この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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74話

 

 

 

 ※

 

 目の前に用意されたガラス造りの水槽に、水を底が埋まる程度にうっすらと張り、今し方掘り起こした、そろそろ水分が完全に飛びそうな土を張った水が見えなくなるくらいに詰める。

 その後、これまた用意しておいたポットを傾けて水を上から全体に万遍なくかけましてっと。

 

 俺が理科の実験よろしく準備をしている様子をアイリスがキラキラとした目で見ている。

 こうしていると小学校の先生にでもなった気分になるな。実際誰かに何かを教えるってのは割と楽しかったりする。

 

 この短期間で教えた事をモノにする吸収力。

 まったく、小学生は最高だぜ‼︎

 

 ……あ、一応言っとくけどちゃんとすばるんと同じ意味で使ってるよ?

 俺はロリコンではないから。あくまで俺は。

 

 

「何サボってるんだい?衛兵達はまだ働いてるじゃないか」

 

「あ、お、お兄様!違うのです、ゼロ様には私がお願いして………」

 

「おう、ジャティスか。いやな、アイリスが俺がした事がどうしても気になるから教えてくれっつってな。

 どうもこの姫さん、夜更かししてアレを観てたらしいわ」

 

「ゼロ様、私それは言わないで下さいって言いましたよね⁉︎」

 

「あんな時間まで起きていたのかい?ダメじゃないか」

 

「う、うぅ…………」

 

 

 城の方から歩いて来たジャティスに怒られそうだったので代わりにアイリスに身代わりになって頂こう。

 そうだそうだ、夜更かしするとどことは言わないけど大っきくなれないぞ。

 俺の嫁さんみたいにカズマから、『その胸は平坦であった……』とか嫌なナレーション付けられたくないだろ?

 

 

「誰ですか女性にそんな事を言う方は!私、そんな方とは絶対にお付き合いしたくありません!」

 

「おっ、今ピコーンって聞こえたぞ。きっとフラグの立った音だな」

 

 

 まあその意見には全面的に同意するがね。

 そんな事を面と向かって言う奴は勇者だとは思うが、付き合いたいとは思わんだろ。

 むしろど突き合いになるのが通例だ。主に男が一方的にやられる方。その場合悪いのは間違いなく男だからもっとやれ。

 

 

「ゼロさ、それは良いけど修復終わってからじゃダメなのか?

 なんだかんだで夜までには終わるだろうし、アイリスに教えるのはその後でも………」

 

「と思うじゃん?あれ見ろよ」

 

「あれって……うわ、すごっ‼︎」

 

「私、あの方のあれは芸術の域にあると思うのです」

 

 

 俺が親指で指し示したその先。

 アクアが本職も真っ青なスピードと精度で石畳を修復していく姿がそこにあった。

 というか本職にすら指示を出しているんだが、何?いつから左官屋さんになったんだあいつ。

 

 その姿はまさしくプロ。

 適当に置いていっているようで、その実完璧に計算され尽くした石一枚一枚の配置。

 かなり重い筈のそれを運ぶ動きにも全く淀みがなく。多分自分に支援魔法かけて強化してますねアレは。

 手伝っている衛兵も、本来指揮を採らなければならないはずの職人達ですら棒立ちで感嘆の声を洩らす有り様である。

 ………俺より先にあいつら叱れよ。衛兵はまだ良いが本職があれじゃマズイだろ。

 

 

「アクアがあんな感じだから下手な素人が横槍入れるよりは任せといた方がよっぽど早いぜ?」

 

 

 事実、「ゼロ邪魔。どっか行ってて」とか言われたから仕方なしに力仕事やら衛兵と一緒に雑用やら、皆大変だろうと水を汲んできて配ったりと、なんか野球部のマネージャーみたいな事してたらアイリスに呼び止められた訳だし。俺悪くないし。

 だって俺の知識にもそんな仕事のやり方なんて無かったんだし、しょうがないじゃんねえ?

 

 

「そもそも何者なんだい?あの魔法の規模といい瀕死の人間を瞬く間に治す回復魔法といい、彼女はアクセルの冒険者なんだろう?

 アクセルには大した実力のある冒険者はいないって言うのが常識だったんだけど」

 

「そんなモン俺がいる時点で今更だろ」

 

「………それはそうだね」

 

 

 正直、俺にはアクセルが初心者の街とか言われてもピンと来ないんだけどね。

 だって考えてみろよ、まず俺だろ?低レベルとはいえ防御特化のダクネスに一撃特化のめぐみん、まあアクアもそうだし、魔剣使いのミツルギに、腰巾着のフィオ、クレメア、ああ見えてダストだって高レベル含めた冒険者の中でもかなり動ける方だ。

 他の高レベル冒険者だって数人、あとはまだ資格持ってるウィズだっている。

 平均で見りゃ大した事無いかもしれんが粒で見たら王都の冒険者ギルドにも引けは取らんさ。

 

 

「ゼロ様、魔剣の勇者様とも知り合いなのですか?あの方も凄腕冒険者という事で、以前王城にお見えになったことがあるのですが」

 

「あいつはワシが育てた」

 

「なぜそんな嘘を付くんですか、私嘘は嫌いです」

 

「そのセリフ、もっと拗ねたみたいに「私、そんな事言う人きらいです」って言ってみて」

 

 

