく斬られろオラ!」

 

「いやあああああああ‼︎お家帰りゅうううううう!」

 

 

 情けの無い声を出して逃走しようとするベルディア。繊維喪失……は違った。戦意喪失どころの騒ぎじゃねえぞ。

 

 一方的な戦闘開始と同時にいつものように『アイツ』が現れ、俺を一瞥してから動き出す。

 あ、どうも。今回もよろしくお願いしますね。

 

 

「アンデッドナイト‼︎」

 

 

 ベルディアが部下なのか、アンデッドの大群を召喚し始めた。

 

 と、『アイツ』がまだ顕現前のアンデッドに突進する。数瞬遅れて俺も意図を察して後を追った。

 なるほど、『湧き潰し』はロープレの基本ってか。

 

 湧き始めた直後のアンデッドの首を次から次へと斬り飛ばし、ベルディアに向かう。壁が地面から生えてくるのなら道を塞ぎきる前に走り抜ければなんら問題ない。取り零しが数体出たが、なぜか俺ではなく正門前に集まっていた冒険者の方に、より正確にはアクアの方にフラフラと歩いて行った。

 あれは……無視していいか。アクアが何とかするだろ。

 

 逃げるのは無理と悟ったか、ベルディアが片手に持った頭を全力で上に投げた。かなり高いな。

 気にせず正面から最大速度で剣を振り下ろす。ベルディアも大剣を盾に受けようとしたが、俺は以前戦った時とはパワーもスピードも桁違いに強くなっている。

 そのまま弾け飛んだベルディアを追って斜め上にジャンプしながら剣を逆手に持って突き下ろす、と、体を捻って避けたようだ。着地と同時に進行方向にウィズ謹製爆発ポーションを放り投げてやる。爆風とともにこちらへ帰ってくるベルディア。おかえり。

 もう既に鎧はボロボロである。ほんとに脆いな。

 

 飛んでくる勢いのまま大剣を振り上げていたのでデュランダルを横にバットのように構える。一本足打法である。

 

 ベルディアの剣が迫る。上げた足を勢いよく振り下ろすと共に体にタメを作り、構えた剣をアッパー気味にフルスイング、激突した大剣をへし折りながらベルディアの胸に大きな傷を残して吹き飛ばした。

 ついでに、と落下してきた頭をキャッチして地面にダンクをかましておく。君が好きだと叫びたい。

 

 

「いでえっ⁉︎ま、参った!降参!降参する!」

 

「…………降参?」

 

 

 あれ、これで終わり?あっけないっていうか、物足りないんですけど。『アイツ』もいつの間にかいないし。

 前に戦った時こいつってこんなに弱かったっけ?

 

 

「ぐっ……!お、お前が強くなりすぎなのだ!以前は俺に力負けしていただろうが!だいたい前から思っていたが、なんなのだその剣は⁉︎魔王様の加護を受けた俺の大剣をポキポキ折りやがって、どんな素材で出来ているのだ⁉︎」

 

 

 地面に押し付けた頭部から喧しい声が響く。聞くところによるとベルディアの大剣は魔王の加護とやらで、触れた武器や防具の消耗を早める効果があるのだとか。なるほどね、そりゃ冒険者には天敵だな。

 その疑問の答えは簡単だ。消耗を早めるも何も、俺のデュランダルは元々の特性として『壊れない』という概念が付加されている。故に消耗も磨耗もしないんだなあこれが。残念でした。

 

 

「まさかその剣は神器とかいうやつか?そういうのは大抵変な名前の冒険者が持っている物だが……」

 

 

 変な名前ってのはあれだな、転生者は日本から来るからね。俺は生憎生まれも育ちもこっちの世界だけど。

 

 

「とりあえず俺の勝ちでいいよな?ほれ、なんか辞世の句とか、俺に言いたいこととか無いのか?それかお前が魔王軍の結界の維持を放棄すれば逃してやらんこともないぞ」

 

