この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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45話

 

 

 

 ※

 

 

「良いか?魔法使うな手え出すな口出すな。はい復唱してみろ」

 

「ねえ、カズマったら私のこと何だと思ってるの?いきなり建物の中で魔法使ったり暴れたりなんかしないわよ、めぐみんじゃあるまいし」

 

「えぇ〜?本当にござるかぁ〜?」

 

「「うわっウザッ‼︎」」

 

 

 俺の煽りへの反応がハモる二人を尻目にウィズの店に向かう。アクアには行き先を告げていないが、カズマには予想はできているようだ。

 今回の目的はカズマにリッチーが覚えているとされる強力なスキルを教えてもらうことだが、俺もそろそろウィズの店には行こうと思っていたからちょうど良いとも言える。

 

 というのも、先日の冬将軍戦で爆発ポーションを使い果たしてしまったからだ。結果的には無駄遣いに他ならなかったわけだが。主にあの狂性堕(クルセイダー)のせいでな。

 

 あれは俺の戦術を広めてくれるいいものだ。入荷したそばから買い占めているが、一度に入荷する量も入荷する頻度も決して多くないため、すぐに切らしてしまうのは俺の反省点でもあるな。

 あのポーションが正直なぜ売れていないのか不思議でしょうがないが、一本一万エリスとかいう中々の値段がするからだと勝手に思っている。

 

 アクアが寒いだのあったかいんだからぁだのと喧しくしているうちに『ウィズ魔道具店』の看板のすぐそこまで来た。

 

 

「おーい、ウィズー。前に頼んどいたポーション買いにーー」

 

 

 俺がいつものようにドアを開けながら来訪を告げると、とても魔王軍の幹部をやっているとは思えないくらい優しそうなリッチーが店の奥から姿を見せ……たりはせずに。

 

 

 

「へいらっしゃい、お客様!我輩はつい先日バイトで入った………ん?おおっと『死神』ではないか、久しぶりであるな。

 欠陥店主から聞いているぞ、何に使うかは知らないがこの爆発するポーションを毎回買い占めてくれるお得意様だとな」

 

「き、たぞ………」

 

 

 俺が持っている仮面と同じものを顔に付け、エプロン姿の身長190を超える色んな意味での大悪魔が妙に板に付いた様子で出迎えてーーー

 

 ーーー何やってんのこいつ。

 

 

「フハハハハハハ!どうしたどうした、そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして!

 おお、そういえば貴様には礼を言わねばならんな!我輩との約束を守ってくれたようではないか、感心感心!

 ………む?なんだ、その、後ろから差している後光のようなものは?誰か他に客でもいるのか?」

 

「……?ねえゼロ、どいてくれない?なんか中から凄い腐臭がするんですけど。アンデッドか、それに準ずる何かがいたりしない?」

 

 

 ……どう思いますか、皆さん。凄くないですか。女神と悪魔が壁一枚どころか俺一人隔てた距離でお互いを認識せずにいるんですよ。奇跡的なバランスじゃないですか?

 

 

「ーーーおい、そこをどけ『死神』。何やら貴様の背後から忌まわしくも神聖な気配を感じる。我輩や貴様には毒だ。どれ、今すぐ排除してやろう」

 

「ーーーなんか我慢出来ないくらい汚らわしい気配が中からするんですけど。これはアンデッドどころじゃないわね。ちょっとそこどきなさいよ」

 

 

 あ、もう駄目みたいですね。

 

 と言うかバニルは何で俺を悪魔か何かみたいに言うんだ。俺は人間だっつーの。神聖な気配なんか感じねえし毒でもない。回復魔法で滅んだりもしないぞ。

 

 

「あのさぁ……。一応言っておくけどここ人の店だからな?暴れるなよ?

 特にバニルはここにどんな危険物が置いてあるか知ってるだろ?お手柔らかに頼むわ、切実に」

 

 

 とりあえずこの店に用事がある以上この二人の邂逅は避けられまい。そこは諦めるとしてもマジで頼むぞ。

 

 

「フン、貴様が我輩をどんな目で見ているか知らんが安心しろ、我輩はTPOというやつを弁えて………」

 

「……………………」

 

 

 この空気をどう表現したら良いのか。凍り付いた時間はどちらからともなく動き始めた両名によって氷解する事になる。

 

 

「『バニル式殺人光線』‼︎」

「『ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 

 

 このように。

 

 

「フハハハハ!なぜ女神が下界にいるのかは知らんがここで会ったが百年目という言葉がある。実際には百年では足らんがな!」

 

「ねえちょっとゼロさんカズマさん、あの虫けら何言ってるの?私人の悪感情を食べないと生きられない寄生虫の言葉なんてわからないのよね」

 

 

