この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。


作者:「眠い……眠い……」

ゼロ:「あんた体力ねえなあ。何のために学生時代あんだけ鍛えたんだよ。まるで身になってねえじゃねえか」

作者:「あんなもん若い時だけの話だっての……。作者が今何歳だと思ってんだ、もう徹夜とかすると色々身体にガタが来るようになっちまって」

ゼロ:「二十代!あんたまだ二十代前半!マジで親父くせえなあんた!ちょっとは身体動かしたりしろよ!」

作者:「じゃあ俺にそのための時間作ってくれよ。具体的には会社どうにかしてよ」

ゼロ:「さ、あと24時間、頑張って行きまっしょい!」

作者:「あっ(即死)」





閑話
無題2


 

 

 

 ※

 

 

 真っ白な床。周囲の空間は暗く、黒く、どこまで続いているのか分からない。

 そんな場所に黒いスーツを着た目付きが悪い男が一人と、向かい合うように青き衣を身に纏った美しい少女が一人。

 

 

「…………で?あんたは誰よ。オレはいつこんな所に転がり込んだんだっけ」

 

「口の利き方に気を付けなさいよ、大量殺人鬼。

 ………全く、何でこんな奴を転生させなきゃいけないのかしら」

 

 

 少女の最後の言葉は男には聞こえなかったのか、最初の言葉にのみ反応しながらキョロキョロと周囲を物珍しそうに見ている。

 

 

「殺人鬼とは随分だな。オレのどこが鬼よ、近所や組のみんなからは優しい男と評判なんだがね」

 

「大量殺人、は否定しないのね」

 

「事実だからな」

 

 

 少女は呆れたように溜め息をつきながら手に持った冊子のような物をパラパラと捲っていき、ある一ページでその手が止まる。

 それを見る少女の目は冷ややかというか、しかめっ面というか、とにかく嫌そうな顔を作り、それを男に向ける。

 

 

「…………あんた、何でこんなに殺して警察に捕まってないのよ」

 

「通報される前に犯行を終える。誰かに見られる前に組に逃げ込む。終わり。

 そもそも警察のお偉いさんも俺の事知ってるみたいだし、咎めるなら昨今の日本の腐敗を咎めろよ」

 

 

 何でもないようにさらりと言う男を見る目がいよいよ無機物を見るような目に変わっていく。

 

 

「ま、いいわ。ほら、この紙の中から好きな能力を選びなさいな」

 

 

 だがそれはそれとして自分の仕事を片付けてさっさと目の前の男から離れればいいと思ったのか、次の行程に移ろうとする少女。

 しかしそんな事を言われても男にも事情がある。

 

 

「あぁ?能力?そんなモン良いから早く出してくれよ、何の遊びか知んねえけど。

 こっちはおっさんに依頼完了した事を報告しなきゃいけないんだ。

 その後はお嬢の部屋でニコ生見る約束があるし……てか今何時よ?」

 

「…………呆れたわね。まだ自分の状況に気が付いてないなんて」

 

「………?状況ってなん」

 

 

死んだのよ(・・・・・)、あんた。良く思い出してみなさい」

 

 

 何をーーー、と思った瞬間、男の脳裏に膨大な映像や音、感覚が流れ込んで来た。

 

 銃声、人を斬り殺す感覚、誰かを抱えて逃げる自分、激痛、そして何かが抜け落ちるような、言いようの無い喪失感。

 

 

「どうかしら?」

 

「………………………」

 

「………信じられないって顔ね。まあ私としてはどうでもいいけど。

 さっさと特典選んで消えてくれないかしら。あんたが殺した人間のせいでどれだけ低級悪魔が増えたと思ってるのよ。またあの子が荒れちゃうじゃない、全く」

 

「………………」

 

「………ねえちょっと、聞いてるの?あんたよあんた、あんたに言ってるんですけど」

 

「………死んだのか、オレ」

 

「そう言ってるじゃない」

 

 