「ふん、好きにしろ。そもそも魔王様との契約は死ぬ以外には解除出来ん。ーーそれに、こんなに完膚なきまでに負ければ諦めもつくというものだ。俺は生前、謂れなき罪に問われて処刑された。その時は人間を恨み、妬んだものだが………こうしてお前のような奴に会えたのだ、悪くはーー」

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』‼︎」

 

「「えっ」」

 

 

 俺がベルディアの遺言のような最期の言葉を聞いてやっていると、いつの間にか離れた胴体に近寄っていたアクアが浄化の魔法をーーー。

 

 

「ちょっ、まっ、ギャアアアアアアアア⁉︎」

 

「・・・・・・」

 

「……?なにか話し中だった?ダメよ、あんな腐ったナメクジみたいな連中とあんまり長話しちゃ。ゼロまでアンデッドが移っちゃうわよ?」

 

 

 最期の言葉すらも満足に言わせてもらえなかったベルディアの悲痛過ぎる叫びが辺りに響き渡る。聞くに耐えない断末魔だ。

 どうやら爆発ポーションのせいで吸光鉄の鎧が仕事を放棄してしまったらしい。生前だろうと死後だろうと報われないベルディアの生き様になぜか自然と敬礼の姿勢を取ってしまった。

 

 

「あら?ようやく私に敬意を表すようになった?まーったくー、カズマもみんなも私に対して尊敬の念って物が足りないわ!その点ゼロはさすがね!これより、ゼロをアクシズ教会名誉教徒に任命します!」

 

「カズマあ‼︎こいつ今からでもさっきの檻に入れて売りに行かねえ⁉︎」

 

 

 何を勘違いしたのか名誉どころかとんでもなく不名誉な肩書きを俺に勝手に付けて敬礼をし返すアクア。プラチナむかつく‼︎

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「魔王軍幹部、デュラハンのベルディアの討伐お疲れ様でした!ベルディアの懸賞金が三億エリス、功労者のゼロさん、アクアさんに一億ずつお渡しして、残りの報酬はお二人の意向によってみなさんに均等に分配されます!」

 

 

 ギルド内が歓声に包まれる。

 

 

「イエアアア‼︎さっすがゼロ、話が分かるぜ!」

 

「おい、胴上げしようぜ!」

 

「今夜は朝まで飲みまくるぜえええ⁉︎」

 

 

 うっるさ。胴上げとか要らないから。思うんだけど胴上げって素のテンションの時にされると罰ゲーム以外の何物でもないよね?

 

 ちなみにアクアはこの報酬の分配はすこぶる不満だったようだが、俺が弱らせなかったら浄化は通じなかったってことは理解しているらしく、その俺の提案に渋々ながら合意した。

 俺の方はなんか報酬を独り占めすると暗殺とかされそうで怖かったし、今の所使う予定も無い金など持っていても意味などないからね。この世界にも銀行とか作ればいいのに。

 

 それと気になることがある。幹部であるベルディアにこれほどの懸賞金がかけられていたということは他の幹部にも同等のものがあるはずだ。ルナに近寄って質問する。

 

 

「あの、ルナさん?すみませんけど、魔王軍幹部のシルビアの懸賞金ってお幾ら万円ほどか教えてもらっても?」

 

「え……、え?シルビアはもう討伐されて懸賞金が支払われているはずですが……。えっと、一億五千万エリスですね。それがなにか?」

 

 

 ………そんなに貰って無いんですけど。

 

 マントの代金のために倒しただけだが、代金を引いて俺に残った金額はそこそこ多かったものの、そんなに元があったようには思えない。それともこのマントはそれほど高価だったのだろうか。

 

 

「えっと………?いえ、討伐者は他の方になってますけど…」

 

「は?なんで?」

 

 

 いや、今さら金くれなんて言わないけどそれはおかしくね?シルビアは間違いなく俺が一人で倒した。完全にバラバラにしたから実は生きてたとかも無いはずだ。大体、俺ではないことになったのだとしたら俺に渡ってきたあの金はどう説明するのだ。

 それに冒険者カード、これは偽装できまい。

 

 

「ほら、これ。討伐モンスターの欄に書いてあるでしょう?」

 