 そもそもなぜバレた……いや、最近の話であれば嘘ではないな。

 俺は鬱陶しがってあんまり積極的じゃないけどちゃんと相手をしてやってるからね。

 

 意味も無く勇者の師匠面をしていると、バトルジャンキーの血が騒ぎ始めたのか、ジャティスが興味深そうに身を乗り出す。

 

 

「僕はその魔剣の勇者クンと面識は無いんだけど、どうなの、強いのかい?」

 

「強いよ」

 

 

 それは間違いない。

 

 

「へえ?まさかとは思うけど、君とはどちらが強かったり?」

 

「俺」

 

「まあそうだろうね。じゃあ僕とは?」

 

「お前」

 

「アイリスとは?」

 

「………アイリス」

 

「それは強いのかい?」

 

「そんな露骨にガッカリした顔すんなよ!」

 

 

 あいつだって頑張ってんだよ。なんだかんだ俺の言ったこと実行しようとはしてるし。

 

 実際最初に会った時とは雲泥の差だ。アイリスと比べた時にどっちが強いか多少迷ったしな。

 多分こいつらみたいな規格外除いたら全冒険者でトップ10入りはすると思う。それくらいの力はある。

 こいつの基準がおかしいのだ。お前ら王族と比べて「それは強いのかい?」とかふざけんな。じゃあ誰も強くねえよ。

 もっとも、あいつは俺と出会う前からモンスター相手であればその実力を遺憾なく発揮出来たのだろう。

 俺があいつに教えてるのはあくまで対人戦の心得みたいなもので、地力に関しては俺はあまり関与していないのだから。

 

 アイリスはミツルギを庇おうか一瞬迷ったようだが、さすがに大好きなお兄様に同調する事にしたようで曖昧に笑っている。さすがにお兄様、略してさすおに。

 

 

「その話はもういいや。えっと、ああそうだ。修繕の目処が立ったならアクアさんに任せて、僕にもあの時の事を教えてくれないか?実は気になってたんだよ」

 

「あ!そうですよ、ゼロ様!早く早く!」

 

「もういいやって何だよ。扱い酷っでえなあ」

 

 

 まあ会ったこともない奴に興味持てって方がどだい無理な話か。

 それじゃあお言葉に甘えて理科の授業を続行するけど、あんま期待されても困るんだがね。

 

 途中で参加したジャティスのために軽いおさらい的なことをしながら土と水を入れた水槽に注目させる。

 そのまま水槽を軽く揺すってやると。

 

 

「あっ!水が表面に浮いてきましたよ!」

 

「これは………」

 

「とまあこんな感じか。俺がやったのはコレのスケールアップ版って考えりゃ間違いじゃねえよ」

 

 

 水槽に入れた土の表面がユルユルになって水が滲み出す。

 こうすると水が土の粒子の間に入り込んで全体が泥のようになってしまうのだ。

 日本では大雨の日や、その後に地震が起こると土の質や地下水脈の有無によってはこういう現象が発生して建物などが埋没してしまうことがある。

 これを『液状化現象』という。山の中でこれが起こるとほぼ百パーセント土砂崩れを併発するので皆、雨の日は注意するように。はい、ここテストで出ますよー。

 結構ガチな自然災害だから自分で発生させる時はお父さんお母さんに引率してもらうようにしよう。一人で勝手にやって周囲をメチャクチャにしたら駄目ダゾ☆

 

 

「「すごい、ゼロ(様)が頭良さそうに見える」」

 

「チミ達はあれだね、俺を馬鹿にする傾向があるよね」

 

 

 失敬な。

 

 

 

 ※

 

 

「彼女の言っていた通り、彼は去年から今年にかけての記憶を失っていたよ。君の事も憶えてはいなかった」

 

「そうかい」

 

 

 アイリスが「クレアやレインにもやって見せてあげるのです!」と言って水槽を持って駆けて行った後、ジャティスがそう切り出す。

 一瞬なんのことか分からなかったが、多分カガミの事だろう。

 アクアが呪いにかかってからの事は忘れてる、的なことを言っていたが本当だったようだな。

 

 

「秘密裏に処理しようと思っていたけど、事情が変わってきてしまった。この事は一般市民にも公開しようと思う」

 

「そりゃまた思い切ったな」

 

「君には感謝している。僕では多分彼を殺してそれで終わりだった。王家をこんな迂遠な方法で狙ってくる輩がいる事に気付きもしなかったろう。

 彼に依頼したという、アークプリーストのセレナ。君に頼まれて調べたけどそんな人物はこの王国にはいなかったよ」

 

 

 やっぱいなかったか。

 俺はそんな事を頼んだ憶えは無いが、酔った俺がやるべき事はやってくれていたらしい。GJ部。違った、グッジョブ。

 

 

「セレナというのは偽名なのか、もしくはそんな人間自体が存在しないのか、それとも王国内にいないだけなのか……」

 

「王国内にいないだけってのは他国籍を持ってるとも考えられるが、ジャティスよ、他の国がウチの国王様狙う理由に心当たりは?」

 

「あるわけないだろ。他の国だって魔王軍との戦争に力を入れてる。

 人間同士で争ってる余裕なんてどこの国にも無いよ」

 

 

 そらせやろなぁ。そうなると犯人の候補がもう一つ増えちまう事になる。あーめんどくせえ。

 

 

「犯人はその魔王軍の可能性も出て来ちまったか」

 

「その場合事態は本当に深刻だ。なにせ彼には一度城を落とされかけている。

 なぜ彼が一晩ごとに撤退していったのかはもう彼に聞いても分からないだろうけど、そうじゃなかったらこの国は敗北していたも同然だ。言い換えると魔王軍に」

 

「ヒェッ………」

 

 

 人類終わってね?

