この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







73話

 

 

 

 ※

 

 

『アースシェイカー』。その名前はもちろんカガミも知っている。

 魔法を使う人間で知らない者はいないのではないかというほどに誰でも覚えられる魔法だ。

 何故かというとこの魔法、どうまかり間違ったか上級魔法のセットの中に入っているのだ。

 つまり上級魔法という括りで習得すると『カースド・ライトニング』や『セイクリッド・クリエイトウォーター』等のいかにもな名前の魔法と一緒くたに覚えられてしまうのである。

 上級魔法セットを習得する人間は多い。必然的にこの魔法も使える者は多いはずなのだが、しかし昨今ではこの魔法、使う人間どころか名前すらまず耳にする事は無いであろう。

 その理由はたった一つ。使えない(・・・・・)からである。

 というか使う理由が無い。使い道が無い。誰も使いたがらないのだ。

 この魔法の効果は『一定範囲の地面を揺さぶる』。既にある言葉で言えば地震を発生させることが出来るというもの。

 これが一体何の役に立つと言うのか。

 例えば戦闘中に発動したとしよう。なるほど、相手の気を引くくらいならば可能かもしれない。

 

 うん。でもそれって他の魔法でも出来るよね?他の魔法使った方が早いよね?それよりももし味方がいたら味方の邪魔なんですけど。

 

 こういうことだ。

 この魔法を開発した人間が何に使うつもりで一般公開したのかはもう誰にも分からないが、取り敢えず大多数の人には一切有り難がられてはいない。

 むしろ『上級魔法を習得したらなんか付いてきた変な魔法』扱いされる始末だ。

 可哀想に思う気持ちもあるが、正直擁護のしようが無い。使えない物は使えないのである。

 世の中には爆裂魔法というネタ魔法がある。

 爆裂魔法はそのバカ威力とバカみたいに魔力を食うということでネタにはされているが、逆に言えばネタには出来るというある種の利点がある。

 しかし『アースシェイカー』、地震魔法とでも呼ぼうか。これにはそんな利点すらも存在しない。

 パーティ内で使用すれば不和が生じ、誰もその存在意義を見出すことが出来ない。ネタにすらされない悲しい魔法なのだ。

 

 余談ではあるが、この魔法の存在を知ったゼロが『地中にいるモンスターおびき出すのに使えるじゃん。一回試してみようぜ』と、上級魔法を覚えたての頭のおかしくない方の紅魔族を連れて森の中心で使ったご様子。

 その結果、目当ての地中生息型のモンスターはおろか森中のモンスターから総スカンを喰らったさびしんぼ娘が激怒してしまったため、封印指定を受けたようだ。

 普段怒らない人が怒ると目に見えない圧があって非常に怖かった、とは本人の談。結局使い所さんは今日も今日とて蒸発中のままである。

 

 ゼロがそんな影の薄い魔法をなぜ今使う必要があったのか。

 そんな疑問は当然として一応警戒しておくに越した事は無い、とその場で一時停止し揺れが収まるまで待つ事にしたカガミは決して間違っていない。

 カガミは知らなかっただけだ。地震という現象が今この場で起きる事の意味を。

 

 

「なんっ……⁉︎なんだこりゃ⁉︎」

 

 

 唐突に地面の底が抜けたようにカガミの体が肩まで沈み込んだ。完全に地面が液体のように変化してしまっている。

 起きた事はそれだけだが、分からないのは理由だ。何故こんなことが起きる?

