再投稿。
※
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・あの」
「何も言わないでくれえっ!」
顔を両手で覆って滂沱する俺。
目の前には気まずそうなエリスがいる。
ここに来るのは2度目、いや、3度目になるのか。
なんと、前回から1週間と少ししか経っていない。恐るべきハイペースである。
「わ、私は気にしていませんから。その、少し驚いてしまっただけで…」
「グ、ウ…ウ…」
エリスの顔もほんのり赤いが、俺の顔などもはや羞恥によって噴火しそうな程に熱されている。
あろうことか俺はここに来た瞬間に涙を滝のように流しながらエリスに抱き付いてしまったのだ。
だってしょうがないだろう⁉︎3日もの間平原中をあの醜悪なクソ化け物達とサーチアンドデストロイならぬデストロイアンドデストロイを繰り広げていたんだぞ⁉︎
そしてボロボロになった体でようやく辿り着いた人里でいとも容易く行われるえげつない行為…そして満を辞しての女神降臨である。これはもう誰だってそうなるさ!
いやもうほんと癒やされるわ〜、初恋とか度外視で心に負った傷が癒えるわ〜、今日寝れるわ〜。
「大体なんなんだよこの世界⁉︎なんで俺はなにかに遭遇する度に死にかけてんの⁉︎冒険者の先輩方はどうやって生き延びてんのさ!」
遂に世界に対してキレ始める俺。どうしようもない。そこら辺の酔っ払いと同義である。
しかし、俺の正当性も主張させて欲しい。
好きな女の子に「俺を見ててくれ(キリッ)」とかいった1週間後にあの無様を晒してみるがいい。多感なお年頃ならそれだけで自殺ものだろう。
「いえ、他の方はここまで人生ハードモードではありませんよ?ただ、ゼロさんの運と巡り合わせが悪かったとしか…」
ゼロだけに俺の運もゼロってか?
「…?…!ふふっ!」
「笑い事じゃねえ‼︎」
可愛いけど!
「あっ…ふふっ…す、すみません…ちょっと不意を突かれまして…」
くそっ、かわいいなこいつ…
このレベルで笑うってことは親父ギャグに耐性が無いのだろうか。
気勢を削がれた俺は今回も聞きたいことを聞くことにした。
「あのクソ豚共はどうなった?」
「ゼロさんが全体の4分の3ほど屠殺した時点で紅魔族の領域に入ったので撤退して行きましたよ。」
そうか…そのまま絶滅してくれたら助かるのだが。
「ちなみに…俺のこと、見てた?」
「……みてませんよ?」
見ていたらしい。誰か殺してくれないかな…いや、殺されかけたからここにいるのか。
「…それで?今回の俺の死因は?なんかトドメ刺されたのは覚えてるけど。」
「死因って…。まだ辛うじて生きてますよ…。えっと、紅魔の里ってアークウィザードがいっぱいいるんですよ。」
というかアークウィザードしかいないって聞いたけど。
「ええ、それで、上級魔法を覚えたけど里の外には出たくないって人達が魔王軍遊撃隊っていうのを結成してるんですね?」
ふむふむ。
つまり働きたくないけど何もしてないとは思われたくない意識高い系のニートどもか。
タチ悪いな…
「い、言い方は悪いですが概ねその認識で良いです。で、その遊撃隊の1人がゼロさんの姿を見て…モンスターか何かだと勘違いしてしまったようで…」
なるほどね。まあ結構エグい格好だったからな。カラ回りだとしてもその気持ちが自分の里を守ろうとするものなら、うん、許してやらんでもない。
「で?あの黒い雷は?あいつが撃ったんだろ?」
「あれは上級魔法の一つ、『カースド・ライトニング』です。こう、右手をズバーッて振って撃つんですよ。」
ワンモア。
「えっ」
ワンモアプリーズ。
「あ、あの、こう…ズバーッて…」
ワンモアプリーズ。
「ず、ずばー…」
ワンモアプリーズ。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
顔を真っ赤にしてポカポカ殴ってくる。
やべえ、顔にやける…
うん、よし。
「じゃあ俺は行くよ。」
「あっ、ちょっと!もう!急になんですか!」
いや、もう十分癒やされたし…
「エリスに会って元気も出たしな。」
「…そうですか。」
不服そうにしながらも照れるエリスを目に焼き付ける。
これでしばらくは大丈夫だ。まあもう一回オーク掃討とかは御免被るがね。
※
「あ、起きたかい⁉︎」
目を開けた瞬間に野郎の顔が見える。
エリスとえらい落差だな。豚よりはマシだが。
体を起こす。うん、五体満足。疲れも無いな。
「ここは紅魔の里で間違いないですか?」
「ああ。昨晩はうちの倅が悪かったね。なにしろ血塗れだったからな、変な生物が紛れ込んだと勘違いしたみたいなんだよ。」
まあその件はもう整理したし、蒸し返すのも良くない。
と、何を思ったのかおっさんは、右手を左腰に当て、左手で顔を隠しーー
「我が名はむんむん!アークウィザードにして、紅魔の里一番の鍛冶屋を営む者!」
そう宣ってきた。
…………あ?
