この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







六章今後への伏線
60話


 

 

 

 ※

 

 

「で?また君か。壊れるなぁ………」

 

「こればっかりは申し立てのしようもありません!僕に罰を与えて下さいゼロさん!いやさ、師匠‼︎」

 

「いやさとか本当に言う奴初めて見たわ」

 

 

 火憐ちゃん以外でな。

 

 いつも通りのギルドの酒場。いつも通りにもう誰も見向きもしなくなった掲示板を漁っていたらいつも通りにミツルギキョウヤ君十八歳に絡まれてしまった。

 

 周りに冒険者も居るには居るが誰一人としてクエストを受ける気配はない。皆、酒場のテーブルに座って各々騒いでいるだけだ。

 まあ仕方ないっちゃ仕方ない。デストロイヤーの報酬が支払われたのはつい二週間前の事。ほとんど俺とカズマのパーティーが持っていき、残りを全員で分配したとは言っても現在の冒険者の懐はかなり暖かくなっているはずだ。

 そろそろ冬場を抜けるとはいえ、まだ危険には違いないクエストを受ける理由が無い。わざわざそんな事をするのは、金を理由に動いていない高レベル冒険者だけなのだ。そう、俺や、目の前で土下座するこいつの様な。

 

 

「……なあ、もう頭上げねえか。横を見てみろ。お前のその姿を酒の肴にするゴミがいるんだぞ?もうちょい衆目ってもんを気にしてだなぁ……」

 

「おいおい、ゴミたぁ随分だな?やっぱ人間懐が暖かくなると心は寒くなるもんなんだな、えぇ⁉︎俺もあやかりてえなあ!」

 

 

 ギャハハハ、と酒を片手に下品に笑うのは土下座するミツルギを面白がって近づいて来たゴミ(ダスト)である。

 

 

「おいダスト。お前、金やるからあっち行ってくれねえ?正直邪魔」

 

 

「邪魔なんて言うなよ、俺たちマブダチだろ?ああ、金は貰うぜ。今日実は手持ちが無くてよ。どのタイミングで逃げようかと思ってたとこだ」

 

 

 頼むから警察はこいつを早く牢屋にブチ込んでくれ。いや、むしろ俺が今から連れて行くのも良いかもな。

 

 なぜこのクソ野郎が金に困っているかと言うと、他のブルジョワ冒険者とは違いデストロイヤー戦の時にサキュバスの虜になっていたダスト、キース、ミツルギの三名は報酬に有り付けなかったからだ。当然だけどな。

 キースは短期のバイトを入れてどうにか乗り切るつもりらしいが、ダストはそれすらもしないらしい。堕ちるところまで堕ちたと言うべきか。地獄の下層から最下層に堕ちたくらいの違いだけどな。こいつは今も昔も仄暗い水の底にいたに違いない。停電クラッシュ考えた奴天才だろ。

 

 そもそもこの騒ぎの原因となったミツルギがなぜ土下座しているかというと。

 

 

「……僕はゼロさんや他の人が必死にデストロイヤーという巨悪と戦ってる時に色欲に負けて呑気に寝ていたんですよ……!

 このままでは自分が赦せません!さあ、早く罰を与えて下さい‼︎」

 

 

 という事らしい。あれから二週間の空白があるんだが、こいつはその間何してたんだろう。

正直俺は全部解決したからにはどうでもいいんだけどな。終わり良ければ全て良しの精神も大切よ。

 

 それにだ。

 

 

「ミツルギ、きめえ」

 

「⁉︎」

 

 

 罰を与えて下さいだぁ?SMプレイがしたけりゃそれこそサキュバスネスト行けよ。それかカズマんとこに連れてってやろうか?あいつは屋敷でヒキニートやってるはずだが、ミツルギを連れてきゃ喜んで責めるだろうさ。

 

 

「何故ここでサトウカズマなんですか!僕はあなたに責めて欲しいというのに‼︎」

 

「オーケー、ミツルギ。俺が悪かった。悪かったから少し黙ろうか」

 

 

 今のは完全にアウトだ。周りの女冒険者やギルドの職員がキャー‼︎とか言ってるし、ダストを含めた男冒険者達からはドン引きされている。

 こいつホントめんどくせえな。いつも通りなんかカッコいい言葉で誤魔化してやろう。

 

 心の中でミツルギを煙に巻く言葉を編み出し、口調を真面目にしてやる。もうすっかり慣れたミツルギの取り扱い方法だ。だいたい格好良さげなこと言っときゃ何とかなる。

 

 

「………ミツルギ。顔を上げろ、前を向け。下を向いてばかりじゃ何も見えやしないぞ」

 

 

 ハッとした様に顔を上げるミツルギ。……よし、これで行こう。

 

 

