この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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66話

 

 

 

 ※

 

 

 クレアは一晩だけカズマの屋敷に泊めて、俺は一人で王都に向かう事にした。

 

 もちろんクレアは一緒に行くつもりだったようだが、連日の襲撃に加えて休まずにアクセルに来たからか、疲労が蓄積されているのが俺の目から見ても明らかだったし、途中で倒れられても困る。俺に迷惑をかけるつもりか、と無理矢理置いて来た。もちろん本心からの言葉だ。

 それに俺の場合は他人がいない方が速く動けるからな。疲れ切ったクレアとだと日を跨いでしまうだろうが、俺一人なら一時間あれば到着できる。今日の襲撃にも間に合うかもしれない。

 

 

「という訳でクレアは置いて来ましたけど、王城に入れてもらってもいいですかね?」

 

「はい、お待ちしておりましたゼロ様。そうですか……、いえ、クレア様のことはお気になさらないでください。

 私も彼女が無理をしているのではと心配していたので」

 

 

 辺りはもう暗くなるというのに、王城の正門までわざわざ来てレインが対応してくれる。

 

 周囲の人間に心配させるとはクレアもまだまだだね。そういうのは隠し通してなんぼだろう。もしくは無理をそもそもしないとかな。

 

 

「ジャティス………王子のお加減はいかがです?怪我をしたと聞きましたが」

 

「ふふ、私の前ではそんなに畏まらなくても構いませんよ。どうぞ普段通りの振る舞いをなさってください。

 王子のお怪我の方は特段重傷ということも無いのですが………、よろしければお会いになられますか?」

 

「……ん、悪いな。あいつから直接話も聞きたいし、頼む」

 

「ええ、ではこちらへどうぞ」

 

 

 なんということでしょう。

 

 あのヒステリッククレアさんがいないだけでこんなにスムーズに王城に入れるとは。

 あいつはもっと他人への対応を柔らかくするがいい。それだけで俺のあいつに対する受け答えもこの通りガラリと変わるのだから、双方にとっても都合が良いだろうに。

 

 いっその事クレアはずっとあっちに居てくれないか、と本人が聞いたらブチ切れそうな事を考えていると、ジャティスの部屋に案内してくれるレインが多少聞きにくそうに口ごもりながら、

 

 

「ところでゼロ様、その、アクセルではクレア様から何か大事なお話などありませんでしたか?今後に関わる重要な話なのですが……」

 

「……………大事な話ぃ?」

 

 

 ーーー何だろう?何かあったかしら。

 いや、もしかしてあれか。これが終わったら、とかいう迷惑千万なフラグ発言。あの事か。

 そんなに大切な話なのか?だったらさっさとすりゃいいのに。

 

 

「いや。まだされてないな。この件が終わったら改めて、ってだけは聞かされてるけどな。何についての話か知ってるのか?」

 

「いっ、いえ!クレア様がまだ話されていないのならば私から言う訳には!

 ただ、本当に真剣に考えていらっしゃるようなので、出来ればゼロ様も真剣に考えて下されば………!」

 

 

 いや、だからその真剣に考える時間が欲しいから早めに内容を知りたいって言ってんだけど。

 何なの?そんなに勿体振る事なの?プロポーズでもされちゃうの?

 

 

「もしそうならどのような答えを返されますか?」

 

「えっ、マジで?」

 

 

 普通に冗談で言ったのにそんな反応されると困惑しかしないんだが。

 

 ……………マジで?

 

 

「いえいえいえ!ちっ、違いますよ‼︎

 と申しますか、私も詳しくは知らないのです!もしそうならゼロ様がどうお答えになるのか気になりまして!興味本位ですのでお気になさらず!」

 

「だよな⁉︎驚かすなよ!」

 

 

 本当にされるのかと思ったじゃねえか、紛らわしいっつーの。まあ『もし』って言ってたし、勝手に勘違いしたのは俺だけどな。

 

 しかし、もしそうならねえ。クレアがアイリスLOVEな以上あり得ない仮定だが、これは悩ましいな。どう答えたもんか………。

 

 

 

「いかがです?貴族とそうでない方が結ばれる、というのも前例が無い訳ではありませんし、迷うのは仕方ないとは思いますが………」

 

「ああ?……あー、違う違う、俺が悩んでんのは受けるか受けないかじゃなくてどう断るかだよ。

 ………なあ、どう断ったらショック少なく済むと思う?」

 

「断るのは確定なんですか⁉︎」

 

 

 レインが仰け反りながら大袈裟に驚く。

 

 ったりめーだろすっとこどっこい。なんで俺があいつからプロポーズされてそれを受けなきゃいけねえんだよ。罰ゲームかなんかかな?

