この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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50話

 

 

 

 ※

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

「あ、ど、どうも………」

 

 

 店に入った俺達を迎えたのは豊満な身体つきの美女だった。

 見回してみると、男、男、男。テーブルに座っているのは男しかいない。その全員が何かの紙に記入をしているようだ。表向きは喫茶店とか言ってたが、何かを飲んだり食べたりする奴はいない。

 

 

「お客様、こちらのお店に来た事はありますか?」

 

 

 俺を含めた全員が首を横に振る。

 

 

「では、ここがどんな店で私達が何者かは知っていますか?」

 

 

 今度はカズマ達はコクンと頷いたが、俺とミツルギはサキュバスが経営する良い夢を見せてくれる、とは聞いたものの具体的に何をどうしてどんな夢が見られるかは聞いていなかった。

 

 しょうがないので手を挙げて説明を求める。

 

 

「……あー、すみませんお姉さん。俺とこいつはお姉さん達がサキュバスだってのは知ってますけど、ここが何をする店なのかっていうのは詳しく知らないんですよ。申し訳ないですが説明していただいても大丈夫ですかね」

 

「あれ?ゼロさんって敬語使えたんですか?」

 

「言うねえ。大体初対面の時はお前にだって使ってたんだぜ?お前はそれどころじゃなかったみたいだが」

 

「………あの、その節はとんだ無礼を……」

 

「うふふ、とても仲がおよろしいんですね?それでは、知らないという方がお見えになるので簡単に説明させていただきます」

 

 

 そんなコントにも呆れずに微笑を湛えながらゆっくりと分かりやすく解説を始めてくれるサキュバス。やはり悪魔にも話がわかる奴はいるのだ。会話はいい文明。破壊しない。

 

 サキュバスによると、彼女達は男の性欲……精気を吸って生きる。なので、人間の男という存在が絶対不可欠なのだが、そこで注目したのが冒険者という存在だ。

 冒険者というのは基本的に馬小屋で寝泊まりをしている。それも仲間と一緒にだ。俺やミツルギは冒険者の中ではかなり特殊な例なのだ。

 そして当然ながら他人がいるところでは下の事情を処理するのは憚られる。故に、サキュバス達が僅かなお金を貰って寝てる間にコッソリ枕元に立ち、冒険者が望む良い夢を見せてスッキリさせてくれるという訳だ。

 

 彼女達は精気を苦労なく吸える。もちろん手加減して、影響は俗に言う賢者タイムになる程度に抑えてくれるので、俺たちは処理をしなくても済むというなんとも一石二鳥というか、誰も損はしない良い関係だ。

 

 その話を聞くと俺も利用したい気持ちになるが、ある一点、気になることがある。

 

 

「すみません、枕元に立つって言いました?もしかして俺のところに来るって事ですか?」

 

「はい。今からお渡しする紙に住所を書く欄がありますので、そこに記入いただいた場所へ直接行かせていただきます」

 

「……その、直接来ずに夢を見ることって……」

 

「申し訳ありませんがそれはちょっと難しいですね……」

 

 

 なるほど。それは出来ないらしい。それなら俺の答えは簡単だ。

 

 俺は立ち上がりながらカズマ達に告げる。

 

 

「悪い、俺はもう帰るわ」

 

「は?お、おい?急にどうしたんだよ。まだ説明聞いただけじゃないか」

 

「直接来るってんなら俺は無理だ。俺の宿にはクリスがいる」

 

「なんだ、そのくらい。俺らのところにもリーンがーー」

 

「お前らはあいつのあの姿を見てないからそんなことが言えるんだよ」

 

 

 以前クリスと外出している時に下級の悪魔に出くわした事があるが、その時のクリスといったらもうさ………。

 

 

「な、なんでそんなに焦ってんだよ。クリスがどうかしたのか?」

 

「どうかしたか?はん、そんじゃその時の再現をちょっとしてやる」

 

 

 女神と悪魔の相性が良いはずが無いのは知っているが、あそこまでとは思わなかったからな。はっきりしっかり覚えている。

 

 連れ立ってきたメンバーの視線を受けながら俯き。

 

 

「………ころす、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥ‼︎ア■■■スゥゥゥァァァッッッ‼︎」

 

 

 唐突にそう叫んだ。

 

 俺の急な豹変をとんでもなくビビった目で見る面子を見回して満足する。

 

 

「………悪魔を前にしたクリスは大体こんな感じになります」

 

「「「なんで⁉︎」」」

 

 

 なぜか話を聞いていた周りの冒険者まで俺に突っ込む。

 皆さんすんません大声出して………ってかおいおい、よく見たら周りにいるの知ってる奴ばっかりじゃねえか。この街の冒険者はクエストにも出ずに大丈夫なのかよ。

 

 

「いやすまん、大袈裟に言い過ぎたかも。

 ……理由は言えんが、とにかくクリスに悪魔はマジでヤバいんだよ。という訳で俺は先に帰るわ。あ、お姉さんすみません。感じ悪いかもしれませんがこれについては如何ともし難くて……」

 

 

 俺が謝ると、気にした風もなく手を振ってくれる。すげえな、悪魔ってよりも天使じゃね?