 では今ここにある自分の意識は何なのか。そして目の前にいる少女は何者なのか。

 自分が死んだというのは理解できたが、置かれている状況がまるで掴めない。

 混乱する男に、少女が口を開く。

 

 

「そう言えば名乗ってなかったわね。私は女神アクア。日本で死んだ人間を死後の世界へ案内する仕事をしているわ」

 

「女神………?ハッ、冗談よせよ、神がこんな漫画かアニメみたいに美少女とかありえねえだろ。

 何だよ、死後の世界といい、この世界は実はなろう系小説の中だったのか?」

 

「あんた妙にヒネてるわね………、でも美少女ってのは良いこと言ったわ。ヤー公の癖に中々見る目あるじゃない。

 あと、信じる信じないは勝手だけどあんたが死んだって事実は変わんないから。そこんとこヨロシク」

 

「……俺が死んだってのは分かった。けど、なあ、本当にあんたが女神なら一時間だけオレを組に帰しちゃくれねえか?頼むよ」

 

「はあ?バカね、ダメに決まってるじゃない。何言ってんのあんた」

 

 

 絞り出すような男の懇願も全く聞き入れずに無慈悲な判断を下す。

 確かにこの辺りは女神らしいが、男としてもそう簡単に譲れない。

 

 

「そう言わずに頼むよ!別に生き返らせてくれってんじゃねえんだ、枕元に立つんでも何でも良い、とにかく組の連中やおっさん、お嬢に別れの挨拶くらいさせてくれ!幽白だってそれぐらいのサービス付けてくれるだろ?」

 

「あんたホントいいかげんにしなさいよ。言うに事欠いて自分と幽助を同列視とか図々しいにも程があるわ。分を弁えなさい」

 

「…………どうしても駄目か?」

 

「ダメね。あんたにそれを認めたら他の人にも認めなきゃいけなくなるわ。それを処理するなんてめんど………じゃなくて、そこまでしてあげる義理が私にあるとでも思ってんの?

 あんたが今まで散々やって来た事じゃないの。因果応報ってやつよ、諦めなさい」

 

「……………………」

 

 

 血を吐くような男の言葉。

 それすらもバッサリと切り捨てた女神アクアはそれきり男が項垂れてしまったのを見て、少しだけ罪悪感が出て来たのか、先ほどまでの態度とは打って変わって気遣うように話しかける。

 

 

「………あなた、私が思ってたのとちょっと違うわね。もっとオラついてるモノだとばかり思ってたけど。

 ねえ、元気出しなさいよ。あなたが最後に助けた高校生は無事に逃げ切れたんだからそれで良いじゃない。一緒にいた人に伝言も頼んだんでしょ?」

 

「………そうか、あのクソガキとあいつは逃げ切れたか」

 

「あなたにこうやって転生の機会があるのは最後のソレと……まあ、色々あるからよ。普通だったら問答無用で地獄行きなんだから。

 私から言わせてみれば、不良が雨の中で子犬拾う理論みたいで腑に落ちないけどね」

 

「不良って………、オレはそんな悪い事して来たつもり無いんだがな。

 人を殺したのだって良かれと思ってしてきたんだぜ、これでも」

 

「五百人以上殺しといて言うことがそれ?」

 

「ん?ああ、そんなに殺ってたか。でもそれ全員救いようの無い悪人の筈だぜ?

 俺は直接依頼されても自分で下調べして裏が取れなきゃ手ぇ出さなかったしな」

 

「…………確かにこれ見る限りじゃあんたがそいつら殺した事によって救われてる人間の方が多いけどね、それでも殺人は殺人よ。それも大量殺人。許される事じゃないわ」

 

「へへ、そりゃそうだ。まあ鉄砲玉としては相応しい最期……ってとこか。

 …それで?オレが行くのは地獄だよな。どんなとこなんだ?」

 

「違うわよ、あんたは地獄に行かないわ」

 

「は?じゃあ天国かよ?おいおい、いくら最後に直接人の命助けたからってそれはねえだろ、それともあのガキが将来スゲー事でもするのか?だったら納得もいくが」

 

「天国でもないわよ。て言うか、さっきから言ってるじゃない。

 あんたは『転生』するのよ。ちなみに半強制だから」

 

「オレ達っていつも転生してんな……じゃなくて転生って何だよ。これじゃあ本格的にラノベかなんかじゃねえか。あんた、さてはオレを騙してんじゃ………」

 

「あんたラノベなんか読むの?ヤクザなのに?」

 

「それは偏見だろ⁉︎ヤクザがニコ動見たりアニメで萌え〜とかやっちゃダメな決まりでもあんのかよ!