 

 

「つーかこんな会話してたのがバレたらそれこそあいつにサーベル投げられるぞ、この辺にしておこうぜ」

 

「ちょっ、とお待ちください!そ、その、一応理由を聞いてもよろしいでしょうか……?

 私が聞くのも変かもしれませんが、彼女、クレア様の何がご不満なのでしょう?

 とてもお綺麗ですし、王族との繋がりも強いシンフォニア家のご当主様ですよ?」

 

 

 でっていう。

 

 

「あいつじゃダメな理由は大きく二つあるが、そのどっちの理由も致命的過ぎてな。

 まず一つ、俺には好いてる相手がいる。

 二つ、そもそも俺はあいつが好きじゃない。終わり!閉廷‼︎」

 

「そんな身も蓋も無い!」

 

「身も蓋も無いもんだよ。俺も頭の中スイーツ入ってるからなあ。本当に好き合った相手とじゃなきゃ結婚なんてしたくない。

 クレアだってそうじゃないのかね。王族とのパイプとかを目当てに受けたらあいつに失礼だし、これでもお前の言う通り真剣に考えた結果なんだぜ?」

 

「それは……確かにそうかもしれませんが……」

 

「それよりジャティスの部屋どこよ。こんなに歩いたか?」

 

「え?………あ!もっ、申し訳ありません、さっきの角を右に曲がってすぐでした!」

 

「ここでドジっ子ぶっ込んで来るのかよ。やりますねぇ!」

 

 

 会話に夢中になるあまりに道を間違えてしまったようだ。

 

 まま、ええわ(寛容)。この程度のドジなら可愛げもあるってもんだ。笑えないドジってのは、貸したゲームのセーブデータを自分のに上書き保存されるような、そんな取り返しのつかない物の事を言うのだ。

 

 ………考えただけで吐き気がするほどの邪悪だな。

 

 

 

 ※

 

 

「やあ、久しぶりだねゼロ。君が今日来なければまた僕が出陣しようと思ってたんだけど、そうはならなそうだ。

 少し残念だけど、まあいいさ。君の戦闘が見られるなら収支はトントンってところかな」

 

「お前案外元気だね?多少なりとも心配とかしてたのが馬鹿みたいだよ」

 

 

 怪我をしたと聞いていたので、寝込んだりしているのかと思えば、ジャティスは聖剣の調子を確かめているところだった。どうも今夜あたりまた暴れるつもりだったようだ。

 そう簡単に参るような奴でもないとは分かってたけどな。

 

 見た様子だとどこに傷があるのかわかんないんだけど、何?仮病か何か?

 

 

「ああ、傷ならその日の内にレインに治してもらったよ。彼女、こう見えても回復魔法を得意としてるからね」

 

「私の数少ない取り柄がお役に立てて何よりです」

 

 

 ジャティスが褒めると、レインが照れ臭そうにはにかみながらお辞儀する。

 

 なーる、回復魔法ね、あれはいいもんだ。マジで傷一つ残らんからな。

 

 

「しかし、クレアから聞いた話だともっと重傷な印象だったんだがな」

 

 

 まさかあいつに俺を欺けるような演技力があったとは思わなんだ。結構深刻に受け取っちまったぞ。やるやんけ。

 

 

「ははは、それは素なんじゃないかな、クレアは大袈裟なところもあるし。結果として君が来てくれたんだから僕は何でもいいけどね」

 

「さよか。傷の具合からどんな攻撃して来るのか予測を立てようと思ったんだが、当てが外れたな」

 

「ん?それは多分問題無いよ。彼と対峙すればどんな攻撃かはすぐ分かる」

 

「ああ?そういや、見えないくらい速いのに同じ動きだってのは分かったとか何とか言ってたな。ありゃどういう意味よ」

 

 

 向かい合ってみれば分かるなら教えてくれても良さそうなものだが、ジャティスは静かに否定する。

 

 

「あんまり僕から情報を上げすぎると不公平だからね。ここは黙秘権を使わせてもらうよ。

 ただ一つだけ言えるのは、彼の剣を見れば動き方は分かるって事。ヒントは『最短最速』ってところかな」

 

 

 こいつは状況が分かっているのだろうか。国のピンチだってのに不公平もクソもあったもんじゃねえだろ。馬鹿にするんじゃねえわ。

 