 いがみ合う二人。

 さすがに迂闊には飛び込めないのでなんとか止める隙をうかがっていると、カズマが唐突に。

 

 スッパーン‼︎

 

 という小気味の良い音をアクアの頭と自分の手の間から響かせる。

 

 

「痛づぁ⁉︎何すんのよカズマ‼︎」

 

「この馬鹿、お前店の前で言った事もう忘れてんじゃねーか!魔法使うなっつったろ!」

 

「だ、だってだって!カズマだって目の前にゴキブリがいたら反射的に引っ叩きたくなるでしょ⁉︎今のは不可抗力よ!」

 

「今俺が引っ叩きたいのはお前の頭だよ!」

 

「…………フン」

 

 

 いきなり始まったいつもの夫婦漫才にバニルも気勢を削がれたのか、鼻を鳴らして構えを解く。

 

 バニルは人間には基本攻撃しないと自分で言っていたし、アクアも飼い主には強く出られまい。

 まさか天地がひっくり返るレベルの争いを止めたのが何の特技もないただの人間だなんてどんな神話にも載ってはいないだろう。カズマさんってばやりますねぇ!

 

 せっかく落ち着いたのだし、今の内に用件だけ話して大悪魔パイセンには奥に引っ込んでてもらおう。

 

 

「よお、今日はいつもみたいにポーション買いに来たのもあるけどウィズに頼みたいことがあるんだよ。ウィズ、いるか?」

 

「ウィズ?ねえ、今ウィズって言った?確かあの墓場であったリッチーの名前よね?ここあいつの店なの?

 ていうかカズマにリッチーのスキル覚えさせるつもり?女神としては見過ごせないんですけど」

 

 

 こんな時だけ耳聡いアクアが猫がマタタビに反応するかの如くウィズの名に振り向くが、その程度の答えなら俺でも用意できるぞ。

 

 

「さっき言っただろ?カズマは強力なスキルを覚えたいんだって。アンデッドの王であるリッチーのスキルなら申し分無いと思ったんだよ。

 文句言うんなら、じゃあお前が回復魔法とか教えたらどうだよ」

 

「それだけは絶っ対嫌よ。……しょうがないわね、こんなアンデッド臭い場所に長く居たくないし、早く済ませてよね」

 

 

 俺の思い違いでなければ付いてくるなと命じたのに勝手に付いてきたのはこいつだったと思うんだが。

 それを言うとまたごちゃごちゃ言い出しそうだったので黙っておく。

 

 

「あの店主なら店の奥で我輩の殺人光線を受けて倒れておるぞ」

 

 

 いや何してんだよ。

 

 

「あの店主ときたらガラクタばかり仕入れるのでな。我輩が来る前に仕入れた物はまだ、まだ許そう……!

 しかし何故我輩が来た後、あんなに口を酸っぱくして言ったのにちょっと目を離すと変な物が棚に増えているのだ!あの欠陥店主はガラクタを生み出す錬金術でも覚えているのか⁉︎」

 

「それは本当にあるかもしれねえな」

 

 

 マジで謎なのが俺が店にいる時、ウィズから目を離してすらいないのになぜか棚に見覚えのないものが増えていることだ。

 何でだ、ウィズは棚に近寄ってもいないんだぞ?一体誰があんな所に置いたというんだ。

 

 おそらくこの謎は永久に解かれることは無いんだろうなって。

 

 

「なあ『死神』よ。物は相談なのだが……」

 

「断る。あと、死神呼びはやめろっつったろ。地獄に叩き返すぞ」

 

 

 ここぞとばかりに不要品を押し付けようとするバニルに機先を制する。

 ごく稀に俺が使えなくも無い道具を買ってはいるが基本どころか原則的にウィズの売ってる道具はガラクタor効果は高いが高価過ぎる物しかない。使わん物は買わない。クリスに怒られる。

 

 以前もある魔道具というかポーションを鍛錬に使えるかな、と考えて買った時にすんごい真顔で「いくらしたの?」とか「何に使うの?」とか「えっ、もう一回言って?いくらしたの?」って何回も同じこと聞いてくんだよ?怖すぎてちびりそうになったわ。

 

 というわけでお引き取り願おうか、見通す悪魔さん。

 

 

「チッ。……少し待っていろ。店主を起こして来る。

 そしてそこの女神もどき!棚の品物に勝手に触れるな!死に……小僧供!見張っていろ!」

 

「お前意外と素直だな」

 

「ちょっとあんた待ちなさいよ、もどきって何よもどきって!私は立派な女神なんですけど!謝って!ほら、早く謝って!」

 

 

 噛み付くアクアを無視して店の奥に入っていくバニル。

 それから数分間。アクアがポーションを水に変えたり、置いてあった魔法がかかった武器をただの武器に変えたりしようとする度にカズマが剣の柄で頭を叩く音が響いていた。なるほど、頭の中が空っぽだといい音が響くものである。

