この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







48話

 

 

 

 ※

 

 

 俺が受けたクエストは『牧場に出没した白狼の群れの討伐』。

 ついでにクエストの場所が近かった『畑に出た冬眠から覚めた一撃熊の討伐』もミツルギに受けさせる。

 

 どちらも報酬が良く、ミツルギの訓練にも良さそうだったので二人で別々のクエストを受けて一緒に行く事にしたのだ。場所が遠ければこんな事は出来なかったが。

 アクセルにより近い牧場に向かう途中でいつもの取り巻きがいないことについて聞いてみた。

 

 

「そういえばお前のパーティー、フィオとクレメア、だったか?最初はお前に付いてきてたのに最近は見ないよな。

 パーティー解散でもしたか?やっと金魚の糞が取れてスッキリしただろ」

 

「違いますよ。あと、二人をそういう風に言うのはやめて下さい。いくらゼロさんでも怒りますよ」

 

「……いや、今のは悪かった。つい口が滑ってな、もう言わん」

 

 

 ミツルギに付いてきてはこいつが望んだ稽古に対して二人がかりで俺に文句を言ってくるもんだからついマイナスの感情が先に出てしまった。

 

 やれ「キョウヤを傷つけるな」だとか、「訴えて牢屋に入れてやる」だとか鬱陶しいことこの上ない。

 あいつらはこいつに過保護過ぎるんだよ。モンスターペアレントを相手にしている教師はきっとこんな気持ちなんだろう。

 

 もっとこいつを信じてやることが出来ないのかね。こいつは首が据わってない赤ん坊でもなければ介護が必要なご老体でも無い。自分で決めた事は自分で責任ぐらい取れるだろう。それでゴネるこいつではない事はあいつらも知ってるだろうに。

 心配するのは仕方ない。好意を持つ相手を心配するのは当然の事だ。だがそれが行き過ぎてはただの過保護になってしまう。

 あんな態度を取ったらミツルギが弱いみたいではないか。決してそんな事は無いのに。あれでは一生懸命努力しているミツルギに失礼だ。俺にもね。

 もし問題が起こってしまった時は俺を牢屋にでも何でも入れりゃ良いが、それまでは信じて待つってのも良い女の条件……なんて偉そうに言えるほど女を知ってる訳でもない俺である。

 今現在俺の周囲に女性として認識できる奴なんざクリスくらいしかいねえしな。

 

 

「ゼロさんのそういう、他人の自尊心を思い遣る考え方って僕は結構好きですよ。

 あの二人は最近僕に内緒で自分の得意な事を鍛えているみたいなんです。良かったらゼロさんも見てあげてくれませんか?」

 

「やっぱりホモじゃないか!(ドン引き)」

 

 

 いやいや、好きとか言われても困るし。気持ち悪いだけだわ。やばい、最近こいつに構い過ぎたかもしれない。

 どうりで俺を見る目が怪しいと思った、懐かれるのは悪い気しないがそっちに一歩でも進んだ瞬間にアウツ。

 お前との師弟関係も友人関係も破綻することになるから覚えておけよ。

 

 

「何でそうなるんですか⁉︎僕はホモじゃない!ゼロさんを見てるのは何か盗める物がないかと思ってですね!

 それに僕が好きな人はこの間言ったでしょう⁉︎」

 

 

 その赤面も気持ち悪いからやめてくれないかしら。いや、今の流れ作った俺が百パー悪いんだけどさ。

 

 それに好きな人と言うが、アクアを恋愛対象に見るのは絶対やめておいた方が良いと思う。

 あいつの関係的なパラメータは多分『友達』か『知り合い』か『その他大勢』の三択しかない。

 そしてお前がそのどれに属しているかは言うまでもなく分かるだろ?