 何がヤバイって、そこまでされて首謀者の顔も正体も能力もなんも分かってないのがヤバイ。

 カガミ級の奴がゴロゴロしてるとは思わんが、もし今後呪いとかいうので人間側から敵をポコジャカ生み出せるなら詰みの状態に近いんですけど。

 

 

「一応国内の街や村には今回の一件と、セレナという人物に注意するように、とは伝えるつもりだけど、君の意見を聞きたいかな。君はどう思う?」

 

「……この一件を広めるのはいい。少なくともそういう存在がいるってのは民衆も知っとくべきだしな。

 ただ、具体的な名前出して指名手配するようなマネは俺はオススメ出来ませんな、王子」

 

「理由を聞いても?」

 

「決まってんだろ、ミイラ取り増やしてどうしたいのお前。ドMかな?」

 

 

 現状で相手がどうやって呪いをかけるのか、何か条件があるのか、それらが未知数なんだ。目撃して、下手に賞金目的で寄ってった奴らが敵に回る事だって充分に考えられる。……ってそれぐらいは考えておけよ。

 

 ジャティスも分かっていて聞いたようで、特に言い返す事もなく。

 

 

「そうだね、名前を公開するのはやめておこう。君の言う通りだ。

 それにしても、今回は少し余裕があったから君を呼ぶことができたけど、次があればそんな時間がないことも考えられるよね。

 僕だって基本は前線に出てる訳だし、その辺も対策を立てなきゃ………」

 

 

 一国の王子様は色々と考えなきゃいけない事があって大変ですね。

 でもそれは俺が出した案で何とかなんないのかな。

 

 

「君が出した案って、『カガミ君を王城付きの衛兵に推薦する』って話かい?

 それさ、僕が言えた義理じゃないのは重々承知で一つだけ。なんで神器を残しておいてくれなかったのか訊いても良いかい?」

 

「てへぺろ」

 

「彼が強かったのは神器の影響が大きかったんだろ?ならなんで神器へし折っちゃうかなぁ………」

 

 

 そんな事言われても知らんべ。

 振り下ろす直前になんか折ってくれと言わんばかりに上に差し出されたら、そりゃよっしゃ任せろって思うだろ。

 誰だってそうする。俺だってそうした。

 そのお蔭、と言うべきかどうか、勢いは削がれてカガミは死なずに済んだがね。ついでにアクアから『セイクリッド・ハイネスヒール』なる最上級の回復魔法も教えてもらった。(使えるとは言ってない)

 使いもしないのに充実していく俺の習得可能スキル欄ェ………。

 

 それに真面目な理由だってあるのだ。ちょうどいいからこいつにも聞いてみるか。

 

 

「まあそれは一先ず置いといてだな、お前、あいつと向かい合った時に何か感じなかったか?違和感っつーか、変だな、的な」

 

「はあ?特に……いや、そういえば何か……」

 

「何でもいいぞ」

 

「………そう、確かあの時『慣れてないな』って感じた気がする。彼、人間相手に戦うのは慣れてなかったんじゃないか?」

 

 

 やっぱりそうだ、こいつも気付いてたか。

 一つ頷いて同意を示しておく。

 

 

「昨日俺も最初に会った時に違和感を感じたんだが、あいつ自身の話を聞いて納得した。

 あいつ、両親がいなくなってからはずっと一人で誰に教えてもらうでもなく鍛えてたんだと。

 セレナとやらの依頼でもこんな無茶は今回が初めてで、対人戦の経験は少ないどころか皆無らしいわ」

 

「ふうん。それであれだけやれるんだから神器っていうのは凄いよね、僕もまたやって勝てた自信はやっぱり無いかな」

 

「いや、それはない。お前と神器有りのあいつとで戦っても十中八九でお前が勝つよ。俺が保証する」

 

「えぇ?あ、そういえば、昨日の酔いどれゼロも似たような事言ってたような気もするね。

 そう言ってくれるのは嬉しいけど何か根拠でもあるのかい?」

 

「お前、訓練する時に一つの動作を延々と繰り返したりするか?」

 

 

 ジャティスが急に何の話だ、と眉を顰めるが、この話はさっきと繋がっている。

 俺が神器を折ってやった意味にな。

 

 

「………それはそういう事もあるんじゃないか?僕や君はともかく、普通基礎っていうのは何度も反復してーーー」

 

「そんな話じゃねぇ、カガミだよ。あいつは戦闘のイロハを教えてもらう前に父親を喪った。

 その前に神器の所有権と能力を譲ってもらったらしいんだが、そこから今まで登録してあるあの突きしか練習して来なかったんだとさ」

 

「それがどうしたんだよ」

 

「……フッ」

 

「なんでそんな鼻で笑った⁉︎」

 

 

 やれやれだぜ。こいつみたいな最初からある程度強かった天才には分からんらしい。

 まあ俺と会うまで訓練サボってた奴が分かるとは思ってなかったがね。

 

