再投稿。
※
「アクアー!アクアさーーーん‼︎」
冒険者達があらかたデストロイヤーに乗り込んでいった後。俺のアクアを呼ぶ声が木霊する。つーかこいつ止めたのって俺の働きも大きい気がするんだが、放置していくって酷ない?
誰も気に掛けてくれないとか実は嫌われてるんじゃないかと悲しくなってくる……いや、そんな場合じゃない。
デストロイヤーもヤバいがこっちも緊急事態だ。アドレナリンのお蔭か今まで痛みを感じていなかった全身がズキズキと痛み始めている。割とマズいレベルの痛みだ。最悪ショック死もあり得る。
ここまで頑張って来た最期が痛みによるショック死など嫌すぎる。さっき声が聞こえたからには近くにいるのだろう、早く来てくれ。もう呼吸するのも痛いし、大声出せなくなってきたんですけど。
すると俺の祈りが届いたのか、デストロイヤーの陰からひょっこりとアクアが顔を出した。
「……?あ、ちょっとゼロさんすごい方向に足向いてるわね、大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えるならお前が大丈夫じゃねえよ。早く治してくれ、とりあえず先に足から頼む」
アクアが余計な事は言わずに治療を開始してくれる。
足、腹部から胸部にかけて。痛みが引いていく感覚は中々悪くない。この瞬間だけはこいつは女神と崇められても良いんじゃないかね。
…………よし。
「アクア、もう良いぞ。痛みは無くなった」
「え?まだ終わってないわよ?足は完治したけど安静にしなきゃだし、折れてた肋骨と穴開いてた胃は繋げたけど今動くと開いちゃうかも」
俺だって出来りゃあゆっくり休みたいさ。だがデストロイヤーをあのエロ魔人共に任せっきりにはしておけないだろ。俺とダクネスがこんだけ苦労して止めたのに結局ダメってのは勘弁してほしいからな。早く行かねえと。
アクアに水を出してもらって口内をゆすぐ。ホントに結構血い出たな。
「っし、水と回復魔法サンキューな。
……ダクネスを頼む。安全なとこまで引き摺ってってやってくれ。魔法は……、必要無さそうだけどな」
俺はズタボロになったというのにダクネスには少なくとも目に見えるような傷は無い。ポーションの効果もあるだろうが、ダクネスの耐久がそれほど高かったのだろう。ともかく、良かった。いくら冒険者とはいえ女に傷残したとあっちゃあ男として終いだ。責任取らなきゃいけなくなっちゃう。
ダクネスがまだ握っているデュランダルを返してもらう。気絶したというのに、その手は白くなるほどに剣の柄を掴んでいた。
「………あとは任せとけ」
自然と優しい声が出てしまった。
お、今の声割とカッコよかったことない?この声でクリスに迫ればきっと良い感じに………。
「やだ、ゼロのその声気色悪いわね。あんまり人に聞かせないほうが良いと思うわよ」
放っとけ。
※
アクアの感想に涙目になりながらデストロイヤーに乗り込み、程なくしてカズマやテイラー達と合流できた。
なぜか白骨死体を囲み、微妙な表情をしている。どうもこいつがデストロイヤー乗っ取ったとかいう傍迷惑な開発者のようだ。生きてたら俺含めた冒険者達のサンドバッグにしてやったものを、運の良い奴である。
死んでるならそんなモンどうでもいいだろ。早く何とかしねえと爆発するって忘れてない?
「お、おう。そうだな……」
カズマが持っていた日記のような物をパタンと閉じた。チラッと見えたが、もしかしてそれ日本語で書かれてなかったか?………それも俺にはどうでもいいんだけどさ。
カズマ他数名の冒険者と動力炉を探す。自爆するのも機能の一種だと言うならば動力源をどうにかすれば停止するのではないか、と言うのがカズマの見解らしい。
「おい、これじゃないか?動力」
先行していたテイラーが何か見つけたようだ。
その部屋の中央には赤く光り輝く鉱石が中で浮いている鉄格子があった。その鉱石はかなり小さいが、まさかこんなものでデストロイヤーを動かしていたのだろうか。
「これがコロナタイトってやつか」
「……コロナタイト?何だそりゃ、聞いた事ないな」
カズマが知ってて俺が知らないとかちょっとショックなんだが。
「さっきの日記に書いてあったんだよ。なんでも伝説の鉱石で、半永久的に燃え続けるんだとか」
「………ウランとかプルトニウムじゃないよね?それ」
「いや俺としてはなんでお前が核を知ってんのか小一時間問いたいんだが」
ここで小一時間話し込んだらアクセルも俺達もめでたく粉々だぞ。
いつか話す機会もあるだろうがそれは今じゃない。
「……それよりこれをどうするんだ?鉄格子からは俺が斬って取り出せばーー」
「『スティール』」
俺が剣を抜こうとした時にはもう遅く、カズマがスティールを発動してしまっていた。こいつバカかよ。
スティールによって鉄格子の中からカズマの手の平、少し上あたりに移動するコロナタイト。その赤々と燃える石がカズマの手に触れる前に襟首を掴んで後ろに投げ捨ててやった。
「ぐえっ⁉︎何するんだよ⁉︎」
何もクソもないわ。あのままだったらお前の手首から先はコゲ肉になってたっつーの。俺に感謝するがいい。
とはいえお手柄だ。これで動力は抜いたんだから自爆機能とやらも止まるだろ………。
「な、なあ、このコロナタイトなんかおかしくないか?だんだん光が強くなってるような……」
「あん?」
見ると、テイラーが言うとおりコロナタイトはその光を赤から白へと変貌させようとしていた。
まさか、と思いさっきまでコロナタイトが収められていた鉄格子の隙間に指を突っ込む。鋭い痛みを感じて引っ込めると、指先が凍り付いていた。
中は相当温度が低くなっている。という事はコロナタイトってのは冷却が必要な物質という事であり。
「おい、これ冷却されてたのを無理矢理引っ張り出したから温度がどんどん上がってんじゃねえか⁉︎」
「え」
カズマの顔からサーッと血の気が引いていく。自分のせいだとでも思ったのかもしれないが、これについてはカズマに落ち度はないだろう。やらなきゃボンッてなってたんだ、致し方無し。
「ど、どっかに捨てて来ないとコロナタイト自体が爆発するんじゃ……」
「おいバカ、触んな!見りゃ分かんだろ、もう人間が触れる温度じゃねえぞ‼︎」
そう、もうその温度は何百度など軽く超えて千度まで達しているのではないだろうか。だがこのまま放置しておけば何が起こるか。
もしこれが本当にデストロイヤーを動かすほどのエネルギーを秘めているのだとしたら爆発した時の被害は計り知れない。
コンマ数秒の逡巡。覚悟を決めた。
デュランダルを居合いで抜きながら鉄格子を斬り裂く。カズマ達が驚いた顔で俺を見るが、これしか方法がねえ。文句あんなら全部片付いた後にまとめて聞いてやるよ。
一瞬で俺の指先を凍りつかせたほどの凍気が勢いよく噴出する……そのど真ん中に躊躇無く左手を突っ込む。
痛っ…!てえなクソがぁ……!
