この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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62話

 

 

 

 ※

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………あ、あの、あたしお茶淹れてくるね」

 

 

 クリスが重苦しい空気に耐えられなくなったのか、お茶を淹れるという建前で逃げ出した。

 この目の前の美人さんことクレア某もさっさと逃げてくれないだろうか。

 

 部屋の真ん中で丸机を挟んで座布団に座る俺とクレア。

 わざわざ俺の部屋に来たからにはそれなりに重要な用事があるはずなのだが、クレアは少し顔を赤くして所在なさげにしながらチラチラと俺を見てくるだけだ。

 なんか見た事ある反応だなと思ったらあれだ、ダクネスがカズマによくこんな感じの視線を向けてるわ。

 

 要件あんなら早く言ってくれ、もしくは帰れ。バカ・ゴー・ホーム。

 

 

「その、ゼロ。お前……既婚者だったのか……?」

 

 

 クレアが何やら恐る恐る、といった感じで口を開く。

 

 何言ってんのこいつ。やっと話をするのかと思えば聞くことがそれかよ。

 

 ーーーえへへ、やっぱり?そう見える?

 

 

「よく分かったな。実は」

 

「違うからね‼︎」

 

「……………………」

 

 

 部屋の奥からクリスの声が俺の声に食い気味に発される。

 ははーん、あいつ聞き耳スキル使ってやがるな。別にやましいことなど無いので好きにするといい。

 

 

「そ、それでは彼女とはどんな関係を……?」

 

「そらお前、彼氏彼女の」

 

「ただの同居人!」

 

 

 どん、と丸机に三人分の湯呑みをのせたお盆が置かれる。

 勢い良く置いたためにお茶が浮き上がって溢れかけるが、素早く湯呑みを移動させて水滴を受け取ってから元の位置に戻してやる。

 こういう時に『スイッチ』は便利だな。

 

 

「ただの同居人………、本当か?」

 

「……………まあな」

 

 

 憮然とした声が出てしまう。こんな時くらいは見栄を張りたかったのになあ……。

 

 

「そんな事よりお前がここに来た理由を話せ。お前がアイリスから離れるだけでなく、王都からすら出るってのは相当だろ。何があったのさ」

 

「あ、ああ!そうだ!ゼロ、お前に頼みが……」

 

 

 と、そこで動きを止めてクリスを見る。

 

 

「………申し訳ないが、貴女は少々席を外してもらえないだろうか。

 これは機密扱いでな。部外者に易々と開示するわけにはいかないのだ」

 

「おい、お前いい加減にしろよ。いきなり人ん家に勝手に来たかと思ったらただ話するだけで住人追い出すとか何様だ。

 俺らが場所変えりゃいいだけだろうが。おら、行くぞ」

 

「あ、いいよいいよ。ここの方が落ち着いて話せるだろうし、あたしもどうせ外に行こうと思ってたからここにいなよ。

 それにお客さんに歩かせるのはダメでしょ」

 

 

 俺は当然の提案をしたはずなのだが、当のクリスがそれを拒んできた。

 そう言われては何も言い返せない。

 

 

「…………クリス、昼飯まだだろ?あのヒキニートの所行ってご馳走してもらえ。

 ……ほら、これだけ渡せばあいつも納得するだろ」

 

 

 財布からエリス銀貨を三枚取り出してクリスに握らせてやる。

 

 

「ちょっ、多すぎでしょ⁉︎こんな大金どうすんのさ!」

 

 

 クリスがギョッとするのも無理は無い。一食どころかそれで二週間は宿を取れる額だからな。

 

 

「いいから持っとけって。屋敷にダクネスかめぐみんがいりゃあお前を無碍にはしないだろうが、カズマとアクアだけなら門前払い喰らうかもしれねえぞ。

 …………いや、アクアはそうでもないか?お前ら仲良いしな」

 

 

 なんだか面倒な予感がする俺である。最悪しばらく留守にすることも考えておいた方が良さそうだ。

 それだけ渡せばあいつも一週間くらいは寝泊まりさせてくれるだろうさ。部屋余ってるって言ってたし。

 

 

「……うん、分かった。でも留守にすることになったらちゃんと報告してよね」

 

「あーい」

 

 

 クリスが部屋から出るのを手を振って見送る。

 

 …………さて。

 

 

「クレア、俺とお前も知らない仲じゃねえ。どうせまた面倒事なんだろ?

