この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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53話

 

 

 

 ※

 

 

 俺がクリスと共にギルドの扉を開けると中にはかなりの人数の冒険者が集まっていた。

 

 

「人多っ」

 

「ん?おお!ゼロも来たか!」

 

「嫁さん連れて見せびらかすんじゃねえよこの野郎!」

 

「ちょっ、嫁さんじゃないし‼︎」

 

 

 今からこの街にデストロイヤーが来るっていうのに気負いの類がどこにも見受けられない。

 ほとんどが低レベルのくせしてこいつら凄えな。俺なんかよりもずっと冒険者してるぞ。

 

 俺がさっきまでの自分の女々しさに恥じ入りながら決意を新たにしていると。

 

 

「ゼロに、クリスか。お前達が来てくれるなら頼もしい。この街を守るために力を貸してくれ」

 

「まっかせといてよ、ダクネス!あたしはご存知の通り戦闘は苦手だけど、こっちにはゼロ君がいるからね!」

 

 

 まさに誰だお前⁉︎と言いたくなるほど普段とはかけ離れた態度のダクネスが騎士然とした装いで歩み寄ってくる。

 こいつがいるって事は、あいつらもいるのか。

 

 

「ねえ、アレと戦うって皆本気で言ってるの?今からでも遅くないわ、どこか遠いところに逃げましょうよ」

 

「お前、せっかく屋敷を手に入れたんだぞ?そう簡単に諦められるかよ。ほら、ゼロも来てるんだし何とかなるだろ」

 

「いや、でもデストロイヤーですよ?やはり逃げた方が良いのでは……。現状ですと無謀に過ぎますよ」

 

「お、いたいた」

 

 

 カズマさん一向を発見する。パーティー内では五分五分の割合で逃げる感じだったのに何故かリーダーのカズマがやる気出したから仕方なくってトコか。

 

 他に戦力になりそうなのは……とギルド内を見回すと、こんな時一番気合いが入っていそうなファッション勇者の姿が無いことに気づいた。

 

 

「おいカズマ、ミツルギ知らねえか?あいつがこの緊急時に顔出さないとは考え難いんだが」

 

「いや俺が知るかよ。あいつと一番仲良いのはお前だろうが。……ん、でもキースとダストもいないな?」

 

 

 確かにその二人もいない。

 

 つい昨日サキュバスサービスを利用した四人中三人の姿が見えない。これは単なる偶然なのだろうか。

 と、先述の二人のパーティーメンバーであるテイラーとリーンを見つけた。

 

 

「テイラー、リーン。お前ら、あのクズ二人はどうした?ギルドには居ないみたいだが」

 

「おう、ゼロか。いや、それがなあ………」

 

「あの二人ならなんかどんだけ叩いても幸せそうな顔して寝てるだけで全然起きなかったから置いて来たよ。なんか気持ち悪い寝言も言ってるし」

 

「それは………」

 

 

 もしかしなくてもサービスの影響では無いだろうか。

 となるとまさかあのクソ真面目なミツルギでさえ今頃布団の中ということか?

 

 つーかあのサービスそんな副作用があんのかよ。影響無いって言ってたやんけ。俺受けなくて良かったわ。

 

 ……となると、じゃあカズマは何で起きてこられたんだろう。

 

 

「皆さん!お集まりいただきありがとうございます!早速デストロイヤー対策会議を始めますので注目して下さい!」

 

 

 俺がその疑問にたどり着くと同時にルナが大声を出す。

 

 んま、どうでもよろし。今は目の前のデストロイヤーに集中だ。

 

 会議の前にカズマ他数名の要望によって簡単なデストロイヤーの説明が行われる。これは俺の認識とそう差異は無さそうだ。せいぜいデストロイヤーに使用されている素材は特殊な魔法金属で軽くて丈夫、くらいしか目新しい情報は無かった。

 

