この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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55話

 

 

 

 ※

 

 

 俺が剣を引き抜いていつでも飛び出せるように構えた直後、俺達の頭上を後方からとんでもなく太いレーザービームがデストロイヤー目掛けて一直線に伸びて行った。

 

 何だありゃ。まさかあれが解除魔法だとでも言うつもりか。完全に『波動砲』クラスじゃねえか。いや、あれは惑星すら崩壊させるから桁が違うってのはあるが、それにしても凄え圧力だ。

 

 直進していたデストロイヤーとアクアが放ったと思われるかめはめ波が正面衝突。なんとデストロイヤーの巨体を僅かに押し戻し、何かが割れる音がした。

 

 それと同時に無線からカズマの声が聞こえてくる。

 

 

『アクアが言うには消せたみたいだ!あとは任せたぞ!』

 

「了解だ。アクアにあとでなんか奢ってやるって言っとけ」

 

 

 アクアさんあんな事出来たんですね。今度からあんまり怒らせないようにしないと。

 

 アクアの波動砲に若干ビビりながらデストロイヤーに向けて全力疾走を開始する。そういえばこの世界って空気の摩擦とかどうなってるんだろうか。俺が音速とか生温い速度で走っても服が焼けたりはしないもんなあ。たまに破けるけどそれは多分衝撃波のせいだしな。

 

 ほんの僅かに思考に集中を割く間にデストロイヤーが近づく。と、俺が向かう前方の地面が小さく焼けるのがわかった。おそらく噂のレーザー兵器だろう。数からして数十はありそうだが、そもそも俺はデストロイヤーに近づくにあたってレーザー兵器などなんら問題にしていない。

 確かに常人ならば足元に辿り着く前にお陀仏かもしれないが、俺からしたらほーん、で?という感じである。レーザー兵器というからには本体が照準を付けてこっちを撃ってきてるんだろう?

 

 ーー照準付けて撃つまでの数瞬に俺が何メートル移動出来ると思ってんだ。むしろ当ててみろよ。

 

 周りの地面が熱したフライパンに油を垂らしたような音を連続で立てているが、俺への影響はそれだけだ。レーザー光自体は俺の目には見えない。こんなところは嫌に現実的だな。もっと目でわかりやすくする、とかファンタジーを期待してたんだけど。

 

 あっという間にデストロイヤーの足元に着き、タイミングを測る。

 

 ……速度は六十から七十キロってとこか。なるほど、馬よりは速いが正直あくびが出そうなほどにノロいね。

 

 右の前脚が地面に下りたタイミングでデュランダルを突き立てて一気に機体上部まで駆け上がる。

 硬いことは硬いが刃が通らない、ということは無さそうだ。その点は良かったな。

 

 さて、デストロイヤーのグラグラ揺れる表面を見回すと迎撃用なのか何なのかは知らないが人型のゴーレムがウロついている……が、今回は相手取る時間が無い。気付かれないうちに脚を破壊してトンズラこかせてもらおう。

 

 懐からバニルに買わされてしまったマジックスクロールを取り出してたった今駆け上ってきた右前脚の付け根の関節部に押し付け、発動。

 出来れば脚一本丸々効果範囲に入れたかったのだが、デストロイヤーの巨体を支える脚は相応に大きく、脚一本でも優に五十メートルはある。関節部をギリギリ覆うくらいしか無理そうだ。それで充分だけどな。

 スクロールから魔法陣のようなものが広がり、付け根を全て飲み込んだ。これで良し。結界があるままだったらこのスクロールも弾かれていただろう。アクアに感謝だな。

 

 スクロールの影響でこの脚は相当脆く、また、攻撃力が上がった状態になったはずだ。

 

 それを証明するかのように一瞬だけ右前脚の動きが早くなる。勢いよく地面に脚を叩きつけたと思ったらーーーその衝撃で関節部が完全に粉砕。破片が散弾のように飛んできた。

 

 

「ひょっ⁉︎」

 

 

 思わず声が漏れてしまった。

 

 破片が俺に当たる直前に高速で後ろに跳び退り何とか事なきを得る。不意を突かれるといくら速く動けようと対処出来るか分からなくなってしまう。今回は対応できて良かった。

 

 それにしてもあのスクロール意外に使えたな。防御が下がり、攻撃が上がる、というのは自らの攻撃の反動にも耐えられなくなるって事だ。土台がしっかりしていなければまともな攻撃など出来ないという良い見本である。

 

 さて、他の脚は……?