 依頼って形を取りゃモノによっては引き受けても構わんよ」

 

「ほ、本当か!話が早くて助かる!」

 

 

 顔を輝かせるクレア。

 

 こいつに関しては怒った顔はよく見るがプラス方面の表情はあまり見ない。

 つまり、俺が受けると言っただけで思わずそんな顔をしてしまうような依頼が飛んでくる訳ですね。別に良いんですけどね。

 

 

「事の発端は一週間前、お前が機動要塞デストロイヤーの残骸の処理を終えてアクセルに帰った直後だ。その日の夜に王城に不審人物が襲撃してきた。

 相手は一人。武器らしい武器は腰に挿した剣一本。

 当然衛兵も迎撃に向かったが、まるで歯が立たなかった。

 お前が鍛えた衛兵達が相手を一歩も退かせる事なく全滅したのだ。それも僅か数分のうちに」

 

「へえ?そいつは凄え」

 

 

 この時点でその不審人物とやらの実力が化け物じみていることが分かってしまう。

 

 俺がたったの三ヶ月とはいえ、訓練を見て、連携を教えてやった衛兵が全滅とはね。

 俺が見たところあいつらが防衛に徹して連携がうまく取れれば、ミツルギでさえ崩すのに一時間はかかるはずだ。それを数分。つまりどう考えてもミツルギよりも遥かに強いことになる。

 

 ………アイリスならギリギリってところか。

 

 

「奴はその日は『また来る』と言って帰っていったのだが、翌日の夜に再び襲撃。今度も交代の衛兵を全滅させると同じことを言って去っていった」

 

「何がしたいんだそいつは」

 

「それが分かれば苦労など無い。

 その翌日も来るだろうと予想した私とレインは王都のギルドで冒険者を募り、王城の警護に当たらせた。できれば外れていて欲しい予想だったのだが……」

 

「まあ予想通りね。そんでその結果も明白だわなぁ。お前がここにいるんだから」

 

 

 なるほどねえ。そりゃ俺に持ってくるレベルの依頼だな。

 

 当然ながら駆け出しの街であるアクセルと王国の中心である王都では冒険者の強さは桁違いだ。

 その王都の冒険者で歯が立たないってんならそれ以上の冒険者などそうそういない。

 

 しかし、そんなに強い奴が攻めて来たってんならあの戦闘狂が放っておかなさそうなものだが。

 

 

「ジャティスはどうしたよ。そんな時こそ常日頃から力が有り余ってるあいつの出番だろうが。

 あいつそういう機会が無いから拗ねてサボってたんじゃなかったか?」

 

「ジャティス王子は………」

 

 

 何故か歯切れが悪くなるクレア。何か隠したい事でもあるのかもしれない。知ったこっちゃないけど。

 

 

「あー、そうか。あいつまだ前線に出てんのか。そりゃあしょうがねえな。代わりに俺がその襲撃者を始末しといてやりますかねえ。

 あの暴虐王子、泣いて悔しがるぜ」

 

「いや。王子は襲撃者に負けた」

 

「今からあいつの吠え面拝むのが楽しみ………何?」

 

「王子はつい先日迎撃に向かわれた時に、その……」

 

「…………相手は?あいつに勝ったっつっても無傷じゃ済まないだろ。しばらく来ないんじゃないか?」

 

 