 例え神だろうとそんな制限は認めねえし許さねえからな!」

 

「それは置いといて、今からあんたが行く世界について説明するわよ」

 

「聞けや」

 

 

 曰く、その世界は人間が魔王に脅かされている世界。

 曰く、その世界は魔法が存在する世界。

 曰く、女神アクアは日本で若くして死んだ人間を天国へ行くか、そこへ転生するかの選択を迫る存在。

 曰く、そうした転生者が数多く存在する世界。

 曰く、その世界へ転生して魔王を倒して世界を救え。

 

 

「とまあこんな所かしらね。それで、さっき渡したこれがあんたが異世界に持っていける特典という名のチート能力よ」

 

「…………なあ、その話聞くと他の奴は天国行きかを選べるんだろ?何でオレだけ強制力働くんだよ」

 

 

 男がもっともな疑問を口にするが、それに対して女神アクアは。

 

 

「あんたの場合ちょっと特殊なのよ。

 こんなに人を殺した人間は本来地獄直行ってのはさっき言ったでしょ?

 でもあんたが殺したのは悪人ばかり。実際に殺した人間の十倍の人間を間接的に救ってると来たら迂闊に地獄に送る訳にもいかないの。

 普通なら悪人の魂ってのは私の所に来ずに地獄に叩き送られるんだけど、あんた、今ここにいるでしょ?つまりまだ完全に悪人だって判別されてないのよ。

 私や他の女神からしたら本当は魂を地獄になんて送りたくないの。だって地獄に行った魂はそのうち汚らわしい悪魔になっちゃうのよ?あんたもそんなの嫌でしょ?

 そこで大サービス、向こうの世界で魔王を倒せたらあんたの死後の行き先を天国に変えてあげようってわけ。最初は嫌だったけど、あんた思ったよりまともな性格してるし、私にも異存は無いわ。

 もし達成出来たらあんたは天国。私達も憎っくき悪魔になる魂を減らせて満足。お分かり?」

 

 

 まるで何かを焦っているかのように一気に捲し立て、そして結論を早く出せというように男に顎で急かす。

 

 

「……その世界には、困ってる人間がいるのか」

 

「いるいる、もういーっぱいいるわ。その困ってる人達はあんたが行けば助かるかもしれない。

 ………どう?行く気になった?どうしても、どうしても地獄が良いっていうなら融通してあげるけど、さすがにおすすめ出来ないわよ?

 人の悪感情しか食べられない寄生虫未満の存在にはなりたくないでしょうに」

 

「………オレはもう人間を殺すのは嫌だ。次は純粋に人類の敵相手に戦うってのは、悪くないかもな」

 

「よし!じゃあ早いとこ持ってく特典決めちゃいなさいよ!

 て言うか早くしてくんないと、もう時間オーバーなんですけど。延長料金払ってよね」

 

「今後を左右するんだから慎重に選ばせてくれよ。

 大体、何だよその風俗嬢みたいなシステム。まああんたなら客付きも良さそうだがな」

 

「…………さっきから何なのあんた。もしかしてナンパしてんの?」

 

「ねーよ。オレはお嬢に………。いや、もう関係無いんだったか、くそッ……。

 ………アクア、だっけ?魔王ってのはどんくらい強いんだ?どんな戦い方するかによって有利な特典とかもあるだろうに」

 

「知らないわよそんな事。自分で確かめれば?