 さて、いよいよ会議に移っていく。何か作戦でも立てられれば良いのだが……。

 

 色んな案が出るが、どれもこれも過去に試して効果が無かったとされる物ばかりだ。まあ俺らが考えつく程度の事を先人がやってない訳ないわなあ。

 瞬く間に案が出尽くし、ギルド内がお通夜ムードになってしまう。

 

 これは……分かっちゃいたがかなりやばいでござるな。

 

 やっぱり無謀だったかなぁ、と俺が少しだけ弱気になっていると、何故かルナが俺に視線を向けてきた。

 

 

「……冒険者ゼロさん、アクセルで最もレベルが高いのはあなたです。何か考えがありませんか?あればお聞かせください。何でも良いんです」

 

「………考えねえ」

 

 

 レベルなんざ関係ねえだろ、とか俺の知力の低さは知ってるだろ、とか文句も言いたいが、聞かれたからにはとりあえず考えてみる。今まで勝つ事どころか戦う事すら視野に入れて無かったからなあ……。

 

 他の冒険者も俺に視線を集中させ始めた。そんな見られると照れちまうだろうが。向こう向いてろ。

 

 手持ちの道具、相手の兵装、こちらの戦力……。

 

 ーーーうん、無理。大前提として魔法を弾くってのが厄介過ぎる。

 

 

「……ダメだな。せめてあの魔力結界を消せないにしても無力化出来なきゃ同じ土俵にも立てねえ」

 

「やはり結界、ですか……」

 

 

 素直に匙を投げる。やるからには勝たないといけないが、いかに無謀な戦いを挑もうとしているのか再認識しただけだった。

 

 俺に注目していた冒険者達にも暗い雰囲気が広がり始めるが、

 

 

「なあ、おいアクア。お前一応女神だろ?その、結界とか女神パワーで消せたりしないの?」

 

「ええ?うーん……、実物見ないとわかんないわね。消せるかもしれないし消せないかもしれないわ」

 

「……待て、お前デストロイヤーの結界が消せるかもしれないってのはどういう事だ?」

 

 

 

 解除魔法も弾くんだぞ?どうやって消すんだよ。スマホ太郎みたいに魔法が効かないのに魔法で倒すとか頓珍漢な事は現実じゃ起こらない筈なんだが。

 

 他の冒険者達も僅かに希望を視線に乗せてアクアを見る。視線にたじろぐアクアの答えは。

 

 

「うぅ、い、一応女神の権能に『結界を無視して魔法を使える』っていうのがあるから……。

 で、でも地上じゃ私の力も弱まっちゃうし、あんまり強いのだと効かないかもしれないし……、や、やってみないと分からないってば!」

 

 

 勝負をかけるには充分な可能性を残してくれた。

 

 

「消せるんですか⁉︎いえ!かもしれないでも結構です、やれるだけやってもらえませんか⁉︎」

 

 

 ルナが興奮した様子でアクアに詰め寄るが、俺も同じ気持ちだ。

 

 待て、待てよ。アレを消せる可能性がある、いや、もう消したと仮定するとだ。

 

 一つだけ、幾つもの仮定と憶測の向こう側に光が見えた。軽くて丈夫な素材の蜘蛛の形をしたゴーレム。いや、ロボット……、八本脚……、魔力の流れ。

 あの時……、クリスに怒られたあの時のポーションとこのスクロールがあれば、いけるか?どうだ?いや行くしかねえ。

 俺がリスクを背負うのは当然として、あと必要なのは優秀なーーー

 

 

「………ダクネス、お前の冒険者カードを見せてくれ」

 

「ん?……ああ。必要な事なのだな?私に出来ることがあれば何でも言ってくれ」

 

 

 ん?今何でもって……、いや、そんな場合じゃない。

 

 ダクネスからカードを受け取り、ステータスの数値を確認していく。必要なのは筋力、耐久、体力………。

 

 

「ちょっ⁉︎おま、この耐久どうなってんだよ⁉︎」

 

 

 斜め読みで確認する俺の目に飛び込んできたのは他の数値と比べて文字通り桁が違う耐久の高さだった。なんだこれ。お前の身体アダマンタイトで出来てんの?

