この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







56話

 

 

 

 ※

 

 

 つっかえ棒にしている脚が地面を削りながらミシミシと悲鳴を上げ、筋繊維が千切れる独特の音がプチプチ聞こえてくるようだ。最初の激突で恐らく肋骨が二本逝った。背骨も痛めたかもしれない。つまり絶好調だ!…って言えたらいいなあ(叶わぬ願い)

 

 視界が後ろに流れていく。まあ時速……今は八十キロくらいか?そんな移動をしているのだから仕方ないだろう。

 ちなみに今のままだと俺の運命はアクセルの外壁とデストロイヤー、いや、ダクネスの背中とのサンドイッチになって終了する感じです。はい。

 

 

「「止まれこのデカブツがぁぁああああああああああああああっっっ‼︎‼︎」」

 

 

 ダクネスと俺の心からの叫びがハモる。多分アクセルにいる全市民、全冒険者の心が一つになった瞬間である。

 

 大体、なんで普段の移動よりもスピード出てんだよ。あれか、俺のフラグを回収しに来てくれたのか。きっと中にいる開発者さんはテンプレお約束が大好きなんだろうなぁ。目の前にいたらぶっ殺してやるのに。

 

 

「ぶっ…がふっ……っ」

 

 

 いかん、折れた肋骨が内臓……いや、咳なら肺か?を傷付けたらしい。咳き込む余裕など無いのに喉の奥から溢れて来る鉄臭い液体が抑えられない。

 

 ギシッ…、と歯をくいしばる。奥歯が割れた音がしたが今はどうだっていい。ダクネスの後ろで支えてるだけの俺がそんな弱音を吐く訳にはいかない。デストロイヤーと正面衝突した俺と背中合わせのクルセイダーはもっと辛いはずなのだから………!

 

 

「ぐうぅぅっ……!す、凄まじい圧力だ…!こんなに死の危険を感じるのは生まれて初めてだ!感謝するぞ、ゼロ‼︎お前の作戦は決して間違いではなかった‼︎」

 

「…………………っ‼︎」

 

 

 くそったれが!歯あ食いしばってるせいでツッコめねえぞ!意外と余裕そうですねえ!俺の渡したポーションが効力を発揮しているようで何よりだよこんちくしょう!

 

 実際、ダクネスのお蔭でかなりデストロイヤーの速度は遅くなっている。だがそれでも外壁に着くまでに静止させられるかどうかといったところか。ダクネスは大丈夫そうだが俺の足が問題である。身長が縮んだらどうしてくれんだ。

 

 俺を先頭に大量の土砂をぶちまけながら地面を削り続けるデストロイヤー一行。

 ついにアクセルで工事のおっさん達が作っていたバリケードにまで到達してしまった。木材で作られたバリケードが先頭にいる俺に情け容赦無く叩き付けられる。

 

 ここに来て最大の敵が味方が作ったバリケードとは俺の運の無さも極まれりだな。

 手で振り払いたいが、そうすると踏ん張りが効かなくなってしまう。ある程度はマントのお蔭で緩和されているのだ、致命傷にはならん。

 

 

「「『クリエイト・アースゴーレム』‼︎」」

 

「「『フリーズガスト』‼︎」」

 

 

 木材がぶつかる度に食いしばった歯の間から血が飛び散るのを我慢していると、街にいた冒険者達が魔法で援護をしてくれる。次々と地面から立ち上がるゴーレムが、凍りつくささくれ立った地面が、デストロイヤーの速度を削っていく。ちなみに俺の体力も削っていく。もう外壁は目の前だ。

 

 

「おおぉおおおおおおおおああああああああ‼︎‼︎」

 

 

 ここまで来たら後はもう気力の問題だ。全身の力を足に込める。地面をより一層深く削りながら外壁にゆっくりと押し当てられていく俺の足が嫌な音を立ててあらぬ方向にへし折られた。今まで支えていてくれた足が複雑に折れ曲がったことによって崩れ落ちて尻もちを付いてしまう。

 

 

 ーーーだが、もういい。良く頑張ってくれた。

 

 

 最後の冒険者達の魔法の嵐と、俺とダクネスの渾身の悪あがきによって遂に魔導技術大国ノイズが生み出した史上最悪の兵器、機動要塞デストロイヤーはその活動を停止していた。

 

 八本あった脚は五本に減り、残った脚は全て停止しているものの、それ以外に目立った外傷は無い。これだけ被害を出しておいてほとんど無傷とは恐れ入る。さすがは何百年も人類を苦しめて来ただけのことはあるな。

 

 

「………ぅ…ぐっ…、おい、ダクネス、止まったぞ……」

 

 

 先ほどからデストロイヤーの前でデュランダルを盾にしたまま動かないダクネスに声をかける。しかし、返事が無い。まさか何かあったのかと震える腕で這いずり、ダクネスの前に回り込むと。

 

 

「………すぅ……すぅ……」

 

「ビビらせんじゃねえよド変態……」

 

 

 寝ている……というよりは気絶の方が正しいか。

 

 さすがの耐久極振りのダクネスさんでもこの怪物相手では平気とは言えなかったらしい。さっきまで元気そうに見えてたのはやはり無理をしてたんだろうか?