「あれ、本当ですね……。うーん、でも、申し訳ありませんがすでに支払われた懸賞金を払い戻すことはできないんですよ」

 

 

 その討伐者とやらはどうやってシルビア討伐を証明したというのか、何故証拠を持ってる俺には端金しかくれなかったのか。

 色々疑問が浮上するが、最早過ぎた事であるし、正直面倒くさいからもういいや。俺は考えるのを放棄した。

 

 うええ……。自分の手柄を他人に取られると褒められたかったわけじゃなくても納得いかない気分になるんですけど。なんかどっと疲れちまったぞクソッタレ。

 

 重い足取りで酒場に戻ると、カズマや他の冒険者が声を掛けてきた。

 

 

「おいおい、何しょぼくれてんだよ!」

 

「MVPがそんなんじゃ場が白けちまうだろうが!ほら、飲め飲め!」

 

「………酒か」

 

 

 そういえば以前飲んだのは王城に初めて行った時だったな。それ以後は飲もうとするとジャティスが必ず止めにきたから飲めていない。ここにはジャティスはいないんだし、良いだろう。

 

 細かいことは酒を飲んで忘れることにした。

 なみなみと注がれたジョッキを一気に飲む。

 

 

「お、いい飲みっぷりだな!」

 

「どんどん飲めや!ほれほれ!」

 

 

 飲み干しては注がれる酒をまた飲み干す。だんだんいい気分になってきたぞ。これはいいものだ。

 

 

「……ん?あの、ゼロさん?聞こえてる?」

 

「おい、これマズいんじゃ…、目が据わってきてるーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 いつの間に帰ったのか、自室にいた俺は痛む頭を抱えてギルドへ向かう。今日からまたカズマと組むんだっけか。一週間は優先して、その後はまたフリーの傭兵だな……。

 

 そんなことを考えながら道を曲がる。この先にはすぐギルドの入り口がーーーーー。

 

 

「ーーーーーは?」

 

 

 無かった。入り口が。

 あるのは残骸のようなものだけだった。

 ギルドの建物は半壊して、辛うじて普段の機能を果たせるかどうかという程のひどい有り様だ。

 

 そこかしこに昨夜一緒に騒いでいたはずの冒険者が転がっている。

 その中の一人に駆け寄って抱き起こす。

 

 

「お、おい!何があった!しっかりしろ!誰にやられた!」

 

 

 柄にもなく焦ってしまう。ここにはそれなりの数の冒険者がいる、それを全員ノックアウト。しかもこれほどの破壊を巻き起こすやつが攻めてきたのだとしたら、俺でも勝てるかどうかーーー。

 

 気絶していた冒険者がゆっくりと目を開いて俺を見る。

 

 

「……ん…?……ヒッ⁉︎」

 

「大丈夫か!どんなやつがここに来たんだ!」

 

「や、やめろ!近寄るなぁ!」

 

 

 ……なぜ俺を見てそんなに怯えるのだ。

 

 その後、何を聞いてもお前は一生酒を飲むな、と言ってくるだけで埒があかない。どっかプリースト……アクアの所にでも連れて行くか。

 

 その日は転がっている冒険者を全員をアクアに診せるだけで潰れてしまった。

 ちなみにアクアは半壊したギルドの端っこで酒瓶を抱えたまま寝ていた。昨日は早々に酔い潰れたおかげで難を逃れたとか言っていたが、結局何が起こったかはわからなかったな。

 

 

 後日。俺のところにギルドの修理代と冒険者達の慰謝料を請求する書面が届いた。

 なぜだ。俺は何もやっちゃいないぞ。そう弁明するが、ギルド職員は俺がやったの一点張りだ。

 しょうがないのでベルディアの賞金の大半を使って一括で払ってやったわ。警察沙汰はマジ勘弁。

 

 その後で久しぶりに天界から帰って来たクリスにも開口一番で、「キミはもう二度とお酒は飲まないでね⁉︎」と怒られてしまうし、散々だったよホント。

 

 

 

 

 


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