 

 辺りを見回して影響を確認する。俺の予想が正しければこれで停止するのはーーー。

 

 突然ガクン、とデストロイヤーが傾く。見ると、今俺が破壊した脚から交互に右と左の脚が合計三本停止しているのが分かった。やったぜ。

 

 これで俺の読みが当たったことが分かった。あとはもう一本、今度は左前脚を何とかすればかなり勝ちの目が濃くなる。おそらく結界解除からこの行程までは三十秒くらいしかかかっていまい。良いペースだ。

 

 だが俺の手に脚を丸ごと粉砕させるような道具はもう残っていない。正真正銘身一つ、剣一本だ。とりあえず周回しているゴーレムに見つからないように反対側へ回り込む。

 デストロイヤーは最初の速度など見る影もなく、ぎくしゃくしながらも前進を続けている。とはいえ今にも崩れ落ちそうだ。これなら破壊しないまでも正常な動きを阻害してやるだけですっ転ぶかもしれない。

 

 少しだけ楽観視するくらい良いだろう。そもそももうこれしか手が無い。なるようになれ、だ。

 

 そう考えながらデュランダルを両手で逆手に持ち、大きく上に振りかぶる。狙うは関節部、形状的に一番薄い場所。上手くいきゃ一発だ。

 

 心の準備を終えて、自分の中で決めていたタイミングで全身の体重をその切っ先に乗せて渾身の力で突き刺した。

 

 

「デュランダルを……、押し込めぇええええええ‼︎」

 

 

 別に俺は遥かな古から黄金騎士の使命を受け継いではいないのだが、何となく気持ち的に叫びながら実行する。声出しながらの方が力も入るって科学的にも証明されてるからね。仕方ないね。

 

 狙った場所に吸い込まれる世界最硬の剣。僅かな抵抗の後、ブツン、と何かを切断したような手応えが帰ってきた。

 

 

「えっ?」

 

 

 次の瞬間に感じたのは浮遊感だった。

 

 俺の一撃によっておそらく魔力の回路は断つことが出来たのだろう。だがその後の事は考えてなかった。一気に複数の脚が停止すれば必然、一気に崩れ落ちるものである。

 

 俺はデストロイヤーが一瞬でずっこけたために宙空に投げ出されてしまっていた。高さは百メートルはありそうだ。

 落ちたらいかな俺であろうと即死待った無し。ゼロの人生は終わってしまった!

 

 

「……いやちょっと待ってこれやばいってぇえええええ⁉︎」

 

 

 落下しながら必死に助かる方法を考える。

 

 おおお落ち着けえ‼︎ほら、俺の知ってるアニメのキャラとかにもこんな状況から生還したやつが一人ぐらいいるだろ⁉︎そん中から俺でも実行出来そうな動きを真似すりゃいい!

 

 考えるというよりは思い出す作業である。経験だけが抜け落ちた脳内の引き出しを漁る。思考が高速化しているからか、まだ落ち始めた直後に該当する人物を見つける事が出来た。

 

 

「『スイッチ』ィィイ‼︎」

 

 

 久しぶりにカチン、と自分の中で何かが切り替わる感覚がして俺と共に落下する瓦礫やさっき俺がスルーしたゴーレムがスロー再生になる。

 視界に映った足場になりそうな物を一瞬で把握、記憶して地面まで安全に辿り着ける道を正確になぞっていく。

 無事に足が地面にスライディング出来た時に思わず感謝の念が湧いてきてしまった。

 

 マジでありがとうございます、ブラッドレイ大総統閣下……!

 

 さて、こうしてはいられない。デストロイヤーは勢いのままに進行を続けているのだ。早くダクネスの所までいかないとーーー。

 

 

「…………⁉︎」

 

 

 何気無く、止まったはずのデストロイヤーの脚を見て絶句してしまった。

 

 

 止まっていない(・・・・・・・)

 

 

 いや、止まってはいる。だが後方の後脚二本だけがなぜか先ほど以上のスピードでガシャガシャとデストロイヤーの図体を前へと送っている。変わらずデストロイヤーは突っ伏しているので地面との摩擦はあるだろうが、その速度は最初と変わらないくらいは出ているように思う。

 

 ウッソだろお前。なんで他の脚は停止してんのにあの二本だけ激しくなってんだ。

 

 まるで他の脚へ行くはずだった魔力を全てあの脚に集めているかのようだ。まさかあれだけ別制御だったとでも言うのか。なんでそんなことしてんだよノイズ。余計なことしやがってぇぇぇ……!

 

 前進し続けるデストロイヤーを置き去りにしてダクネスの元に向かう。早くしないと間に合わない。

 数秒程でダクネスの元に着く。デストロイヤーはまだかなり先だ。時間はまだありそうだが、止まる気配が無い。アクセルに来てしまえばデストロイヤーの巨体なら外壁を粉砕して街を蹂躙してしまうだろう。

 

 

「おいダクネス、作戦変更だ!脚が二本だけ停止しなかった!あの速度ならめぐみんの爆裂魔法で動いてる脚吹っ飛ばせばアクセルに着く前に止まる!俺らは避難しておくぞ!」

 

 

 ダクネスに簡単な説明をしてカズマに無線で連絡しようとするーーーその手をダクネスが掴んだ。

 

