再投稿。
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ゴミ捨て場からの帰り。またギルドに行って改めてクエストを受けようと思っていたらばったりとゆんゆんに会った。
「あ、ゼロさんじゃないですか!お久しぶりですね………あ、あの、私の事憶えてくれてます……?」
「……ふう、やれやれだ。君には俺がこんなかわい子ちゃんの顔を忘れるような薄情者に見えているのかい?心外だな、ベイベ……」
「あれっ?すみません、人違いでした」
「ゆんゆんさん⁉︎いや悪いちょっとふざけただけだって!憶えてるよ!人違いでも無いって!」
首を捻って立ち去ろうとしてしまうゆんゆんを必死に引き留める。
ゆんゆんも本気で言っていた訳ではないらしく。
「や、やっぱりそうですよね、ゼロさんですよね?なんでそんな事するんですか、もう」
「ごめんって。ちょっとスッキリしてたから、テンション高くなっちゃって」
「………スッキリ?」
それはどうでもいい。それよりもゆんゆんだ。しばらく姿を見なかったが、街を離れていたのだろうか。
「あ、はい。ちょっと紅魔の里に里帰りしてて……。
……というかゼロさん、こんな遅くにどうしたんですか?もう少し早い時間帯に活動してた気がするんですが……」
「ん、ああ。ギルドに生ゴミが落ちてたから、他の人の迷惑にならないようにゴミ捨て場に埋めてきた。しばらくしたらまた出現するだろうけど、気分的に落ち着かないからな」
「そうなんですか、親切ですね。
……それにしても、誰がそんな所に捨てたんでしょう?ゴミはちゃんと燃やして処分しないと、人の邪魔になっちゃいますよねえ。私も、もし見かけたら魔法で燃やして街の外に埋める事にします」
「おっ、そうだな」
俺が言うゴミの正体を知らないとはいえ、中々えぐい事言いやがる。
まああのゴミとゆんゆんが顔見知りになるなんざまず無いだろうし、言うだけなら好きなだけ言ってやるといい。例え直接言われたとしても反省はしないのがダストのダストたる所以なわけだが。
「……………………」
「……………………」
それっきり会話が途切れてしまった。
ううむ、この空気はちっと良くねえな。相手がめぐみんなら適当に揶揄ったりできるのだが、ゆんゆんだとそれを真面目に受け取って勝手に凹みそうだ。
ここは年長者として気まずそうにしている女の子に話題を振ってやりたいが、最近の子の話題には付いていけないからなあ。
「………あ、あのっ!そういえば、めぐみんに何をプレゼントするかもう決めました?私はこのマナタイト結晶を渡そうかなって……」
おお、なんと。気を遣ってくれたのかは知らないが、引っ込み思案なゆんゆんから話を振ってくれるとは。
乗ってやりたいのは山々だが、言ってる意味が分からん。めぐみんにプレゼント?何でさ。理由も無くプレゼントを贈るのはクリスにだけで充分だぞ。
「え?何でって……もうすぐめぐみんの十四歳の誕生日じゃないですか」
「へえ?それは知らなかっ………あいつもう十四歳なのか……」
チラリとゆんゆんの身体つきを見て、めぐみんの容姿を思い出す。
あっ、そっかぁ……、悲しいなぁ……。
「……なんかいやらしい視線を感じました」
「いや、それは気のせいだと思うよ。……それより、マナタイト贈るのは良いけどさ、あいつにそれって必要か?」
「……?魔法使いがマナタイト必要無いってことは無いと思いますけど……?」
おい、幼友達。あいつが爆裂魔法とかいう頭の悪い魔法しか覚えてない事を忘れたか。
マナタイトもピンキリではあるが、ゆんゆんの用意した物の大きさと色だと、せいぜい上級魔法の消費魔力を肩代わりするのが限界だろう。めぐみん以外の魔法使い職には大変に喜ばれるはずだが、いかんせん相手は頭のおかしい爆裂狂である。せっかく渡しても次の日には市場に出回ってる、なんて事になりかねんぞ。
