この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







68話

 

 

 

 ※

 

 

 カガミがどこからか蝋燭を数本取り出して壊れかけた燭台に立てていき、その間に俺が壊した椅子を隅に追いやり、床を多少掃除していく。

 こうしていると廃教会の掃除を請け負ったボランティアの学生のような光景だが、生憎とこの二人、敵同士である。

 

 

「へえ?じゃあカガミさんも転生者の父親……、この場合はヒノさんですか。から神器を受け継いだんですね」

 

 

 なんと、カガミも俺と同様に転生者を父親に持つと言う。『アトミックファイヤーブレード』はヒノが付けた名前なんだそうだ。

 なるほどね。どんな関係、どんな関係と気にする前にヒノの家族関係を調べるべきだったな。俺パターンもあり得ることを失念していた。流石に俺のように前世が日本人という事はないようだが。

 もし仮にそんなことがあったら今度こそアクアシスベシフォーウである。カガミとの夢の共闘をお披露目させていただこう。二人に勝てるわけないだろ。

 

 

「俺もって事は、あんたもそうなのか。凄い偶然だな、その剣がそうなんだろう、どんな能力持ってるんだ?

 俺の能力は知られてるみたいだし、そっちも教えてくれなきゃフェアじゃないんじゃないか?」

 

 

 カガミが試すような口ぶりで顎をしゃくってくる。

 別に教えるのは構わんよ。何せ俺の方は『ただひたすらに硬い』っつー知ったところでどうこう出来る能力でもないし。正直ショボいからな。

 

 

「………硬いだけ?こう、俺みたいに熱を操ったり、なんか出したりは出来ないのか?」

 

 

 そう言いながらイフリートで陽炎を出して見せるカガミ。その刀身は先の尖った細い円錐状……俗に『レイピア』と呼ばれる形状をしていた。

 相手を傷付ける事が出来るのが先端しか無いのだから突き技なのは当たり前である。ジャティスが見れば分かると言うのもやっと得心がいったが、これくらい教えてくれても良さそうなものだ。あのけちんぼめ。

 

 イフリートの熱操作の能力は冷ます方向に操作は出来ない代わりに熱する方向には一瞬で変化させられるようだ。しかも範囲は最高で街一つ覆えるとか何とか。

 お前それ、王都の中心で発動するだけで目的果たせるんじゃないの?いや、どんな目的か知んないけどさ。王城を襲撃するよりはそっちの方が効率良いだろ。

 

 

「あんたよくそんな恐ろしい事思いつくな。そっちこそ悪魔なんじゃないか?そんな事したら何の関係も無い一般人まで巻き込んじまうだろう。

 ……よし、そこそこ片付いたかな。とりあえず適当に座れよ。所々まだ熱いだろうけど勘弁してくれ。

 さっきの話だが、俺が頼まれたのは国王を殺すことだけだ。それ以外ではなるべく殺しはしたくないな。それは最後の手段にしておくよ」

 

「へえ」

 

 

 そういえば聞いたのは怪我人の話ばかりで死人が出たとは言われなかったな。考えてみればおかしな話だ。こいつほどの強さがあれば一撃で命を刈り取るなど造作も無いだろうに、そういう主義を掲げているらしい。

 

 勧められるがままに壊れていない椅子を選んで座る。確かに熱いが、精々真夏に熱されたアスファルト程度だろう。それでも普通なら火傷は必至だが。ちなみにカガミは暑い暑いと言いながらも汗一つ掻いていない。氷結魔法は最初の一回しか使っていない筈だけどな。不思議だ。

 

 話してみて分かったがこいつは基本的に悪いやつではない。他人を気にかける事も出来るごく一般的な善人だ。

 とすると、問題は暗殺されそうになる国王様にあるのかもしれない。それなら止める事には変わらないが国王様と何とか話を付けて謝罪させる事はできるかもな。

 

 

「あんたが優しいのは分かったが、俺の話聞いてたか?俺は頼まれただけだぞ。あの方がどんな理由で依頼して来たのかは知らないが、まあどうでもいい事だ」

 

「…………頼まれた?一体誰に」

 

「セレナ様だよ、凄腕のアークプリースト。美人だし、性格もそれはもう天使みたいだし、あと美人だし。あんたも冒険者なら世話になったことがあるんじゃないか?」

 

