この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







42話

 

 

 

 ※

 

 

「ほうほう、昨日も人助けですか。随分良い人になりましたね、ゼロ」

 

「いきなり引っ張ってきて絡むなよぉ……。そもそも俺はお前に対しては以前からわりと優しいお兄ちゃんだったと思うんだが?」

 

 

 テイラーのパーティーを救出した翌日。ギルドを訪れた俺を見るなり駆け寄ってきためぐみんは俺に難癖をつけ始めた。

 

 俺とめぐみんは人から隠れるようにギルドの隅っこにしゃがんで身を寄せ合っている。この姿勢に何か意味はあるのだろうか。

 あと、お前いい匂いするね。シャンプー何使ってる?

 

 

「………変態ですね」

 

「ありがとうございまーー悪かったよ!」

 

 

 目を見て謝罪。

 

 アカン、これは我々の業界ではご褒美とか言ってられないくらいのガチのやつだ。

 中学生女子の直球の罵倒は時に成熟した鋼のメンタルをも貫くことを忘れてはいけない(戒め)

 

 それでも俺から身を引かないあたり、冗談で言っているのだと信じたい。信じることにした。うん。

 

 しかし身嗜みには最低限しか気を使わなかったはずの我が妹が急にどうしたのだろうか。

 まあ今まではそんな余裕がなかったと言えばその通りなんだろうが。裕福にならなきゃ身嗜みってのは行き届かないもんだしな。

 

 

「別になんだっていいじゃないですかそんなこと。それよりもその人助け精神を今度は私達に向けてみてはどうです?」

 

「なんだ?そいつは俺に依頼したいってことか?

 ……というか今からクエストに出るの?お前らが?外は大雪だぞ」

 

 

 そう、外は一面の銀世界だ。宿のドアが開けにくいと思ったら膝の高さくらいまで雪が積もってやがった。こんな日にクエスト受ける奴じゃないだろカズマは。お前らはどうか知らんが。

 

 

「それがですね、カズマがお金が欲しい!と言って、何をトチ狂ったのか『雪精の討伐』のクエストを受けてしまったのですよ」

 

「金が欲しい?……なんで?」

 

 

 ベルディアの懸賞金がアクアが貰った一億と、カズマ、めぐみん、ダクネスにもそれぞれで分配された分があったはずだ。あれから二ヶ月経ったっつってもそんな簡単に消える額じゃないぞ。

 

 

「あのお金はアクアが全部使いました」

 

「バカなの⁉︎」

 

 

 いやバカなんだろうけどさ。

 

 億を超える金を一体何に使ったのさ。家?不動産?俺の貧困なイマジネーションじゃその辺が限界なんですが。

 

 

「えっと、その、実はですね………」

 

 

 聞くと、道端にいた行商人らしき人物がドラゴンの卵なるものを有り金全部と交換で、という名目で売っていたらしく、たまたま通りがかったアクアが一億で買ってしまったようだ。

 アクアが言うには相場よりも少し安く買えたとか何とか。そもそもドラゴンの卵を買って何に使うのかとか色々聞きたいことはあるが、まず。

 

 

「それが本物かどうかの確認はしたのか?見ればわかるってんなら問題は無さそうだが」

 

「私が見たところあれは鶏の卵にしか見えませんでした」

 

「じゃあ鶏の卵なんだろ」

 

 

 おそらく世界で一番高価な鶏の卵だ。一億である。童話の金の卵だってそんな値段はするまい。

 おっとおじさんの金の玉は別だぞぐへへ。

 

 

「しかし雪精かぁ。ってことは当然、『アレ』も付いて来るよな」

 

「まず間違いなく付いてきます」

 

「……お前、ちゃんとカズマに『アレ』の危険性教えてやったのか?知ってて受けたなら正気とは思えないんだが」

 

 

『アレ』は冒険者の間じゃ最大クラスの禁忌だろ。俺ですら戦おうなんて愚考はしねえし。

 

 

「お、教えようとしましたよ!でも雪精自体はとても弱いって聞いた瞬間にはもうクエストを受注してしまいまして……」

 

「なるほど、それで俺ってワケかい」

 

「なんとか頼めませんか?『アレ』を倒してほしいわけではないのです。誰も死なないように……、ゼロにしか頼めないんですよ」

 

 

 ……まあ別に構わんがな。

 

 自殺しにいくアホを止めるのは最近の俺の仕事でもある訳だし、『アレ』と対峙しても俺なら時間稼ぎくらいできるだろう。倒さなくていいなら受けてやらあ。

 

 

「ほ、本当ですか⁉︎ありがとうございます!あの、報酬なんですが……」

 

 

「報酬……三十万ってとこか。俺も基準や相場を決めてはないから結構適当だけど。……払えるか?」

 

 

 めぐみんからエリス銀貨の入った袋を受け取る。これにて契約成立っと。

 

 

「さて、じゃあ行くとするかね。カズマは?ギルドには……いないな。どこで待ち合わせだ?」

 