 

 

「私は取得したスキルポイントを全て防御系や状態異常の抵抗系に使っているからな」

 

 

 少し自慢げに言ってくるが、それが許されるほどのとんでもない数字だ。

 

 体力と筋力は俺の方が遥か上だが、耐久に関しては俺の倍以上のステータスがある事になる。

 先日付けでレベル80となった俺の耐久の倍以上、だ。ちなみにダクネスはレベル20にも満たない。

 君の種族値いくつよ。喩えるならデオキシススピードフォルムとメガボスゴドラ級の差がありそう。まさに天と地の差。

 

 期待はしていたが期待以上である。これならあのポーションを使えばやれる。

 

 

「……よおカズマ。ダクネスを借りても良いか?危険ではあるが何とかヤツを止める事が出来るかもしれない」

 

「おう、俺は良いぞ。このド変態が役に立つってんなら存分に使ってやってくれ。その危険とやらもこいつ喜ぶかもしれないし」

 

「ん……っ⁉︎わ、私の意思など無関係に私の身体が取り引きされて……っ」

 

 

 リーダーのカズマの許可も取れた。俺の中で最も可能性の高い策の条件が整った事になる。

 興奮するダクネスには後で説明するとして、時間が惜しい。早速準備にかかるとしよう。

 

 この作戦の要はダクネスと俺だ。名付けるなら

 オペレーション:『アクセルの盾と矛(ウルド)

 ってとこかね。名前の理由?かっこいいだろ。

 

 

 

 ※

 

 

「オラ急げぇ!もう直ぐデストロイヤーが来るぞ!ほらそこ、手を休めるなぁ‼︎」

 

 

 アクセルの外、平原では急ピッチでバリケードなどが出来つつある。バリケードとは言っても木で作られた簡単な物なので何の抵抗にもならないだろうが、何かしていないと落ち着かないのだろう。

 

 何故か土木作業のおっさんに混じってアクアが嬉々として木材を運んでいる。出来ればあいつにはデストロイヤーの結界を剥ぐまで休んでいて欲しいのだが……、楽しそうなのでまあいいか。

 

 

「ちょ、ちょっとアクアさん⁉︎そんなにいっぱい持って大丈夫なの⁉︎」

 

「へーきへーき!ほらほら、クリスもそっち持って!」

 

「あたしは無理だって‼︎」

 

 

 クリスはアクアと話せて嬉しそうにしている。先輩後輩ペアは仲がいいようで何よりだ。

 

 しかし何であいつ、クリスはあんなにアクアに懐いているのだろう。天界にいた頃から色々押し付けられてたみたいなのに。

 

 ーーーん?

 

 

「おい、アクア、クリス。ダクネスがどこ行ったか知ってるか?」

 

 

 ダクネスの姿が無い。まさか逃げはしないだろうが、直前で「嫌だ」と言われればそれまでなのだ。なるべく早く話をつけたい。

 

 

「ダクネスならカズマと一緒に向こうに行ったわよ」

 

 

 アクアが指差すのは平原の先、アクセルから離れる方向だ。そこに二人分の人影を見つけた。

 

 

「おう、ありがとな」

 

 

 手を振って俺もそちらへ向かう。死ぬ気はさらさら無いが、もしかしたらこれがこいつらとの今生の別れになるかもな。

 

 今さらになって少し怖くなってきた。俺みたいな奴が考えた策が本当に上手くいくんだろうか。

 相手は機動要塞デストロイヤー、何百年も前から誰も破壊出来なかった怪物兵器だ。こんな脳筋な発想など歯牙にもかけずにアクセルを滅ぼされてしまうのではないか。ここにいる冒険者も全滅してしまうのではないか。ーーそんな事ばかり考えてしまう。

