この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







52話

 

 

 

 ※

 

 

 衝撃の放送が流れた直後。

 

 

「やばいって、早く逃げろぉ‼︎」

「おいいつまで寝てんだ!」

「もうダメだ……、おしまいだぁ……!」

「化け物?違うな……、俺は悪魔だ……!」

 

 

 朝も早いというのにそこら中の家が阿鼻叫喚の様相を見せてパンピーの皆さんが一斉に避難していく。

 ……いや待て、今一般人に紛れてブロリーがいたぞ。お前が迎撃しろや。

 

 

「ゼ、ゼロ君聞いた⁉︎今の放送‼︎」

 

 

 かなり焦りながら確認してくるクリス。

 聞いたとも。一緒に横にいただろうが。

 

 

「あ、そ、そうだよね……。ってそんな場合じゃないよ!早くーーー」

 

「ああ、早くーーー」

 

「ギルドに行かないと‼︎」

「荷物纏めて逃げないとな‼︎」

 

「「……ん?」」

 

 

 

 なーに言ってだこいつ。

 

 

「えっと、あ、あたしの聞き間違いだよね?まさかねえ、ゼロ君が逃げるなんて……」

 

 

「聞き間違いでも何でもねえよ。早く準備してどっか逃げるぞ」

 

 

「……なんで…?」

 

 

 

 本当にショックを受けた顔で見つめてくる。

 

 何でも何もなあ……。

 

 

 

「デストロイヤーだぞ?その意味がわからないお前でもないだろうに」

 

 

「だ、だけどキミなら……!」

 

 

 

 ……信頼してくれるのは嬉しい。俺もそれになるべく応えたいとも思う。

 

 だが無理なもんは無理だ。俺にアレに対して何しろってんだよ。魔法も効かねえ二百メートル級のメタルギアだぞ。一寸法師よりも絶望的な状況だ。主に相手が生物じゃないって意味でな。

 

 

 

「でもさ、じゃあこの街を見捨てるってこと……?」

 

「そうだよ、街は捨てる。ギルドに行って迎撃する時間があんなら街の人間の避難誘導でもした方がまだ有意義だろ」

 

 

 実際デストロイヤーが通った街や国はそうしてきたんだろうが。今回はこのアクセルにお鉢が回って来た、それだけだろ。

 

 

『機動要塞デストロイヤー』。魔王軍すらも恐れる史上最悪の兵器の名前だ。

 

 元々は魔王軍に対抗するために『魔導技術大国ノイズ』という国で造られたそうなのだが、その全長たるや脚を含めれば三百メートルはあるとかいう、もはや人間がどうこう出来る代物ではない蜘蛛のような形の超巨大ゴーレムである。

 ではなぜその兵器が魔王軍だけでなく人間をも脅かしているのかというと、デストロイヤーを造ったとされる開発者があろうことかこのピースウォーカーを乗っ取り、今も操縦をしているから……と一般的に見解されている。詳細は不明だ。

 

 もちろん人間側も黙ってはいなかった。大規模な軍を編成して、幾度となく破壊しようとはしたのだ。当然ながら近寄るのは無理だ。そんな巨体が馬を超える速度で脚をワシャワシャ動かすのだ、足元にいたら即お陀仏だからな。しかも体表にレーザー兵器まで備え付けられているという話も聞いたことがある。接近すれば足元に着く前に蜂の巣である。

 そうなると魔法しか無いわけだが、厄介な事にノイズの技術の粋を集めて作られた魔力結界が常に展開されているらしい。この結界が非常に強力で、どんな魔法も弾き返すため、そもそも解除魔法も通さないというATフィールドも真っ青な性能を誇っているのだ。

 そんな結界を消せるとすればそれは造った張本人だけ。

 というわけでノイズがこれにどんな対策をしたのかと言えば、何もしていない(・・・・・・・)

 出来るわけがない。だって、デストロイヤーが乗っ取られたその日に魔導技術大国ノイズは更地にされてしまったのだから。

 唯一、魔力結界を消せるかもしれない可能性を真っ先に潰すとは、その開発者とやらは相当なやり手と見える。

 

 というわけで何ら対抗策を用意できなかった人類軍は甚大な被害を受けて壊滅。その被害者数は魔王軍との戦闘で出た最高死傷者数よりも多かったと記録にはある。

 その後、破竹の勢いで侵攻を続けるデストロイヤー。その脚で蹂躙されていない土地はもうこの大陸には無いとされている。

 

 つまりどう足掻こうと、人間側も魔王軍側も見て見ぬフリをするしかないという天災のような存在なのだ。わかったかな、良い子のクリス君。

 

 なお、真正面から踏み潰されても生き残れるのはアクシズ教徒という害虫だけと言われる。

 すっごーい!君はゴキブリよりもしぶといフレンズなんだね!頼むからさっさと滅びてくれ。

 

 

「とりあえずさ、ギルドには行ってみない?何か打開策とかあるかもしれないし!」

 

「……しゃあねえな、行くだけだぞ」

 

 

 無駄だと思うがねえ。

 

 こんな駆け出しの街で何とかできる代物ならとっくに他の街がスクラップにしてるよ。

 