 同じことを繰り返す?確かに基本は同じことをすればするほど強く、速くなるだろうさ。

 だが格闘技なんかにも言える事だが、そんな練習をしている奴はまずいない。

 何故かって?通じない(・・・・)からに決まってんだろ。

 得意な技ばかり練習して他の事疎かにするってのは、逆にそれに対応されたら負け一直線って事になる。

 そして相手がその一つの技しか使って来ないことが割れてれば対策なんざいくらでもあるっつーの。

 

 カガミの突きなら野球のピッチャーに例えれば分かりやすいだろう。

 ストレートがどれだけ速かろうともその一種類の球種しかないならただのカモだ。

 しかもスピードも一定と来た。こんなものはタイミングと投げる瞬間、コースが完璧に分かればその辺の小学生でも打てる。バッティングセンターのマシンよりも酷え。

 …………いや、小学生でもってのは言い過ぎたかもしれん。とにかく、それを防ぐ為に普通の人間はカーブ、フォーク、スライダー、チェンジアップetcetc………、球を曲げたり緩急を付けたり、その他諸々の球種を覚えるための努力をするのだ。あのノゴロー君だってジャイロフォークを覚えたようにな。

 俺から言わせてみりゃカガミはその努力を怠ってるようにしか見えん。

 

 しかもそこまでして鍛えた技のほとんどの部分が神器の能力におんぶに抱っことか馬鹿かよ。

 ミツルギにも口を酸っぱくして言ってるように神器頼りのスタイルしててもし折れたり紛失したら、じゃあ敵さんは待ってくれるのかっつーの。

 俺やあいつらの武器は幸いにもかなり丈夫だが、神器の感覚で市販品の武器を使ったら地獄である。

 物にもよるが、剣ってのは大体人間換算なら数人斬ったらもう使えなくなるのが普通なのだ。

 血糊、脂、骨を断てば刃こぼれもしよう。相手が金属の防具をしているかも大きなポイントだ。

 そんな中、手入れもせずに連続使用していたら瞬く間に錆びた鉄屑の完成である。生肉すら切れないその棒は誰も護ってはくれまい。

 戦争中の侍などはそんな事態は日常茶飯事。そうなったらどうするのか。

 もちろん殺した敵から奪うのだ。場合によっては味方からも。他の武器をサブで装備しておくのもいい。そうしなければ生き残れないのだからさもありなん。

 

 だから俺だってデュランダルに頼ってばかりではなく、爆発ポーションを持ち歩いたり、今回みたいにスクロールを活用して戦闘をしているのではないか。

 それでもまだ物足りないのだ。そろそろ他に利用できる道具のレパートリーを増やそうと思っている。

 カガミにも俺を見習って欲しいもんだね。投げナイフとかどうだろう、現実的な問題は多々あるが、ガッツみたいでカッコイイ………カッコよくない?

 

 

「……あれ、何の話だっけ。まあとにかくとしてあいつには柔軟性が足りないと感じた。イフリートが突きでしか攻撃できないんなら他の武器を持てば良い。

 それに必殺技ってのはそれだけじゃ完成しねえ、見せ方ってのがある。技を通すためにフェイントや他の技を織り込むのは常識じゃねえか。

『アトミックファイヤーブレード』はそういう意味じゃあいいセン行ってたとは言えるが、結局は神器の能力でしか無いからな」

 

「……なるほど、だから折ったのか。彼自身が強くなるために」

 

「まあそういうこった。あいつが強くなるかどうかはあいつ次第だが、お前が鍛えてやれば一般兵よりは強くなるだろ。頼んだぜ」

 

 

 半分以上が後付けの偶然です、とは言わぬが花。

 俺の処世術。『都合の良い誤解はそのままにしておこう』

 無論の事、そのままにしておけばいずれバレてひどい目に遭うだろうが、これからはそうあらんと努力すればきっと良い事ある。

 誤解を誤解じゃなくせば何の問題もないのだから。

 

 

「ううん、納得は微妙だけど一応君にも考えがあったって事は理解したよ。

 ………それにしても君の理論は妙に生々しいね。人間換算とか、まるで試した事があるみたいだ」

 

「言っとくけど俺はまだ人を殺した事は一回も無いからな?今回は危なかったけども」

 

 

 そこは誤解してもらっては困る。都合の良い事ではないし。

 ま、その時が来ても躊躇うつもりは無いけどな。他の生き物は殺せるのに人間は殺さないとか差別だと思うんだよね、命に対しての。

 

 

「ゼロ、その考え方は危ういよ。もう言わないでくれ」

 

「あ?何で?お前だって必要があれば殺るんだろが」

 

 

 そこで躊躇しても待つのは自分の破滅だぞ。普段から心構えだけはしておかないといざって時に動けんだろ、しっかりしろよ王子。

 

 

「君は……、いや、前からそうだったか。

 それはそうと、今回君に助けられたのは間違いない。言った通り報酬は常識の範囲でなら用意させるけど、何か考えたかい?」

 

 

 ジャティスは俺に何か言いたそうに口を開けたが、それが発される事はなく、代わりに話題を変えるように報酬について聞いてきた。

 

 ………ふむ、特に考えてた訳じゃないけど、神器の話してて思い出した事がある。それを駄目元で要求してみっか。

 

 