 もう完全に帰る雰囲気の俺を、だがカズマは引き留めようとしてくる。

 

 

「待てよ、おい、良いのか?これを逃したらお前……!」

 

「つーかお前だって他人事じゃねえんだぞ」

 

 

 お前とアクアは一緒に寝てるんだろ?女神の前に悪魔来させるとか正気かよ。遠回しにここのお姉さん達に『闇の炎に抱かれて消えよ』って言ってるようなもんだろ。

 

 

「あ、それなら俺は大丈夫だ、もう自分の部屋を持ってるんだよ。ほら、昨日の屋敷の件があるだろ?」

 

「屋敷?ああ、幽霊屋敷か」

 

 

 カズマ達が依頼を引き受けた屋敷だが、どうやら悪霊のせいで評判が落ちてしまっているらしく、解決したお礼に評判が回復するまで住んでいいという話になったそうだ。

 

 

「へえ、さすがは幸運が高いだけはあるな。そんな上手い話ないぞ?良かったじゃないか」

 

「お、おう……そうだな……。……元はと言えばアクアのせいだなんて言えない……」

 

 

 カズマが胸を押さえて苦しそうにしてしまった。なんだ、またぞろ何かしでかしたのだろうか。

 

 

「まあとにかく俺は行くぞ。じゃあな」

 

「あ、待ってくださいよゼロさん。ゼロさんが帰るなら僕も……」

 

 

 俺が店を出ようとすると、ミツルギが俺を追って帰ろうとする。俺としてはどっちでも良かったのだが、唐突にその肩をクズが捕らえる。

 

 

「まあ待てよミツルギ。せっかくなんだからお前は楽しんでいけって」

 

「なっ、何ですか、離してください」

 

 

 ダストがミツルギを強引に席に繋ぎ止めようとしていると、キースが何を思ったかこちらに寄ってきた。

 

 

「おい、ゼロもあいつ引き止めるの手伝えよ」

 

「はあ?なんで?」

 

 

 別にいいじゃないか。こういうサービスを受けるのも受けないのも当人の自由だ。嫌がる奴に無理矢理やらせても楽しめるとは限らないだろう。

 

 

「そんなこたどうでもいいんだよ。………エリートイケメン野郎がこっちの道に足を踏み外すのは見てて面白いだろうが」

 

「………………」

 

 

 くうううううううずうううううううううれたああああああああああああ!

 

 ここまでクズ野郎だともはや感心してしまうな。エリートを自分達と同じ位置まで落とそうとする事に凄まじい執念を燃やすダストは依然としてミツルギを離さない。というか俺を逃がすつもりも無さそうだ。ギラギラ睨んできやがる。

 ……しょうがねえなあ。

 

 俺はおもむろにミツルギに歩み寄り、ポン、と肩を叩く。

 

 

「ゼロさん………‼︎」

 

 

 期待した目で俺を見てくるミツルギ。俺は微笑みながら頷きーー

 

 

「ミツルギ、お前は残っていけ」

 

 

 梯子を外した。

 

 

「えっ……?」

 

「何て声、出してやがる……。ride on‼︎

 ミツルギ、俺だって本当は良い夢を見たいんだ。だけど俺は止むに止まれぬ事情があって断念するんだよ。

 その点お前はそんなことは無いだろ?わざわざ俺に合わせなくっても良いって。見たいものは見たい。お前は自分の欲望に素直に生きて良いんだ。

 それにちゃんとした理由だってあるんだぞ。お前の訓練に関する事だ。

 ほら、お前は真面目過ぎるんだよ。そんなに張り詰めてたらいつかは切れちまう。戦闘には多少の遊びがあった方が色んな物事に対応出来るもんだ。これを機にそういう事も覚えれば強くなれるかもしれない、いや!きっと強くなれる。……俺を信じろ。お前が信じる俺を信じろ。

 それに良く考えろ。夢の中ならお前が望むアクアとイチャイチャ出来るんだぞ?……もう道は決まったな?」

 

 

 我ながらよくもまあスラスラと屁理屈を思い付くもんだ。

 こんな時にだけ頭の回転が速くなる知力一桁の俺に密かに戦慄していると、ミツルギが感激した様子で俺に頭を下げて来た。

 

 

「ゼロさんがそこまで僕の事を考えてくれてるなんて…………‼︎

 ……ありがとうございます。ゼロさんの言う通りです。僕は真面目過ぎると周りに言われて来ました。今までは気にしませんでしたが、ゼロさんがそう言ってくれるなら……」

 

「「「うわあ………」」」

 

 

 ぐぅっ……⁉︎ざ、罪悪感がっ……⁉︎

 

 クズ供にこれ以上絡まれるのが嫌だったという理由でたった一人の弟子を売り、店にいた知り合いだけでなく、初対面のサキュバス達にまで引かれる男の姿がそこにあった。何を隠そう俺ことゼロである。

 

 いや、よく考えなくてもダストとキース、お前らがその態度はおかしいだろ。元はお前らが言い出したことだろうが。

 

 

「あー、ミツルギ。ああは言ったけどお前がどうしても嫌だってんなら一緒に帰っても………」

 

「いえ、せっかくゼロさんが勧めてくれたんですから!これも勉強だと思って体験してーーあ⁉︎どうしたんですかゼロさん!ゼロさん⁉︎」

 

 

 どうしようもなく俺がクソ野郎になった気がして店を飛び出す。すまない、ミツルギ。不甲斐ない師匠を許してくれ。

 せめて良い夢を見てくれ。それが例え一夜限りでも、その思い出は色褪せないのだから……!

 

 

 なんか良さげな台詞を意味も無く思い浮かべながら今度ミツルギに会ったら飯を奢ってやろうと誓った。

 

 

 

 

 

 


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