 

 特に俺とダクネスは今からかなりの危険に晒される。俺はまだいい。自分で立てた作戦だ。だがダクネスは俺の考えに巻き込んでしまう事になる。失敗すれば死ぬ可能性が極めて高い作戦に。

 

 いっそのことダクネスが俺の作戦を断ってくれれば楽になるのだが……あいつはまず断らないだろう。それがアクセルを守るためだとすればあのダスティネス家のお嬢様は一も二もなく乗るに違いない。

 

 

「ゼロ君」

 

「……クリスか。何だ?」

 

 

 決して武者震いではない震えに足を包まれていると、クリスに呼び止められた。

 なんだろうか。できればあまり俺の足は見ないでほしいんだが。こんな情けないところは見られたくない。

 

 そんな俺のガキっぽい意地を知ってか知らずか。

 

 クリスがギュッと俺の手を握って、とびっきりの支援魔法を掛けてくれた。

 

 

「ーーーなんとかなるよ。絶対、大丈夫だよ!」

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

「ブフッ⁉︎……お、お前それ誰に教わった……?」

 

 

 不意を突かれて思考が空白で埋まった後に込み上げてきた笑いを抑えられなかった。

 

 

「アクアさん。魔法の言葉だってさ」

 

 

 アクアの方を見ると、ニヤリとしながらサムズアップをしていた。

 

 苦笑してしまう。やるじゃないかアクア。お前に対する評価が今のでかなり上がったぞ。

 いや、何で今そのセリフをカミングアウトしたのかは分からないけどな。

 

 別に足の震えが止まった訳では無い。今も変わらずプルプルしているが……なるほど、なんとかなる気がしてきた。

 

 

「……魔法の言葉か」

 

「大丈夫だって!キミとダクネスが失敗してもあたし達がいるんだから!めぐみんもそのために爆裂魔法の準備してるよ!」

 

 

 そう、俺達が失敗した時の事を考えてカズマが提案したのはめぐみんの爆裂魔法による迎撃だ。

 確かに可能性としてはかなり高いが、俺としてはそれは最後の手段にしたい。一発しか込められていない弾丸だ。もし外したら目も当てられない。

 

 俺の作戦が上手くいけば最低でもかなり相手の速度を制限出来るため、命中の確率は跳ね上がる。万が一爆裂魔法を使うなら俺の作戦の後、というのは俺とカズマ、そしてギルド内にいた冒険者達の総意だ。

 どちらの作戦ももちろんアクアが結界を壊さないと意味がないが、そもそもそれを言い出したら打つ手など無いのだ。これは成功する前提で進めないとお話にならない。

 めぐみんによると、一撃で完全破壊は難しいが、軌道を変える事なら出来るかもしれないとのこと。充分過ぎる成果だ。

 

 ーーーそうだったな。まだ後衛がいてくれるんだった。

 

 思えば俺は後衛に頼った事が無かったが、これが任せられる安心ってやつか。そう考えればちっとは気が楽になるかねえ。

 俺が少しだけ肩の力を抜いていると、クリスがスッと雰囲気を変えながら俺に語りかけてきた。

 

 

「……はい。ですからあまり気負わずに行ってきて下さい。いつものように、帰って来るのをお待ちしてますよ?」

 

 

 その一瞬だけ女神に戻ったエリスが俺の反応も見ずにアクアの元へ小走りで戻って行く。

 

 ……あれはちょっと照れた時の仕草だな。

 

 俺とダクネスが失敗してもって、失敗したら高確率でお亡くなりになっちゃうんですけど。

 

 俺の方も気恥ずかしさを誤魔化すために頭をかきながらダクネスに作戦の詳細を伝えるべく歩き出す。

 

 いつの間にか震えの止まっていた足は、今回も存分に働いてくれそうだった。

 

 

 

 

 

 


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