 事象としては先程ゼロが使ってきた『ボトムレス・スワンプ』に酷似しているが、範囲が桁違いだ。

 既に収まろうとしている地震の余波で大地が波打っている………つまり、見渡す限りの地面が全て沼のようになってしまったという事だ。こんな規模の泥沼魔法など、伝説のアークウィザードである『氷の魔女』でも使えはしまい。どんな手品を使ったというのか。

 しかもそれだけではない。これに関しては自業自得の面もあるが、直前までイフリートの高温操作を全開にしていたせいでカガミの周囲の泥だけが水分を蒸発させ、土に戻りつつある。

 カガミはイフリートの能力によって破格の戦闘能力を誇るが、それ以外では一般の冒険者とさほどの違いは無い。

 そんな人間が肩まで地面に埋められてすぐさま抜け出せるはずもなく。

 

 

「ぐぬっ⁉︎くっ、そっ、動けんっ‼︎」

 

「ぶはははははは‼︎おいおい、この光景『シャンハイ○イト』で見たぞ⁉︎

 ………ん?『シャンハ○ヌーン』の方だったか?……ま、いいか。

 そこから口に咥えた箸使って自力で脱出するんですね、是非頑張って下さい‼︎応援してますから‼︎」

 

 

 地震を起こす前に使っていたスクロールの効果か、泥沼と化した道をアメンボのようにツーッと滑ってきたゼロが首だけが地面から生えたような状態になったカガミの周囲をクルクルと回りながら煽っていく。

 カガミがいくら歯軋りしようとも両腕ごと埋まってしまっては何の抵抗も出来ない。

 

 そんな有頂天のゼロを冷ややかな目で見る美少女が一人。

 

 

「うーわー、ゼロさん引くわー。自分で罠に嵌めといて爆笑とかカズマ並の外道じゃない。

 ギルドのお姉さんや皆、あとクリスにも言っときますね」

 

「残念でした!クリスは大体俺がこんなんだって知ってますぅ〜〜〜‼︎

 フハハハハハハ…………ちょい待ち、なんでお前こっちに来てんの?つかなんで水に浮いてんの?俺は『フロート』使ったからなんだけど」

 

「ゼロこそ何言ってるの?その程度の魔法私だって使えるし、使わなくたって水の上くらい歩けるわよ。私が何を司る女神だと思ってるの?」

 

「マジかよ水の女神最高だな。アクシズ教入信します」

 

「ほんと?」

 

「嘘に決まってんだろバカ。アクシズ教は滅びろ」

 

「………!………!」

 

「それでカガミよ、流石にそっから打つ手なんかねえだろ?大丈夫だって、ちょっとジッとしててくれりゃそれで良いから」

 

 

 よく分からない会話の後、激昂したアクアがゼロに掴みかかるが、まるで意に介さずカガミに話し掛けてくる。

 

 

「名付けるなら『擬似・液状化現象(ボトムレス・スワンプ)』ってとこか。

 効果は据え置き、範囲はおまけしてありますがいかがです?一言『参りました』で種明かししてやるが」

 

 

 正直気にはなる。なるが、カガミはこんなところで終わる訳にはいかない。

 一層這い出ようと暴れながらゼロを睨み付け、唾を吐きかける。

 

 

「ふざけるな、ここから出せ‼︎俺はあの人から頼まれた事を、国王を殺さなきゃいけないんだよ‼︎」

 

「………ふーん、あっそ。別に良いけどな。それでアクア、いるなら丁度良いや。こいつから何か感じたりしないか?こう、なんか魔法がかかってる雰囲気とかさ」

 

 

 元より期待などしていないのか、あっさりと降伏を迫るのを止めてゼロの首を絞めながらガクガクと揺さぶるアクアに聞く。

 アクアも素の腕力ではどうにもならないとばかりに自分に支援魔法をかける手を止めて訝しげにカガミを見遣ると。

 

 

「…………?スン、スン………。特に何も感じないわよ。

 少し変わった気配がするけど、それだけね」

 

 

 しばらく鼻をヒクつかせ、すぐにそう言う。

 

 

「あれ?マジか、予想が外れたな………。

 すまん、効果が無くても良いから一回だけ解除魔法かけてもらって良いか?

