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75話
※
「クリスゥゥゥゥ!クリス‼︎いるかぁ‼︎」
「うぁはいっ‼︎何、何どうしたの⁉︎」
俺が宿の扉を勢い良くこじ開けながらクリスの名前を呼ぶと、焦った声が返ってきた。
部屋の中ではクリスが何かを頬張っていてーーー。
「おい大変だって、呑気に笹食ってる場合じゃねえ‼︎」
「笹なんて食ってねーし‼︎」
「ンなもん見りゃ分かるわ。何言ってんだお前」
どう見ても笹には見えねえぞ。馬鹿かな?
「うっわどうしよう、メンドくさいゼロ君だこれ!
ダクネスの所に避難しようかな………っていうかどうしたのさホント。何かあったの?」
「よくぞ聞いてくれました!………そうだ、温泉に行こう‼︎」
「………?温泉って、アルカンレティアに行くって事?いいじゃん、行ってらっしゃーい」
脈絡無く突然温泉に行く、と言い始めた俺も悪いけどこの流れで俺一人だけ送り出すとかこいつも相当アレだな。
「何言ってんの、お前も行くんだよ」
「まずさ、何でそんな話になってるのかあたしにも分かりやすく教えてくれない?」
「良いですとも。そう、あれは今朝、俺がギルドを訪れた時の事…………」
「あ、そうやって回想入るんだ」
※
「というわけで今からウチに来てくれませんか」
「………なあ妹よ。俺は言ったよな、紅魔の里でお前に言ったよな」
「?何をですか」
「お前の『というわけ』にどれだけの意味が込められてるか他人には分かんないから。
きちんと言葉にして話しなさいってお兄ちゃん言いましたよね」
「あ、そこのお姉さん、そのジャイアントトードの唐揚げ定食は私のです」
「お・れ・の・は・な・し・を・聞・け・え‼︎」
五分、いや二分だけでも良いから。
王城陥落事件から一ヶ月、もう大分暖かくなった気候はモンスターが活発化する事を示しており、既に普段通り冒険者達はクエストを受け始めている。
それに伴って俺の傭兵としての仕事も増えてきた忙しい毎日の中のある日。
ギルドを訪れた俺を見るなりテーブルに座るように強制、自分だけ食い物を頼んで今まさに俺の目の前でパクついている人物こそ頭のおかしい方の紅魔の娘、めぐみんである。
何か俺に用があるみたいなのだが、説明らしい説明もなく『というわけです』とか言われても知らんがな。
今日は特に依頼も入ってないから言えば受けてやるってのに何で言葉にしないかな、この子は。
お兄ちゃん怒らないから、正直に言ってみなさい。
「そう言って本当に怒らなかった人を知らないのですが………。
あ、ちなみに今手持ちが無いので支払いお願いしますお兄ちゃん」
「しょうがないなぁめぐみんは。いくらでも頼みなさい、全部払ってあげよう!」
「ちょろいですね」
ちょろくて結構。年下の血の繋がっていない女の子から『お兄ちゃん』と呼ばれるのは良いものだ。
この熱い気持ち、カズマとかなら分かってくれる気がする。
「それですよ‼︎」
「うん?何、どれ?」
急に大声出すなよはしたない。びっくりするだろうが。
「ゼロ、周りを見てください。もうほとんどの冒険者達は活動を開始しています。
………なのにウチのニートと来たら、金が尽きるまではゴロゴロして過ごすと言って聞かないのですよ!どう思いますか‼︎
私は一刻も早く魔王を爆裂魔法で吹っ飛ばしたいというのにあの男は本当に………‼︎」
辛抱たまらんとばかりに拳を握ってテーブルをドンドンと殴るめぐみん。拳に傷が付くからやめなさい。殴るならお兄ちゃんにしなさい。どうせ痛くないから。
それにしてもマジか。カズマ君たら全然姿見ないと思ったらまだ絶賛引きこもり中なの?