 

 

「……ええ、まあ。以前サトウカズマに謝りに行った時も覚えてすらもらえてませんでしたし、まだまだ先は長そうです……」

 

「……マジでか」

 

 

 まさかの『その他大勢』だと?いやアクアよ、流石に『知り合い』くらいにはカウントしといてやれよ。実際に何度も会って会話もしてんのに他人扱いとか心折れるわ。

 

 その時の事を思い出したのか、気持ち落ち込んだ表情のミツルギ。

 

 こんな傷心の若者に冷たく当たれるほど鬼でも無い俺はもう少しだけミツルギに優しくしてやることにした。

 

 俺に当てはめてみるとエリスに「誰ですかあなた」と言われる感じだろうか。

 ………正直もう立ち上がれる気がしない。

 

 それでも立ち上がり、諦めないこいつは俺よりもメンタルが強いのかもしれない。そこだけは評価に値する。俺も応援くらいはしてやるさ。協力は、アクアの気持ちもあるし約束できんがな。

 

 

 

 

 ※

 

 

 白狼とは読んで字のごとく白い狼だ。冬眠はしないので年中姿が見られるが、普段は森の奥の獲物しか捕食しない。そのために人里には下りて来ず、クエストも発令はされない。別に迷惑かけてるわけじゃないからね。

 しかし冬場は別だ。森の生物が軒並み冬眠してしまうせいでそれこそ牧場にいる家畜くらいしか獲物がいなくなってしまう。そうなるとさすがに牧場主もクエストを出さざるを得ないのだ。

 

 後から来た人間が先住民を排他するのはどこの世界でも物悲しさを感じてしまうな。

 

 

「さて、牧場主によると白狼の群れが襲来する時間までもうちょいあるみたいだからその間は俺が相手してやるよ。暇だしな」

 

「はい!よろしくお願いします‼︎」

 

 

『魔剣』グラムを引き抜きながら構えるミツルギ。よろしい。挨拶と礼儀がしっかりできる奴は好ましい。

 

 ミツルギのグラムは持ち主が使うと人智を超えた膂力を与え、鉄でも何でも両断出来るようになるという触れ込みの神器だ。……何か俺のデュランダルよりも高性能じゃね?それ。

 俺としては付き合いがもう十八年になるこいつ以外の剣なんてありえないんだけどさ。本当の意味での相棒だな。

 

 そのまま俺が棒立ちになっていると、ミツルギは目を伏せて不満そうにしてしまう。どうした?早くかかってくるがいい下郎。

 

 

「…………やっぱり剣は抜いてくれないんですね」

 

「危ないと感じたら抜く。それ以外で人間に剣を向けるのは相手を殺すのを決めた時だけだ。お前は俺に殺されたいのか?」

 

「うっ……。い、いえ、やっぱり良いです。素手最高ですね」

 

「だろ?」

 

 

 実際、人間相手に剣使うのは躊躇っちまうんだよ。実力がそれなりに伯仲しないと使いたくない。懸命なミツルギには悪いがもう少し強くなったらな。

 

 

「……シッ‼︎」

 

 

 短く声を上げて俺に斬りかかるミツルギ。最初は無手の人間に剣使うのにビビってたくせに随分な進歩ではある。それだけではなくちゃんと以前よりも速くなっているところがこいつの真面目さを表しているね。

 

 横にすっと移動して避ける。ミツルギは空振りはしたが決して俺から目を離してはいない。試しに俺が小さく右に体重をかけると、それに反応して右に動いてしまう。

 あらら、こないだ注意してやったろうに。

 

 そのまま右足を軸に左足で回し蹴り。ミツルギの後頭部に命中して地面に顔面を強打する。すぐさま起き上がるが、目を俺から離していないせいで俺がつま先で抉った土を顔面にモロに食らってしまった。

 目を逸らさないのは立派だけどこの世には見なくて良いもの、見てはいけないものだってあるのだ。

 時には目を瞑り、逃げる事も大事。例えばお前の大好きなアクア様が酔ってゲロってる場面なんかは目を逸らすのが正解なんだぞ。

 