 何か欲しい物があったら俺が口利きしてやるから、その代わりにさ」

 

「じゃあ私『魔王殺し』が欲しい。何度ねだってもカズマさんたら買ってくれないんだもの」

 

「当たり前だろ、いくらすると思ってんだよあの酒………。

 まあ、分かったよ。ジャティスに用意させるか、ダメなら自腹切って買ってやらあ。その分とびきり強いのを頼むぜ」

 

「しょうがないわね………、そーんなに言うんならやってあげなくもないわ‼︎『セイクリッド』ーーー」

 

「ぶち殺してやる‼︎ガ、グ、グゥゥゥゥ‼︎」

 

「ひっ⁉︎」「あぁ?」

 

 

 アクアが解除魔法を放とうとしたその瞬間、カガミの様子が豹変する。

 今にも噛み付かんばかりにアクアに向かって歯を鳴らし、口の端から泡を吹いて視線だけで射殺すとばかりに二人に殺意を飛ばしてくる。

 およそ理性が残っているかも怪しい、まさに獣のような様相だ。

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる‼︎そんな汚らわしい女を俺に近付けるなァ‼︎」

 

「……………おい、どうなってんだよ。何でこいつこんなペンちゃん化してんの?ここにはアキレウスなんて居ないんですけど。

 ……アクア。アク、アキ……アキレウス。

 よしアキレウス、ご指名だ。ちょっとこいつに殺されてみてくんねえ?」

 

「バッカじゃないの⁉︎ゼロさんたらほんとバッカじゃないの⁉︎

 あああびっくりしたぁ………。ていうかちょっと待って」

 

 

 ゼロがさり気なくアクアを背に庇いながらこんな場合だというのに軽口を叩く。

 そんなゼロにツッコミながらも素直にゼロの陰に隠れるアクアが再び匂いを嗅ぐように鼻をスンスンと鳴らし始め。

 

 

「………うわ臭っ!なんか滲み出てきたわよ、何これ?」

 

 

 急に顔を顰めて鼻を摘み、少しでも遠ざかるように顔を逸らす。

 それを聞いたゼロが何を勘違いしたか、傷付いたように胸を押さえて膝を地に付けた。

 

 

「ア、アクア……俺今さっきまで動いててさ、あと周りも暑かったし、汗掻いてんのはしょうがないと思うんだ。

 だからそんなはっきり言われるとすんごく傷付くんだが………」

 

「違うわよ、誰もゼロの体臭の話なんかしてないわ。それもそうだけど、今のはそこの狂犬みたいな人に言ったの。

 悪魔、でもないわね。神気………?一体どこのマイナー神かしら。

 こんな邪な気を放つなんてきっと碌な神じゃないわよ。さっきまでがこの人の素ならこんな変化、もう魔法よりも呪いみたいな物じゃないの」

 

「ねぇ、今それもそうだけどって言った?ゴメンね、汗臭くて」

 

「グルルルルル……ガァァァァ‼︎」

 

 

 心底不快そうに、未だ地面から抜け出ようと踠き続けるカガミを分析する水を司る女神。

 ゼロからすればマイナー神や、魔法と呪いでどう違うのか等々の説明が欲しいところではあるが、今はそんな事よりもまず、この状況をどうにかして欲しい。

 今の今まで普通に会話し、意思疎通の出来た相手が、顔も知らないどこかのクソ野郎のせいでこのような状態にされているなど、気分が良いはずがない。見るに堪えないのが本音だ。

 さっさと解除するなり浄化するなりしてくれないだろうか。

 

 

無理ね(・・・)。解けないわ」

 

「……お前がか?」

 

 

 信じられない、と目を見開いてアクアを見る。

 

 ゼロは基本的に一部の例外を除いてアクアのやることは全て裏目に出ると考えている。その唯二と言ってもいい例外が回復魔法と解除魔法だ。

 全幅の信頼とまではいかないが、それでもこの二つに関してはアクアに対して敬意を払っても良いと思っている。

 少なくともアクアに出来なければ他に出来る奴の当てなど無い程度には。

 そのアクアが無理と言った。

 それ即ちベルゼルグ王国内でこの症状をどうにか出来る存在はいないという事では無いのか。

 

 

「何よ、そんな顔で見ないでよ。い、一応言っとくけど解けないのはこの人にどんな悪影響が出るか分かんないからだから!

