再投稿。
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クエストを無事に完遂してアクセルに帰って来た俺とミツルギ。ギルドへと向かう途中でミツルギがこんな事を聞いてきた。
「ゼロさんは強いのにどうしてアクセルにいるんですか?王都に行けばもっと活躍の場もあるでしょうし、何より報酬も良いクエストがたくさんありますよ?」
「ああ?別に俺は報酬の為に冒険者やってる訳じゃ……つーかそっくりそのまま返してやるよ。お前は何でアクセルにいるんだ?」
「え?僕ですか、僕はゼロさんがいるのと、後は、アクア様がいるからっていうのが大きいですね」
だいたい予想どおりの回答だな。俺も似たようなもんだとだけ言っておこうか。
「ええ⁉︎ま、まさかゼロさんもアク」
「チーガーイーマースー‼︎」
俺があの治療機械兼宴会芸装置にそういう感情を持っているかのように誤解するのはやめてもらおうか。
そんな不名誉はお前に押し付けてやる。さあ喜ぶが良い。さあ、さあ。
「何でそんな酷いこと言うんですか‼︎」
「それはね、俺が酷い奴だからだよ(マジレス)」
「……何かクエストに行く前よりテンション高いですね?」
そりゃそうだろう。男のお守りから解放されて、さらにこいつからの報酬と受けたクエストの報酬を折半することによって相当な額の金が舞い込んで来たのだ。これで浮かれるなという方が無理な相談である。
まあ一番は帰ったら可愛い嫁がいるからなんだけどな!
「あれ、ゼロさん結婚してたんですか?僕とさほど歳は変わらないのに」
「いやいや、結婚はしてない出来てない」
「えっ?」
色々と複雑なのである。
「一緒には住んでるんだけどそう言うのは一切してないし、相手は全くその気無さそうだからな」
「ちょっ、ちょっと待ってください。一緒に住んでるって言いましたか?」
何驚いてんのこいつ。お前だって帰ったらあの二人と寝てるんだろ?
「ね、寝てるって………。ゼロさん下品な所がありますよね」
「そっちじゃねえよタコ、流れから意図を汲み取れ。同じ部屋で生活してんだろって言ってんの」
「あ、ああ……。いえ、普通に二人とは違う部屋を借りてますよ」
「はあ?そんなことして金は大丈夫なのかよ」
「だから、ゼロさんは何でそんなにお金の心配するんですか」
どうやらそんな贅沢をしても全く堪えないらしい。
俺は今の生活に満足してるから平気だが、カズマが聞いたら激怒しそうな話だ。あいつよく夜に処理するのがツラいとか自分の部屋が欲しいとか言ってたし。
俺?俺は確かに処理すらして無いが今のところクリス見ると反応しかけるだけで特にモーマンタイ。
………冷静に考えると見ただけで反応するってヤバない?
「処理とか反応とか、あまり人前でそういう話はしない方がいいと思いますよ。ゼロさんが常識外れなのは知っていますけど」
「常識外れなんてのは踏み外せない奴等の体のいい言い訳なんだよ」
逆にお前はどうなんだと聞きたいね。個室を持ってるならさぞ楽ちんだろう。
アホな会話をミツルギと続けていると、噂をすれば何とやら。件の冒険者、サトウカズマさんがいらっしゃるではないですか。
昨日の悪霊についても気にはなってたし、声をかけてみる事にする。
なぜか路地の角に蹲っているカズマに意図して足音を消しながら近寄る。どうやら他にも二人いるようだ……んん?