「あの子まだそんな事してるんですか⁉︎私と別れてからもう三ヶ月になるのに、他の魔法覚えてないんですか!」
「あの性質はもう変わらないだろうな。『三つ子の魂百まで』って言うし」
「ええー………」
そこらは諦めるのが精神衛生上大変よろしい。
それに、めぐみんは小さい頃から爆裂魔法にずっと憧れて来たという。里の大人からもネタ魔法と言われ続け、自分でも欠点は理解して、それでもなお爆裂魔法の事を忘れなかった。
その一途さというか、頑固さは誇っても良いだろう。
それがあるから俺は馬鹿だな、と思いつつもあいつに爆裂魔法以外を覚えろとは言わないんだしな。……言っても聞かないだろうが。
「そこまでポジティブに受け取るのはゼロさんくらいですよ……ハァ……」
「どうすんの?なんだかんだで渡せば喜びはするだろ。直接渡しに行くのか?」
なんだったら俺も一緒に行こうと思ったのだが、予想に反して首を横に振るゆんゆん。
「い、いえ。素直に誕生日プレゼントだっていって渡すのは恥ずかしいし、なんか負けた気分になるので、いつも通りに勝負してわざと負けて、その戦利品として渡そうかなって。
………わざとですよ、わざと」
微笑ましくも面倒な関係だな相も変わらず。
わざわざそんな回りくどい事しなくても良いだろうに。口には出さないけど。
「ふーん。それにしても誕生日プレゼントねえ……。歳が一つ増えるだけの日に贈り物とか嫌味にしかならなくない?」
「何ですかそのおじさん臭い発想……?」
「おじっ⁉︎」
「あっ⁉︎す、すみません、つい……」
嘘偽らざる気持ちを正直に言ったらまさかのおっさん扱いだと……⁉︎
馬鹿な。俺はまだピチピチ…かどうかは知らんが十七歳だぞ。日本に居た『俺』だって多分そう歳食ってはいないはずだ。
という事はゆんゆんの勘違いだ。そうだ、そうに違いない。この俺がおじさん臭いなど………。
ショックを受ける俺の様子を見て悪い事言った、と思ったのか、ゆんゆんが居た堪れない表情で別れを告げてきた。
「あ、あの私、今日ちょっと寄るところがあるのでこれで………。本当にごめんなさいっ‼︎」
そう言いながら今までの進行方向とはあさっての方向に逃げるように走って行く。
そんなにショックなフェイスをしていただろうか。
いや、確かにショックなんだけども。
※
こうも気勢を削がれると冒険者として活動する気も失せる。ギルドに行っても何かしらの邪魔が入りそうな予感がしたので、まだ昼前だが早々に宿に帰ることにした。
「ただいまー………」
「あれっ、お帰り。どしたの?早かったじゃん」
おや、どうせクリスも外に出てウィズの店なり、エリス教の教会なり、ダクネス達と遊ぶなりしているだろうと思っていたが。
「ああ、うん。もうちょっとしたらギルドの仕事でも手伝おうかなって思ってたけどさ。
キミこそクエスト受けるんじゃなかったの?『どうせ誰も受けないんだからクエスト選びたい放題だぜ、ヒャッホウ‼︎』って言ってたじゃん」
「俺そんな事言ったか⁉︎」
比叡も俺もそんな事言わない。
………いや、言ったかもしれん。
「いやなんか今日は働く気になれなくってさー」
「ゼロ君が⁉︎」
「ごくごく稀ーにな。動くのも億劫になる時ってあるじゃん?今がそれ。
出てく時はやる気あったんだけどなあ……。全部持ってかれたよ……」
「キミほんとに大丈夫?言うことが最近ひきこもってるカズマ君っぽくなってるよ」
流石にあそこまで酷くはないだろ。
「………なあ、俺っておじさん臭く感じる事ある?」
「………?いきなりなのはいつものことだけど、今日のはまたえらく難解だね。
うーん……あるといえばある……かな」
「あるのか………」
「うん。だけどそもそもキミってキャラが不安定な事で有名じゃん?