「ジャティス、ダメならダメで良い。王城に保管してある神器を俺にくれないか。

 人から聞いたんだが、国をひっくり返すような危険な物らしいんだ。俺の方で処分できる当てもあるし、それが安全だって確信もある。少し考えてみてくれ」

 

 

 そう、少し前にクリスから聞いた話だ。

 あいつは俺を囮にして王城に進入、強奪する予定だったみたいだが、そんなことをしなくても恩を売った今の状態ならば譲ってもらえる可能性だってある。

 そうでなくとも危険だと忠告しておけば俺になら預けてくれるかもしれない。

 もちろんダメならダメで予定通りぶん取ればいいから構わない。これは俺のリスクを減らすいい案なんじゃなかろうか。やっぱ俺って頭良いわ〜、知力の数値とか知らんわ〜。

 

 

「神器………?」

 

「どうだ?希望なんざ持たせなくて良いから一発ドーンとハッキリ言ってくれ。喪黒さんみたいに」

 

「ドーン」

 

「ブン殴るぞてめえ」

 

 

 王子様ったら意外とお茶目なんだから、もう。

 

 そういう趣味の女もいるだろうが俺はそんな意味で言ったんじゃねえ。ふざけてねえでさっさと答えろ、ぶちくらすぞきさん。

 

 

「どこの方言だよ⁉︎というか君が言えって言ったんじゃないか………。

 ……………………うん、ごめんゼロ」

 

「ああ、やっぱ駄目か。良い良い、しょうがねえわな」

 

 

 ジャティスが気に病んでも悪い、と笑い流して手をブラブラ振っていると。

 

 

「それに該当するような物はこの王城には存在しないよ。というか、一体誰から聞いたんだい?そんなこと」

 

「………何?」

 

 

 どういうことだ。クリスは確かに王城にあると言っていた。

 まさか何の根拠も無しに言っていた訳ではないだろう。それで俺を突貫させようとしたとかイジメでしかないぞ。

 

 

「……王城じゃなければどうだ、ベルゼルグ王家が保管している宝物の中で何でもいい、神器はあるか?」

 

「それも含めて考えてみたけど、そもそも王家が神器を持っていたなんて記録が無いよ。

 せいぜい君が聖剣と呼ぶコレぐらいかな」

 

「ヴァカめ‼︎」

 

 

 言いつつ、腰に挿してあるエクス◯リバーをポンポンと触る。

 確かにそれは神器っぽいが、多分それではない。一度手に持ってゆっくりと見せてもらった事があるが、それらしき機能は無かった。という事は……つまり、どういう事だってばよ?

 

 ………帰ってからでもクリスと相談する必要があるが、仮説を立ててみよう。

 クリスがどのように神器の存在を探知しているのかは知らんが、それがソナーのようにある時に使うとある波長が返ってくる、的な何かだとしたら。

 それは使った瞬間には目的の物の位置が分かるが、使っていないと画面は真っ暗だ。

 その使った瞬間には王城にあって、今はもう無い。

 ………そう、例えば、王家ではなく誰かしらの貴族がその神器を持っていたとしよう。

 そして王城では月に一度か、それ以上の頻度で貴族が集まるパーティーが開かれる。

 その貴族が王城を訪問した、まさにその時にクリスがタイミング良く探知し、それを王城にあると勘違いしてしまったとしたら。

 これなら辻褄は合う。が、そうなるとまた面倒だな。神器の在り処を一から探す手間がまた増える。

 

 まあその辺はただの仮説だし、仮にその通りでも探知はクリスに任せっきりだから俺には何の苦労も無いけどね。

 

 

 

 ※

 

 

 夜、充てがわれた部屋でチビチビと酒を飲みながら外を見る。

 今回で一番の収穫は少しなら酒を飲んでも呑まれなくなったことかねえ。これも特典様々だな。

 夜と言っても冬だから暗いだけでまだ早い時間なので、大広間はアクアがする芸で盛り上がっている事だろう。

 

 結局石畳の修繕は日が落ちる前に終わったのだが、王城の危機を救ったせめてもの礼、とジャティスが城で働く者と俺たちだけでささやかな酒宴を開いてくれた。

 予想通りというか何というか、アクアは大はしゃぎで普段見られないような宴会芸を披露しまくって皆から囃し立てられている。

 ここから帰りたくない!とか言い始めても気絶させて引きずってでも帰るからご安心。

 

 俺が席を離れて一人で自室で飲んでいるのは、別に騒ぐのが嫌いという訳でも、いやそれもあるけど、周囲に馴染めなかったという訳でも、いやそれもちょっとあるけど、そういう訳ではなく、ここでの最後のやり残しを片付けるためだ。

 正直今の今まで忘れかけてたけど。相手も忘れてりゃそれで終わりだけど。

 

 それならそれでいいか、と再びグラスを傾けると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 

「来たか。どうぞ、開いてるよ」

 

「……………失礼する」

 

 

 入って来たのはいつもの白スーツに身を包んだクレアだった。

 さっきまで酒宴に参加していたから、お開きになったか抜け出して来たかのどちらかだろう。

 木椅子を置いて勧めると、そこに座ってジロリと睨んでくる。この子はまたどうしたのだろう。カルシウム足りてる?