 呪い自体は多分全力で解除魔法かければ何とかなると思うけど……」

 

「呪いは解けるのに解けない?どーいうこっちゃ。悪影響って何だよ」

 

「…………この人、多分長い間違和感無く呪いを受け入れてたんじゃない?

 そのせいで魂にまで染み付いちゃってるのよ。今無理に剥がそうとすると、最悪廃人になっちゃうかも。

 ………廃人って言ってもカズマ的な意味じゃなくってね」

 

「そんな事に注釈付けなくたって解るわ。じゃあどうすりゃいいんだ」

 

 

 そんな事実をこの土壇場で明かされても困る。

 こんな狂犬病患者をこのままにしておく訳にもいかず、かと言ってアクアがどうにもできないとなればもう殺すしか無いではないか。

 この国には精神病棟みたいな物は無いし、有ったとしても、収容してもし完璧なウォルライダーになって帰ってきたらどうする。

 ゼロは幽霊的な存在にはめっぽう弱いのだ。物理無効とか何それ超怖い。

 

 

「ウ、ウ、ゥゥゥゥ………」

 

「大体、ほんのちょっと前までは普通だっただろうが。

 以前のこいつを知らないからアレだが、少なくとも俺には普通に見えた。急にこうなった理由は何だよ」

 

「それは多分私の神聖な気に当てられちゃったのね。それで、今まで潜伏してた呪いの本性の方が反発してこう、ブワーッて出てきちゃったのよ」

 

「要はいつものか」

 

「なんでカズマさんといいゼロといい、いつもいつも私が面倒ごとを持って来るみたいに言うのよ⁉︎

 これは私のパッシブスキルみたいな物なんだからしょうがないじゃないって何度も何度も言ってるじゃない!」

 

「カズマから聞いてる話だとそのパッシブスキルが役に立った試しが無いそうなんですけど、それについては?」

 

「………………」

 

「ハイハイ、いつものいつもの」

 

 

 いつものと言ってもこれについてアクアを責めるのは筋違いも甚だしいだろう。

 元々ゼロがアクアに頼るつもりだった以上こうなるのは遅いか早いかの違いでしかない。

 むしろ他に人がいない状況で判明したのは好都合、と割り切ることにして、問題はどう解決するかだ。

 今、この状態で無理なのは分かった。じゃあどの状態ならイケるのか。

 

 

「気絶させて」

 

「………気絶?それだけ?」

 

「それだけ」

 

 

 早く言えや。

 

 突っ込みたい衝動を抑える。まだアクアの話は終わっていない。

 

 

「意識さえ失くせば魂との癒着も薄れるだろうから、その時を狙って剥がせば多分いけるわ。というわけでゼロ先生お願い。

 万が一死んじゃってもそこから私が蘇生させれば多分剥がせるけど………」

 

「あ、そうか。お前いるならぶっ殺しても蘇生できるのか。……だったらこんな大仕掛けする必要無かったな、ジャティスには黙っとこう。

 つーかそれが通るんならそれで行こうぜ。意識刈り取るのに命刈り取らないとかやった事ねえ力加減なんざしたくねえや」

 

「ねえ、ゼロって悪魔か何かじゃないわよね?