たまにそういう時もあるってだけだからへんに気にしなくても良いんじゃないかな」
「ほんとぉ?(狂気)」
「そういうのね。それは本当に気持ち悪いから止めない?っていうか止めて」
「はい」
怒られてしまった。
そういえばこうしてクリスと年齢とか雰囲気の話をするのは初めてかもしれない。
クリスは見た目十五歳くらい、エリスは十七歳くらいだが、実年齢はいくつなのだろう。女神だから年齢の概念は無いんだろうか。
「クリスは歳はいくつなんだ?」
「あたし?あたしは十五歳」
「ああ、ドンピシャだな。……いや、そうじゃなくて女神としてどのくらい活動をーーー」
「ゼロさん」
急にエリスになった。
表情は完全なる『無』だ。ここから先は俺ではどうやら進めないらしい。
「いいですか、天界では時間という概念が無いのです。したがって私が何歳なのかという質問にはお答え出来ないのです。いえ、別に数えてはいませんよ?むしろ数えられないっていうか……。
と、とにかく!私は十五歳。これでいいじゃないですか。…………いいですね?」
「い、いえす」
「……よろしい」
怖っ。
圧力が普段の数十倍はあったぞ。なるほど、女神連中には歳の話はしない方が良いらしいな。俺だってわざわざ地雷を踏み抜きたくはない。ここは素直に従っておこう。
…………………でもやっぱり気になるから後でアクアに聞いてみようかな。
そんなやり取りをしていると、誰かが部屋に来たようだ。コンコン、とノックの音が聞こえる。
「あ、いいよ、あたしが出る」
動こうとしたらクリスに止められてしまった。前から思っていたがエリスとクリスの切り替え凄えな。もう二重人格の域だぞ。
それにしても訪問者は誰だろうか。アクセルに知り合いは多いが、俺の部屋に訪ねて来るのは片手で数えられるくらいしかいない。まさかあのファッション勇者じゃねえだろうな。もしあいつだったらダストの後を追わせてやらぁ。
もしミツルギだったら、という想定をしながら聞き耳を立てる。といっても部屋のドアが開いた状態でクリスと訪問者は会話しているのでそんな事をする必要も無いのだが。
果たして、聞こえてくる声はーーー?
「………?すまない、部屋を間違えたようだ」
「あ、そうなの?この宿だったら誰がどこの部屋かくらいは分かるから、案内出来るよ?」
「そうか、それは助かる。ではーーー」
戸惑ったような女の声がそう言っている。どこかで聞いたような声だが、部屋を間違えたと言うからには俺も聞き違いだろう。
興味を失ったので少々ドアに寄せていた体を離した。さて、午後からは何しようかね。
と思っていた矢先に。
「ゼロ君、ゼロ君。なんか君にお客さんだよ。すっごい美人さん」
「はあ?お客さん?俺にか」
美人さんも何も俺が旅に出てから知り合った女は全員美人だけどな。
クリスが知らない美人……?リーンかな。いやあの口調は絶対違うけど、はて。
訝しみながらドアから顔を出す。
「へいらっしゃい。お持ち帰りですか?テイクアウトですか?冷やかしですか?」
「お前は何を言っているのだ」
「…………質問を質問で返して悪いが、お前はなぜここにいるのだ」
そこにいたのは王都にいるはずのベルゼルグ王家に仕えるアイリスの側近の片割れであり、シンフォニア家当主でもあるクレアだった。
なるほど。確かに美人ではある。
「テイクアウトワン、プリーズ!大変お待たせしました。またのご来店をお待ちしておりません‼︎
…………さっさと帰れ」
「ちょっと、お客さんに失礼でしょ」
マジ勘弁。