 

 

「何故お前は宴会に参加しないのだ、探すのに苦労しただろう。

 そんなに協調性が無い奴だったか?」

 

「協調性って何ですかwww!そんなもんが俺にあると思ってたとは随分良く見られたもんだな。

 俺は自分が思うように動くよ。協調性とやらがあるように見えたなら、その時はそういう気分だったんだろ。日によって俺という個人は変わるから今日は違うけど」

 

「あれは言うなればお前の為に用意された席だろう。それに参加するのは当然では無いのか?」

 

「それはそうだが……、いやいや待てよ、俺はお前を待ってたんだっつの。お前何か終わったら大事な話があるとか言ってただろうが。

 そのために話しやすいようにこうして二人きりの場を作ってやってなんで責められなきゃいけないんだよ」

 

 

 我輩激おこ。

 他人の為にしてやった事をその本人から責められるとなんか凹むよね。こっちが間違ってなければそれは憤怒に変わるけどさ。

 

 

「そ、そうか。それはすまなかった。憶えていてくれたのか」

 

「お前そんなに俺のこともの忘れの激しい奴だと思ってたの?昨日の今日だろうが。さすがに忘れやしねえよ」

 

 

 忘れかけてただけでな。

 

 

「よ、よし。では早速本題に入らせてくれ。これは頼み、というか提案なのだが………その、い、嫌なら嫌とはっきり言ってくれて構わない。いや、むしろ言ってくれ。その方が諦めも付く」

 

 

 クレアは一つ深呼吸をして俺の目を真っ直ぐに見る。

 俺の方はぐでーっとしながら椅子にもたれかかっているが、それを注意する余裕も無いらしい。

 クレアが俺の目を見てくる以上、必然的に俺もクレアの顔を見なくてはならないのだが、装いは普段通りなのにその表情はどうだ。

 瞳を潤ませ、頰を紅潮させ、唇を震わせ………まるで乙女のようではないか。

 

 …………あっ(察し)。これはメスの顔ですね。

 

 どうやら俺は今からプロポーズ的な何かを受けてしまうらしい。こんな表情をされてはどんな鈍感野郎でも察してしまうだろう。例外ははがないの主人公くらいか?多分はっきり言われても『えっ⁉︎なんだって⁉︎』で済ませそうだ。最悪だなあいつ、死ねば良いのに。

 正直こいつが俺のどこに惚れたのかは知らないが、こちとら既に別のオンリーワンに告白済みなのだ。

 残念ではあるが、ここはお引き取りを願うことにしよう。なあに、こいつのルックスとスタイルなら性格の粗暴さに目を瞑ってくれる男の一人や二人いるだろ。

 ここはズバッとフッて今もこちらを見ているかもしれないエリスに格好良いところを見せてやらんとな。

 おっとエリスよ、ドキッとしたか?貴様っ!見ているなっ‼︎ってな。

 

 俺が心の中で言葉を選んでいると、向こうも心の覚悟完了したのか、ついにその時が来る。俺も断りの言葉を舌に乗せて、ビシッと即答する用意をしてーーー、

 

 

「お前、シンフォニア家の騎士になるつもりは無いか?」

「悪いなあ。お前が俺のこと好きなのは分かったが、プロポーズは他の望んでる誰かに使ってやってくれ。俺はその提案を受ける事はーーーーー」

 

「「…………ん?」」

 

 

 あれ、今なんて?

 

 

「………ゼロ。なぜ私がお前にプロポーズなどしなければならない?私がお前の事を好きだといつ言った」

 

「真顔止めて⁉︎」

 

 

 いやだってしょうがなくない?レインだってなんか匂わせてくるし、こんな雰囲気作ってたらそりゃあんた、勘違いくらいするよ、男の子だもの。

 

 

「つーかそう、お前だよ。なんでそんな紛らわしい顔するの?そんないかにも『私はこの人が好きです、今から告白します』って顔してたらダメだろ。

 これあれだからな、裁判になったら俺が勝つからな」

 

「ふん、心外だな。もしそんな事があればシンフォニア家の総力を挙げて私が勝つようにする。具体的には裁判長を買収してな」

 

 

 こいつ本当に悪徳貴族じゃねえか。権力を利用して裁判をひっくり返すとかどうよ?

 ダクネスを見ろ、馬鹿だからそんなこと思い付きもしねえぞ。多分思い付いてもしないしな。

 

 

「それで答えはどうなのだ」

 

「あ?ああ、悪い、何だっけ。告白されるとばかり思ってたからお前が何言ってたか聞こえなかったわ」

 

「お、お前………、しかも実際にされても断っていたのだろう、本当に酷い奴だな………。

 まあいい。今度はちゃんと聞いておけ」

 

 

 呆れたように苦笑した後、空気を切り替えるように咳払いをする。そんなに改まって言わなければならんほど重要な事だとも思えんのだが。

 

 

「ゼロ殿、貴殿にはシンフォニア家専属の冒険者………つまりは騎士になって頂きたい」

 

「ヤダよ。何で?」

 

「断った後に理由を聞くな、せめて理由を聞いてからにしろ‼︎」

 

 

 理由を聞くまでも無くない?こいつは俺が嫌ならはっきり言えと言ったんだ。もうこれでその話は終わりだよ。

 専属の冒険者ってこたあ王都に拠点を移さなきゃいけないって事だろ?ヤダよ面倒臭い。

 もうアクセルに根を下ろしたんだからあんま動きたくないんだよなあ。別に家を持ってる訳じゃないから関係はないんだけど。

 

 