「………ふむ。いえ、残念ながら初耳ですね」

 

 

 アークプリーストのセレナ。……聞いたことがないな。そんなに腕が良いならそれなり以上に名が売れているだろう。俺の耳にだって入っても良さそうなもんだ。

 大体何でアークプリーストが国王抹殺を企てるんだよ。混乱してきたぞう。

 

 

「えっと、その……セレナさん?とはどのように知り合って……」

 

「様を付けろよデコ助野郎」

 

「……チッ。セレナ様とはどのように知り合ったんで?頼まれただけで国家転覆を実行するなんて相当な恩義でもあるんでしょうが、いくら何でももう少し考えて行動した方がよろしいかと」

 

 

 今のでキレなかった俺は偉い。自分で自分を褒めてやりたい。まさか敬称付けてなお様付けを強要されるとは思わなんだ。これには金田さんも苦笑いするだろう。

 

 どうもこいつの地雷はそのセレナにありそうだな。あれか?俺とエリスみたいなもんかね。

 もっともエリスはそんな事は頼んで来ないし、俺だって人殺せとか言われてじゃあ殺りましょう!とはならない。納得出来るだけの理由があれば殺るかもしれない、程度だ。

 俺はエリスに惚れてはいるが、別に言う事全肯定という訳ではないのだ。それはもう奴隷と変わらない。俺が目指すのはあくまで対等な夫婦関係なのである。無理のない範囲での犯罪くらいなら犯してやるが。………泥棒とかな。

 

 

「セレナ様とお会いしたのは去年の今頃だったかな。俺が道を歩いてたら、往来のど真ん中に罠が仕掛けられててなあ。まるでピンポイントで俺を狙ったような罠だった。今思い出しても腹が立つ……ああ、悪い。

 その時は辛うじて反応出来たものの膝にかすり傷を負っちまって、そこを偶然通りかかったセレナ様に治していただいたんだよ。あれは本当に測った様なタイミングだったな。美しい方には女神の加護が付いてるってのを初めて目の当たりにしたね。

 それからちょくちょく頼み事をされるようになってな、俺もその恩義に報いるために色々無茶したもんだ。腕利きの冒険者のリストを集めたり、セレナ様以外のアークプリーストに治して貰おうとしてた冒険者をセレナ様の所へ引っ張っていったり。今回みたいに誰かを殺せって言われたのは無かったけど。

 セレナ様は毎回理由を話してはくれないんだが、女性には秘密が有った方が良いって言うし、詮索はしないようにしてるんだ」

 

「………はぁ」

 

 

 頭痛がしてきて思わず額を手で押さえてしまう。

 

 突っ込みどころ多過ぎるだろ。まず、その罠とやらは状況から考えてセレナが仕掛けた可能性があるし、傷にも程度があるが、膝に矢を受けたならともかくかすり傷と言っている。それをわざわざ魔法で治して貰うのもどうかと思うし、それを恩義に感じるのは構わないが、頼まれ事の内容が明らかに恩義に見合っていない。

 高々自然治癒するレベルの傷を治してもらっただけで国王抹殺とかどうなの?しかも理由すら聞いてないだあ?不自然にもほどがあらあ。こいつのオツムが相当に弱いか、さもなきゃセレナに何かされたんじゃないかね。そんな魔法があるなんて聞いた事は無いが、世の中には公表されない魔法だってある。

 その場に俺が居なかった以上は仮説でしかないから迂闊に口には出せないけど事情を聞くとあまりにもあまりだ。

 

 もしかして俺はとんでもなく面倒な依頼を引き受けてしまったんじゃないだろうか。ここに来てバックに新キャラとか勘弁してくだせえよ旦那ぁ。目の前の敵を倒せば即解決って聞いたから受けたの!

 その、黒幕とか探すのはジャティスに任せちゃ駄目かな。そこまで俺に期待されてもほんと困る。

 俺にポンポンと自分の経緯を曝露しまくる頭の悪いカガミでも流石にそいつに会わせてはくれないだろうしな。

 

 …………そもそもこいつはどうなんだろう。

 

 

「ええ、まあカガミさんがそれで良いなら俺が文句言うのは筋違いかもしれませんが………、今の境遇に不自然さとか感じないんですか?