 鬼畜だのクズマだの呼ばれてるカズマさんでも知り合いをいきなり殺すなんて発想はしないと思うんですけど」

 

「言うて余裕だろ。一回までなら生き返れるとかヌルいヌルい。もう二度と死ななきゃ良いだけの話じゃねえか。

 SAOを見てみろよ、最前線で戦ってるあいつらほんと凄えと思うわ。………まあ現実は更に過酷なワケなんですがね」

 

「ウ……グル……?」

 

 

 舌舐めずりをしてデュランダル本体ではなく、その鞘の方をボッ、ボッ、と素振りしながら自身の前に立つゼロに只ならぬ気配を感じたのか、僅かに怯えるカガミ。

 その憐れなスイカ割りのスイカを見下ろしながらにこやかにゼロは言う。

 

 

「大丈夫大丈夫!心配しなさんなって、ちょっとバキッてして意識が遠くなるかもだけどむしろ目覚めた時には気持ち良くなれるから!と言うか目ぇ醒めたら白と黒の変な部屋にいるかもな!その部屋にいる美少女見てこの世で本当に美しいという事を勉強して来ると良い!ああ、それは良いな!セレナとか言うクソの万倍は綺麗だからさ!心の方はもう比べる事すらおこがましいっつーか、あ、でも手え出すのはNGで!事務所通しても許さんから!もしそんな事したら帰って来て速攻送る事になっちゃうかもなぁ、でも是非も無いよネ!因みにそうなった場合二度とこっちには来られないから心に刻んでおけよ?まあそうならないようにしてくれたら何の心配も無いよ!ここにいるアクアってのはどんな状態だろうと死者蘇生が出来るチートキャラだから、頭が割れて中身が飛び出てようが何だろうが完璧に蘇生してくれるはずだから!確認してないけど!俺だって心が痛い!そう、今からお前を襲う痛み以上に俺の心は痛んでる!それでもこれはしょうがない事なんだよ、お前を助ける為なんだ!分かってくれるよな?おう、そう言ってくれると思ってた!心の準備はOK?そんじゃあ天界への旅へご案内〜〜〜‼︎」

 ※カガミ視点

 

 

 今のカガミには言葉の意味は汲み取れなかったが、ゼロの言を纏めると、

 ・今から君を気絶させるために殴ります。

 ・その拍子に死んじゃうかもしれないけどごめーんね。

 ・死んじゃっても生き返れないかもしれないけど多分大丈夫だから殴ります。

 ・エリスに手を出したら殺す。惚れるくらいなら良いよ。それは自由だからね。

 ・良き天界への旅路を祈っています。(殺す気MAX)

 との事だ。紛うこと無き狂人の言い分である。

 

 この男は狂っている。

 カガミも理性の薄れた頭でそれだけは理解した。

 

 

「ガァァァァァァ⁉︎ガァッ、グゥゥッ⁉︎」

 

 

 これまで以上に身体を暴れさせながら必死に自分を捕らえる地面の拘束から逃れようとする。

 先までの攻撃的な理由では無く、純粋に命の危険を感じるから。

 カガミは憶えている。理性が無くなっても憶えている。

 ゼロの剣の能力はただ硬いだけ。

 つまりあの馬鹿げた身体能力はゼロ自身の肉体の力なのだと。

 あの鞘が自分の頭に直撃すれば、間違いなく今ここに在る命は霧散すると。

 理性が無くとも、いや、無いからこそこれ以上なく分かってしまう。

 

 ゼロはそんなカガミを余所に水分が蒸発して固まった地面を二、三度爪先で蹴る。

 

 

「………この辺か。この技も久しぶりだなぁ。最後は確か国王様に使ったんだっけか」

 

 

 そのまま両足を前後に肩幅より少し広めに。鞘を両手で構え、大上段に。

 完全に叩き割る気満々である。何を、とは聞かない。誰だって残酷な真実は見たくないし聞きたくない。

 

 もはや一刻の猶予も有りはしない、と無理矢理に腕を引き抜こうと試みる。

 あと少しで右腕が、イフリートを持ったままの右腕が地上に出る。そうすればそれを盾に出来る……!