「今回の事件で確信した。王都にはお前の力が必要だ。お前が王都から去って、今はまだ魔王軍は大人しいかもしれない。しかしそれは今だけだろう。

 いずれまた大軍に攻められた時、数がこちらの戦力よりも多かった時、数の力を覆せるのはお前やジャティス様しかいない。その折にジャティス様が前線に出てしまっていたら我々には頼れる者がいなくなってしまう。

 だが、もしお前が王都にいてくれたなら。民衆や騎士団、衛兵達の安心感は桁違いだろう。

 ………そのために、お前にはアクセルではなく、こちらを選んで欲しい」

 

「なあ、わざわざシンフォニア家と制限したのは何でだ?俺が王都にいれば良いなら別に王都で冒険者やれば良いだろ。

 何で囲い込むような真似をしたがる?専属でなきゃならん理由は?」

 

 

 専属であってもシンフォニア家に限定する必要は無いはずだ。むしろ王家付きという肩書きがあった方が便利な事も多いだろう。

 その中でこいつは『シンフォニア家』と括った。何か裏を感じてしまうのは俺が捻くれているのだろうか。

 

 するとクレアは再び頰を紅く染め、モジモジとしながら言いにくそうにする。

 

 

「それは、その、言わなくては………ならない、だろうな、うん」

 

「別に?言っても言わなくても結果は変わらんよ。言いたきゃ言えば?」

 

「お前はこの流れで少しは考えたりしないのか⁉︎

 ……全く。お前を当家に向かえ入れたいというのは私の我が儘のようなものだ。

 こう見えても私はお前を気に入っている。アイリス様に対して歯に衣着せぬ物言いをしながらも、礼儀の一線は弁えるその分別」

 

「ジャティスに対しては?」

 

「…………………。そしてその言わずもがなの実力。おそらく国王様ですら今のお前には勝てまい?」

 

 

 あ、スルーですかそうですか。

 都合の悪い事からは目を背けるのも大切ではあるから別に良いんですけどね。

 そしてそれはどうだろう。俺が国王様に負けないかどうかは条件次第だなぁ。

 周囲が開けていて、剣だけじゃなくその他の道具や策が許されて、尚且つ生死に拘わらなきゃ結構余裕って感じか?あくまで最後に闘った時の強さを基にしたらな。

 真正面からの『試合』なら俺の勝ち目なんざ六割ありゃいい方よ。俺も強くなったもんだ。

 

 

「最後に、何よりもお前の考え方が好きだな。

 人の役に立ちたい、素晴らしいじゃないか。アクセルよりも王都の方が人口は遥かに多い。

 王都に来ればお前のその目標は叶うぞ。ここにはお前も馴染んでいたじゃないか。ここにはお前を必要としている人が沢山いるぞ。

 ………どうだ、考えるまでも無いんじゃないか?」

 

「ヤダね。話は終わり?」

 

「なっ⁉︎ちょっ、ちょっと待て‼︎ここまで言ってもダメなのか、何故だ⁉︎」

 

「………お前嫌なら嫌って言えと言っただろうに。見苦しいぞ貴族、平民に縋り付くな。最低限のプライドは失うんじゃねえ」

 

「そっ、それは……だが……!」

 

 

 まあ気持ちは分からんでもない。

 俺のあの話を聞いただけじゃ今の話を受けない理由は俺には無いからな。

 だが、俺にはこいつに話していない夢の続きがある。そっちはアクセルじゃなきゃ叶わねえんだよ。

 このままだと粘着されそうだし、しょうがねえやな。

 

 

「良いかクレア。俺は確かに言ったな、冒険者になった理由、目指した理由は人の役に立ちたいからだと」

 

「そうだ、だから私は……」

 

「悪い、あれは正確じゃねえんだ。今は別の事を一番の目標にしている。………冒険者になった理由よりも大事なことだ。

 ほら、俺と一緒に暮らしてるクリス。お前も知ってるだろ」

 

「ああ、彼女か。それと関係があるのか?」

 

 

 俺自身も村を出るまでは想像もしなかったし、こんなことに現を抜かす奴だとは思ってなかったけどな。

 

 

「俺はな、あいつが好きなんだよ、大好きだ。ずっと一緒に居たいと思ってる。

 あいつが居るから今の俺がいる。あいつが居なかったら俺なんか王都に辿り着く前にそこら辺の荒野でのたれ死んでらあ。

 仮に生きててもここまで強くはなかっただろう。まあ要するに俺の恩人って事だ。

 あいつは自分でよく分かってないみたいだけどな」

 

「………………………」

 

「あいつはアクセルから他に移り住みたくはないだろう。まあ親友もいるし、大好きな先輩もいるし、街の人間とも仲良くしてるし、それをかなぐり捨てることはしたくないはずだ。

 だから、お前のその話に乗ってやる事はできない。王都に俺が必要とされてるってのはちっと心に響いたよ。

 嬉しいが、今はそれよりもクリスと居たい。なんだかんだで俺もアクセルを気に入ってるしな。

 俺はせいぜい目の付く所、このデュランダルが届く範囲でしか人の役には立てないが、王都に何かあれば今回みたいにいつでも駆け付けてやる。

 今はそれで勘弁してくれねえか、シンフォニア家当主クレア殿」

 

 

 決まった‼︎

 おいこれカッコよくね?俺の『なんかかっこいい台詞ランキング』更新されたぞ!もしエリスが見てたら惚れてまうやろこんなん!