 何のためにそんなに強くなったのかは知りませんが、少なくともこうして国に反旗を翻すためでは無いでしょうに」

 

 

 そう、元はそれが知りたくて危険を冒してまでこいつに会いに来たのだ。幸いにも話が分かる奴だったからこうしていられるが、もっとバーサーカー的な奴だったら今頃はあの世で日向ぼっこしていたかもしれない。これ以上情報は絞れなそうだから最後に聞かせてもらって、あとはくだらない話を酒飲みながらする会にさせていただこう。

 

 

「ああ?何を目標にして鍛えてきたか、か?

 …………ん〜、確か困ってる人を助けたい、とかだった気がするが、どうでもいいじゃないかそんなこと」

 

「………………」

 

「俺は今の環境が結構気に入ってるからな。それに惚れた女に尽くせるってのは幸せな事だと思わないか?自分が幸せならもうそれで良いやってな。そのためなら国王ぐらい殺してみせるさ」

 

 

 照れ臭そうにそう言うカガミは、確かに幸せそうではあった。それが本当に俺の推測通りに植え付けられた物だとしても、本人が気付かなければそれは本物と言っても良いのかもしれない。

 あ、ちなみに国王は今この国に居ないのでどう足掻いてもカガミの依頼が達成される事はありません。こいつ下調べとかはしない派なんだろうか。正しく知らぬが仏だ。

 

 

「……惚れた女に尽くすのが良いって、惚れた女とは普通対等に居たいものじゃないですか?俺はそっち派ですがね。

 あ、これ、つまらない酒ですが。今日は良いとしても明日はまた敵同士です。けどまあ、今はお互い戦う事とかは忘れてとりあえず乾杯といきましょう」

 

「お、そういやそんな話だったな。謙遜なんかしなくても王族からの酒だ、つまらないなんてことは……ってなんだ、本当に安酒だな。

 それはそうと分かってないな。対等な関係なんて友達同士でだって成り立つだろう。そこは区別しないとだろ?ここは人生の先輩としてあんたに教えてやらないとダメか。そもそもだなーーー」

 

 

 普段話す機会が無いのか、自分の人生観やら何やら、全く関係ない話を嬉々として話し出すカガミ。こんなところでも酒の席での先輩の一人語りにぶつかるとは。これはどこの世界だろうと共通で存在する文化らしい。良い事か悪い事かは人によるとしか言えんがね。

 まあこちらから誘った手前、相手が飽きるまで付き合ってやるのが道理ではあるので適当に相槌打っておくとしよう。なるほど。凄いな。悪いのは、君じゃない。

 

 

「ーーーとか言うんだぜ⁉︎お前らが言うなって話だよなぁ!………おっと、俺ばっかり飲んじまって悪いな。ほら、『フリーズ』っと。これで良いか?あんたも飲めよ」

 

「うっ……‼︎キ、キンッキンに冷えてやがる……‼︎あ、ありがてぇええ……‼︎」

 

「お、おう……。そんなにか………。でさー、俺がセレナ様にこの話したらさーーー」

 

 

 楽しそうに、幸せそうにセレナの話をする目の前の青年には気の毒だが、彼が今後セレナに会うことは二度と無い。

 

 彼が頼まれたという内容が内容だ。止める以外の選択肢が無いし、何より今の話は俺が気に入らない。

『困っている人を助ける』。こいつは俺と同じ目標を持って強くなったはずなのだ。それがどうでもいい訳ないだろう。優先順位が変わる事はあってもそれが本当に掲げた目標ならば口が裂けてもそんな言葉は出て来ない筈だ。

 もちろんこいつがそれほどいい加減な性格をしているなら別だが、そんな奴は強くなるための修練など長続きしないと相場が決まっている。

 

 こいつにこんな言葉を吐かせた奴を許せない。他ならぬこの俺が叩き潰してやる。

 

 

「でな、俺はそこで言ってやったんだよ。『胸の大きさで価値を決めるなんて言語道断だ。あんたらは何も分かっちゃいない』ってな!」

 

「よくぞ言ってくれました!そうなんですよ、分かってない人が多過ぎるんですよね‼︎」

 

 

 

 飲む先から酒を注ぎ足していくカガミと、それをまた飲んでいく俺。

 まあそれはそれとして今はそれなりに楽しい時間を過ごさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 


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