この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






43話

 

 

 

 ※

 

 

 危っっっぶねえなおい……‼︎

 

 まだ心臓がバクバク鳴っている。

 

 今のはマジでヤバかった。危うく知り合いの首が宙を舞うショッキング映像を脳に刷り込まれるトコだった。

 この俺が思わずめぐみんを気遣うのを忘れてしまうほどに全力を出してしまったほどである。

 急激な加速によるGに耐えられなかったらしいめぐみんを静かに雪面に降ろし、改めて目の前の相手を見る。

 

 へえん、これが噂の冬将軍かいな。積極的に会いたいとは絶対思わないが、正直なところ人生で一度くらいはちょろっと戦ってみたいという気持ちが無いでもなかったんだよね。

 けど今回悪いのは無害な雪精を虐殺したこっちだしな。なるべく時間稼ぎしてパパーッと逃げちまおう。

 

 弾き飛ばした冬将軍がこちらを値踏みするように見てくる。今すぐ襲ってはこなさそうだ。

 

 

「カズマ、めぐみんを頼めるか?アクアもダクネスも早く街に戻れ。しばらくならなんとかしてやる」

 

「そ、それよりお前、なんでここに?俺は依頼なんかしてないぞ?」

 

「それはめぐみんに礼を言うんだな。そいつはお前らのために自腹切ってまで俺に依頼してきたんだ。いい仲間を持って幸せだなあ。ええ、おい?」

 

 

 カズマが見直したような目でめぐみんを見てそのまま抱き抱えて後ずさっていく。

 それでいい。早く逃げてくれないと俺も逃げられないからね。

 

 

「やったわ、ゼロさんが来てくれたなら安心ね!今のうちに規定数の雪精を倒しちゃいましょう!上手くいけば冬将軍の懸賞金も手に入って一石二鳥じゃない!」

 

「すっとぼけたこと言ってんじゃねえぞドアホ‼︎アクセルに帰れっつってんだよ、早よしろや‼︎」

 

 

 この後に及んでクエストがどうのこうの言う元なんたら様に怒鳴る。

 どんどん涙目になっていくアクアだが、知ったことではない。そのアクアをダクネスが引きずって連れて行く。

 

 頼むから早くしてくれ。アクアの発言を認識したから知らんが冬将軍から殺気というか、そんな感じのオーラが滲み出てきてるんだよ。

 

 何の前触れもなく。フッ、と冬将軍の姿が雪に紛れて消える。

 

 遂に様子見は終わりってか、くそっ!

 

 俺を無視して雪精討伐宣言をしたアクアに向かって凄まじい速度で突進する冬将軍に何とか追い付き、肩を掴んでこちらを向かせる。

 振り向きざまに俺の太ももあたりを狙って刀を振ってきたが、それをベリーロールで飛び越え、兜の目が覗いている隙間目掛けてデュランダルで突く。狙い違わず突き刺さるが、手応えがない。

 そういや実体が無いとかいう噂されてましたっけね。……あれ、じゃあ俺って勝ち目無くない?いや、勝たなくて良いんだったか。

 

 返す刀で首チョンパしようとしてくるが、両足を限界まで開いて回避し、逆に冬将軍の左脚を丸ごと切り落とした。どうやら鎧にはある程度の実体があるようだ。これならなんとか……?

 

 どうにか戦闘の算段を立てていると、また冬将軍が搔き消える。雪と同じ真っ白だから本当に分かりにくいな。今度はどこに行きやがった。

 

 

「ゼ、ゼロさあああん!ピンチなんですけど!私今すごいピンチなんですけどー‼︎」

 

「なんでお前ばっか狙われんだよ!お前なんかしたの⁉︎」

 

 

 見ると、カズマ達が逃げた先に立って居合いの構えをしている。かなり離れているのに一瞬であそこまで行くとなるともう雪原上はどこにでも出現出来ると思った方がいいかもしれない。

 

 これは間に合うか危ういな……!

 

 全速力で向かうが刀が抜き身になる方が早い。俺から見て近かったアクアとダクネスを踏んで地面に押し付けながらカズマ、めぐみんに向かって跳ぶ。回転しながら剣を持つ手とは逆の手でカズマの首根っこを引っ掴んだところで冬将軍が冷気を固めたような色合いの斬撃を飛ばしてきた。

 

 カズマを無理矢理上に投げ、自分はしゃがんで躱すが、タイミングがギリギリだったせいで火竜のマントを掠めてしまう。

 当たったところがスパッと切れて、周りに霜が降りていた。

 何だ今の、羨ましいな。俺の斬撃にもあんな効果が付与されないものかしら。

 つーか四人も庇いながら戦うのは結構キツイぞ。なんか斬ったはずの脚まで再生してやがるし、どうすっかなーーー

 

 

「うッ⁉︎」

 

 

 ぞくっとした感覚が背筋を走った。周囲の空気が急速に冷え、少しずつ冬将軍に集まっていく気がする。

 冬将軍は攻撃を回避する俺たちに業を煮やしたのか、何かするつもりらしい。

 

 ヤバい、とんでもないのが来る。直感と経験でわかってしまう。これは俺の手に負えるモノじゃない。

 例えるなら『エターナルフォースブリザード』相手は死ぬ、みたいのが来る。

 俺はともかくこいつらじゃ間に合わなそうだな。

 

 

 ………カズマ、めぐみん、アクア、ダクネス!