左腕の芯まで凍り付く痛みを顔に出さないように唇を噛む。またアクアの世話にならなきゃいかんな。この後俺が生きてたらの話だが。
「お前何してんだよ⁉︎早く手え抜け‼︎」
言われずとも抜くさ。もう充分だ。
剣を鞘に納めて右手でマントを掴む。リバーシブルになっている俺のマントの赤い方は熱に強いはずだ。あんま役に立ってなかったが、今がその時だぜ。
マントを剥ぎ取りながら床に転がっているコロナタイトを包み、それを凍り付いた左腕に乗せた。もう掴む事は出来んがラグビーボールのようにすれば運ぶことは出来る。
「ゼロ、まさかお前さん………‼︎」
テイラーが俺が何をしようとしているのか理解したようだ。
「どけ‼︎ちっとばかし遠投してくるだけだ‼︎」
動力炉から飛び出し、入って来た入り口から地面まで飛び降りる。もう左腕を覆っていた氷など消え失せたが、持てないほどに熱いわけではない。
いくら熱に強いマントで包んでいるとはいえ、摂氏ウン千度の鉱石を持って腕が無事で済むわけがないのだが、これは何となく予想はできていた。
忘れもしない、アルマの村を出て一時間もしないうちに出逢ったフレイムドラゴン。俺のマントの元になったドラゴンだ。
俺の左腕はフレイムドラゴンの炎によって一度は炭化するほどの熱に煽られた。
その時は偶然治療法を実行していたのと、自身の回復力のお蔭で元通りに治ったんだが、それ以降、俺は自分の左腕が異常なまでに熱に強くなっていることに気づいた。
これも特典の影響なのだろう、通常のたき火などで直接炙っても熱くもないし火傷一つ負わなくなったのだ。それなのに熱を感じないワケではないから不思議だ。人に触れるとちゃんと温かさを感じる。
特に何かの役に立つこともなかったが、今この状況では値千金。焼かれとくもんだね、左腕。
平原をひたすら走り続ける。
コロナタイトの光は強くなる一方で、もはやマントを透過する光が多過ぎてマントがあるか無いかもわからないほどだ。
これ何が怖いって、いつ爆発するのかわからないのと爆発の範囲の予想が出来ないのがめっちゃくちゃ怖い。分かりやすくタイマーでも付いてりゃ良かったのに。
無い物ねだりなどしてもしょうがない。とにかくアクセルから離れれば間違いないはず。そこまで考えた時だった。
「………んん?」
腕がブルブル震えている。より正確に言うと真っ白に輝きながら、俺ですらそろそろ持てなくなりそうに熱くなるコロナタイトがブルブル震えている。
これはマズイ。もう限界が来たようだ。
アクセルからはかなり離れたが、問題は俺だ。こいつの爆発範囲から逃げ切れるだろうか。いや、そんな時間すらも惜しい。
マントから取り出したコロナタイトをフォーシームで握って左腕を大きく振りかぶりながら助走を付け、足腰の回転と腕の振りによって発生した力を余すことなく手首に伝えてコロナタイトを遥か頭上にぶん投げる。
「エリス‼︎お前にレインボォオオオウ‼︎」
俺のよく分からん掛け声と共にすっ飛んでいく真っ白なコロナタイト。俺は元来右利きなのだが、どちらの腕でも剣を振れるように訓練した副産物としてある程度は左も自在に操れる。右手で投げるのとさほど変わらないくらいには飛んだはずだがーーー。
重力に逆らいながら高度を増していく光。ある高さまで上がった瞬間、太陽がもう一つ出現した。
すかさず手を翳して目を庇うが、何の意味も無かった。手が完全に透けている。
目を焼かれる痛みに呻いた直後、遅れてやってきた凄まじい衝撃波と爆風が周りの地形を変えながら俺を吹き飛ばす。
体感で十数秒ほど地面を無様に転がり、恐らく岩だろう、何か硬い物に後頭部を強かに打ち付けて俺は意識を失った。