 俄かには信じがたいが、あり得ない話ではない。あいつにはアイリスだって素早さに物を言わせれば勝てる事もある。

 相手がアイリス級ならば無傷ではないにしろーー

 

「……いや。奴は手傷など負っていない。またすぐにでも来るだろう」

 

「………無傷ぅ?待て、ジャティスはどんな負け方しやがったんだ。どんなヘマしたらそうなるんだよ」

 

 

 ジャティスと戦って無傷。今の俺なら出来るがそれだって簡単ではないのだ。

 ジャティスが三味線弾いてたんでなきゃそいつは俺級に強いって事になるんですがそれは。

 

 

「す、すまない。どんな負け方をしたのかは私にも分からんのだ。なにせ最初の一撃で勝負が決まってしまったのでな」

 

「………一撃」

 

「ジャティス王子はお怪我をなされたものの、命に別状は無い、安心しろ。

 しかしジャティス王子が負けたことを重く見た国王様がお前に使者を出すように、と仰せになられてな。それなりに交流のあった私が立候補したのだ」

 

「……………………………」

 

「………ゼロ、ジャティス様についてショックなのは分かるがこちらとしても後がないのだ。気をしっかり持って……」

 

「ん?ああ、違う違う。確かに負けたって聞いた時はちょびっと心配だったけど、一撃って聞いて得心してた所だ」

 

「……?それはどういうことだ」

 

「どうもこうも。多分あのバカ王子の悪い癖が出ちまったんだろうよ」

 

 

 ジャティスの悪い癖。

 それは初見の相手と戦う時は必ず様子見から入ることだ。

 

 

「俺が初めてジャティスと試合した時の事、憶えてるか?

 あの時、俺は確かに勝ったがその後半月はろくすっぽ勝てなかった。

 最初に辛うじてでも俺が勝てたのはジャティスが俺の強さを測ろうとしてたからだ」

 

 

 これは恐らく周りに格下しかいない環境でジャティスが見出した配慮の一つなのだろう。自分がどのくらいの力を出せば相手を圧倒せず、さりとて惨めな思いをさせずに済むか。

 それを考えてくうちに自然と染み付いてしまったスタイルだな。

 

 

「そんなお優しい王子の配慮が今回も裏目に出たってこった。

 様子見の段階で弩級の一撃を出会い頭に喰らえばそりゃ負けるさ」

 

 

 そう、問題はどんな攻撃を喰らったのかだが………。

 

 先ほどから俺の顔を見たまま何も言わないクレアを見やる。

 

 

「なあ。お前、襲撃者の情報は今ので全部じゃないんだろう?

 まだ言ってない事があるっつーか、今のじゃほとんど何も分かんねえぞ。何回も襲撃を受けて相手の情報をその程度しか集められねえ無能集団だったら武装国家の看板下ろせ。って言いたいが、そうじゃないんだろ?」

 

「まあ待て、そう焦るな。話を切ってしまったのは悪かったが、今から話そうとしていたのだ」

 

 

 あ、そうなの?それは申し訳ない。ちょっとせっかち入っちゃった。

 

 こほん、と咳払いを一つ。クレアがピシッと座りながら話し始める。

 

 

「まず襲撃者の名前だが、既に判明している」

 

「お、やるやんけ。なら別に俺が直接そいつんとこ出向けばイイじゃん」

 

「話は最後まで聞け。判明はしているが、確証は無いのだ。該当する人物は十年以上前に死んでいるのだからな」

 

「…………うん?死んでるなら違うんじゃねえの?」

 

「いや、使っている剣の形状と能力が一致しているのだ。おそらくあれは武器の能力だろう。

 王都でたまに見かけないか?少し変わった名前をした高レベル冒険者を。彼らはかなり特殊な武器を使用しているが、その能力に同じ物は一つとて無い。

 使用している武器は襲撃者と同一の物と判断した。その為、便宜上その故人の名で呼んでいるのだ」

 