 ふと、ジャティスが顔を引き締める。別に今まで緩んでたって訳ではないが。

 

 

「さて、ゼロ。今お父様はこの国にはいないんだ。だから、実質僕が国を任されている状態になる」

 

「そうなの?」

 

 

 クレア言い忘れ酷くない?そんな事初めて聞いたんだけど。

 

 

「うん。それで、お父様が留守の間に王国を守れなかった、なんてバレたら僕の命が危ういんだよね。もちろん国も。

 今回に関しては王国側が全面的に君をバックアップするから、必要な物があったら何でも言ってくれていい。文字通り何でも用意させるからさ」

 

「お前国よりも自分の身が心配とか正気かよ。王子辞めたら?」

 

 

 真面目な顔して何言ってんのこいつ?

 

 なんてこった、しばらく見ない内に友人がマジキチにジョブチェンジしていた。この場合の対処は知恵袋さんに聞けば教えてくれるのかな?

 

 

「はい、じゃあ早速、相手がどんな攻撃してきたのかの解答を要求します」

 

「残念だけど、僕は必要な『物』って限定したんだよね。つまりゼロの要求は却下されます」

 

「小賢しっ‼︎」

 

 

 こいついつの間にこんなずる賢くなったんだよ。誰の影響だ。

 

 

「誰の影響かって聞かれたら、まず候補に挙がるのは君なんだけどね」

 

「ひでえ言い掛かりだ………」

 

 

 俺はここまで酷くない………、と思ったけど割とどっこいどっこいかもしれんな。ちょっと普段の行いを見直す必要が出て来た。

 

 …………ふむ、必要な物って言ったってな。

 

 

「……なあ、もう暗くなってんだけど、その賊はだいたいどのくらいの時間帯に来るんだ?

 普段そいつがどこに潜んでいるのかも分かってたら教えてくれ。それともこれも黙秘権か?」

 

「それは隠す事でも無いから良いよ。彼が来るのはだいたい日付が変わる頃だね。だから……あと数時間ほどかな。

 一応居場所も突き止めてはあるけど、多分こっちが突き止めてる事は向こうにもバレてると考えた方がいいかもね。その上で移動する気配も無いんだから、全く大した自信だよ。

 あ彼は夜になるまでは王都の外れにある廃虚を根城にしてる。人は寄り付かないから、隠れ家としては良い立地だと言えるよね」

 

 

 ジャティスが呆れた様に首を振るが、自信満々なのは当たり前だろうよ。実際に勝てる奴がいないんだから、場所がバレようが知ったこっちゃ無いんだろう。

 突入して来たら斬る、くらいの心持ちでいるに違いない。

 

 あと数時間…………。ま、そんだけありゃ充分かね。

 

 

「そんじゃ、今度こそ必要な『物』だ。酒を数本用意してくれ。そんなに高価でも、強い酒じゃなくてもいい」

 

「…………お酒?まさか君が飲むんじゃないだろうね?」

 

 

 俺の口から『酒』と出た瞬間にジャティスが顔を引き攣らせ、レインが部屋の出口にそっと歩み寄る。

 

 ………うん。ここまであからさまだと流石に解る。俺は酒癖が悪いんだろ?しかも暴れる方向に。

 

 言い訳させてもらうと、俺は本当に記憶が無いのだ。暴れたかどうかなんて分からないし、『君が酔ってる間にやった』と言われてもピンと来ない。

 だが、これだけ周囲が注意して来るんだから察しもするさね。

 

 

「安心しろよ、もちろん酒は飲むがお前らには迷惑かけないさ」

 

「飲むのに迷惑かけないってどういう事⁉︎君と酒併せたら王城の崩壊だよ!賊よりタチが悪い!」

 

「ゼロ様、冒険者稼業で大変なのはお察し致しますが、お酒に逃げられるのはまだ早いかと……!せめて部屋を移してからに………」

 

 

 落ち着くがいい。なぜそうも早とちりするのだ、誰も今ここで飲むなんて言ってないだろうに。

 

 

「だから、今から暴れても良い場所に行くんだよ。人の家アポ無しで訪問するのに手土産無しじゃ失礼だろ?」

 

「………?ゼロが何を言ってるのかいまいち理解出来ないんだけど?」

 

 

 レインとジャティスが首を傾げる。

 

 ありゃ、ここまで言っても分からんか。そんな変な事は言ってないと思うんだがな。

 

 