 ……その理屈でいくと俺の頭を叩いた時もいい音がするのだろうか。やっぱり納得いかん。

 

 俺が冒険者カードの基準に疑問を抱いていると、程なくして奥からフラフラのウィズが青白い顔をさらに青白くしながら出て来る。

 

 

「あ、ゼロさん、いらしてたんですね。伝言通りバニルさんも遊びに来てくれたんですよ。改めてありがとうございました。

 えっと、そちらの方達は以前共同墓地で会いました、よね……?お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は佐藤和真。カズマでいいよ」

 

「私は崇高なる水の女神にして、アクシズ教団が崇めるご神体、女神アクアよ!そこの寄生虫もなめくじリッチーも控えなさい!」

 

「アク……シズ……。ひ、ひっ⁉︎アクシズ教⁉︎あの頭がおかしいことで有名な宗教の元締めだなんて……‼︎ほ、本物……⁉︎」

 

「……ねえゼロさん、なんで私の可愛い教徒達はこんなに怯えられてるの?みんないい子達なのよ?何かの間違いじゃないかしら」

 

 

 ところがどっこい、これが現実……!

 残念ですがアクア様、逃避してばかりでは精神的に成長出来ないと思われますのでしっかりとこの世界の真実を味わうといい。

 そしてアクシズ教を解散させてくれれば世界は少しだけ平和になるかもしれないよ?

 

 

「いや、実際アクシズ教と関わったことないけどそれは幸運が最低の俺の最高の幸運だと思ってるから。(エリス関連以外で)

 お前、アクシズ教の評判なんか酷いもんだよ?魔王軍よりも厄介でゴキブリよりもしぶとい最悪の害虫とか言われてるから」

 

「な、なんでよおおおおおおおお⁉︎」

 

 

 どうやら真理を見ることに耐えられなかったらしいアクアが泣き崩れる。安易に真理の扉を開くと対価は高く付くのだ。

 これに懲りる事が無さそうなのがアクアのアクアたる所以でもある。

 

 

「フハッ!フハーッハハハハハ!ゲホッ、ゲホッゴホッ!い、いいぞ小僧!もっと言ってやれ!

 なんと、全てを見通す眼を持つとされる女神(笑)が自分の信徒の評判すら知らんとは!傑作であるな、フハハハハハハ‼︎」

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 

「華麗に脱皮‼︎」

 

「だからよ………暴れるんじゃねぇぞ………」

 

 

 ここぞとばかりに大笑いして咳き込むバニルに沸点を通り越した自称女神が反撃した。

 

 アクアの魔法を受ける前にバニルが自分の仮面を放る。おや、本体に直撃して消えてしまったが地獄に帰ったんだろうか?

 

 

「そうではないと言っただろう。我輩の現世での本体はこの仮面なのだ。仮面が割れでもしない限り我輩の『残機』に影響は無い」

 

「ああ、そういやそんな話だったな」

 

 

 投げた仮面が地面に接触したと思ったらムクムクと土が固まってバニルが盛り上がってきた。

 どうでもいいけど下はタイルなのにどこから土くれが出てきたんだろう。身体が出来た後も床に傷とかも無いみたいだし。

 

 

「………ねえゼロ?なんでその寄生虫とそんなに仲良さげなの?さっきから気になってたけど、どこで知り合ったのよ」

 

「あ!その話は私も聞きたいです!王都で会ったというのは聞きましたけど詳しいことは遠慮してしまって……。もし宜しければ聞かせてもらえますか?」

 

「ゼロの王都にいた頃の話か、気にはなるよな」

 

「アクア様もカズマさんもそちらのテーブルにおかけになってください。今お茶を淹れて来ますので」

 

「あら、あんたリッチーのクセに気がきくじゃない。浄化するのは待ってあげてもいいわ!」

 

 

 ガンガン進む、ドンドン進む。俺は一言だって話すなんて言ってないのに勝手に話す流れになってるのが不思議でしょうがない。スキルの件はどうなったんだ。

 

 

「我輩は知らんぞ。貴様が話してやれ」

 

 

 バニルは早々に奥に引っ込んじまうし。

 

 ……まあ、隠してるわけじゃないしいいか。

 お茶を淹れに行ったウィズが帰ってくるのを待って話を始める。

 

 

「そうだな。話をしよう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、まあいい、私にとってはつい昨日の出来事だがーーー」

 

「「「あ、そういうのいいんで」」」

 

「…………俺は王都にいた頃とある理由で王城に滞在しててだなーーー」

 

 

 ちぇっ、もうちょっと続けさせてくれてもいいだろ……。

 

 

 

 

 

 


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