 

「あ、そうだ。クリス、一つ約束してくれねえ?」

 

 

 ギルドに行く前にこれだけは確約して欲しい。

 

 

「ギルドに行って、何ら有効策が挙がらなかったら俺と一緒に逃げてくれ」

 

「キミまだそんな事言ってんの⁉︎」

 

「……俺はさ」

 

 

 

 俺を批難する口調。

 傷付かない筈がないが、今はそんな事言ってる時じゃない。本気の説得を使う時だ。

 

 

「俺はこの街よりも、何よりもお前が大切だ。この街全部、国全てとお前、どちらを選べと言われたら迷わずお前を選ぶぐらいには」

 

 

「ゼロ君……」

 

 

「本当にどうしようもなくなったら俺と王都にでも逃げよう。向こうでもお前、楽しそうだったじゃないか。何もアクセルじゃなきゃダメってわけじゃないだろ。

 別に街の人間を置き去りってんじゃねえんだ、多分だけどデストロイヤーが到着するにゃ時間が多少ある。皆で避難しようぜってコト」

 

 

 そう、最初から諦めようって話じゃない。具体案が出て、それが有効そうなら俺だってこんな事言わん。

 けど作戦が決まらないまま全員でバンザイアタックするくらいなら絶対に逃げた方が良い。それがわからないクリスではないはずだ。

 

 俺の何度目かもわからない告白に、しかしクリスは。

 

 

「……ダメだよ、ゼロ君」

 

「おいおい、何でだ?アレと真っ向からぶつかったら下手したら死ぬかもしれないんだぞ」

 

「冒険者の皆はきっと諦めないよ。何か策が無くたってこの街を守る為に戦うと思う。

 んでもってあたしはさ、昨日も言った通り今は女神じゃなくて冒険者のクリスさんだから。皆が頑張ってる時に逃げる訳にはいかないかな」

 

 

 首を振るクリスが強い決意が窺える瞳で『キミはどうなの?』とでも言いたげに見てくる。

 

 

「………どうしても逃げる気は無いんだな?」

 

「うん」

 

「………分かった」

 

 

 

 なら俺に言える事はもう一つしかない。

 

 

 

「OK、わかった。なら早くギルドに行こう。俺が絶対に止めてやる」

 

「………え、え?」

 

 

 あ?何だその呆けた面は。可愛いなこんちくしょう。

 

 

「え……、いやだって、今の流れだとてっきり一人で逃げちゃうかなって思って……」

 

「お前俺をどんな目で見てんだよ」

 

 

 そんなことするぐらいならお前を無理矢理掻っ攫って逃げるわ。

 

 だがそれはクリスの決意と望みに反する。ミツルギには人に自分の考えを押し付けるなとか高説垂れた身でそんな自分勝手を押し通すわけにはいかない。

 俺一人で逃げるなんざそもそも選択肢にすら入らない。論外だ。

 

 だったら何とかするしかないだろう。足りない頭と命振り絞って、それでもどうにもならなきゃ逆に諦めだってつくさ。それが今、この世界で生きる俺のポリシーだ。

 

 勝ち目の話じゃない。やれるやれないの話でもない。寄せられた信頼と信用には応えるのが本当の傭兵だ。

 ……いやまあ応えられない依頼は受けないのも傭兵なんだけども。

 

 あとは傭兵に必要な物、報酬さえ貰えれば俺はいつでも動ける。

 

 

「というわけで、さあ!報酬を要求しようか!お前は俺を何で雇ってくれるんだ?」

 

 

 もはや開きなおったと思われてもおかしくない態度でいつものように接する俺に、クリスは。

 

 

「………………」

 

「………あれ?もしかしてハズしちゃった?」

 

 

 

 顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 何だこの赤面?流石にこれはどんな赤面なのか分からんな。

 しばらく返事を待っていると。

 

 

「……キミのそういうとこほんっと………っ……‼︎」

 

「………どういうところ?」

 

 

 真っ赤なりんごのままクリスが絞り出すように口にするが、最後は口の中に押し留めたのか空気の振動にはならなかったようだ。

 

 俺が聞き直すと、いきなり顔を上げたクリスにバチーンと肩を叩かれた。何さ急に。

 

 

「なっ、何でもないよ!ほら、早くギルドに行かないと!報酬なら全部終わった後に言い値で払ってやらー‼︎」

 

「ほう?ほほほう!言い値とな!よろしい。ならば全力を尽くそうじゃないか!」

 

「セクハラ、ダメ、絶対」

 

「………それ、久々に聞いたな」

 

 

 二人で笑いながらもう人っ子一人いない道をギルドに走る。

 

 

 ーーーやっぱりクリスは笑った顔が一番だな。

 

 そしてその笑顔を翳らせる物は俺が排除せねばなるまい。

 惚れた女が根性見せてるんだ、俺が諦めるわけにもいかねえ。腹あ括ってやるよ。

 

 一匹残らず駆逐してやる‼︎

 

 あ、もちろんあんなのが複数いたら人類なんてとっくに滅びてるからね、言葉の綾だよ?

 

 

 

 


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