「あ、カズマ達はもう先に行ってますよ。ゼロが来る二時間くらい前でしょうか。私は用事があると言って残らせてもらったんですよ」

 

「早よ言えや!あいつらがもう『アレ』に遭遇してたらどうすんだ⁉︎お前走るのは……、ええい、遅いか!」

 

「おい、何をもって私の足が遅いことを決めつけたのか聞こうじゃないか!」

 

「うるせえ、俺からすりゃ基本的に常人は遅いって認識なんだよ!………しゃあねえなぁ。ほれ、おぶされ」

 

「言われなくともそのつもりです」

 

 

 最初からそのつもりだったのか、振り落とされないようにかどこからか紐を取り出して俺と自分を結び始めるめぐみん。

 

 産まれたばかりの赤ん坊を抱くお父さんはこんな感じなのだろうか。細心の注意を払って走らなければめぐみんが傷付いてしまいそうだ。

 

 

「そんじゃ行くぞ、娘よ」

 

「誰が娘ですか……ぐえっ⁉︎」

 

 

 もう一度解けないように紐を結び直してギルドを飛び出す。雪で走りにくいが、それはあいつらも同じだろう。なんとか間に合えばいいが……!

 

 

 

 

 ※

 

 

「あれがかの有名な『冬将軍』よ」

 

「本当にこの世界はアホばっかりだな!今再認識したわ‼︎」

 

 

 目の前には白。鎧も兜も手に持つ刀まで全身白づくめの鎧武者がそこに立っていた。

 

 その冬将軍とやらがダクネス目掛けて刀を構え……いきなりダクネスの持っていた剣が甲高い音を立てて真っ二つに折られた。

 

 断言する。俺の目には何も見えなかった。

 あのゼロよりも速かったのではないか。そう思えるほどに目の前の存在は底が知れない。

 

 

「ああっ⁉︎今まで一緒にやってきた私の相棒がぁ……⁉︎」

 

 

 愛着のある剣だったらしく、ショックを受けるダクネス。

 

 

「ど、どうするんだよ⁉︎めぐみん爆裂魔法……いやめぐみんはいないのか!くそっ、なんか弱点とか無いのか⁉︎」

 

「カズマ、DOGEZAよ!寛大な冬将軍はDOGEZAして謝る人間は許してくれるわ!ほら、ダクネスも!カズマも早くして!」

 

 

 仮にも女神がモンスターに土下座する姿を見てしまった。が、今はそんなもんに拘ってる場合じゃない。それに倣って俺も土下座をーーー

 

 

「………ん⁉︎お、おいダクネス、何やってんだ!早くお前も土下座しろ!」

 

「わ、私とてプライドという物がある!モンスターにそう簡単に頭を下げる訳には……」

 

「バカか‼︎お前はプライドと命とどっちが大事なんだ!俺の地元じゃ『死ななきゃ安い』って名言があるんだ、命より大事な物なんかねえぞ‼︎」

 

 

 嫌がるダクネスの頭を無理矢理下の雪に叩きつける。「んぶっ⁉︎い、いいぞカズマ、もっと強くしても平気だぞ⁉︎」と変態丸出しのダクネスを押さえつけ、自らも頭を下げ続ける。

 

 しかし冬将軍は俺たちから離れようとしない。何か足りないのだろうか。

 

 

「あっ、ちょっとカズマ!手に持ってる剣!早く捨てて!」

 

「剣か‼︎」

 

 

 頭を下げることに躍起になるあまり武器を捨てるのを忘れてしまっていた。

 

 急いで投げ捨てるが、その際に頭が僅かに上がりーー

 

 

 キンッ、と澄んだ音がした。

 

 目を向けると、冬将軍が刀を鞘に収めて構えているのが見える。俗に言う居合いの構えというヤツだ。

 

 

 ーーーあ、これは死んだ。

 

 そんな思考が頭をよぎり、冬将軍の上半身がブレる。

 きっと痛みなんて感じる暇も無いだろう。それが少しだけ気を楽にしてくれるーーー

 

 

「悪りぃがこっから先はぁ……一方通行だぜェ‼︎」

 

 

 そんな聞いたことのある声が遠くから一瞬で近づき、俺と冬将軍の間に割って入った。

 

 ガキィィィン、と金属同士がぶつかり合う耳障りな音がして、直後に吹き荒れた風によって俺は後方に雪まみれになりながら吹き飛ばされる。

 

 ガバッと雪を撒き散らしながら顔を上げると、最近は酒癖が悪いと評判の俺の友人がグッタリするめぐみんを背負って立ち塞がっていた。

 

 めぐみんを縛っていた紐をほどき、わざわざマントをバサッ!と翻しながらその男が叫ぶ。

 

 

 

「俺‼︎参上‼︎」

 

 

 

 ……前から思ってたんだがこいつはどこでこういうネタを覚えて来るんだろう。こいつの父親が転生者なのは初めて会った時にそれらしいことは聞いたけど、こいつが転生者だってのは聞いてないしなあ。

 

 

 

 

 

 


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