 ………え?もし見てたらこの心の声も筒抜けだから台無しだって?そんなー(´・ω・`)

 

 

「彼女がアクセルに居る限り、か」

 

「……あ。おい、一応言っとくがクリスになんかしてみろ、今度は俺が王都で暴れてやるからな」

 

「そ、そんな事はしない!私を見くびるな、貴族としての誇りは持ち合わせているつもりだぞ‼︎」

 

 

 えぇ〜?本当にござるか〜?

 そんな奴が裁判を金でひっくり返そうとするかぁ?

 

 

「あれは冗談に決まっているだろう。私はまずそんな裁判は無かった事にする」

 

「結局権力は行使するんじゃねえか」

 

 

 何ちょっとドヤってんだ。それが誇りの行き着く先なら何も言うまいが、もう少し何かねえのかよ。

 

 

「ふふ、いや悪かったな。お前の言い分はよく分かった。はっきり断れと言ったのは私だからな、もうゴネたりはしないさ。

 お前はあのクリスという者が好き、だから嫌だ。

 …………何も知らない者が聞いたら卒倒するぞ、貴族からの誘いをこんな理由で断るなど」

 

「そんな奴は知らん。好きにさせとけ」

 

「………なあお前、王都で困った事があれば駆け付ける、と言ったな。

 実はもう一つ我々では対処出来ない案件があるのだが、それの調査を頼めるか?

 代わりに、という訳では無いのだが………」

 

 

 どうやらクレアの中で俺の勧誘の件は折り合いが付いたのか、神妙な顔でまた俺に何かを押し付けようとしてきた。

 

 確かに言ったけど早くない?そんなに困ったちゃんが多いとか王都ヤベェな。

 いつからこんな魔境になったんだよ。グンマーよりはマシだが。

 ……ま、良いよ。言ってみなYO。

 

 俺がそう促すと、一枚の紙を机に置いて俺に見えるように広げた。

 果たしてその紙には。

 

 

「これはお前がデストロイヤーを破壊して王都とアクセルを往復していた時の話だ。

 その二週間という短い期間で貴族からいくつもの金品が盗まれたと届出が出ている。

 そしてカガミの出現と入れ替わるようにパタリと姿を見せなくなったのだ。私はカガミとの何らかの関連性があると見ていたのだが、もうそれを確かめる術が無い。

 容姿はこの通り、小柄で銀髪。顔に覆面を着けた盗賊の男なのだが………」

 

「……………………………」

 

 

 何やってんのあいつ。

 

 そこに描かれていたのは、分かりやすくデフォルメされたクリスの姿だった。

 紙の上部には『銀髪盗賊団』と書かれている。

 今の話とこの絵を見るに、単独犯だと思われているようだが、何故に団を付けたのだろう。

 ちなみに名前はそのものズバリ、クリスが言っていた通りの名前だから言うことは無いのだが、その相方はここにいる俺なんですよこれが。

 

 

「ゼロ、まさか何か心当たりがあるのか?」

 

 

 どう誤魔化したものかと冷や汗をダラダラと流しながら必死に考える俺の顔に目敏く何かを感じたのか、クレアがそう聞いてくる。

 どうしたら良いのかわっかんね☆

 抱きついたら誤魔化せたりしないだろうか。いや、絶対しないけど。

 

 もうどうにでもなれ、と苦し紛れに真実を織り交ぜた大嘘で煙に巻く事にした。俺は悪くない。俺に何も相談しないあいつが悪い。

 

 

「………ク、クレア、こいつには関わらない方が……良い……」

 

「なっ、どうしたのだ!そんなに汗を掻いて………こいつは一体何者なのだ‼︎何か知っているなら………」

 

「そうだ、俺はこいつと会った事がある。王都に逗留していた時の事だ。俺はもちろん捕まえようとした。

 だが、こいつの逃げ足と来たら俺なんかが到底追いつける代物じゃなかったんだ。

 俺ですらそうなんだ、おそらく他の奴では何の意味も成さないだろう。こいつの事は放置しておいた方が身の為だ」

 

「そんなにか……⁉︎お前ですら追い付けないなど、もう誰も歯が立たないではないか‼︎」

 

「そ、そう、そうなんだよ。こいつは……、ああ、俺に任せておいてくれないか。

 いつか必ず捕まえて見せるから、その時まではこいつに対して触れたり危害を加えないと約束してくれ」

 

「ゼロ………いや、分かった。この件はお前に一任しよう。信用しているからな?」

 

「………ああ。確かに承った」

 

 

 プルプルとチワワのように震える俺に一体何を見たのか、クレアが慰めるように俺の肩を叩いてきた。

 

 罪悪感ぱないの、これ。

 しかしそう言われて俺に許される行動はただ一つ。

 歯を光らせて精々頼りになるように振る舞う事だけだ。

 

 何でこんな関係ないとこで神経擦り減らさなきゃならんのだ。腹芸は俺の苦手分野だっつーの。

 大体、問題はクリスだ。何故俺に何も言わずにこんな事しているのかを問い質さなきゃ腹の虫が収まらんな。

 答え如何によっては罰として警察署に連れて行くフリをして怯えるクリスの表情を愉しませてもらうとしよう。

 

 そうか、これが愉悦か。

 

 

 

 

 

 


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