 ミツルギが見えないはずの目で闇雲に剣を振ってくる。

 この当てずっぽうが一番怖いのは多分どの格闘技でも同じなんじゃないかな。どこ狙ってんのか全然分からないし。

 少し後退して力を足に溜める。視力が回復したらしいミツルギは俺を捉えるなり飛びかかろうとするが、足を踏み出す前に俺が右足でダァン!と地面を強く踏む。

飛び出すタイミングを崩す為のフェイントだが、それに釣られてミツルギがまんまとつんのめった。体制を崩すのを見計らっていた俺は一拍おいてから右のアッパーで鎧のど真ん中、腹部を貫いてやる。

 

 

「おぇっ⁉︎ゲホッゲホッ……」

 

「前から言ってんだろうが。相手の一つの動きに気を取られ過ぎだ。もっと全体を見てりゃ重心がどこにあるのかは分かるはずだぞ」

 

 

 膝をついて腹を押さえながら咳き込むミツルギに今日の授業を開始する。これもまあ大体いつもの流れだ。

 

 

「ぼ、僕の戦い方が間違ってるって事ですか…?」

 

「いんや?間違っては無い。使い分けが出来てないって言ってんの」

 

 

 戦場では俯瞰して相手の全体像を見なきゃいけない時もあれば、集中して相手の動きを一つも見逃してはいけない時もある。ようは臨機応変にって事だ。

 俺が見たとこ、こいつは集中しか出来ていない。それは馬鹿正直に突っ込んでくる強敵、モンスターとの一対一の戦闘なら有効な手段だが、俺みたいにフェイントを織り交ぜる相手や多対一の戦いになると途端に弱くなってしまう。もっと俯瞰して、見せかけではなく重心がある部分を見抜く必要があるのだ。

 

 イケメン度も強さもこいつの完全上位互換であるジャティスはそこらへんはしっかりと出来ているぞ。あいつは魔王軍のど真ん中に特攻ぶっ込んでも圧倒的なスペックと経験で蹂躙できるからな。あいつ自身もフェイントやらラフプレーとかも上手いし。

 

 

「お前のそれも悪くは無いけど、例えば魔王軍とかに囲まれた時にどうすんのさ。一人一人に気い取られてたらしょっちゅう動きが止まっちまうだろ。全体を見て、次は誰がどんな攻撃してくんのか、とかは抑えとけよ」

 

「な、なるほど、勉強になります」

 

 

 つってもこれはどんなに口で言っても感覚を覚えるまではそうそう出来ることじゃない。

 

 これを習得するならオークの群れとかに放り込むのが一番手っ取り早いのだが。実際俺もオーク共に囲まれてる時に発見した事だしな。

 これを見つけなかったらと思うと俺は……、うっ⁉︎頭と腹と股間が痛い……⁉︎

 

 

「ゼ、ゼロさん⁉︎どうしたんですか!そんな真っ青になって震えて、何かの病気ですか⁉︎」

 

 

 どうやら少し豚平原(トラウマ)を思い出してしまったようだ。大丈夫、大丈夫……、もう俺は大丈夫……。

 

 

「と、というわけでだな!今から白狼の群れに突っ込んでもらう。その中で今言った『俯瞰』を学び取れれば御の字だ。その後はお前が受けた一撃熊のクエストで『集中』のお勉強だな!

 まあお前はこっちはまあまあ出来てるし、心配はないだろ」

 

「えっ。……まさか、ここまで考えてこのクエストを受けたんですか⁉︎さすがですよ、ゼロさん!」

 

「えっ。あっ、いやまあーうん、そうだよ(便乗)」

 

 

 ごめん、実は受ける時にそこまで考えてたわけじゃないんだよね。

 適当に一番報酬が良いやつ選んだらたまたま条件に合致したってだけで。

 

 

「よ、よし!時間もそろそろだし、ミツルギ、いってみようか‼︎」

 

「はい!ずっと付いていきます‼︎」

 

 

 いやそれはやめてくれ。お前俺を超えるのが目標なんじゃなかったのかよ。それもどうかと思うけどさ。

 

 

 

 

 

 


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