「ほら、廃虚ってこたあ壊しても特に問題無いだろうし、直接会って来ようかと思ってな。運が良きゃ今日の襲撃はおじゃんになるぜ」

 

 

「………ゼロ、まさか直接会うって……」

 

 

 気付くのが遅い。そして、お前が思い付いたそのまさかで多分合ってる。

 

 

「ああ。ちょっと王都を騒がせてる有名人さんと酒でも飲もうと思ってな」

 

「前から思ってたけどあれだよね、ゼロって結構馬鹿だよね」

 

 「馬さんと鹿さんに謝れ」

 

 

 

 

 ※

 

 

「ここがその男のハウスね」

 

 

 王都の外れ。廃虚というよりは廃教会か。元は教会だったように見て取れる。麻婆がいそう、と言えば知る人は分かるかもしれない。あれは別に廃教会ではなかったけど。

 

 ジャティスの話によるとここにヒノは潜伏しているはずだ。

 ジャティスは誰か俺の供に付かせるつもりだったようだが、正直足手纏いにしかならない衛兵など居ない方がマシ、と突っ撥ねたため、俺は一人寂しく夜道を歩いてここまで来たのだ。

 

 

「すみませーん!ヒノさんはいらっしゃいますかー?」

 

 

 ドアを叩きながら中に向けて呼び掛ける。当然ではあるが、返事の類はない。

 

 

「流石に出ては来ないか」

 

 

 もし彼が『はいはーい、どちら様ですかー?』ってな感じで出て来たら面白かったんだがなぁ。そんな事は無かった。

 

 苦笑しながら教会のドアを開けると。

 

 

「蒸し暑っ⁉︎」

 

 

 凄まじい熱波が中から勢い良く流れ出て来た。暑い、というかもはや熱い。これは多分イフリートの能力か?

 役に立たないとは言ったが、これ案外キツそうだな。そもそもなんでわざわざ中の気温を高くしているのだろう。理由が知りたいものだ。

 

 火傷するほどではないが、とてもこのまま中に入る気になれない。こんなところに入ったら間違いなく俺が手に持っている酒類は全滅してしまうだろう。それはいただけない。

 盗まれる可能性も考慮したが、酒瓶を中に入れた包みを入り口の横に置き、意を決して一歩、足を踏み入れた。

 

 中に光源は無いようだが、元が教会だけあって正面に大きく張られたガラスが月明かりを内部に取り込んで、それなりに明るくなっている。

 これだけ気温が高いのにガラスが無事なのは少し違和感があるが、百度程度ではそうでも無いのだろうか。

 

 そのガラスの真下。何者かが座っているのが視認できた。何者といってもここに居るだろう人物など一人しかいまい。

 

 

「あ、どうも初めまして。俺はーーー」

 

「あんたが誰かなんて興味ない。ここに迷い込んだ一般人なら今すぐ消えろ。一度だけ見逃してやる。

 俺を殺しに来た刺客なら早く剣を抜け。その数秒後があんたの終わりだ」

 

 

 挨拶を途中で遮るとはスゴイ、シツレイな奴だ。

 

 何やらイタい口上を垂れてきたが、そのどちらでも無い場合はどうすれば良いのだろうか。

 

 というかその前に一つだけ確認したいな。

 

 

「こんなところにずっといて暑くないんですか?俺はちょっと、ここに長時間いるのは耐えられないですがね」

 

「……………」

 

 

 不思議そうに目を向けて来る。

 

 まさかごく普通の世間話が飛んで来るとは思わなかったのだろう。この状況なら俺だってそう思う。もっとも俺は世間話のつもりなんか無い。これでも探りを入れているのだ。

 

 

「……その質問に答える義理も必要も無いが、敢えて答えさせてもらおう。……めっちゃ暑い」

 

「………えっ、じゃあなんで気温高くしてるんです?」

 

 

 てっきり自分の能力の影響を受けないタイプだと思いきや、そうではないらしい。

 

 じゃあマジでなんでこんなに気温上げてんの?

 

 

 

「…………なんでって、誰かが入って来た時にその方が雰囲気が出てかっこいいだろう?」

 

「なるほど、さてはあなた紅魔族かなんかですね‼︎」

 

 

 ヤバい、国を脅かす大犯罪者がただの馬鹿だった。

 

 どう考えても紅魔族では無さそうだが、感性が紅魔族のそれだ。

 言っとくけどかっこよくも何ともないからな。雰囲気の方は否定しないが。

 

 

 

 

 

 

 


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