 おい、何してんだ。離せ。

 

 

「ダメだ。私の勘があれを止めてもそれだけでは終わらんと言っている。めぐみんの爆裂魔法はその時のために残しておかねばならない」

 

「ハァ⁉︎バカなの死ぬの⁉︎そんな不確定な理由でお前の命かけられるか、バァカ‼︎早くしねえとデストロイヤーが………」

 

 

 …………不確定。それを言うなら俺の作戦も不確定だらけだったではないか。

 

 それを信じて俺に任せてくれたのはこいつらだ。

 こいつの勘とやらがどこまで信用できるかは知らん。だが、もしそれが本当なら確かにここで使うのは得策ではない。ダクネスがあれを止められるなら。

 

 

「………信じて良いんだな?止められるんだな?」

 

「任せておけ。お前が知る限り最高の壁役なのだろう?私は。その信頼に応えずして何が『クルセイダー』だ」

 

 

 まだ迷う俺を急かすように無線が鳴り響く。

 

 

『おい、大丈夫なのか⁉︎脚が止まってないぞ⁉︎』

 

「……………………大丈夫だ。問題無い。俺とダクネスがここで壁になる。アクセルには到達させん」

 

 

 どのみちもうデストロイヤーはここに来てしまう。ダクネスと俺が二人でやりゃあ何とかなんだろ。

 カズマとの無線を切って、俺達と激突するはずのデストロイヤーを視界に収める。

 

 

「ダクネス。やるからには成功以外ありえねえ。その剣じゃなくて俺のデュランダルを使え」

 

「そ、それは……しかし良いのか?」

 

「早くしろい」

 

 

 ダクネスが地面に突き立てていた剣を回収して俺の剣を持たせる。デュランダルは俺が持たなければただ硬いだけの金属の延べ棒に過ぎないが、盾としてならこれ以上無い程に活躍してくれるはずだ。

 そのままダクネスがポーションを飲むのを見届ける。

 

 

「どうだ?」

 

「お、おおおお?す、凄いぞこれは!力が湧き上がってくるようだ!ぐっ⁉︎だ、だがこんなに力が有り余っているのに動けないとは……ああ、な、なんだこの感覚は⁉︎ク、クセになりそうだ……‼︎」

 

 

 どうやら変態さんは今日も元気なようだ。

 

 ……さて。

 

 

「おいゼロ⁉︎な、何してる⁉︎」

 

「黙ってろ。俺だってお前みたいな堅い女に抱きつきたくねえよ」

 

 

 ダクネスに背後から抱きつきながらマントで二人羽織をする。俺のマントは耐久を上げてくれるからな。気休めにしかならんが無いよりは気休めでもあった方が良い。

 マントを固定してそのまま後ろを向いて踏ん張る体勢になる。ちょうど俺がつっかえ棒になる感じだ。

 

 

「馬鹿者、そうではない‼︎まさかお前もデストロイヤーを止めるつもりか⁉︎」

 

「そうだよ」

 

 

 デストロイヤーから視線を切らずに答える。

 

 ……うん、思ったより遅いな⁉︎あのスピードならもうとっくに着いててもおかしくないと思うのだが……?

 

 不思議に思って観察してみると、後脚の動きがかなり遅くなっている。これはラッキーだ。一気に魔力を通したせいかオーバーヒートを起こしてしまったらしい。

 とはいえ、惰性で動いているのとは訳が違う。未だに動き続ける物体を止めるのはかなり大変なのだ。

 

 

「そら、もう来るぞ。動けないっつっても心構えはしとけよ」

 

 

 ダクネスに注意しておく。いくら遅くたってあんだけでかいの止めるんだ。その衝撃は計り知れない。ダクネスもそれは分かっているのか、無言で頷いてその瞬間を待つ。

 

 ……まあそうは言っても当初の予定よりも大分楽に止められそうだ。終わってみれば楽勝ってやつだ。

 

 そんなフラグになるような事を思ったのがいけなかったのだろうか。

 目の前にまで迫っていたデストロイヤーが後脚を二本とも揃え、力を溜めたかと思ったらとんでもない勢いで後ろに地面を蹴り込んでこちらへ向かって吹っ飛んできた。あの普段の走行が時速七十キロとするとこの速度は百キロを超えているのでは無いだろうか。あまりの勢いで蹴り込んだために後脚は二本とも反動でもぎ取られ、デストロイヤーの巨体が宙に浮いている。

 

 

「ーーいやなんでだよぉおおおおおおああ⁉︎」

 

 

 理不尽に嘆いた直後、凄まじい衝撃がダクネスと俺を貫いた。体の内側からゴキン、と鈍い音がして激痛など感じる間も無く二人揃って時速百キロでアクセル方向に押し戻されていく。

 

 

 ーーーあ、これダメかも分からんね。

 

 

 

 

 

 


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