 

 

「大体だな、俺は昨日からずーっとお前に言いたい事があったんだ。

 ………なんで魔法使えるんだよふざけんなよ。俺にも魔力寄越せ、俺だって自力で魔法使ってみたいぃぃ‼︎」

 

「完全無欠に私怨じゃない」

 

「グァァァァォッ‼︎」

 

 

 最後の最後、ほんの少し時間の余裕が発生した事により腕を引き抜くことに成功した。

 身体が自由ならば攻撃に転じるが、生憎と他の部位は未だ地面の下にある。防御に使うしかない。

 ゼロが凶器を振り下ろす前にその軌道上に剣を用意する、それを成し遂げた事にカガミは安堵した。

 

 

 ーーーこれで命は助かっ、

 

 

 

「『一刀両断』」

 

 

 

 そこでカガミの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「おっ?目を覚ましたぞ」

 

「よくあんな状態から命を繋いだもんだな……。確か、教官の一撃を頭に喰らったと聞いたが」

 

「教官って、ゼロ教官か?あの人も大概だな……とても俺の息子と同い年とは思えん」

 

「まああの人の場合潜った修羅場の数と質が異常だからな。

 聞いたか?旅に出て最初にドラゴン倒したんだと」

 

「ああ、聞いた聞いた。なんでも冒険者になる前だったし、目撃者もいなかったから正式に『ドラゴンスレイヤー』の称号は貰えなかったって話だろ?勿体無いよなぁ」

 

 

 次に目が醒めた時、カガミは混乱した。

 当然だ、自分がどこにいるのかさっぱり分からないのだから。

 周囲は石に囲まれており、自分は頑丈な椅子に鎖や皮のベルトで幾重にも拘束されている。

 目の前には武装した甲冑姿の衛兵らしき人間が二人。

 誰かの噂話に花を咲かせているようだ。

 

 ここはどこだろう。確か自分は日課の素振り………いや、素突きから自宅に帰ろうとしてーーー。

 

 

「づっ⁉︎」

 

 

 そこまで思い出そうとして急に頭痛が襲った気がした。

 気がした、と言うのは一瞬そんな気がしただけで、その後は痛み自体が幻だったかのように消えてしまっていたからだ。

 今のは何だったのだろう。何かが脳天にぶち当たったかのような痛みだったが。

 いや、それはともかくとしてこの状況だ。百歩譲って今いる場所が分からないのはまだ良い。何故ここまで厳重な拘束をされなければならないのか。

 とりあえず目の前にいる理由を知っていそうな者に声をかけてみる。

 

 

「あの、そこの人。ここがどこだか教えてもらっても?それと、この拘束を外して欲しいんだが」

 

「………本当に憶えてないのか?」

 

「?……何を?」

 

「いや、ちょっと待ってろ。おい、ジャティス王子か、教官でもいい。呼んでくるからこいつを見張ってろよ」

 

「あ、ゼロ教官は外の衛兵と石畳の修復作業してるから、呼ぶならジャティス王子が良いぞ!」

 

「何やってんだあの人………」

 

 

 慌ただしく誰かを呼びに行くという衛兵とここでカガミを見張る衛兵とに分かれる。

 残った衛兵に何を聞いても「ちょっと待ってろ」の一点張りなので、仕方なくその誰かを待つ事十分。

 

 

「やあ、ご苦労様。彼の目が覚めたんだって?」

 

「ジャティス王子。ええ、どうぞこちらに」

 

 

 どことなく身分が高そうな、というか実際高いのだろう、そんな印象のある金髪碧眼の美男子が扉を開けて入ってきた。

 先程から何度か聞こえているが、まさかこの人がベルゼルグ第一王子、ジャティスその人なのだろうか。

 そのジャティス王子が椅子に座っているカガミと目線を合わせるように片膝を付く。

 

 

「こんばんは、いや、もうこんにちはかな。君は今どうして自分がここにいるのか分かるかい?」

 

 

 敬語が得意ではない自分の恥を晒すまい、と多少失礼なのは承知で首だけを横に振る。

 もし目の前の彼がジャティス王子ならば無礼を働いて処刑されては困る。

 