「あれ?お前ら知り合いだったのか?」
「どうわっ⁉︎って何だゼロか。驚かすなよ……」
悪いな。癖になってんだ、足音消して歩くの。
カズマと一緒にいたのはダストとキースだった。接点なんか無さそうなもんだがこいつらは一体いつどこで知り合ったのだろう。
「あっ、お前どこ行ってたんだよ!俺とキースと例の店に行く約束してだろうが!今日ギルドに行ったらいなかったからカズマ誘って三人で行くところだったぞ!」
「つーかお前らも知り合いだったのか?当たり前っちゃ当たり前だけどアクセルって狭いな……」
ダストがぶちぶちと文句言ってくる。確かに約束はした。したけどさ、お前さん日時も場所も指定せんかったやないかい。
お前らは冬だから酒場に入り浸ってるかもしれんが俺はお前らがサボってる分クエストを受けまくってるのだ。
危険なクエストしか無いってんなら俺を雇えば良いだけだろ、働け屑供。
「チッ、うるっせぇなぁ。お前はこっち側だって期待した俺がバカだったよ!」
「ゼロはこういうとこ真面目だからなあ」
「働きたく無いでござる!絶対に働きたく無いでござる‼︎」
こっち側でもどっち側でも良いけど勝手に期待して勝手に貶すのはやめてもらいたい。
拙者だって働きたく無いときはある。仲間外れは良くないぞ。
「あ、お前そういうの気にするんだ?」
「いや、男友達からハブられたら寂しいだろ」
故郷の村にいた時は気にもしなかったけど友達ができると気になる。これが『友達を作ると人間強度が下がる』ってことか。名言だね。
「あの。ゼロさん、サトウカズマ。そちらの二人は?」
「げっ、マツルギもいるのかよ」
「僕の名前はミツルギだ!……この会話もう何度目だい?いい加減覚えてくれないか?」
「お前らケンカすんな。こっちがダスト、こっちがキース。こいつはミツルギだ」
共通の知り合いである俺が紹介してやると、ダスト、キース、カズマのクズ三人衆はヒソヒソと話し合った後、頷きながら俺達を輪に加える。
「ゼロにはもう話したかもしれねえけど、ここから先は女どもには秘密だ。連れに女がいるやつは気を付けろよ」
この場の全員いるんだよなぁ。俺にいつそんな話したって?聞いてませんけども。
ダストの確認にカズマとキースが頷く。俺も一応頷いておいた。ミツルギも状況がわからないなりに俺に倣う。
「……よし。いいか?このアクセルの街には妙に高レベル冒険者が多い。その理由があそこの喫茶店にあるんだ」
ダストが指差す先には小ぢんまりした喫茶店。見た目は特に変わった様子もなく、いたって普通の店だ。
冒険者はレベルが30を超えると一般的に高レベルに属される。そこまで行くとそいつらの主な活躍の場は王都などの大きい都市になることがほとんどだ。王都の友人のディランなどもレベル31と中々のレベルをしている。
しかしながら、ダストの言う通り確かにアクセルには高レベル冒険者が多い。俺やミツルギはともかく、30を超える奴等が俺の知る限りでも七、八人はいる。
その事についてはずっと不思議に思っていたのだが、どうもあの店にその要因があるらしい。
見た感じは本当にただの喫茶店にしか見えないんだがねえ。
「ふふん。実はな、あの店はサキュバスが経営してて、表向きはただの喫茶店。しかしその実態は夜な夜な男に良い夢を見せてくれる楽園のような場所!なんだってよ。
俺も他の冒険者に教えてもらってな。独り占めしても良かったんだが、こうしてお前らとも秘密を共有してやろうって訳だ。有り難く思いやがれ野郎供!」
「「ありがとうございます!ありがとうございます!」」
クズ供はなんか興奮しているが俺とミツルギはポカーンである。
うん。………うん?だから何?という感じだ。
「というかサキュバスだって?悪魔じゃないか!あなた方、そんな怪しげな店に行こうなんて恥ずかしくないんですか!
もう行きましょう、ゼロさん。こんな人達に関わったらダメになりますよ」
俺を連れて帰ろうとするミツルギだが、その物言いは良くねえな。こいつはまた………。
「待て待て。ミツルギ、その言い方は酷いぞ。お前が正しいと思ってることが全員に対して正しいとは限らないから。自分の考えは他人に押し付けんなって初対面の時に言っただろ。
もうちょっとこいつらに付き合ってやろうじゃねえか」
「む、ゼロさんがそう言うなら仕方ありませんね」
「へっ、そっちのいけ好かねえイケメンとは違ってこっちのイケメンはクズ寄りだからな。
さすが、ゼロは違うぜ。初めて会った時から俺と同じ匂いがするって思ってたんだよ」
我が意を得たりとばかりに俺を仲間に引き入れようとするダスト。俺はニヤリと笑い、頷きながら立ち上がりーー
「帰るか、ミツルギ」
「「「あれっ⁉︎」」」
三つのゴミ袋が驚いた声を出すが、当然だろう。
いくら温厚な俺でもそんな暴言吐かれちゃムカ着火ファイアーよ。お前らみたいなクズと同等に扱われちゃあおしまいだ。俺は帰らせてもらう。
「テメエの方がよっぽど酷でえじゃねえか‼︎」
「クソが!こうなったら無理矢理お前らも巻き込んでやらあ!」
「ほら行くぞ!キリキリ歩けオラァ‼︎」
マズイですよ先輩‼︎
なんかクズ三人衆に拉致られてしまった。まあこの流れもわりかし面白いからされるがままになってやる。ミツルギにもアイコンタクトで店の内装くらいは見て行こうか的な事を送っておいた。
なんだかんだ言っても俺もあの店がどんな事をしているのか、良い夢とはどんな夢なのか、ってのも気になるしな。
かくして、急遽組まれた三人+二人のウホッ☆男だらけのむさ苦しいパーティーは魔窟の扉を開くのであった。