 

 頭の中で優先順位を決めて即座に動く。基準は死にやすい順だ。

 最後のダクネスが俺が動いただけじゃ厳しいか……?

 

 

「ダクネス!ご褒美だ!」

 

 

 ダクネスに向けて持っていた爆発ポーションを一つを残してありったけぶん投げる。足元でうつ伏せになっていたカズマとめぐみんを両手で抱え込み、ダクネスの隣にいるアクアの方向にあらん限りの力で跳ぶ。

 腕の中の二人がブラックアウトしないかなど気にする余裕は無い。そもそもめぐみんは手遅れだ。

 アクアが着ていた服を歯で挟んで首の筋肉で引っ張って離脱させ、直後に連続してダクネスから爆発音が上がった。

 

 悪いなダクネス!死ななきゃ俺の口元のこいつが何とかしてくれるからーーー?

 

 予定では爆風でこちらに吹き飛んでくるはずのダクネスが、しかしいつまでたっても飛んで来ない。

 不思議に思いながらそちらを見て、愕然としてしまう。

 

 

 「なんっで耐えてやがるんだてめえはあーーー‼︎」

 

 

 ダクネスは腕をクロスして脚を踏ん張り、その位置から一歩も動かずにいた。多少の火傷以外のさしたる傷は見当たらない。

 

 化け物かよ、どんな身体してやがるんだ。なんかこっちに向かって「どうだ?凄いだろう」みたいな顔してドヤってんのが腹立つなクソ。

 

 

 辺りがシン…と静まり返る。

 

 もう背筋の悪寒はマッハだ。これだけで風邪を引くまである。

 

 冬将軍は右手に持った刀をこちらに刃をむけながら左の首元に構えている。

 その刀身は全ての冷気が凝縮されたのではないかと見紛うほどに白く光り輝いている。もう一刻の猶予も無い。

 

 両腕の二人と口に咥えたアクアを全力で前方の上空に放り投げた。着地はどうにかしてくれ。下は雪だから何とかなるだろ。

 

 冬将軍が刀をゆっくりと動かす。それは振るというにはあまりに遅いが、そこに秘められた危険性は想像することなどできまい。左の首元の刀を雪原を通し、右に持っていく。ちょうど振り子のような動かし方だ。雪原を撫で斬ったようにも見える。

 その斬った雪が質量保存の法則など無視したかのようにとんでもない勢いで膨張してこちらに雪崩れ込んで来た。『賢者の石』でも持ってるんですかねえ。

 

 片足を軸に反転してダクネスの目の前に急行、未だにクロスして踏ん張った状態の腕の真ん中に後ろ回し蹴りを打ち込んで他三人の方向へ蹴り飛ばす。

 

 さあ、俺もトンズラのお時間だ。なあに、流石に雪崩よりは速い……速い……。

 

 

「………あれっ」

 

 

 逃げる方向を決めようと周辺を見渡すが、逃げる場所がそもそも存在しない。いつの間にか全方位の雪が俺一人目がけて怒涛の勢いで膨れ上がっていた。

 

 あれれー?おかしいぞー?

 いつの間に標的が俺に変更されていたのだ。完全に俺だけは殺すという覚悟を感じる。これは逃げられませんね。

 

 せめてもの抵抗とばかりにマントに包まって防御姿勢をとる。とっくに対ショック!

 

 膨大な量の雪が斜面でもないというのに雪崩のような圧迫感と質量で俺を押し潰そうと迫って来た。

 

 その先頭に冬将軍が刀を振りかざしながらこちらに斬りつけようとする姿を見る。

 こいつは雪崩でサーフィンするのが趣味なんだろうか。さすがは雪の精霊の塊なだけはあるな。迷惑だからマジやめろ。

 

 しょうがねえからせめて一矢報いさせてもらうとしようかな、記念にもなりそうだ。

 予定変更、防御姿勢を解除しながらデュランダルに最後に残した爆発ポーションを塗る。松脂をヌリヌリいたしましてっと。

 

 

「『緋炎』‼︎」

 

 

 めぐみんから不評だった『エクスプロージョン』から必死に名前を考えた新たな技で迎え撃つ。新しくなったのは技名だけとか言っちゃいけません。

 

 冬将軍の刀と俺のデュランダルがぶつかり合い、デュランダルが爆発、冬将軍と雪崩を僅かに押し戻す。

 俺も爆発の衝撃に逆らわずに後ろへ吹き飛ぶ。あわよくば逃げようと思ったのだが、全方位ということは当然ながら背後からも雪は押し寄せて来ている訳で。

 

 

 今ので撃退できてればいいけど。

 

 

 その思考を最後に俺は雪崩に飲み込まれた。

 

 

 

 

 


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