 

「…………ふむ。じゃあ次に、今日が何年、何月の何日かをちょっと僕に教えてくれないか」

 

「王子ってバカでもなれるのか?知らなかったな」

 

「おい!自分の立場をわきまえて発言しろ‼︎」

 

「あー、いいよいいよ、ゼロで慣れてるから」

 

 

 堪え切れなかった。

 そんなもんカレンダーだの何だの、確認する方法などいくらでもあるだろうに何故自分に聞くのか。

 ベルゼルグ王家は脳筋しかいないと言うのは本当だったのか。

 しかしカガミの暴言にも態度を崩さず苦笑で済ませるところを見ると、人間性には優れているらしい。

 

 

「……しかし言われてみれば少しゼロに雰囲気が似てるかも。

 ……いや、気のせいかな。ゼロの方が数段遠慮がない。まあゼロに今さらそういう態度を取られても困るけど………ああ、失礼。こちらの話。

 とにかく一応言ってくれ。誰しも認識の違いっていうのはあるからね。君の主観で良いよ」

 

 

 顎に手を当てて面白そうにカガミを見るジャティス王子が再度質問する。

 まあそういう事なら、とカガミも改めて最後に確認した年月日を答えると、何故か反応したのは後ろに控えた衛兵だった。

 

 

「………?お前、冗談のつもりか?そんな前の日付など。今日はーーー」

 

「…………なるほどね。君、いいよ。彼女から聞いていた通りだ。

 それにコレも反応しなかっただろ?彼は嘘は付いてないよ」

 

「はあ…………」

 

 

 衛兵を窘めるように後ろ手に隠し持っていたベルのような道具を見せる。

 カガミは知らなかったようだが、ソレはどういう原理か、嘘に反応して音が鳴るという魔道具。

 どういう原理かは本当に分からない。魔法(あたい)ってば最強ね!と思っておけばいいだろう。

 

 何か自分は変なことを言ったのだろうか。

 いや、そんなことよりも自分の置かれている状況を理解したいのだが。

 そう王子に聞くと。

 

 

「心配する事はない、悪いようにはしないさ。君の境遇にも情状酌量の余地はあるし、何よりゼロが望むんだ。

 とは言ったもののした事がした事だからすぐに、とはいかないよ。君の当面の処遇は追って伝えるから、申し訳無いけどしばらくはそこで待機ね。

 君、継いで頼んでもいいかい?あと三人ほどで交代制にさせるから、もう少しの間だけよろしく頼むよ」

 

「はっ、お任せを」

 

「えっ?今のは状況の説明になったか?なってないよな?何も分からなかったんだが。おい、ちょっと!」

 

 

 頭の中を疑問符でいっぱいにするカガミと見張りの衛兵を置いて立ち去ろうとするジャティス。

 扉から出る間際にジャティスが振り向いてカガミに語りかけた。

 

 

「………君は幸運だよ。君は憶えていないかもしれないけれど、君の話を聞いて力になってくれた人がいる。

 本人は自分が気に入らないからしただけだと照れ隠しをするかもしれないけどね。

 君にはこれから取り返す時間も、償う時間も沢山あるけれど、それは誰かさんの気まぐれのお蔭だって事は憶えておいて欲しいかな。………それじゃあ後ほどゆっくり話そうか」

 

 

 そう言って部屋を出て行った王子の言葉を何度か頭の中で転がしてみる。

 相も変わらず説明にはなっていなかったが、その誰かさんのお蔭で自分はこんなところで拘束されているらしい。

 

 

「………つまり恨むならそいつを恨めってコトだな」

 

「待て、今の流れでどうしてそうなった⁉︎」

 

 

 狭いはずの部屋の中でどうやってか、行き違いが発生した瞬間だった。

 

 ………でも間違ってはいない。

 

 

 

 

 

 






※ゼロさんは裏表の無い素敵な人です(白目)





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