「……お前は罰を与えて欲しいと言ったな。甘ったれるんじゃねえよ。それをしたらお前は許された気になっちまうだろうが。

 デストロイヤー戦の時、お前は街が危険に晒されているというのに良い夢を見ていたという。それは俺程度に罰されたくらいで消えるような軽い罪なのか?お前にとってアクアが住むこの街はそんなに軽い物なのか?」

 

 

 ミツルギが唇を噛んで俯く。心にも無いことを言って俺の良心が痛まないでもないが、こんな奴ほっといて早くクエストに行きたいからね。

 それにただ許されるよりは多少責めてやった方がマシなのも確かだ。俺の半分は優しさで出来ているのである。

 

 

「良いか?俺はあえて罰を与えない。理由はさっき言った通りだ。許された気になればお前は今の反省する気持ちを忘れてしまうかもしれないからな」

 

「そ、そんな事……」

 

「いいから聞け。……お前は一生その十字架を背負え。『大事な時に愛する人の力になれなかった』。その事実を忘れてはいけない。

 そして忘れないだけでもダメだ。それを糧にしろ。その悔しさを常に念頭に置けば今よりもずっと強くなれる。

 ーーー行けよ。この道を真っ直ぐ行くんだ。決して振り返ってはいけないよ」

 

 

 最後にそう言いながらギルドの出口にあるドアを指差す。ほうら、森へお帰り。

 

 しばらく俺とギルドの出口を交互に見ていたミツルギはキッと視線を凛々しくして立ち上がり、俺に頭を下げてギルドを出て行った。

 

 どこへ行ったのかは知らんが、俺の迷惑にならなきゃそれで良いよ。あとは死ななければな。エリスの仕事が増えるのは勘弁してくれ。

 

 さあて、今日はどんなクエスト受けますかね。

 

 切り替えて掲示板に近付く。さっきまでの事は夢だった。良いね?

 

 

「いや、ちょっと待って下さいよ!罰は別にしても稽古は付けて下さい‼︎」

 

「お前は本当に察しが悪いなあ‼︎今日は気分がノらねえから大人しく帰れって言ってんだよ、分かれや‼︎」

 

「ええ⁉︎今ので察するのは色々と無理がありませんか⁉︎」

 

「帰って!ほら、早く帰って‼︎」

 

「ちょっ、まっ、や、約束ですからね⁉︎あ、ちょっと押さないで……」

 

 

 またギルドに入ってきた邪魔者を追い出す。悪い奴じゃ無いんだが、今はただただ鬱陶しい。

 

 気をとりなおして掲示板をーー

 

 

「おいおい、よくもまあポンポンとあんな恥ずかしいこと言えるもんだな?お前詐欺師の才能があるぜ」

 

「……………チッ」

 

 

 そういえばこいつが居たな。露骨に嫌な顔をして舌打ちまでしてしまう。俺なんでこいつと友達やってるんだっけか。

 

 そんな俺の様子に気付かないのか、ゴミが聞いてもいないのにゴミのような事をゴミにしか通じない言語で話し始める。つまり俺はゴミなんだな。

 

 

「………なぁ、どうだ?その才能を活かして楽に稼いでみねえか?俺とお前が組めば王族からだって幾らでも毟れるぜ。つーか金がねえんだよ。協力しろや」

 

「俺にはお前が何を言ってるのかさっぱり分からんが、まず一言良いか?

 ………お前まだ居たの?金やったんだからさっさとその手に持った酒の代金置いてゴミの集積所にでも行ったらどうよ。お前の仲間がいっぱいいるから寂しくも無いだろ?やったねたえちゃん!家族が増えるよ!」

 

「よし、てめえ上等じゃねえか。ちょっとばかし強いからって調子に乗るなよ?てめえには勝てねえだろうが、てめえと一緒に暮らしてるクリスとかいうねーちゃん攫って色々しても良いんだぞ?

 まあもっとも?あの貧相な身体つきで俺のブツが反応するかどうかは怪しいけどなあ‼︎うひゃひゃひゃひゃ‼︎」

 

「………すぞ」

 

「あーん、何だって?許して下さいってか!ったくよお、どうしてもってんなら許してやらないでもないけどな!その代わり払うもん払ってくれるんだろうなぁ?俺の傷付いたギザギザハートは端金じゃ癒されないーーー」

 

 

 なるほど。どうやら彼は世の中には冗談でも言って良い事と悪い事があり、また、言う相手は選べという真理を知らないとみえる。俺に対しての暴言なら見逃したが、クリスに対する、しかも実害まで加えると言う。これは言ってはいけない冗談じゃないだろうか。

 

 せっかくなので、彼の今後を考えて身を以てその辺りを学習してもらうことにした。

 

 

 

 死 ぬ が よ い。

 

 

 

 

 






※ダストは原作でもこんな感じです。むしろまだこちらの方がマシです。




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