何だ?喧嘩売ってんのか?
それともやっぱり申し訳無いから好きなだけ気を晴らしてくれという配慮なのだろうか。
ようし、ご厚意に甘えようじゃないか。
息子の責任をとろうだなんて立派な父親だ。
峰打ちだからヘーキヘーキ、と両刃剣であるデュランダルを引き抜く。
「うぁ⁉︎ちょっと、たんまたんま!紅魔族の挨拶だよ!まったく…外の人はノリが悪いなあ。」
そんな挨拶があるわけないだろ!いい加減にしろ!
「本当だって!嘘だと思うならこの里を周ってみるといい!」
…そういわれては何も言えない。
アイサツはダイジ。コジキにもそう書いてある。
俺は絶対嫌だけど。
「それはそうと鍛冶屋なんですよね?これ使って動きを阻害しないアイテムとか作れます?」
そう言いながら先日剥ぎ取った素材を広げる。
これを守りきった俺を誰か褒めてくれよ…
「へえ!随分上等なドラゴンの爪だね!うーん、それならマントとかはどうだろう、軽いし、暖かいし、火にも強いよ!」
ほう、それは良い。
しかし爪や牙をどうやってマントに加工するのだろうか。
やはり秘伝の技とかがあるのだろうか。さすが紅魔族随一の鍛冶屋だ。言うだけの事はある。
「まあ里にはウチしか鍛冶屋無いんだけどね。」
ぶち殺すぞこの野郎。俺の感心を返せ。
「でも、加工するのに特殊な魔道具を使うから結構な値段するよ?大丈夫かい?」
む、金か。
どいつもこいつも金金金…金がそんなに大事ならお金と結婚すればいいでしょ‼︎
…正直当てがまったく無いな…
どうにかしてサービスしてくれまいか…
「魔王軍だ!魔王軍が来たぞ!」
代金の事を考えていると、外から警鐘とともに声がきこえてきた。
…魔王軍?
魔王軍ってよく来るんですか?
「ああ、最近はめっきり増えたねぇ。シルビアとかいう幹部が率いているんだが、追い詰めようとするとすぐ逃げちまうし、それなのに懲りずに何度も攻めてくるんだ。強くは無いから良いんだけど安眠妨害もいいとこだよねぇ」
そういえばアークウィザードしかいないんだったな。なぜこんな攻めにくいところを攻めるのか。ひょっとして魔王はバカなんじゃなかろうか。
では、そいつを仕留めたら代金をサービスしてもらえますか?
「そんな事しなくても懸賞金が懸かってるからこれぐらいならお釣りが来るよ」
これは善いことを聞いた。里の皆に今日は誰も迎撃しなくていいと伝えてもらえますかね。
「それは良いけど、なに、まさか兄さん1人でやる気かい?雑魚ばかりだけど数は無駄にいるから大変だよ?」
「ご心配無く。数が多い?ハハハ、別に捕まっても殺されるだけでしょう。死んだ方がマシな思いはせずに済みます。」
偶然にもここ最近で多対一の状況は見飽きている。乾いた笑いをあげながら里の入り口へ向かう俺だった。