この世界はジャイアントトードですら冬眠しないってのに何で人間が冬眠機能を獲得してんだよ。
ニートってのはいつから神様が作った人体の構造を無視出来るようになったんだろうか。ニート最強だな。
「何馬鹿なこと言ってるんですか。というわけで、さあ、早くウチに行きますよ!」
「えっ?ごめん聞き逃したわ。今の何が『というわけ』なの?」
カズマがニートで、ニートは最強で、つまりカズマは最強ってことしか分からなかったお兄ちゃんを許しておくれ。
「何って、依頼ですよ依頼。ウチのニートを外に引き摺り出して下さい」
「俺はオカンか‼︎」
何だその依頼。未だかつて聞いたことないぞ、ニートを外に連れ出すのに傭兵使うとか。
そんなもん身内でなんとかせえや。ダクネスじゃなくても上級職のお前やアクアなら力ずくで引っ張り出すぐらい出来るだろうに。
それに、冬の間一稼ぎもしなかったんならデストロイヤーの賞金だって相応に減ってるだろう。
いくら何でもカズマがその辺りを理解していないとは思えないのだが。
するとめぐみんは非常に微妙な表情になり。
「いえ、それがですね、非常に説明しにくいと言いますか、コレについては実際に見て頂いた方が早いと思いますのでとにかくウチに来てもらえませんか。
それに、ゼロが冒険者になったのは人の役に立つ為だとあのクレアという方から聞きました、今がその時ですよ!」
「えぇ〜?だってやる事はニートの駆逐だろ?モチベーションが………」
「お願いしますお兄ちゃん‼︎」
「俺に任せとけぇええええい‼︎」
「ちょろいですね」
悔しい……でも、感じちゃう……!(ビクンビクン)
※
「ん?何だ一号、ネタ娘と連れ立って」
「出た!ゼロ、こいつが諸悪の根源ですよ!手早く退治をお願いします!」
カズマの屋敷にやって来た俺とめぐみんは、一体何用なのか、屋敷の玄関から出て来たバニルと鉢合わせた。
こいつなんか身体が崩れかけてんだけどどうしたんだ。
あとめぐみんうるせえ。こいつは基本無害だって言ってんだろが。
「フッ、心配は要らん。この屋敷に住み着いている働きもせずに飲み食いをしては怠惰を貪る女神を自称した光るゴミを少し懲らしめてやっただけの事。
我輩、貴様ら人間には害を為さんが相手が女神を名乗っているなら話は別なのでな」
「なあ、そんな事するためにここ来たのかお前。暇なの?」
「戯けが、あのポンコツ店主の元で働いていて忙しいはずが無かろう。貴様もお得意様ならもっと売り上げに貢献するがいい。
それに、我輩もこのままではいかんと思い立ち、あの店の通常のポーションに代わる新たな売れ筋商品を求めてここに度々訪れている所存である。
実際、あの小僧二号の知識と発想は中々の物だ。そう、貴様と違ってな!フハハハハハハハ‼︎」
「…………つまり?」
「この男がカズマに儲け話を持って来てからカズマのニート化が急速に悪化しまして、『働かなくても大金が手に入るんだぞ?これで働くとか馬鹿のやる事だ』と………」
「本当に諸悪の根源じゃねえか」
要するにカズマが技術提供、バニルが生産ラインの確立と販売を請け負って共同で商売をするという話らしい。
なるほど、確かに外に出なくても金が入ってくる夢のような話だが、それ冒険者である意味無くない?
カズマはルナから最初に商人になる事を勧められていたはずだが、やってることは完全に商人だ。
だったら冒険者なんて危険な職業選ばずにあの時に商人になっておけば良かったではないか。何考えてんだあいつ。
「そ、それを私に言われても困りますよ。カズマに直接言ってください。
あ!でもカズマが冒険者を止めてしまうと私の野望が……うぐぐぐ………‼︎」
俺はめぐみんの野望なんざ知ったこっちゃ無いので普通に忠告する事にしますがね。
「それはそうとカズマの考えた商品か、結構楽しみだな。
参考までにどんなのがあるのか教えてくれよ」
「フハハハハ!気になるか、気になるか小僧‼︎だがしばし待て、まだサンプルを製作中でな。
貴様にも後日試用品を渡すので遠慮なく感想を述べるが良い。
それを基に更に改良を加えた物を店先に置くつもりなのだ。無論、料金は別途支払おう。
ククク、これが完成すれば年中閑古鳥が鳴いているあの店も繁盛間違いなし!我輩の夢にも近付くという物よ‼︎フーッハハハハハ‼︎」
「ふーん、試作品使うアルバイトみてえなモンか。良いよ、今度店に行く時に用意しとけ」
「感謝しよう友よ。では我輩はこれで失敬させてもらおう。何やら中からあの女神(笑)が虎視眈々と我輩の背中を狙っている気配がするのでな………」
「『ゴッドブロー』ーーー‼︎」
「おっと予想通り!フハハハハ、当たらん、当たらんなピカピカ光る生ゴミよ‼︎さらばだ小僧‼︎フハハハハ、フハハハハハハ‼︎」
「チッ、外したか!どうやら私には敵わないとみて逃げたわねあのクソ悪魔………」
バニルの予言と同時、屋敷の玄関から飛び出してきた聖なるボクサーの拳をひらりと躱していつもの高笑いをしながら夕陽に向かって走り去っていくバニル。あ、違うわ、朝日だあれ。
アクアの方も何か言っているが、今回は俺から見てもバニルの勝ち逃げなので何を言っても負け惜しみにしか聞こえない。
「いやあ、あいつ人生楽しんでんなあ」
「相手が人間ならその発言は正しいのでしょうけどね………」
「…………?あらめぐみんお帰り。ゼロもどうしたの?カズマと遊びに来たの?」
何で屋敷に訪問=遊びに来るなんだよ。遊んでばかりいないでちゃんと宿題しなさい‼︎
学生の皆も冬休みの宿題とか最終日まで溜め込んじゃダメだぞ‼︎先生にも迷惑かかるからね‼︎