 それに見てたわよ、銃弾避けたり数人に囲まれても一瞬ですり抜けたり、あんた素の状態で馬鹿みたいに強いじゃないの。あんまり心配無いんじゃない?」

 

「ありゃ別に銃弾そのものが見えてる訳じゃないんだが………っと、『魔力が尽きない身体』か。こいつにしようかな………」

 

「………ねえ本当に早くしてくれない⁉︎観たいアニメの再放送が始まっちゃうんですけど!

 ………あああああ!もうこれで良いじゃない!あんたなら何選んでもやってけるわよ、はい決まり‼︎

 さっさとそこの円に入って!動いちゃダメだからね‼︎転生スタートッ‼︎」

 

「え?いや、オレはこっちのをって、引っ張るなよ………くっ、ちょっ、力強っ‼︎」

 

 

 どうも彼女が焦っていたのはそれが理由のようで、もう我慢出来ないといった風だ。

 男が持っていた紙を無視して自分で勝手にひっ摑んだ紙を持ち、いつの間にか発生していた青色の魔法陣のような円に向かって男をズルズルと引き摺っていく女神アクア。

 男もそれなりに力は強い筈なのだが、彼女にはまるで通じないらしい。

 

 

「はい、この紙持って立っててね!動いたらアレよ、ボンッてなるかもしれないから!

 うわ、もう二分しか無い!ちょっとちょっと、早く動いてよ〜!思いっきり魔力通したら起動速くなるかしら………」

 

「痛てて………、ボンッって何だよ、怖い事言うなよ……。

 何、『鍛えれば鍛えるほど強くなる肉体』?

 ………そういやオレって必死になって鍛えた事とかなかったな。そう言う意味じゃちょうど良いかも…………」

 

 

 ビシリ。

 

 

「………あっ」

 

「あ?」

 

 

 ーーー何か、とてつもなく不安を煽る音が魔法陣から響く。

 

 男は何が起こったのか分からないが、女神アクアはこれから起こる事の予想が付いたらしい。その原因が自分にあるということも。

 テンパったように忙しなく視線を泳がせ。

 

 

「………さ、さあ!願わくばあなたの手によって世界に平和が訪れん事を‼︎いってらっしゃ〜〜〜い…………。

 うわ〜、これヤバイわよね。あ、良いわ。こいつが死んだ事にショック受けて暴れた事にしましょう。それが良いわね、うん、私は悪くない」

 

「おい、あんた一体……」

 

 

 何をした、と続ける前に。

 

 魔法陣の青い光に呑み込まれ、男の意識は彼方へと消え去ってしまった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「という夢を見たんだがどう思う、お袋」

 

「ゼロ、あなた疲れてるのよ。今日くらいは鍛えるの止めて子供らしく遊んだら?それとも回復魔法でも掛けようか?」

 

「おいやめろ、イタい人を見る目で息子を見るんじゃねえ。

 大丈夫だから。何か全然疲れねえし、強くなってんの分かるからこれはこれで楽しいんだよ。ホントホント」

 

「さよけ。………それにしても女神アクア、ねえ。

 私ってゼロに二大宗教神の話したっけ?」

 

「いんや?何だよ、アクアって女神が本当にいるのか?

 だったらあれだな、実は俺の前世の夢だったりするのかもしれねえな」

 

「ゼロが女神様から使命を受けた人間だって?ハハッ、妄想乙」

 

「……あんたも随分俺に毒されたよな」

 

「もう六年も一緒に住んでるからね、嫌でも感染るよ。別に嫌じゃないけど」

 

「この六年で料理の腕前も上がったようで何よりですっと。

 ごっそさん。ほんじゃ、今日も元気良く行ってきましょうかねえ」

 

「いってらー。何度も言うけど、まだモンスターに遭ったら逃げなきゃダメだぞー」

 

「了解でーあります!」

 

 

 そうして今日も少年は強くなっていく。それが自身の努力によるものだと疑いもせずに。

 それが誰に与えられた力なのか、何を成す為に与えられた力なのかも、今はまだ知らずに。

 

 

 

 

 


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