「故人の名で呼ぶのはやめてやれよ。故人にもそいつにも失礼だろ」

 

 

 しかし、なるほど。どうもそいつは日本からの転生者らしいな。

 その剣とやらもおそらくアクアから貰った神器なのだろう。そんな奴がなぜ王城を襲撃するのかは分からん。本人に直接聞いてみるかね。

 

 

「奴の名は『ヒノジュンゴ』。王都で活動していた冒険者で、常に一人で動いていたという。周囲からはヒノと呼ばれていたらしいな。

 ヒノは熱を操る力を持っていたそうだ。実際、王城に攻め込んで来た時もそれらしき魔法のような物を扱っていた。

 衛兵が熱さを感じたり、周囲が不自然に揺らめいているのを私も確認したからそれは間違いない」

 

「熱?炎じゃないんだな?」

 

「ん?そう聞いている。詳細までは分からんが……、そんなに重要な事か?」

 

「その二つなら大違いだよ。炎なら燃焼する物が必要になる。それを排除するなり何なり、対処するのは割と簡単なんだが、熱か。炎よりは厄介だな。

 その、熱を操るってのは高くするだけか?空気を冷却したりはどうなんだ」

 

「……すまない、詳しいことは本当に分からないのだ。ただ、王城を襲撃した時は一度もそれらしき現象は起きなかった」

 

 

 申し訳なさそうに謝るクレア。

 

 しょうがないとはいえ、情報不足は否めないな。結局今のじゃジャティスが何で一撃もらったのかも不明瞭だ。

 

 

「それについてだが、衛兵も、ジャティス王子からも同じ証言が得られている。

『動きは速すぎて一切見えなかったが、同じ技しか使って来なかった』そうだ」

 

「なんだそら」

 

 

 矛盾してるじゃねえか。動きは見えなかったのに何で同じ技だって言い張れるんだよ。

 しかもジャティスですら一切見えなかっただあ?あいつがそんな事言うのは初めてだな。俺の動きですら見えない、なんてことは無いはずだ。

 

 

「ヒノの強さに関しては分かっているのはこのくらいだ。これ以上のことはギルドの記録にも残ってはいない。

 ………どうだ?お前はこと戦闘に関する知識ならば王国内でも有数の識者だろう、何か分からないか?」

 

「お前は知力一桁の俺に何を期待してやがるんだよ。

 ………今の段階じゃ何とも言えない。けどそのヒノとかいう奴の使う武器に詳しそうな奴を知ってる。

 今の話を王城への襲撃について伏せて話しても良いか?一人……、いや、二人だな。俺以外に二人だ」

 

「む……。その二人は信用出来るのか?」

 

「一人は無条件で信頼してもいい。むしろ事件の全容を話すのも俺は構わないと思う。

 もう一人もバカではあるが、……ま、悪い奴じゃねえ。武器について聞くだけなら問題なんか起こらねえよ。多分こいつが一番詳しいしな。バカだけど。……………バカだけど」

 

 

 つーか武器渡した本人だし。

 

 しばらく額に手を当てて悩む素振りを見せるクレアだが、あいつらに聞かないと俺達がここで相談するだけじゃ詳細は一生分かんねえぞ。問いの形こそ取ったがこれは必須条件だ。

 

 

「いや、王国の懐刀としての癖のような物だ、気にしないでくれ。

 そこを伏せて話す分には構わない。流石に全容を明かすのはやめてほしい」

 

「うーす。そんじゃ、場所変えるか。

 ついでに飯でも食おうぜ。お前も忙しい身だ、まだ食ってないんだろ?」

 

「あ、ああ。それは良いが、どこに行くのだ?その詳しいという武器職はこの街にいるのか?」

 

 

 武器職ではないのだが、まあ今はそれで良いか。

 

 クリスに会ってさっき追い出したことを後悔するがいい。あいつがここにいればわざわざ移動する必要も無かったんだからな。

 

 

 

 

 


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