 

 だがアクセルを守りきった事だけは理解しているのだろう。やり切ったようないい顔で気絶していた。

 

 ーーこうして見るとやっぱこいつも美人だな。いっそずっと寝てりゃいいのに。

 まあお前も良く頑張ったよ。もう終わったんだ、ゆっくり休めばいいさ。

 

 俺がいつに無く穏やかな心持ちで脱力していると駄女神のはしゃいだ声が響いてきた。あいつも元気だねぇ……。

 

 

「やったじゃない‼︎これでアクセルに平和が戻ったわね!さあ、今まで散々国や街を潰してきた賞金首よ!報酬貰ったらもう働かなくてもいいんじゃないかしら!今日は朝までドン勝パーティーよ‼︎」

 

「お前せっかく止まったのになんでそんなフラグになるようなこと言うんだよ⁉︎ゼロとダクネスになんか恨みでもあんのか!」

 

 

 カズマが即座にアクアが打ち立てたフラグを折ろうとするが、旗立颯太でも無い普通の人間には荷が重かったらしい。

 唐突に地面が振動を始める。どうやら停止したデストロイヤーから発されているようだがーーー?

 

 

『警告、警告。被害甚大につき、自爆機能を作動させます。搭乗員の方は速やかに避難して下さい。警告、警告。被害甚大につき………』

 

 

 物騒な警告は何度も、何度も響き渡る。その無駄に恐怖心を煽る機械的な音声は全て終わったという弛緩した空気をパニックに陥れるには充分過ぎる効果があったようだ。

 

 ーーー誰かが呟いた。

 

 

「……………なんか、ヤバくね?」

 

 

 冒険者達に少しずつ、少しずつ恐怖が伝播していく。

 

 

「ヤバいって……、ヤバいってこれええええ‼︎」

「イヤダー‼︎シニタクナーイ‼︎」

「ああ、それとリーン。時間を稼ぐのはいいが…、別にアレを破壊してしまっても構わないのだろう?」

「やれるもんならやってみてよ‼︎なんで急に声のトーン変えたの⁉︎バカ言ってないで逃げようよ‼︎」

 

 

 ……確かにヤバい。自爆機能という事は、文字通りこの場でボンッてなるという事だろう。ここで何とかしなきゃいけないのに冒険者達は逃げ惑うばかりだ。癪だが、ダクネスのカンは当たってたというべきだろう。問題なのは頼みの爆裂魔法がこの状況ではクソの役にも立たないってことだ。アクセルの外壁に触れそうな位置にあるデストロイヤーに爆裂ブッパしたとしても結局被害は出るからな。

 

 

 ………俺がどうにかするしかない。

 

 

 だが今の俺は満身創痍も良いところだ。肋骨が折れて肺の辺りに突き刺さってる感触があるし、腕や背筋、腹筋などは痙攣してまともに剣も握れないだろう。何よりも足が完全に使い物にならない。

 

 俺が回復機械として、そして結界排除装置としては誰よりも頼りになると判明した女神を呼ぼうとするが、それよりも早く誰かの声が聞こえた。それは小さいが、とてもよく響く、何かの覚悟が窺える。そんな力強い声だった。

 

 

「俺はやるぞ。今までどれだけこの街に世話になってきたと思ってるんだ」

 

 

 その声の力強さは周囲に伝播し切っていた恐怖心を打ち消していく。

 

 

「そうだ、そうだった。俺も行くぞ」

 

「俺も」 「俺もだ」

 

「……ああ。俺が高レベルと呼ばれるようになっても他の街に行かなかった理由をたった今思い出したよ」

 

 

 それは逃げ一色だった空気を全て攻めの空気へ転換するほどの力を秘めていたことになる。恐ろしい程のカリスマ性だ。たった一人の言葉がここまで影響するのを初めて見た。一体誰が?

 と、最初に言葉を発した奴の顔が気になる一方でもう一つ気になることが聞こえた。

 

 ………高レベルの奴がこの街に多いのって、確かサキュバス達のせいじゃなかったっけ?

 

 俺の疑問に答える声の代わりに聞こえてきたのは拡声器によって大きくなったカズマの声だった。

 

 

『機動要塞デストロイヤーに乗り込む奴は手え挙げろー‼︎』

 

 

 その声に迷う事なく手を挙げる数多くの冒険者達。その全員が男だった。

 

 …………あっ、そっかぁ……。

 

 俺が何かを察する間にカズマが音頭を取る。こういう時だけ無駄に行動力が増す奴である。

 

 

『ぶっ壊せぇええええええ‼︎』

 

「「「おおおおおおおおお‼︎‼︎」」」

 

 

 その勢いと一致団結の仕方はデストロイヤーを止めた時の数倍に匹敵するのではないだろうか。

 

 次から次へと先にフックが付いたロープを掛けてデストロイヤーによじ登っていく冒険者達を見て、何だか遣る瀬無い気持ちになってしまった。

 

 

 …………俺の感動、返してくれねえかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 


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